激しい轟音。
それが響く……巨大な、アリーナ。
さらにそれを打ち消す様に響く誰かの悲鳴。
襲撃
その言葉が、誰の頭にも浮かぶ。
キャノンボール・ファストの会場……ここは、すでにレース場でもなくなっていた。
それは二週目に起こった。
トップを行くシャルとラウラ。
二人が突如……撃ち抜かれたのだ。
そのままコースを大きく外れ、一夏は……その時、襲撃者を見る。
「あれは……サイレント・ゼフィルス!?」
その襲撃者は撃ち抜いた二人を見ず、ニヤリと口元を歪める。
同時に、観客一同も何が起こったのかを理解したのか……悲鳴が、あがった。
一夏はすぐさまコースアウトした二人の元へ向かう。
同時に、雪羅のエネルギーシールドを展開し……すぐさま、サイレント・ゼフィルスの攻撃が降り注いだ。
「くっ……」
「一夏さんっ! あの機体は私が!」
「セシリア!? おい!」
「BT二号機「サイレント・ゼフィルス」……今度こそ!」
セシリアは一夏の声を振り払うかのように、向かっていく。
だが、今セシリアのブルー・ティアーズは高機動パッケージを纏っている。
そのため、ビットでの射撃が封印されているのだ。
故に攻撃力を補うための大型BTライフルなのだが……それでも、火力の低下は否めない。
「一夏っ! 防御任せたわよ!」
と、そこへ追いついた鈴音が補佐のために向かっていく。
サイレント・ゼフィルスへ向かい、セシリアのビーム、鈴音の衝撃砲が放たれた。
しかし……
「なっ」
「くっ、やはりシールドビットを」
サイレント・ゼフィルスに攻撃が通ることはなく、操っているビットがビームの傘を開く。
それに全て防がれているのだ。
すぐさまセシリアと鈴音は多重攻撃を仕掛けるが、サイレント・ゼフィルスは驚くほどの高機動で上昇する。
一夏はというと、ラウラとシャルの守りをしながら……ジッとサイレント・ゼフィルスを見ていた。
ラウラの方は支援するのがやっとのようで、砲撃を行えど当たる気配がない。
シャルはすでに使い物にならないスラスターを破棄しているが……それでも、満足に動けるか。
しかし、その三人が……目の前に降りて来た銀のISを見る
狼牙だ。
そのISである覇鬼が、三人の前に飛んできたビームを左のギガンティックシザースで受けとめる。
ビームがあたったためか、若干ハサミが融解している。
「狼牙!?」
「遅くなった。一夏はともかく……そっちの二人はやばそうだな」
「すまない……まだ、まともに動けるかどうか」
「狼牙、助かるよ……僕とラウラはちょっとね」
「……解除」
と、狼牙は……パッケージであるハーミットクラブを外した。
ガシャっとアーマーが落ちる。
「何をしている?」
「ラウラ、一応これも装甲が分厚いからな……盾代わりになるはずだ」
全身を覆うような厚い装甲。
それをラウラ達の前方に置き、守るための盾の様な感じになっていた。
ギガンティックシザースも閉じられて、狼牙はその右アーム部分を取り外す。
すると、それは太刀……いや、槍のような姿へとなっていた。
「こいつは切り離しが可能でな……本当はお前たちにたたきつける予定だったが」
「恐ろしいぞ!?」
一夏の言葉に狼牙はクスッと、装甲で隠れた口元で笑う。
ブンっと、閉じられたギガンティックシザースを片手で持ち……サイレント・ゼフィルスへ向かう。
図体がでかいパッケージより、身軽な通常状態で戦うことを選んだようだ。
左にある固定武装のシールドクロー「ウルフファング」と右の槍を構え、セシリア達の後を追う。
「僕も支援砲撃するラウラの防御に回るから」
「シャル……わかった!」
それを見て、ラウラ達の方の防御は心配ないと判断したのか一夏も飛び立った。
セシリア、鈴音、狼牙、一夏と合流した箒。
五人がサイレント・ゼフィルスへ攻撃を加える。
だが、相手はその攻撃をかわし反撃をして来ていた。
「狙いはなんだ! 亡国機業!」
「……茶番だな」
その瞬間、一夏は斬りかかった攻撃を受け流されカウンターの蹴りを喰らう。
蹴り飛ばされる一夏だったが……箒がカバーに入ったため、追撃を免れた。
そこへ
「堕ちろ!」
右手に持った槍を投げつける狼牙。
その槍は射撃モーションに入っていたエムに向かう……が、エムは動かない。
余裕、それを表しているかのようで
「おいおい、女一人に何人がかりだ?」
槍が、弾き飛ばされセシリアへ。
慌てて彼女はライフルを撃たず回避した。
しかし、サイレント・ゼフィルスの前に……それは、降りて来た。
黒く、ラウラの扱うものとはまた違う……闇の色。
朽ち果てたようなマント、そして胸にある髑髏……腰にあるクロスシンボル。
牙狼のIS「キバ」である
キバは赤と黒に包まれた劔で狼牙の槍を叩き落したのだ。
そうして、先ほどまでの雰囲気が……一気に静まり返るのを、一同は感じた。
目の前のキバから発せられる異様な気配が原因だ。
「エム」
「……何故だ?」
「お前一人で、やらせれるわけねえだろうが」
「……」
チャンネルを切り、牙狼は……かつての仲間達を見る。
皆が、自分を複雑な目で見ていること。
そして……双子の弟は、普段どおりの目だったこと。
「牙狼」
「よお一夏……元気そうだな」
「ふざ、けるな! なんだよお前……なんでまた! そいつは!」
一夏は、牙狼があちらにいることを知っている。
だが、その顔は……敵と一緒に居ることに対してのやり切れない感情。
当然だ、彼からすれば敵なのだから。
「昨日の仲間は今日の敵……ってこともある、それだけだ」
「牙狼さん、何故」
「セシリア……もう、聞いてるはずだ。俺の意思を」
「っ!?」
その言葉に、グッと唇をかみ締める。
わかってはいる、わかってはいるが……いざ目の前で相対した時、割り切れるものではない。
「……あんた、本気なの?」
「そうさ、鈴音……君たちが抱いてる感情と同じくらいにな」
「牙狼っ……」
「箒……今の俺もあの時も俺も、自身の意思で行っているんだからよ」
箒とも話し、ただ一人。
狼牙だけは……腕を組んだまま動かない。
その装甲越しに感じる気配は、赤い目を通し伝わってくる。
「おっと」
突如牙狼がエムごと後方に下がる。
エムはいきなり押され何かと思えば……先ほどまでの位置にいる、銀色の鬼。
赤く染まった目が、二人を捉えていた。
「悪いエム」
「わかっている……狼牙は、私が相手をしてはいけない事もな」
「すまん」
エムと牙狼がの会話する中、一夏たちも驚いていた。
その振り抜かれた左のウルフファングに、ためらいが無かった事を。
一歩遅ければやられていただろう。
「一夏……あとは俺がやる」
「なっ、狼牙!?」
「今は、今は俺が! 俺がやらなきゃいけないんだ!」
「……わかった」
狼牙は一夏の方から再び正面を見る。
目の前の、実の兄を……その、闇に染まってしまった姿を。
その意思は、その声は……叫びとなって。
覇鬼の赤い目が、光る。
「牙狼ォォォ!」
「へっ……こい、狼牙ァァァ!」
互いに得物を構え、突撃する。
空気が震えるような正面衝突の中、キバの劔は覇鬼のシールドで押し合っている。
と、牙狼は狼牙を無理やり払うように地面へ振るった。
狼牙は体勢を直し地面へ降り立ち、すぐに牙狼も降り立つ。
「……お前たちに」
「!?」
と、残されたエムは一夏たちの前をさえぎるように動いた。
そして、ビットとBTライフルを構え
「牙狼の邪魔はさせん」
レーザーが、放たれた。
そして地上では……双子の兄弟が、ぶつかり合う。
朽ち果てたマントを翻し、漆黒の狼が銀の鬼を切りつけていく。
キバの左手を前に、その手の甲の上で劔を引き、矢を引くような独特の構え。
狼牙は、牙狼の……その実力差に、歯軋りをしている。
「どうした狼牙!」
「……うる、せい……(身体が、重い……)」
いつもより息切れが早い、そんな気がしていた。
しかし……ここで、兄を逃すわけには行かないと。
狼牙は、つぶやく。
モード反転「ザ・ビースト」
その瞬間、覇鬼の肩のアーマーが左右に伸び、脚部も展開され放熱フィンが飛び出す。
姿勢が段々前のめりになり、赤い目が一層光を放つ。
視界を若干砂嵐が発声し……顎部の装甲が、剥がれた。
牙の見える口内、響く咆哮。
覇鬼の咆哮は、上にいた一夏たちにも届いていた
だが、彼らは彼らで目の前のサイレント・ゼフィルスに翻弄されている。
そのため、狼牙を信じる事しか出来ない。
「ぐっ!」
「……(狼牙)」
狼牙は、瞬時加速で牙狼へ向う。
ISの高等技術も、この状態でならば可能になる。
だがその力を知っているのは、持っているのは……牙狼も同じだ。
しかし、牙狼は使わない。
「わかってるんだよ」
劔を横に構え、狼牙の右拳を受ける。
にぶい音が響き……狼牙は受け止められた事に驚愕し、さらに瞬時加速。
だが、ことごとく牙狼に読まれていた。
「お前のは」
ウルフファングが振られるが……ことごとく、空を切る。
キバの白い眼が狼牙の動きを……映した。
「まだ未完成なんだ」
牙狼が左拳を真横に突き出し……向ってきた狼牙を、殴り飛ばす。
殴り飛ばされた狼牙は、空中で体勢を立て直すも……キバの劔が振られ、赤紫のビームが右肩と左脇を直撃する。
「グァッ!?」
ビームが直撃した部分は……狼牙は地面に触れる瞬間、両手両足で地面を削り、四つんばいになっていた。
装甲が弾けとんだ部分もあれば、融解してるところもある。
バチバチと右肩部分からは「ザ・ビースト」の影響で放熱フィンがあった部分から余熱が噴出していた。
まるで、出血をしているかのように。
「っ、ううっ……!」
「……そのままでは、勝てないぞ」
牙狼がつぶやく言葉は、聞こえていないだろう。
だが、それでも……狼牙は痛みの中、赤い砂嵐と残りの活動時間が表示される中
金色に変わった瞳で、牙狼を見た
牙狼は……覆われたキバの中で、薄ら笑いを浮かべる。
そして狼牙は……一つの、覚悟を決めた。
ザ・ビースト……フル、バーストォ!
それは、今まで一度として使われなかった力。
牙狼でさえ手を触れなかった力。
二人が、IS学園入学を遅らせることになる原因を作った……システム。
覇鬼の、背に当たる部分に左右6つずつ装甲が開かれ……あふれんばかりのエネルギーが放出される
まるで翼が生えるような、そんなエネルギーの放出。
たった十秒しか使えない、全ての力の振り分け。
それを間近で見ていたラウラとシャル。
「覇鬼に、こんな機能が……」
「だがおそらく、エネルギーは尽きかけている」
「そ、それじゃあ」
「狼牙は、捨て身の攻撃に出た」
あのエネルギーの放出、そして先ほどまでの戦闘で……狼牙も覇鬼も限界なのだ。
その影響か、実は……狼牙の右腕は折れていた。
肩に食らった影響で、すでに使い物にならない。
左脇腹も、筋肉に引っ張られると激痛が奔る。
走る事はおろか、立っていることさえ困難だったのだ。
(我慢してくれ……覇鬼! 俺も……我慢、するぅ!)
全身の銀色の装甲がひび割れるかのように光の筋が走り……狼牙が、展開したのか左手に手榴弾を持って走り出す。
攻撃が当たらないなら、直接持って行くまで。
金色の瞳が、さらに強く光る。
牙狼は、それを見て劔を両手で地面に突き刺し
「我鱗防御(がりんぼうぎょ)」
そうつぶやく。
すると背のマントが液体状になり、突如キバの前に……盾のような形へと変化する。
どうやらナノマシンのようで、それが狼牙の左腕にあるクローを防いだ。
瞬時加速からの、エネルギーが奔っているクローが弾かれる。
だが
ラウラの大型レールカノン、シャルの精密な射撃が続く
突然の攻撃。
牙狼はその二人に視界を一瞬向けた。
「ちっ!」
その攻撃は少しずつ盾を砕き、牙狼はさらに数枚の盾を重ねるように展開した。
一枚一枚の密度を濃く、範囲を絞ったようである。
だが、それ以外に自身を守る為の盾を展開しなければならず……ラウラとシャルの攻撃は、二枚あるうちの一枚を砕いた。
「「いまだ狼牙!」」
「あとぉぉぉ一枚っ!」
「くっ! ラウラァ……シャル!」
「シールドブースター全開!」
ウルフファングに付けられている、ハサミを撃ちだすためのブースターが火を吹く。
力尽くでキバの防御盾を貫こうとしていた。
軋み合う音、ブースターの轟音。
その余波が地上を吹き荒れていく。
ギシッという破裂音が鳴り、ブースターが悲鳴を上げる。
だが……目の前の黒い盾が、割れたのだ。
「うおおおおおおおおおお!」
狼牙は好機と、自身を叱咤するように叫び……左腕を押し込む。
だが、左手に握り締めていた手榴弾を当てようとした瞬間
先ほどの盾が、液体状に変化し……牙狼を覆った
狼牙の左手にあった手榴弾が、至近距離で爆発する。
閃光が狼牙の視界を覆い……爆音が、アリーナに響き渡った。
ラウラとシャルの方へ爆音と衝撃が。
上空の一夏たちやエムの元へも……だがエムは、それを見ていなかった。
しかし一夏たちは一瞬視線を動かした為、ライフルの一斉射を食らう。
と
「鈴!?」
「馬鹿っ……他所見、してる暇は……無い、わよ」
一瞬の隙をつかれた。
とっさに鈴音が一夏をかばったようだが、被害はでかい。
彼女のISはまともに喰らってしまい、絶対防御が発動したためか……意識を失ったようだ。
「ふっ……」
そんな一夏をあざ笑うかのように、再びエムはライフルを撃ちはなった。
すでに雪羅のエネルギーが尽きている一夏にシールドは無い。
だがそこへ、セシリアが……割って入るように、サイレント・ゼフィルスへ体当たりしたのだ。
「セシリア!」
「一夏さんは今のうちに箒さんから補給を! それまでは私が!」
セシリアが下を見ると、煙の中……先ほどの二機の動きがない事が気がかりらしい。
サイレント・ゼフィルスの両腕を押さえつけ、セシリアはそのまま押し込むようにアリーナのシールドへ。
スラスターを吹かし叩き付ける様に繰り返し、四回ほどでそのシールドが割れた。
その割れたシールドから二機は市街へ。
一夏は……鈴音を下ろし、すぐに箒の元へ向いその手を取る。
「頼む、箒! 『絢爛舞踏』を発動させてくれ!」
「あ、あれは……そんな都合よく使えるものでは」
「そこをなんとか頼む!」
無茶苦茶に聞こえるが、事態はそれ程まで切迫していた。
身体を揺さぶられ、箒はその必死さを感じ取り……紅椿に、意識を集中させる。
そうして、それが伝わったのか……『絢爛舞踏』は発動した。
エネルギーは一夏へ伝わり、白式のエネルギーは満ちた。
「助かった、箒!」
「あ、ああ……お前の力になれたのならそれでいい」
「じゃあ、この場を頼む!」
「任せろ、お前は急いでセシリアを追え」
一夏は箒に、残った者たちへエネルギーを頼むと言い……セシリアを追って外へ。
スラスターを全開にしているのか、その姿は見えなくなる。
残った箒は、まず鈴音を解放するために向かおうとし
その背後に感じた気配
慌てて振り向いたが……そこへ伸びた黒い腕。
若干長い爪、いや鎧を着込んだ……牙狼がいた。
あの至近距離の爆発、それをナノマシンで……完全には防ぎきれなかったようだ。
だが、恐ろしいほどの力である。
箒の首を持ち、その狼に似た顔、そして白い眼が彼女を捕らえていた。
横目で見ると……倒れているラウラとシャル、その二人の前に……装甲がボロボロになり倒れている狼牙がいた。
「ふ、ふふ……効いたぜ狼牙。でもまだ、だ」
牙狼は、あの爆発でナノマシンが一時的に使えなくなったのか、マントの部分が無い。
だが防御がろくにできなかった狼牙は……爆発で吹き飛び、意識を失った。
そして牙狼は、上空のエムが無事なのを確認し……先にラウラとシャルを倒し、下からの攻撃を無くしたようだ。
エムならば、あの二人を相手にしても問題ないと。
牙狼は、ある意味でわかっていた。
彼女の実力を知っているからだ。
そして巻きあげた砂埃が晴れる直前、一夏はいなくなっていた。
「ぐっ、がっ……ろ、う」
「ははっ、はは……悪い箒……それ、俺にもくれよ。腹が減ったんだよ」
「っ!?」
牙狼の言葉に箒は寒気を感じた瞬間……それは起きた。
紅椿のエネルギーが、キバの方へ流れ、いや……吸われている。
エネルギーが回復してきているのか、再び背部のマントが戻っている。
「う、あ」
「……もらったぜ、お前のを」
そして動きが止まった箒をラウラ達の元へ放り投げる。
ガシャっと地面を叩く様に起きあがろうとする箒は……眼を見開く。
キバの両手首から、紅い剣が伸びたのだ……自身の得物と似ているモノが
牙狼はその両腕を振るい、感触を確かめているのか。
紅いエネルギーの筋が、浮かぶ。
「なるほど……司、これでいいんだな?」
何かを確かめるように、その剣を振る。
その紅い二本の剣から発せられたエネルギーが……アリーナの外壁を、えぐった。
「これが……邪双交撃(じゃそうこうげき)か、中々だ」
「っ!?」
「だが最強の力、究極の力……それには、まだ」
威力を確認するかのような感じで、牙狼は二本の紅い刃を消す。
そうしてマントを翻し、箒に背を向けた。
「俺の目的は達した、悪いな箒」
「牙狼ッ……お前は!?」
「また会おうぜ……今度は戦いたくないけどな」
それだけ言い残し、牙狼はアリーナの外へ。
今の箒は……追おうとは、思えなかった。
「…………私は、バカだ」
一夏の協力に有頂天になって、周囲の警戒を完全に忘れていた。
先ほどの戦闘で、牙狼の方はいいだろうと考えてしまっていた自分を恥じた。
もし牙狼が本気なら、今頃は……
「牙狼……必ず、借りは返す」
箒は、紅椿を解除する。
どのみちエネルギーもなく動けない……じき、救助も来るはずだ。
ラウラ達の方へ行けば、彼女らも気がついたのか起き上がっていた。
そこまでダメージもないようで、外傷も特に見えない。
だが、一番重傷なのは狼牙だ。
すでにISは解除され、同時に千冬達がアリーナ内部へ入ってきた。
「状況は?」
「織斑先生、狼牙が重症です。右腕などが骨折していると思われます」
「わかった、あとはこちらでなんとかする……すまない」
聞けば、全ての出入り口がハッキングにより閉まっていたらしい。
外部からのモノとおもわれ……観客席にも、亡国機業の者が潜入していたと。
千冬と真耶は、今回も完全に後手に回ってしまったことで歯を食いしばっている。
「こちらでも医療班を手配します」
「更識か……頼む、狼牙を最優先だ」
「はい」
生徒会長の楯無も、その亡国機業の者を逃がしてしまった。
だが今は、負傷者の救助などが先である。
過ぎてしまったことは……いいのだ。
そうして、セシリアが追っていたサイレント・ゼフィルスも姿を消したと言う。
彼女自身も相当な痛手を受けており、すぐに搬送されていった。
その中、戻ってきた一夏は……己が感じたことを、何故か千冬に話さなかった。
あのサイレント・ゼフィルスの操縦者から感じた視線。
冷たい気配の中、まるで首筋にナイフを当てられてるかのようなプレッシャー。
一夏はその感覚の意味を、後に知ることになる。
第六巻内容も、後一話。
桜が散って、春が終わったような感じになります。