騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第二十六話

とあるホテルの一室。

そこにいるのは五人の男女。

亡国機業のスコール、オータム、エム、司、牙狼だ。

今話し合っているのは、明日開催されるキャノンボール・ファストの襲撃についてらしい。

 

「今回私がアリーナへ潜入するけど、表向きはIS関連企業の社員、となっているわ」

 

「ちっ……あたしはISが使えず、顔が割れてるからな。変装しても通じるかわかんねえし」

 

前回、IS学園襲撃時にオータムは顔を見られている。

もっとも、亡国機業の技術を持ってすれば潜入も容易い……が、万が一があるのだ。

 

「オータムさんは待機ですか?」

 

「そうなるな……まあ、問題ねえだろ」

 

そういい彼女はゴロッとソファーに横になる。

あまり関心がないようだ。

 

「今回、エム……と牙狼君には、いつも通り行ってもらうわ」

 

「司は?」

 

エムが司に視線を向ける。

向けられた司は、手元にあるディスプレイから視線を上げた。

 

「私は今回別行動かなあ~」

 

「別行動?」

 

「ちょっとね……まあ、作戦に支障は無いから」

 

どうやらスコールは知っているようだ。

だが、今は話す気がないと。

 

「悪いけど、当日私はあまり手助けできないと思うわ」

 

「必要ない、私と牙狼で充分だ」

 

「そう……牙狼君は?」

 

「問題ありません、ただイベントということで相手のISにパッケージがあるということですかね」

 

牙狼のもたらしたデータ。

それらは各国のISに関したものであり……その点が評価を受けている。

だが、各パッケージについては未知数な部分が多い。

 

「確か、わかっているのはサイレント・ゼフィルスの兄弟機……ブルー・ティアーズのみよね?」

 

「はい。後は……狼牙のですが、これは元々」

 

「はいは~い、この司さん特製なのです!」

 

司が犬耳をピコピコ揺らしながら声を出す。

それにエムは無言、牙狼やスコール、オータムは苦笑しているが。

 

実は、狼牙のISについては……潜入している諜報員、政府職員から情報も届いている

 

以前二人が接触していたあの黒服の男。

あの男性こそ、潜入している亡国機業の諜報員だったのだ。

それを知らされた時、牙狼は驚きを隠せないでいたが……今は、普通に接する仲になっていた。

 

「……できる限り被害を出したくない」

 

「まだあいつみたいなことを言うのか、牙狼」

 

「俺は、お前みたいになれないよ」

 

エムの言葉に牙狼は返す。

彼女はそういったことに、無頓着というか。

いや、興味すらないのだ……どうでもいいと。

ただ、一夏に対して、千冬に対しては別だった。

 

「とりあえず、襲撃はレース開始後ね……あちらには、裏の者たちも出てくるはずだから」

 

スコールがそういい、終る事にする。

すでに大体の計画は練ってあり、確認の為だ。

 

「それじゃ、各自明朝に出発よ……それまでは身体を休めなさい。特に司?」

 

「はーい……ねえねえ牙狼」

 

「なんだ、司?」

 

オータムのいるソファーとは別のソファーに腰を降ろしていた司。

彼女がディスプレイから顔を上げ言ったことは

 

 

 

「一緒にお風呂入ろうか」

 

 

 

笑顔でそう言った。

その笑顔はとても魅力的で、愛らしい。

正直に言えば本家の束と同じ顔だが、純粋な部分もよく表れている。

しかし

 

「……ウェッ!?」

 

「昔は一緒に入ってたんだし、いいでしょ? 私は足が動かせないから」

 

そう、司は両脚が動かせないのだ。

だから普段、車椅子に乗っている。

今まで、入浴や排泄などは自作した機械に手伝わせていたのだが

 

「待て、何故牙狼なんかと一緒に入る必要がある?」

 

珍しく頬をひきつらせたエムが割って入った。

司はそんなエムを見て口を開く。

 

「いいじゃない、入っちゃいけない? それに……牙狼は、私の脚のことを笑わないもの」

 

「!?」

 

司は笑顔から一転し、憎悪にまみれた顔になる。

 

「わかるよね、エム? 私は」

 

 

 

あの女でもなければ、出来損ないじゃない

 

 

 

スッと、司は続ける前に口を閉じたようだ。

それでもエムには、司が続けようとした言葉がわかっていた。

 

「し、しかしだ。私らはもうあの頃みたいに、子供じゃないんだぞ! このような野獣と」

 

「いいじゃない、エムは普段作戦中も一緒なんだから! それに私は……ね、牙狼?」

 

「うっ」

 

返答に困る顔だった。

もちろん、相手がOKを出しているから……健全な十代の男子としては頷きそうになる。

司は自分を信頼しているからそういっている、と自身に言い聞かせてるのだ。

因みに牙狼を野獣と称したエムは牙狼をジッと見ている。

 

その片隅で、スコールとオータムが酒を飲みながらニヤニヤしている光景

 

助ける気はないらしい。

エムは……普段から冷ややかな視線をさらに、強くする。

 

「牙狼」

 

「……あ、いや」

 

「まさか、しないよな? お前がそんなことを……あの男とは違うのだから」

 

と、一転して笑顔になるエム。

こちらもさすが、千冬そっくりで魅力的……眼が笑っているならさらによかったが。

しかし

 

「い、いいんじゃない……かな?」

 

「なっ!?」

 

「さすが牙狼~大好き!」

 

眼をそらしながら言う牙狼に司は笑顔。

対しエムは……ギリギリと歯ぎしりが聞こえる。

だが、それを面白そうに見ている大人組みもいる。

 

「(ガキだなぁ~あいつら)」

 

「(いいじゃない……溜め込むより、適度な発散よ。心があるのならね)」

 

「(……そうかい)」

 

スコールの言葉に、オータムは思い当たることもあるのか答えた。

でも牙狼を助ける気はないようである。

 

「なら司、今日は私と入ればいい」

 

「いや」

 

「おい、即答かよ」

 

「だって牙狼の方がエムより絶対優しいから……この前酷かったもの」

 

司の言葉に突っ込む牙狼だが……エムは確かに、そういったケアはしていない。

以前、やってもらったことがあるから、司はそう言っているのだが……

 

「……牙狼」

 

「はい」

 

「絶対に、変なことをするなよ?」

 

「もちろんでございます」

 

どういっても司が譲る様子はなさそうであった。

彼女の性格を知っているため、諦めたのか……牙狼の目の前に来たエムが下から見あげて言う。

声がすごく恐ろしいモノに聞こえていた。

 

「私は構わないよ~」

 

「おい司!?」

 

その言葉に牙狼は慌てるが

 

「やーいやーい、悔しかったら私より大きくなることだ~」

 

「っ!?」

 

司は胸を張る。

確かに、黒いセーラー服越しからでもよくわかり……エムは、自身の胸を見降ろした。

決して小さくはない、むしろ勝負できる方だ。

しかし、しかし……司には勝てなかった。

牙狼もたまに、あちらの大人二人にも視線を向けていることを思い出し……エムは、普段感じない気分に陥る。

 

「……あ、一応目隠しを」

 

「いらないいらない」

 

「いるわボケ! あとやるのは背中だけだぞ! 脱ぐのも一応できるだろう!」

 

そう言い、牙狼は司を普通の車椅子へ移す。

抱きかかえるように、優しくゆっくり……司は自分の足では、立てないからだ。

それを苦々しく見つめるエムだが、司の言いたいこともわかっていた。

 

彼女の脚については、どれだけやっても治らなかった

 

今後も……変わらない。

だから司は、自分の足で立って歩くみんながうらやましいと。

そう言っていたこともあったのである。

エムは施設時代からそれを知っており、牙狼も……

 

(そういえばあの時も、あいつがずっと司を世話していたな……ふん)

 

思えば司を一番気にかけていたのが牙狼だったのを思いだす。

足が動かない、そのせいで司は……エムは、首を左右に振り忘れようとした。

司は手段を選ばず、思ったことを実行する。

だからこそ恐ろしいのだ……エムにとっても、そう思える数少ない相手。

 

自信と似ているからこそ、余計にそう感じるのかもしれない

 

織斑千冬、織斑一夏。

この二人に対して抱く感情は……と

 

「じゃあねエム~」

 

司が、牙狼に車椅子を押され浴室へ。

それを見て……エムは、考えることをやめた。

 

「見てられないね」

 

「まあ、そう言わないの……初々しく面白いじゃない」

 

「見てる分には、だろ」

 

スコールとオータム。

こちらもいい感じに出来上がってるようだ。

そうして、浴室内では

 

「……」

 

「……牙狼、その……優しくしてね?」

 

「いいかこれはただ洗うだけ、ただ洗うだけだ理解してるな本当に」

 

目隠しはどうもやめたらしい牙狼。

裾をまくり腕まくり。

今日は司の長い髪が、背中を隠していない。

彼女が脱ぐとき色々見えてしまったような気もするが、それを記憶の片隅に押しやる。

 

白い、白い、肌

 

本当に日本人かと思えるほどの、白さ。

そして……小柄な体に不釣り合いな大きさの胸や腰の細さ。

軽く、力を入れればたやすく折れるような腕。

全てが、牙狼を狂わそうとしているような感じを受けていた。

 

「ねえ、牙狼」

 

「なんだ」

 

背中を滑るように、泡が落ちていく。

本来の白とは別で、みずみずしい肌が光に照らされる。

 

「エムは、やっぱり織斑姉弟を……」

 

「司……俺はあいつを止めない、それは変わらない」

 

「でも私は、あの女を許せない……なら、牙狼は?」

 

「……」

 

司は、顔を少しだけ後ろに向ける。

牙狼が司の視線に気づき、顔を真っ赤にして背中を流している光景が見えた。

クスッと、司は微笑む。

彼はいつもこうだった……まっすぐで、どこか心配させて。

 

 

 

施設にいたころ、一番仲が良かった……エムよりも、狼牙よりも

 

 

 

自分がどのように産まれたことなんかに興味はない。

でも、比較され続ける人生は……地獄だ。

 

「牙狼……私は、いつまでも牙狼の味方だよ」

 

「……俺もだ」

 

「ふふっ……あ、そろそろ前の方も」

 

「自分で洗え!」

 

牙狼はそう言い、眼をそらす。

司は残念そうな顔になるが……まだまだチャンスは残っていそうだと確信したらしい。

少なくとも、エムに負ける気はない。

 

(見てろエム~……そして織斑千冬。絶対、出し抜いてやるから)

 

黒い笑みを浮かべたまま、司は自身の体を洗い始めた。

だが、油断している牙狼の慌てようを見てみたいと言う気持ちもある。

司は……

 

「おっと手が滑って~」

 

ものすごく棒読みで、シャワーを後ろの牙狼へ。

荒れ狂う温水の雨に牙狼の視界は閉ざされ、目に入ったのか閉じてしまう。

 

「うわっ!?」

 

眼には言った水のため、腕で眼をこする。

だが、慌てて立ち上がろうとしたため……水にぬれたタイルに尻もちをつく。

さらに

 

「ああ、牙狼助けて~」

 

「っ!? え、うぶっ!?」

 

足が動かない司は、体をひねる様に……倒れた牙狼の上に。

牙狼が眼を開けた時に見えたのは、白い何かが覆いかぶさってきた光景。

うまくあらわせない、柔らかく温かいものの存在を牙狼が全身で感じていると

 

「なんだ今の音は?」

 

ガチャッと戸が開き……お約束です。

入ってきたのはエム。

彼女が湯けむりの中で目にしたものは……絡み合っている二人。

元々表情をあまり出さないエムが、頷き……後ろ手で、戸を閉める。

中で何が起こったのかは、スコールとオータムは知らない。

彼女らはすでに別室へ移動しているのだ。

そのため、ここには三人だけで……助けはなかった。

 

 

 

その後、牙狼が再びエムに対して土下座をしている光景があり……見た目もボロボロだった

 

 

 

彼は一夏の様な回避スキルを持っていない様である。

エムはISを展開しようとしていたらしい。

司はそんなエムを止めたらしいが……まあ、基本的に対人に使うものではない。

一応、展開はしたが攻撃しなかっただけエムはマシな方だった。

 

しかし、いまだにビットがふよふよと浮いているのがすごく気になる

 

牙狼は……ガタガタ震えながら、部屋の隅っこにいるようだ。

エムの機嫌は悪くなる一方だが……牙狼は、スコールからエムの監視などを任せられていた。

それも、過去の施設関係の時代から決まっていることだと。

司もエムも、それを知りながらも牙狼と一緒にいるのだ。

 

「……本当ならこの野獣を消し済みにしたい」

 

「ごめんなさいごめんなさい」

 

「もう……エム、はしたないよ!」

 

「「お前が言うな!」」

 

こんな感じの亡国機業の一夜。

だが、その行動は謎に包まれている。

一方IS学園では、狼牙が屋上で夜空を見上げていた。

 

「……ふう」

 

「ここで見あげる夜空もいいよね」

 

「そうだね~」

 

と、その両隣にいるのは二年の桔梗と瑠璃だ。

彼女らも……明日のイベントを楽しみにしているらしい。

 

「先輩方は……訓練機で?」

 

「そうだよ~」

 

「私達の方では、元々専用機自体少ないがな」

 

しかし、彼女らは少ない訓練機部門に残ったらしい。

さすがとしか言いようがなかった。

 

「私も、君を応援させてもらうよ」

 

「そうそう、狼牙君の成長早いもん。瑠璃お姉さんあせっちゃうなあ~」

 

「瑠璃……貴方はむしろ教えてもらいなさい」

 

「あっ!? 酷いよ桔梗ちゃん!」

 

上級生二人のやり取りにクスッと狼牙が笑う。

実際、彼女らとの訓練は本当にためになっていた。

 

「本当に……先輩方には、なんと礼を言えばいいか」

 

「ん、いや……そんなことはない」

 

「私達だって、君から色々なことを教わったよ……でも、一番は君の努力」

 

「それに、才能だってあると感じたわ……絶対、貴方なら勝てる」

 

瑠璃と桔梗。

二人は左右から狼牙に言う。

しかし……狼牙は、屋上のフェンスに背を預け空を見上げる。

 

「違いますよ……俺には、一夏や彼女らみたいな才能も何もない、でも」

 

狼牙は、眼を閉じながら続けた。

 

 

 

「自分がどのように生きて、終わった後にどのような人生を振り返るか……そりゃ、諦めるのは簡単だし楽になれる。でも、俺はそれでも……あがいて、あがき続けたい。あがいてよかった、そう思える日が来るまで……実感した時、次に進める。その時ほど、充実する。支えになる。身近にいる好敵手ほど……何度でも挑める、機会があると幸運に思うべきなんだって」

 

 

 

そう言い、桔梗と瑠璃を見る。

その顔は……笑顔だった。

 

「狼牙君……本当に十六歳?」

 

「ものすごく大人っぽく見えたよ~」

 

「え、いやその……偉そうなこと言ってすみません。ただ、そんな生き方しかしてなかったので」

 

二人は狼牙の過去を詳しく知らないが……つらい人生を歩んでいたと。

理解していたが、ここまでとは。

 

「大丈夫よ、私達もいるわ」

 

「狼牙君の手助けだって、いつでもいいからね~」

 

「……ありがとうございます、桔梗先輩、瑠璃先輩」

 

それでも、桔梗と瑠璃は狼牙の近くにいた。

ISという繋がりができてから、近づくことができた。

だからこそ……過去が何であれ、今を大事にしようと。

一年歳上の彼女らは、一年歳下の彼にそう言ったのだ。

それは、狼牙にも……嬉しいことであり、励みにもなる。

 

(一夏……僕は、負けない。君にも、兄さんにも)

 

狼牙はそう心の中で思い、桔梗と瑠璃と別れ部屋へ戻っていく。

そうして一夜がすぎ、各々が万全の態勢で朝を迎えた。

だが、その楽しいはずのイベントが……悲鳴と銃撃の音で壊されることになる。




次回、ほとんど戦闘です。
狼牙と一夏、がんばります。

花見の季節、新しい風が吹く季節になりました。
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