九月中旬。
IS学園では来週に開催されるイベント「キャノンボール・ファスト」の話題が増えて来た。
今回、出場する専用機組と訓練機組みだが……それぞれが作戦や訓練に余念がない。
そのはずなのだが……
「一夏、頑張れ」
「……狼牙、お前は」
「俺関係ない、知らない、リア充滅べ」
「最後のはなんだ!?」
一夏はこの前の学園祭であったことで「生徒会執行部・一夏貸出キャンペーン」真っ最中。
その対象はビンゴ大会で勝ったテニス部のようだ。
で、今グラウンドのテニスコートで行われているのは一夏のマッサージを受けれる権利を獲得するトーナメントだとか。
テニスコート横で一夏はダウンな気分でそれを見つめている
関係ないと言いつつ、見に来ていた狼牙は……爆笑しつつ、一夏のマッサージ関係に興味があった。
そんなにいいものなら一度受けてみたいと。
一夏ならば多分やってくれる可能性があるので、今度の訓練後で頼もうと狼牙は考えていた。
すると
「ねえ、狼牙君はテニスとかやらないの?」
突然声をかけて来たのは、トーナメントに負けた同級生の一人だった。
あまりに突然なので狼牙はうまく答えれなかったが
「う、運動全般は嫌いじゃない……けど」
「それじゃ、せっかくだし体験ってことでやってみようよ!」
「いいわねそれ!」
「一夏君以外の男性ゲットで、部の勢いが増すかも!」
狼牙の反応に、他の部員らが集まってきた。
その勢いに押されたのか、狼牙が押され押されでラケットを持たされ……トーナメント横で、盛り上がっていた。
だが、狼牙はラケットを振るう姿が意外と様になっていたようだ。
決勝で盛り上がる中、狼牙は楽しげにテニス部員とラリーを始めれるほどに。
「すごいすごい、狼牙君って運動神経もセンスもあるんだね」
「いや……教え方がうまいからだと思う。じゃなきゃこうもあっさり対応できないって」
「それでもすごいよ! 絶対センスあるって!」
そう言いつつ、他の部員たちは眼を光らせ一斉に狼牙への勧誘を考えていた。
一夏のマッサージ権利は無理でも、あまり触れれない男子とのテニス。
むしろ人気ある方より優先できそうでいいんじゃないかと、考え始めている女子もいるようだ。
一夏にはただでさえ、鉄壁に近い守りの存在らがある。
それもあってか、狼牙はフリーだ。
顔だって普通だし酷いというわけでもない、男らしい部分もある。
成績もISの操縦も悪くないと……普段眼が行く一夏より、チャンスは多い
その考えに至った女子が少しずつ増えていることに狼牙は気付いていない。
今も楽しそうにラケットを振るっており、汗をぬぐう仕草も様になっている。
と、その中決勝が終わり一夏が部員らにタオルとドリンクを配っていた。
どうやらセシリアの優勝らしい。
さすがに息が荒い……だが、その雰囲気はやはり彼女らしい部分を醸し出している。
(まあ、彼女ならいけるよな……と)
一夏のおかげで黄色い声が上がる。
だが狼牙はと言うと、そんな女子一同に苦笑しつつ、一人こっそり抜け出した。
「あっ!? 狼牙君は!?」
テニス部員の一人が一夏にタオルなどを渡され嬉しそうにしている中……気付いたらしい。
いつの間にか、その場からいなくなっていた。
そして抜け出した狼牙と言うと……トレーニングルームにいた
女子では普通持てないような重量のダンベルなどを持ち、ゆっくり動かして行く。
今自身に出来るのは、こういったトレーニング。
「ザ・ビースト」のフルバーストに耐えきれる身体と心を造りだすこと。
しなければならない、最優先のことだ。
一夏は知らないが、狼牙がかなり引き締まった肉体を維持しているのは日々の隠れた努力がある
ISの訓練もいいが、こういった基礎体力と筋力の増加。
そこを怠るわけにはいかなかったのである。
「……ふう」
ある程度の時間を過ごし、タオルで汗をふく。
このトレーニングは政府の方からも言われており、できる限り続けることにしているのだ。
(一夏、か……モテル男はつらいね)
おそらくセシリアのマッサージをする過程で、色々起こると予想していた。
同時に他の、いつものメンバーが黙っていないだろうとも。
しかし狼牙にはそこまで手助けすることはないと……とばっちりはごめんだからだ。
と、気付けばすでに夜。
だいぶ身体に疲労を感じ……狼牙は軽く備え付けのシャワーを浴びる。
この部屋を使う女子はそう多くないのだから
牙狼とはよく一緒にやってたなと思いながら、狼牙は寮へ向う。
自室の部屋へ、今日の課題を終らせようと考えていた時
「狼牙?」
「っと……一夏、どうした?」
ある部屋……思えばここは一夏の部屋だ。
そこから急に出てきたので……若干顔が赤い気もするが。
「お前、セシリアと一緒じゃないのか?」
「……セシリアがマッサージの途中で寝ちゃったから」
「わかった、もういい」
ベッドを占領されたというところだろう。
それだから、部屋から出てきたのだ。
狼牙はため息と同時に、一夏へ話しかける。
「で、どうすんだ?」
「……セシリアの隣で寝るしか」
「翌朝、織斑先生のお説教&懲罰部屋行き確定と」
「ぐっ」
すぐさま予想できる未来。
一夏も理解しているのか、顔をゆがめるが
「今夜は俺の部屋に来い……幸い、ベッドは一つ空いてる」
狼牙は助け舟を出すことにした。
決して一夏が羨ましいからではない……はず。
それに男友達では狼牙しか折らず、他の女子の部屋に行っても未来は同じだろう。
「頼む」
「ああ……あ、それと一つ頼みがあってな」
そうして場所は変わり、狼牙の部屋。
相部屋だが、今ひとつのベッドは空いたまま……一夏もそれを知っている為、何も言わない。
もう一つのベッドの上では……うつ伏せの狼牙に一夏がまたがるように座っている。
「ここらはどうだ?」
「っ……そ、こは」
「じゃあ」
「う、ううっ……はぁっ……くっ」
若干汗ばんだ体。
その上を奔る手の動きによって上がる声。
「狼牙、気分はどうだ?」
「くっ……なんか、屈辱的だ」
「その割りに、随分ここはっ!」
「そ、そこはっ…」
狼牙の口から出る、荒い息。
どうやら相当効いてる様である。
そんな感じで二人の声が部屋に響き続けるのだが
(…………録音しておいてよかったかも)
その部屋を盗聴していたどこぞの生徒会長は、柄に無く顔を赤くしながら聞き続けていた。
そうして、ベッド上で色々誤解を招く……マッサージが終わり、一夏は狼牙の上からどく。
「おしまいっと」
「……あ~悪い、だいぶよくなった」
「気にするなよ、これぐらい時間あったらいつでもいいからさ」
「ぜひ頼む」
少し離れたベッドに、一夏も転がる。
今日はここで眠る事にしたらしい。
だが、このまま寝るにもまだ早い時間だった。
「……一夏」
「ん?」
「お前はさ……」
狼牙は、若干静かな声で
「もし、千冬さんが敵になったら……どうする?」
「……わからない、な。正直……でも、まずは話すと思う」
「話す、か……お前らしいよ」
自身の双子の兄。
牙狼はどうだろか……一夏は恋愛関係以外なら、察してくれる。
せっかく男二人だけなのだ、こういうときにしか出来ない話もあった。
「次に会う時、俺たちはどうしてるのかなってさ」
「……狼牙」
「兄さんは前より強くなった、俺たちはどうかな……」
「それでも、やるしかないさ……前に言ってくれたろ? 後ろには俺たちがいるって」
一夏の言葉は、銀の福音戦で狼牙が言っていた言葉。
それを、一夏は狼牙に返す……まさに、そのとおりだった。
「だから、今度は俺が……狼牙も、牙狼も、守ってみせる」
「……ったく、かっこいいやつだなお前は」
「そうかな?」
「そうだよ……頼りにしてるぜ、一夏」
それだけ言い、二人は日常の話に戻る。
授業の事や女子のこと、そして……狼牙だけだが、恋愛の事。
一夏が聞いたことは驚きだったが、狼牙を応援すると。
だが逆に一夏の方はというと……どもってしまい、答えを聞けなかったようだ。
会話もそこで終わり、結構長く話してしまったようで時間も遅い。
「そろそろ寝るか、一夏」
「だな……おやすみ」
電気を消し、部屋は暗くなる。
そうしてしばらくすると、一夏の方から静かな寝息が聞こえてきた。
狼牙はそれを聞きながら……ただ、自身の想い人を考えた。
山田真耶という、初めて好きになった女性を
結局、自分と牙狼は何も変わらない。
想い人も、少しは違ったりしたが……彼女のためにも、狼牙は……強くなると、決意を固めたのだ。
そうして目覚ましのアラームをセットし、狼牙は目を閉じた。
今回、一夏は自室でなく狼牙の部屋で寝ました。
ちなみに例の録音された内容は、しばらくしたら騒動の原因になります。
※誤字修正いたしました、報告していただきありがとうございます。