どこかの基地らしき場所。
本来なら知る由もない、そんな場所。
そこでは今、ありえぬ戦闘が起こっていた。
響くのは警報と銃弾と怒声。
どう見ても訓練とは思えぬその雰囲気の中で
一人の少女が、蒼いISを纏い蹂躙している最中だった
その少女は向かってくる兵士たちを次々と倒す。
倒す、それだけ……実弾を使ってはいたが、命までは奪っていないようだ。
(面倒ね……殺さないと言うのは)
任務のためもあるが、自身の身の安全のため。
その少女の名はエム。
IS「サイレント・ゼフィルス」を纏った彼女は……右腕だけで長大なライフルを構えている。
ライフルの名は「スターブレイカ―」……色々やばそうな名前だが、それは殺傷目的で振るってはいない。
だが、それだけでも絶望の中……もう一人、別方向から進行するISがあった
漆黒の鎧をまとい、向かう兵士を軽くあしらっているのは……全身装甲ISである「キバ」。
操るのは牙狼だ。
事の起こりは、十数分前に戻る。
亡国機業幹部であるスコールの指摘した場所、そこは確かに地図上では何もない。
しかし、そこの情報を得ている亡国機業。
牙狼はあまり興味なかったが、そこにあの「銀の福音」があると知ってからは……参加を決意した。
今回はエムだけに任せることになっていたが、エムの「サイレント・ゼフィルス」も強奪して間が無く、機体を失うわけにもいかない。
もっとも、エムはそんな必要はないとのことだが……スコールが牙狼を参加させることにしたのだ。
ただ牙狼の場合、エムが参加することが……大事だったのかもしれない。
エムも牙狼の参加により、幾分普段より違ったように見えるのだった。
そうして、司の導きと共に基地へ侵入した二人は……己の力を振るう。
銃弾を剣で弾き、兵士らを掴んで壁にたたきつける
それだけで、ろくに受け身も取れず気絶したり傷めたりする。
牙狼はそれらを見ながら……なんてもろく、弱いのか。
自身もそう……まとっていない時の弱さを、力がない無力さを改めて思い知った。
歩み続けながら、落ちている銃を踏み砕くキバ……相手から見れば、まさに漆黒の悪魔だった
その白い目が、次の兵士を捕まえる。
兵士は叫びながら必死に抵抗をするが……振るわれるナイフも拳も蹴りでも傷一つ、つかない。
そんな中、軽く壁に投げつけ……ハイパーセンサーはいまだ感知していない。
別場所から侵入したエムに対しても戦力が向けられているせいか、基地は今、混乱の極みであった。
牙狼はエムが身体に注入されているナノマシンのため、ISによる殺害は出来ないと知っている。
しかし、不慮の事故は起きかねないのが心配でもあり……早急に目的のモノを見つけようとしているのだ。
目的の「銀の福音」……牙狼には因縁深いISだ。
そのため、今回の任務については……牙狼は、複雑な想いだった。
キバは全身装甲のため、顔はわからない。
声も変えることができる為、足はつかないが……どうやら一足先にエムが接触をしたようだ。
『牙狼~先を越されちゃったね』
『俺も向かう』
『了解だよ~……まあ、心配せずとも大丈夫だと思うけど、映像を送るね』
同時にハッキングを行っている司。
さすが束博士のクローン……もっとも、彼女は怒るだろうが、周囲はそう思い続けている。
だが、それこそが司のコンプレックスであり……束博士を敵視する最大の理由でもあった。
牙狼は……そんな彼女のことを、大切にも、憎らしくも思っているのだが。
映し出されたウインドウ、これは司がハッキングをしたことで奪った監視カメラの映像だ。
「!?」
エムが未確認のISと交戦……しているように見えたが、どうも違う。
腕だけなのだ、その持っている武装は。
そして、それを操っている女性こそが……銀の福音の操縦者であったナターシャ・ファイルスだと。
見た感じでは、すでに決着はつきそうで牙狼は加勢に入る必要性を感じなかったが
突如エムの前の床が轟音と共に崩れる
その土埃が晴れた時、そこにいたのは虎模様のIS。
しかも、さっきまで掴んでいたナターシャを取られているエムの姿があった。
虎模様のISは「サイレント・ゼフィルス」のアーマーにナイフを突き立てるおまけ付き……強い、と。
牙狼はそう感じ、そこへ向かう。
エムは相手のIS……「ファング・クエイク」というらしい。
お返しと言わんばかりにナイフを振るうが、拳によって折られてしまった。
実力は相当のモノだ。
だが、さっき取り返したばかりのナターシャを放ると言うのはどうかと牙狼は思っていたが……
そうしているうちに、今度はスコールからも通信がきた。
『牙狼君、今回はここで退くわ……エムの援護をしてね』
『了解です』
急いだ方がいいかもしれないと、司に最短のルートを表示させる。
その間に出てくる兵士をあまり傷つけないようにあしらいながら牙狼は向かう。
『敵さんやるね~……スコールから撤退命令も出てるよ?』
『わかってる』
『心配?』
『悪いか?』
『……別に』
司が妙にムスッとした声だが、牙狼は急ぐ。
そしてその間近まで迫り……剣に赤紫のエネルギーを奔らせ
壁に向かいそのエネルギーをブチ当てた
轟音が響く中、エネルギーの剣線は……互いに瞬時加速を行うとしていた二機の間を通り過ぎる。
それで一瞬動きが止まる二機の間に、牙狼は飛び込んだ。
「なっ……」
「……」
突如現れた未確認のIS……らしきものに「ファング・クエイク」を操るイーリスは驚きの声。
対しエムは……やはり少し驚いていた。
『今すぐ退くぞ』
『……お前』
『いいな?』
『……わかった』
先ほどそれを行うとしていたのだろう、再びスラスターを前面に全て向け直す。
だがその動きに気付いたのかイーリスは止めようと向かうが、牙狼の振るう剣に阻まれる。
牙狼は、剣を左手の甲の上で軽くなぞり……弓を引くように構える。
「くっ! 情報であったが……この化け物が!」
この二機に遊ばれていると、イーリスは感じていた。
牙狼はそれに応えず、その攻撃をいなす。
驚くほどの成長ぶりだと思えるが……牙狼は、この感覚に口元を歪める。
つい先ほどまで、エムが浮かべてたような笑みだった。
振るう力、その威力に対しての笑み。
そして、エムはと言えば……後方に瞬時加速をしながら牙狼に当たらない精密射撃を繰り返す。
そのためイーリスは中々前に出れない上に牙狼の剣を受けるわけにはいかなかった。
(ちっ! こいつら中々息があってんじゃねえかよ!)
射撃のコースも牙狼の位置も、互いにわかりあうから誤射もなく行える。
逆にやられる方は最悪な攻撃だった。
エム自身も、ハイパーセンサーと司の示すルートのおかげで安全に後退ができている。
牙狼もエムが完全に後退したのを確認したため、脱出をしようと動き……突如方向を変えたのだ。
「!?」
その先にいたのは……壁にいるナターシャ。
イーリスも、しまったと思い彼女の方へ向かうが
牙狼はそのナターシャに覆いかぶさるようにし……頭上から落ちる破片から彼女をかばう
この行動に、ナターシャとイーリスは眼を見開いていた。
そうして、破片が「キバ」の横を落ちていき……牙狼は、彼女の上からどく。
その白い眼がナターシャの姿を映しているが、彼女は口を開く。
「……なぜ?」
「必要以上に、怪我人を出したくないだけだ」
電子音声で自動翻訳された言葉が出る。
それは二人が初めて聞く牙狼の言葉であった……音声は変えられていたが。
「テロリストの貴方が?」
「……テロリストにも、色々だと思いますよ?」
「勝手なこと言いやがって!」
ナターシャの言葉に牙狼はそう返すが、イーリスは叫ぶ。
そうして再び攻撃を……できない。
真横にナターシャがいれば、確実に巻き込んでしまうからだ。
「……申し訳ありませんが、少しだけお付き合いしていただきます」
牙狼はあまり動けそうにないナターシャを、ゆっくり抱きかかえる。
当然身じろぎしようとした彼女だが……無駄だとわかっていた。
「強引ね」
「すみません……そちらの方、悪いですが」
「ああくそっ! どこの三流ドラマの流れだよ!」
すぐにわかったらしい。
牙狼は彼女を抱っこし、出来る限り安全に運ぶ。
長い地下通路を抜けるように外へ……その後ろから少し離れ追ってくる「ファング・クエイク」を見る。
「貴方があの福音の、なんですね」
「よくご存じね……」
「……本音をいえば」
時折見える兵士を超えるように動き
「貴方と、本当の力の福音と戦いたかった」
「!?」
牙狼の言葉は……変えられていても、ナターシャは何か自身に近いものを感じていた。
と、出口付近で突然止まり彼女を下ろす。
「お怪我がないようで」
「……ええ、おかげでさまで」
「危ないので外へは出ないように……では」
そう言い、牙狼は外へ飛び出す。
ナターシャを確認したのか一気に向かってきたイーリスは……外へ飛び出した瞬間、目の前に飛び込んで来たビット。
それが突然自爆し、爆風もあって目標を見失う。
「ぐっ!?」
視界が晴れすぐに周囲を見て……すでに雲の遥か彼方に見える「キバ」と「サイレント・ゼフィルス」を確認した。
それも視覚捕捉拡大映像で、だった。
「ああっ、ちくしょう!」
(あの黒いIS、どこかで見覚えが……それに、さっきのは)
色々な感情がまじりあった叫び。
その拳が手のひらにぶつかった瞬間、鈍い金属音を周囲に響かせていた。
今の彼女の、心境のように……
そしてナターシャは妙な引っかかりを覚えつつ、あの二機に再び出会えることを望むのであった。
一方、脱出に成功した二機。
並んで飛行する中……どうもエムの様子がおかしい。
「エム、どこか傷めたのか?」
牙狼は電子音声ではなく、普通の声で話す。
しかし、エムは無言。
「おい一体」
「何故あんな女をかばった? 牙狼なら人質などいなくても逃げ切れるはずだが?」
口を開いたかと思えば、不機嫌そうな声。
さらに、冷めた視線を感じる。
「……そりゃ怪我人をこれ以上」
「中々の美人だったな」
「……」
牙狼は黙る。
だが、それを知りながらエムは続けた。
「年上で」
「……」
「スタイルもよく」
「……」
「抱き心地はどうだった?……スケベが」
実際ISを纏っているときにそう言った感触は伝わらない。
が、それでも牙狼は……言い返せなかった。
ただ因縁の、あの時戦っていた相手を一度見ておきたかっただけなのだが。
エムは予想以上に怒っている……やはり襲撃しておいて相手を助ける、そんな行動をしたからか。
今は太陽の照りつける中を飛んでいるはずだが……牙狼は吹雪の真っただ中にいる感じがしていた。
「いや、ちが」
『私もじっくり聴きたいなあ~ねえ』
ウインドウから司の声。
牙狼は……スコールを頼った。
「スコールさん」
『牙狼君はたまに私を見てるわね』
「『……』」
無言になる少女二人。
先ほどまでの緊張感はどこに行ったのだろうかと牙狼は感じながら……隠された装甲の中で泣いた。
そうしてアジトに戻る二人だが、雰囲気は重い
オータムはすでに別任務のため移動したと聞く。
なので今ここにいるのは、命令を出すスコールとその下にいる三人のみ。
他の構成員などに牙狼はまだほとんど接触が無かった。
「とりあえずお疲れ様、後でデータを提出してね」
「はい……」
「……」
エムは終始無言であった。
隣にいる牙狼からすれば、針のむしろにいるような気分。
そしてソファーに腰掛けている司からも重圧があった。
話題を変える為か、スコールは苦笑しつつ口を開く。
「福音に関しても今はいいわ……司のハッキングからもわかったけど、すでに機能は死んでいる」
「……強引なセカンドシフト、と情報ではありましたが」
「そうね、大方そういった指令を出されてたか……母たる存在が、なんてむごいことをと」
牙狼はそれに、歯を食いしばっていた。
スコールはそんな牙狼を知りながら……続ける。
「君の怒りは、まだ抑えるべき……わかるわね?」
「大丈夫です……それよりも、確かもうすぐ」
「IS学園のイベント……ね。正直、開催されるかどうか不安もあるけど大丈夫。ある程度圧力をかけたから」
どうやら今までの襲撃がある中、開催されるようだ。
スコール……いや、亡国機業から何らかの圧力があったのか。
牙狼は所属してはいるものの、そういったことには興味が無い。
なので詳しくは聴かず、そういったところも好かれるらしい……まあ、使いやすいということもあるかもしれないが。
「学園外での、臨海地区だよね」
司がウインドウに表示し、それぞれの前によこしてくれた。
襲撃することになっている今回の場所は……収容人数が二万を超える大型のISアリーナ。
そして
「……あいつら、か」
思い浮かぶIS学園での友人ら。
挨拶をしたといえばしたのだが……いなかったメンバーもおり、顔を合わせることになると。
「気になる?」
「別れは済ませました……全員に言ったわけではないけど」
「なら別にお前が行くこともないだろう、牙狼」
エムがそう言うが、牙狼は苦笑しながら言う。
「何言ってやがる、じゃあ誰がお前を護るってんだ?」
「……それこそ、余計な御世話だ」
軽く鼻を鳴らし、エムは部屋から出ていった。
その光景を見ながら司はため息。
「牙狼~考えなしで言ってるでしょ?」
「……あいつの腕について行くのがやっとだけどな」
「……私だっているんだからね」
司も、ソファーに座ったまま浮遊椅子を展開。
宙に浮かび、部屋を出ていった。
残ったスコールは、牙狼の方を向きながら
「中途半端な男になっては駄目よ?」
「……スコールさんも意地が悪い、どうせ貴方もいく気でしょうに」
「ふふっ……あなたより色々経験を積んできた結果よ?……当日、お願いするわ」
「わかってます……それに、一夏次第でもありますが。あのメンバーの戦い方はよく知っていますから」
牙狼も同じように、二人の後を追って出ていった。
スコールはそれを見届け……牙狼の「キバ」に関するデータを開く。
(コアを喰らうIS……いえ、未完成だからこそコアが別のコアを使う、か)
そして、その単一仕様能力。
これは……恐ろしいと言えばその通りだ。
いまだ牙狼は実戦で使っていないが、おそらく次回の戦いでは……躊躇なく使うだろう。
(そして、あの組織も行動を開始するはず……あの幽霊達が)
映し出されたウインドウにある、牙狼と狼牙のデータ。
その二人に対しての、試作と書かれたナンバー。
スコールは……その文字を抹消した。
いよいよ動き出す……組織の出しどころ、頑張ります。