牙狼は教会を出たあと、司の浮遊椅子に同乗していた。
この浮遊椅子は、見た目に寄らずパワーもあり……前後に展開することで、簡易型のホバー二輪車にもなる。
もっとも、センサー完備の安全運転しかしないが……そんな中、牙狼は一応メットをかぶり運転を。
司は、そんな牙狼の背に抱きつくようにし道路を走っていた。
人気がほとんどない山道を、二人は走る
すでに暗くなり始めているため、ライトを山道が照らして行く。
二人は仮のアジトに戻るために急いでいたのだが……突如、センサーがエネルギーを探知した。
牙狼がアクセルを緩め、ゆっくりと停止する。
レーダーに反応はないが、牙狼は……そのホバーから降りた。
司も何かを感じたのか、元の浮遊椅子へ戻し……上空から前を遮るように降りて来た黒い影。
それは黒色の全身装甲で、明らかに雰囲気からして打鉄のような訓練機とは違う……これはISだろうか?
「……司?」
「アレは私のじゃないよ~! 私ならもっとかっこよく、ビシッと! 狼を造る!」
司は浮遊椅子に座りながら、犬耳……というか、狼耳?らしいが。
それをピコピコ揺らしている。
「狼が好きだな……」
「だって、牙狼や狼牙の名前にあるから!」
「……そうか、なら一つしかないな」
牙狼はそれに類似する存在を一夏から聞いたことがある。
極秘になってはいるが、それは以前アリーナでクラス対抗戦を行っていた時に乱入してきた無人IS。
組織の方でもそれについては……詳細なデータを欲しがってはいたが。
もっとも、戦闘用だからという理由もあるのだろうが……
「じゃあ司、お前から一言」
「出て来いコソコソ逃げ隠れしてる兎!」
それが聞こえているようで、あちらのISの目が異様にギラ付いた気がしていた。
しかし、山の中とはいえあまり派手に動けばさっきのメンバーに気付かれてしまう。
牙狼は……首からかけているリングを軽くなぞる。
「下がってろ司……あと、防音措置を頼む」
「もちろん。任せるよ、牙狼~」
司が下がると同時に浮遊椅子の防音措置を最大にしたようだ。
そして牙狼の体は……漆黒の鎧に包まれた。
その手に持つ漆黒の剣。
前に持って行き、左手で刃の腹を軽くなぞるように……赤紫のエネルギーが集まる。
「だけどよ」
牙狼は、その白く染まった眼を通し……怒りの声を上げる。
「人のこと言えないけどさ……無関係の人も巻き込むことを躊躇しないのかよ……あんたは!」
相手から向けられる腕。
それについている銃口から弾丸かビームが打ち出される……かと思えば、どうも様子がおかしい。
「?」
(……牙狼、こっちのデータを取ってるみたい)
と、司が牙狼に情報を伝えてくれる
牙狼はいぶかしげな声で尋ねた。
(どういうことだ?)
(前にあった暴走事件の時から狙われてるんじゃないかな……多分、千冬さん関係で)
(……ああ、聞いた限りじゃ博士ってそういう人かも。興味とは違うかもしれないが、嬉しくもないな)
全身を観察し、データを取っているのだろう。
となれば、この無人ISは最初から捨て駒扱いにされたのだ。
このISが……牙狼には、哀れに思えた。
(気にいらねぇな……)
(そういう奴なんだよ……早く、楽にしてあげて)
牙狼は……突如加速し、目の前のISに詰め寄る。
そのISは慌てて剣を持ちだしていたが……今の牙狼には、遅すぎる。
炎と見間違わんばかりのエネルギーを帯びた黒剣が、シールドを切り裂くように奔り……ISの内部へ。
するとISの内部から破壊されるような、プレスされるような鈍い音が響く。
地に膝をつき、その眼が牙狼と司を見る。
「世界が、いつまでも貴方の手にあると思わないでください……束博士。箒が、悲しむ」
「姉さん~……いつか、いつか殺してあげるよ!」
牙狼は、その剣で……ISを抉る様に斬り裂く。
ボディが破壊され停止したのか、ISは光りを失い……牙狼は、その中に手を突っ込みコアを取りだした。
その取りだしたコアを、牙狼はキバの胸にある髑髏部分に当て……
コアを、喰らった
喰らったコアがキバの中で脈動するのがわかる。
キバの口が開き、咆哮。
司は……そんな牙狼を見て、クスリと微笑んでいた。
そのような事件があったことも、全ては闇の中へ……
そして教会から出た四人は、すぐさまIS学園へ戻る。
このことは機密扱いになるが……政府にも、上層部にも報告する気にはなれなかった。
IS学園に戻る道のりの中、誰ひとり言葉を発せず。
だが、その間山中で起こっていたことは気付かなかったらしい。
四人がIS学園に戻った時、一年一組二組の専用機持ちらへ知らされた。
牙狼の生存、そのISのセカンドシフト。
だが、千冬らは司の存在については何も語らなかった。
不確定要素が多い上に、箒のことを考えてである。
その中、楯無は千冬からその教会のことを聞き独自に動いたようだが……何かの研究施設としか、判明しなかったらしい。
「……でも、何故牙狼さんは?」
「セシリア、牙狼は……もう、二度とここには戻らない」
「狼牙!?」
セシリアの言葉に応える狼牙。
それを聞いた一夏は彼を見るが……次第に、下を向く。
「ああそうだな……俺より、狼牙は……」
「いや……織斑先生の方が、ずっとわかってるさ」
「教官が?」
ラウラは狼牙の言葉に疑問を感じたようだ。
「……織斑先生のために、世界を変える」
「なっ」
「牙狼の言葉だ……あいつは、そのためだけに力を求めた」
そして、至った。
あの黒き狼……黄金騎士でなく、暗黒騎士「キバ」へ。
「で、でもいくら牙狼でもそんなことを」
「鈴音、あいつは本気だ。あの場にいた四人がそれをわかるぐらいに」
「狼牙…………なんていえばいいのかしらね、この大馬鹿男、でいいかしら?」
そう、大馬鹿だった。
女性陣はみなそう思っている。
しかし
「「……」」
一夏と狼牙。
この二人だけは、牙狼の行動を悪く思えなかった。
「俺は……牙狼が、すげえと思う」
「……そうだよな」
「な、何を言っているのだ一夏!」
「そうだ、どういっても結局牙狼がしたことは」
箒とラウラ。
二人はすぐに男性二人に対しそう言うが……
「そうかな?……僕も、牙狼がすごいと思った」
なんとシャルまでも、牙狼のことでそう思っているようだ。
「はた目から見ればそう思うけど、僕はそれでも……そこまで一人を想うってことが、できるかなって」
「……そうよね、女から見れば」
「この上なく、嬉しいことですわ……その行いがどうであれ、牙狼さんは織斑先生のためにと」
鈴音やセシリアも頷く。
牙狼の行動は、結局は誰かのために行っている。
福音の時も、箒は牙狼が代わりに戦ってくれたおかげで戻って来れたと思っていたのだ。
だからこそわかる、誰かのためにと……
「でも、だからこそ」
「ああ……そうさ」
狼牙と一夏は、真剣な目で箒らを見る。
「「俺達があいつを止める……あの時、助けてもらった借りを返してない」」
はっきりと言いきったのである。
女性陣らは眼を見開くが
「牙狼は、力を間違った方へ使っているんだ……わかるから、あいつは俺や一夏を見逃した」
「俺もまだ、数か月の付き合いだけどな……同じ男だから、わかるんだ……牙狼を止めなきゃって」
一夏はあの時、牙狼の言っていた「時間稼ぎ」、「礼ぐらい」と言う言葉の意味を考えていた。
白式が奪われた時、亡国機業のメンバーがすぐ移動しなかったのは……牙狼がその場にとどまっていたからではと。
一夏が動けるまで、待っていたのではと。
牙狼の本音は、一夏を傷つけたくなかった
だからその代わりに……オータムに白式を奪われないようにしたのではと。
実際一夏がオータムと戦っていた時に、楯無は牙狼と戦っていたらしい。
その時も、黒いIS……「キバ」は楯無をあまり傷つけないような攻撃をしていたと言う。
だから彼女も不思議に思い、その後牙狼の後を追えば一夏がいた。
なので話を照らし合わせていくと、牙狼は本当に……世界を変えたいだけなのではないか。
そのため、ここではそれができないから、力を求め……亡国機業に行ったのではないかと。
「力、か」
かつてその力を得た時、誤った使い方をしていた箒は考える。
自身はその力を得た時、何を考えたか。
今の牙狼と比べ……それの向く先が全く違うと感じられたのだ。
「牙狼は、やはり私とは違う……倒すのは、厳しいかもな」
「って箒!? あんた何を」
「鈴音……私は紅椿という力を手にしたが牙狼に助けられた。あの時、取り返しの付かないことになっていたと言うのに……」
その言葉は、以前の箒と違うことがはっきりわかる。
だが、箒の眼は死んではいない。
「一夏や狼牙の言うとおりだ、私もまだ……借りを返しても、礼を言ってもいない!」
部屋に響く、強く……はっきりとした意思。
他の四人もすでに決意は固まっていた。
「そうですねわ……思えば、あの方にはまだ私の新作料理を食べてもらっておりませんし」
「一夏以外にどつける役がいないとつまらないしね」
「僕も……まだまだ、牙狼と色々話してみたい」
「私の様に黒色を使うのであれば、それ相応の実力を見せてもらいたいからな」
言葉は違えど、大切な友達なのだ。
だからこそ、引きずってでも連れ戻すと。
そして、彼ら七人が団結をした瞬間でもあった。
必ず、牙狼を連れ戻すと
それを聞いていたのは……千冬や真耶、楯無。
内密の話しだったが、とても割り込める雰囲気ではなかった。
(……あいつら)
「織斑先生」
「更識、今後また力を借りることになるかもしれない」
「わかっております、亡国機業も関わっていますので……それと」
楯無はあの施設を調査した際に、気になるモノを見つけたらしい。
それは何かのマークらしきものだったが
「謎のマーク……か」
「はい……今までを見る限り、亡国機業はこのようなものを残しません。ならば」
「別の、組織の可能性か」
千冬も真耶も、牙狼と狼牙の出自に関して謎が多いことは知っている。
だが、亡国機業以外にも関わっている可能性があるとすれば
「彼らがココに来た目的すら、怪しいものに」
「……政府主導、と言っていましたけど。その政府からは?」
「以前として不明。それ以外に返答はありませんでした」
牙狼と狼牙は、あの施設を出た後は政府関係者らによる保護を受けていたのだと。
別の養護施設だが、もしその時点から何者かの息がかかっていたとすれば……
「それと、あの椅子と机から三人まではわかりました。しかし、あと一人は……いまだ不明です」
「M……ですね、織斑先生はどう考えてますか?」
「あまり考えたくはないがな……あの束にそっくりな子、おそらくクローンか何かの可能性があるな」
それは十分あり得る話であった。
捕まえられないのであれば作る、そして使うと。
「もし博士の身内ならば保護しなければなりません」
「山田君、確か司と言ったな……彼女は。どうも自身の意思で向こうに参加してるように見えた」
「……私達も全力を尽くします、学園のためにも」
楯無はそれだけいい、データをまとめる為に戻っていく。
真耶は、一夏達の元へ一度向かうらしい。
そして千冬は……あの時届かなかった己の手を握り、一夏が誘拐された時は別の感情で……一筋の涙を流した。
だが、そのころ……アジトでは亡国機業の面々が再び集まっていた
「無人ISを撃破した後でコアを……取りこんだ?」
「そうだよ~これで牙狼はさらに強くなるよ!」
「……はあ、しょうがないわね。まあ罰は与えてるけど」
スコールは苦笑しつつ、ものすごく反省してる牙狼を見る。
牙狼はと言えば……エムに頭を踏まれていた。
土下座の姿勢で、グリグリと……さすがに靴などは履いていなかったが。
「……」
「ふん……私にも言わず勝手に抜け出し、あまつさえコアを取り込んだと……使えない、使えない!」
見下し、冷たい声で言い続けるエム。
はたから見れば、歳の変わらない少女に踏まれている真っ黒な男。
さらにその光景を復活したオータムがビデオに取っているのだから最悪である。
「スコール、ところであれはどっちの希望だい?」
「決まってるじゃない、若さあふれる……牙狼君よ?」
「牙狼……私に言ってくれればいつでも」
司は何か納得したような顔で牙狼の方を見ているが
「違う! 違うからな! いぢめ反対!」
まあ、今の牙狼の心情を察するのは難しい。
エムのこともあるが、色々複雑なのだ。
だが、エムはエムで何か考えるところがあるような顔。
「お前が言える立場なのか?」
「すみませんすみません本当にすみません!」
「……(事情知ってるだけに複雑だろうなあ)」
オータムも牙狼の事情を知ってるため、面白いが複雑そうである。
しかし何故こんな罰にしたのかと後々に聞けば
「これを保存しておけば効率のいい裏切り防止に使えるじゃない? IS学園に見られたら彼は破滅よ」
(((最悪だ)))
と、そんなことをいったん終わらせ……スコールは次の指令を出す。
内容は……銀の福音を強奪せよと。
ようやく6巻の内容へ入ってきました。