騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第二十八話

戦場と化した市街のアリーナ。

そこに横たわるIS学園の生徒達。

その中には、一目で重症と分かる者もいる……狼牙だった。

彼が一番、この中では重症だ。

 

「狼牙君っ!?」

 

すぐにかけよった真耶が、すでにISが解除されていた狼牙を見て……絶句する。

絶対防御が働いたおかげで死んではいない。

そう、死んではいない……あくまでそれだけだ。

右腕は折れているのがわかり、左の脇腹から出血。

すでに呼吸も怪しい。

 

「どいてっ!」

 

真耶を押しのけるように医療班が到着。

即座に指示を出し、病院にも伝えている。

 

「ええそう! 輸血だけでなく精密検査! 呼吸はあるが意識はない!」

 

医療班が狼牙を最新式担架に乗せる。

IS技術は各方面にも使われており、これもその一つだ。

だが……狼牙は、この様子から見て相当危険らしい。

 

「狼牙!?」

 

「狼牙さん!?」

 

市街地から戻ってきた一夏とセシリア。

気絶していた彼女も、アリーナにつくころには意識が戻っていた。

だが、一夏に抱っこされているためそのままでいたようだが……さすがに、降りるようだ。

 

「……一夏、来たか」

 

「千冬ねえ! 狼牙は!?」

 

「大丈夫だ……簡易な診察だが、一応命に別条はない、とのことらしい」

 

それを聴き、一夏は……深く息を吐く。

安堵のため息だ。

 

「だが、狼牙がいなければ被害はもっと出ていただろう……」

 

「……俺は」

 

「お前も今は休め……命令だ」

 

千冬は他に傷を負ったセシリア、鈴音、ラウラ、シャルも医療班の元へ。

一夏も……箒と合流し、その後に続く。

奇跡的に観客に被害はなかったが、しばらくアリーナは使えなくなっていた。

生徒会長の楯無も、一夏達が戻ってくる前にすでに行動を開始している。

 

(サイレント・ゼフィルス……あの操縦者は、一体)

 

一夏らは、この後少し事情聴取がある。

千冬らも同席するが、仕方ないことだった。

特に重症の狼牙は、意識が戻り回復次第聴取に入るとのことらしい。

そして、姿を消したサイレント・ゼフィルスとキバは……結局そのまま行方をくらました。

その操縦者である二人は、意外なことに市街地にいた。

もっとも二人は別々の場所に降りてから……数時間、動きを止めていた。

そうして、互いの位置を確認後に隠していた服に着替えてから合流したようである。

 

「……わかりました、はい。では」

 

「スコールか?」

 

「ああ、とりあえず向こうが落ち着くまでそこに潜伏してろ、らしい」

 

今の牙狼とエムは普通の格好だ。

どう見ても年頃の男女である。

 

「こういう服は慣れないな……」

 

「そう言うな、似合ってるぞ?」

 

「ふんっ……で、どうするんだ?」

 

エムは牙狼に尋ねる。

彼女からすれば、どうでもいいことなのだろう。

そのため、牙狼に聞いてくるのだと思うが

 

「よし、じゃあまずあそこだ」

 

「?」

 

牙狼の視線を追うエムは……眼を細める。

そこは、カラオケ。

エムの視線は、そのまま右横に動かされる。

 

「お前は馬鹿か?」

 

「馬、鹿ではなく狼だ」

 

「もういい……」

 

何やら疲れたような顔のエム。

逆に牙狼は相変わらず能天気な顔で

 

「さあ行こう」

 

「……」

 

エムを引きずるように連れて行く。

彼女もどうやら諦めた……違う、どうでもよくなったようだ。

そうして三十分後、げっそりした顔の牙狼。

 

「エム……お前」

 

「うるさい」

 

牙狼は、どうやら諦めきった顔。

エムが終始無言でジト目だったかららしい。

確かに、あの視線をずっと受け続けるのは辛い。

 

「じゃあ、エムは一体何を」

 

「特にすることもない」

 

「……いや、それはないだろリアル女子高生?」

 

「それは年齢だけだ」

 

エムはこういった部分については、まったく駄目だった。

むしろ彼女にとっては

 

(別に、牙狼と一緒なら問題ない)

 

その程度のことだった。

彼女には、牙狼と一緒にいられるだけでいいのだ。

 

「はあ……ま、そんなのもいいかもな」

 

「そういうことだ」

 

二人は街の中から少し離れた、公園にたどり着く。

暇潰しに歩いていたということで、空いているベンチに腰掛けた。

 

「ほい」

 

「ああ……」

 

牙狼は買ってきたミルクティーをエムに渡す。

エムはそれを受け取り、プルタブをひいた。

 

「……しかし、スコールはどういうつもりなんだ? 急に引きあげろなどと……」

 

「あの人の考えはわからん……深く考えたら思うつぼだろうさ」

 

「確かに……」

 

牙狼もコーヒーを飲みながら空を見上げる。

二人は、とても数時間前まで戦っていた二人とは思えないほど落ち着いていた。

 

「牙狼」

 

「ん?」

 

「……私は、私だよな?」

 

エムが突然、牙狼にそう言いだす。

その声が普段のものとは違うことに牙狼は気付いており……

 

「お前らしくないぞ?」

 

「……ふっ、あの男に会ったせいで妙な感じなんだ」

 

「……一夏か」

 

牙狼は彼女のことをよく知っている。

だが、それでも……因縁というには、悲しいものだ。

それを知っているからこそ、牙狼は深く言わない。

 

「前も言ったが、俺はお前の味方だ……」

 

「……なら、何故呼んでくれない?」

 

エムは持っているミルクティーの缶を握りつぶす。

 

 

 

「何故お前まで……私の名を呼ばない?」

 

 

 

視線を下にしたまま、エムはつぶやく。

エムは時折、こうした……鬱に近い感じの状態を見せることがある。

もっとも、見せるのは牙狼や司など……共に過ごした者の前だけ、なのだが。

戦闘時、スコールやオータムの前では絶対に見せないエムの顔。

不敵な部分とは反面、こういった面を持っているのが彼女なのだ。

それは、弱みを見せない……そのための強がりに近いのだろう。

 

「……」

 

彼女は機械ではない、年頃の少女だ。

感情もないわけでもなく、喜怒哀楽もある。

だから普段押し込めている部分も、あるのだ。

 

「どうして応えてくれないんだ、牙狼?」

 

戦っていた時とは違う、光りが無い目を向けられる。

整った顔……といっても、彼女はあの女性と同じ顔なのだが。

 

「……今は、呼べない」

 

「何故だ……何故だ!」

 

カシャッと缶が地面に落ち、エムはその両手を牙狼の胸元に。

服をグッと掴む……物凄い力だ。

 

「俺もお前も、終わってないからな」

 

「な、に?」

 

「うまく言えないが……もし名前で呼んだから、お前は戦えなくなる」

 

「!?」

 

そう言い、牙狼はエムの手をゆっくりとほどく。

彼女の手は、ISを纏い戦っている姿からは想像もできないほど……小さく柔らかい。

牙狼の手に触れるその手は、若干冷たかった。

自然と牙狼は、その冷たい手を包むように両手を置く。

 

「エムはエムだからこそ、今も戦える……その意味もな」

 

「………司のことは、名前で呼ぶのはどうしてだ?」

 

「呼び方で、ティーってのは語呂が悪い」

 

「っ……ふざけ」

 

「それに」

 

牙狼は、右手の人差指でエムの額をチョンと突く。

 

 

 

「エムの名前は……全てが終わったら、また呼ばせてもらう」

 

「……牙狼?」

 

 

 

人差し指をひっこめ、牙狼は微笑む。

エムにはその牙狼の目が……泣いているように見えた。

だが

 

「っ……司か」

 

突然牙狼の鳴り響く。

着信は……司からだ。

 

「もしもし」

 

『ガロ~今どこ?』

 

「知ってるくせによ、公園だ」

 

『あと少しで迎えに行くって。こっちも後始末終えて撤収中だよ~電話は念のためかな?』

 

「そうか……で、念のためってどういう意味だ?」

 

牙狼がいぶかしげな声でたずねると

 

 

 

『戦い足りないからって、エムに襲われてないかと』

 

「司、戻ったら少し話がある……逃げるなよ?」

 

 

 

と、聞こえていたのかエムに携帯をとられてしまった。

そこに、とてもいい顔のまま優しい声を出すエム……この状態の時の彼女は、やばい。

どう見ても、牙狼が想いを寄せている女性そのものだった。

 

「……はは、相変わらずだな」

 

「っ!? うるさい!」

 

携帯を切り、牙狼にほうる。

先ほどはごまかすように笑ったが……気付かれなかったようだ。

携帯を受け取り、次の行動を考える。

 

「だが、牙狼……狼牙は、どうするんだ?」

 

「……あいつは、放っておけばいい」

 

「なに?」

 

エムは眼を細め、牙狼を見た。

鋭い視線だが、牙狼はそれを見つめ返す。

 

「っ…!」

 

「いいんだ……狼牙は、弟は、な」

 

「牙狼……」

 

その優しい目。

自分では出せない、そんな眼。

エムは自然と、その眼を見ていた。

 

「あーあー離れろ~」

 

ドンッと、エムを突き飛ばす様にベンチに座った人影。

それは……黒いセーラー服を着た司である。

どうやら空か降りて来たらしい。

 

「つ、司!?」

 

「わーん牙狼~無事でよかった!」

 

ひしっと抱きつく司。

見ると、例の浮遊車いすが宙に浮かんでいる。

 

「お前……上から見ていたろ?」

 

「ぶっぶー外れ~ステルスモードで待機してました!」

 

「同じじゃねえか……で、終わったのか?」

 

「持ちのロン、だよ。IS学園、主力がいなかったからね……地下にも」

 

そう、今回は二重の作戦。

牙狼たちがアリーナで、司がIS学園で。

それぞれ動くことで戦力の分散と目的を達成していたのだ。

 

「織斑千冬とあの会長一派が厄介だったからね……スコール、さすがとしかいえないよ」

 

「……で、地下はどうなってた?」

 

「正直、予想以上。外に公開したらさぞ面白くなると思うけどね~」

 

司は自身の製作したスパイロボット達を解き放ち、アリーナ襲撃時と同時にIS学園を調査していた。

今回、スコールの提案したこの作戦。

見事にうまくいった、ということだ。

 

「牙狼~頭なでなでして」

 

「え」

 

さすがに、いつまでも彼女とこの体勢……まあ、膝の上に乗せている。

両腕をしっかり回され、彼女のよく自己主張した胸やお尻など、いろいろ青少年にはきついものが当たっている。

なので早く離したかったのだが……どこにこんな力があるのか、全く離れそうにない。

 

「牙狼、私頑張ったんだよ?」

 

「……ああ……司、お疲れ」

 

牙狼は間近で上目遣いの司からちょっと目をそらすようにし、震える腕で頭を撫でる。

その際、しっかり抱きついて来ているのだから司はさすがとしかいえなかった。

 

「えへへ……………あ、エムいたの?」

 

「…………司」

 

「なに? 私今忙しいんだよ~ちょっとそこらを散歩してきたら?」

 

完全に邪魔者扱いと言う感じな声。

まあ、彼女がこういう行動に出ているのは……ある意味、牙狼と一緒にいなかったから。

エムは作戦上よく牙狼といるが、司はそうはいかない。

なので、エムもわかってはいるのだが

 

「……随分鼻の下が伸びてるな牙狼」

 

「え、いや違う」

 

「ふんっ」

 

しかし、意外なことにエムはその場を去ってしまう。

チラッと牙狼を見てはいたが……

 

「……エム」

 

「はあ……もうちょっと突っかかってくれないとやる気失せるなあ」

 

と、司も牙狼から降りて隣に腰掛ける。

しかし、足が動かないので牙狼に寄りかかる格好だが……

 

 

 

「牙狼、エムのことだけど……あの後、どう?」

 

「少し……な」

 

「……無理もないよ、彼は確か……織斑一夏だっけ? 因縁だからね」

 

 

 

司はさっきまでの姿とは裏腹に、真剣な顔になる。

どうやらエムを少し遠ざける為の演技だったようだ。

 

「……心配か?」

 

「それ、冗談でも怒るよ牙狼?……親友だもの」

 

「ああ……俺もだ」

 

こう見えて司は、一番皆のことを心配しているのだ。

エムのことも、同じである。

牙狼やエムのISは、亡国機業の整備班以外、最終的に司が全てを見ている。

必ず、戻って来てくれるようにと細心の注意を払って。

 

「今回の稼働データは視たけど……サイレント・ゼフィルス、もう少し改良の余地があると思う」

 

「……エムの腕は確かだとしても、やはり機体はそうはいかないな」

 

「うん……私としては、早く解放してあげたい」

 

エムにはある事情故に、裏切り防止策がある。

それが彼女の枷であり鎖ともなっているのだ。

牙狼と司はそれを知っている、それを知っているからこそ

 

 

 

「安心しろ司……俺が必ず助けるさ、約束したんだからな」

 

「……そうだよ、困っている女の子を助けるのはいつだって男の子だもの」

 

 

 

二人は互いに微笑む。

かつて共に過ごした者達。

傷を負った者達。

自由、それがどれほど遠いものかと。

今ここにいない狼牙は……あの三人とは違う存在。

だからこそ、今のままでいてほしいのだ。

 

「でもね、私だって……」

 

「司?」

 

急に司の声が静かになったと思えば……こちらに歩いてくるエムがいた。

どうやら周囲をぐるっと散歩してきたらしい。

 

「……司」

 

「意外に遅かったじゃないエム……」

 

「あいつは今どこにいる?」

 

エムは無表情。

この顔のエムは……まずい。

牙狼と司は瞬時に判断したが、司は手元のウインドウを操作し

 

「……彼は実家みたいだよ?」

 

「大方、誕生日を祝おうってんだろうさ……狼牙も、無事だからな」

 

「……先に行く」

 

エムはそう言い、一人歩いていく。

行き先は……予想ができた。

 

「さて」

 

「やっぱり、行くんだ」

 

「エムの監視が俺の仕事……一応はな。あいつを死なせてたまるか」

 

「……うん、それでこそ牙狼だよ」

 

司は笑顔で言い、浮遊椅子を展開する。

牙狼は……また後でと言い、ある場所へ向かった。

残された司は……空を見上げる。

 

(今日はいいかな……エムに譲ってあげよう)

 

もうじき夜になる。

自分は、戻ってくる二人の場所に帰ろうと……浮遊椅子は宙に浮かび、ステルスを発動。

そのまま飛び立っていった。

エムは一人……司の協力で情報を常に得ていた。

そして今、のんきに実家で誕生会を開いていると。

 

(……ふん)

 

エムは一夏の家の近くにまで来た。

が、ここからである。

一夏がどう動くか……それが、わからない。

だが、この時運命はエムの味方だった。

一夏が一人で、出てきていたのだ。

しかも、こちらに向かってくる……最初は自身の存在を感じたのかと思ったが、違うようだ。

自販機の前で何やら買っており、その両腕はふさがっている。

 

好都合、それしか浮かばない

 

エムは……一夏が背を向け歩き始めたのを見て、向かう。

暗くなりかけた道の中で、自販機の灯りが照らす。

一夏がこちらを見つけたのか、少しばかり動きが遅くなった。

 

「ち、千冬姉……?」

 

「いや」

 

そう言った瞬間、エムの表情は……変わる。

うすら笑みを浮かべる……会えたことへの、喜びだろうか。

 

「私はお前だ、織斑一夏」

 

「な、なに?」

 

そうして近づく。

自身の感情が、知らず昂ぶっている。

エムはわかりながらも……

 

 

 

「そして私の名前は……織斑、マドカだ」

 

「っ!?」

 

「私が私たるために……お前の命をもらう」

 

 

 

抜き放った拳銃を、その引き金を引く。

やった。

気が付けば引き金が引かれている……殺した、と。

だが、その銃弾が奴の胸に吸い込まれず……空中で停止した。

 

「伏せろっ! 一夏!」

 

突如響く声。

そして伏せた一夏の頭上からナイフが向かっていく。

 

「やはり邪魔立てするか……」

 

エム、いやマドカは自身の右目に向かうナイフを自身の右手で……手のひらで受けとめる。

ズグっと突き刺さるナイフを、握りしめた。

 

「なっ」

 

「返すぞ」

 

そのまま投げつけた……ISを展開しているラウラに返す。

だが、今の彼女は左目の眼帯を外していた。

 

その金色の瞳は『ヴォーダン・オージュ』

 

ラウラの動体視力、視覚解像度を数倍にはね上げる。

迫るナイフを、AICで止めることも難しくない。

マドカは……その間、一瞬一夏を見て……冷笑を浮かべる。

そのままISを展開し、闇の中に跳び上がった。

 

「待てっ!」

 

「おっとそこまでだ」

 

「「!?」」

 

ラウラがAICを放つがすでにサイレント・ゼフィルスは闇の中へ。

だが……同時に、二人の背後にいる存在に気付く。

振り返らなくとも分かる、聞きなれた声。

すでに陽が落ち、街灯が照らし始めた場所から……闇の中から、姿を現した。

 

牙狼である

 

一夏とラウラの方へ、コツコツと歩いてきた。

その姿は、どこにでもいそうな青年だが……首から下がっているリングに手を触れていた。

牙狼のIS「キバ」の待機状態。

そこに触れながら、牙狼は一夏とラウラの前に。

 

「牙狼っ…!」

 

「おっと一夏、俺は戦いに来たんじゃないぜ?」

 

「では何を」

 

「まずはラウラ、IS解除してくれないかな?……怖くてしょうがないし」

 

牙狼はまるで慌てた様子もない。

その余裕さ……ラウラは、一夏も同じように考えてると目でわかった。

しかし、ここで解除していいのか。

相手は元々学友だったとはいえ

 

「ああ、俺に妙なことしたらここら一帯がどうなるかわからねえなあ~」

 

「「!?」」

 

牙狼のその言葉。

確かに、なんの準備も無しに出てくるなどおかしい。

以前のラウラなら躊躇なく捕縛したかもしれないが……

 

「わかった」

 

素直に、ISを解除する。

すると牙狼は……首から下げたリングから、手を離す。

 

「へえ……いいのか?」

 

「非戦闘員も大勢いる、無駄に犠牲を出す気はない」

 

「……ははっ、今のお前は最高だ。その左目もな……綺麗じゃん」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

スッと眼帯で左目を隠す。

そうして、牙狼は……くるっと背を向けた。

 

「お、おい牙狼。お前どこへ」

 

「どこって、一夏の家だが?」

 

「「はっ?」」

 

牙狼はそんな二人を置いて歩いて行く。

しばしあっけに取られていた二人も……慌ててその後を追った。

 

「それどういうことだよ」

 

「俺も参加させてもらうだけさ」

 

「なにっ!? き、貴様は今の自分の立場をわかって」

 

「わかってるさ……十分、な」

 

その声を聞いて、一夏は……ラウラを見る。

ラウラも同じように一夏を見ていたが

 

「いいぜ牙狼……あがれよ」

 

「悪いな」

 

「……」

 

一夏は牙狼が何もしないとわかったらしい。

ラウラは黙っているが、一夏の言葉と牙狼を信用することにしたようだ。

そうして牙狼を連れて戻ると

 

「あ、一夏、ラウラお帰りっ!?」

 

「お邪魔します~」

 

一夏とラウラを迎えたシャル。

と、その背後に誰かがいるのを見て……絶句していた。

シャルは一歩一歩下がり、リビングにいる他のメンバーは不審がる。

リビングに入ってきた一夏、ラウラ……そして

 

 

 

「牙狼っ!?」

 

「俺、参上!」

 

 

 

IS学園組の箒、セシリア、シャル、鈴音が一斉に自身のISに触れる。

だが……その中で更識の者たちは冷静にこちらを見ていた。

他にも、新聞部のエースである黛もいたが……やはり驚きの目だ。

 

「お、おい一夏?」

 

「ああ弾、数馬……俺の、IS学園でできた男友達の」

 

「不動牙狼だ……よお弾、数馬」

 

「「おっす牙狼!」」

 

「えっ!? お前ら知り合いか!?」

 

一夏が驚いて声を出す。

まあ、無理もないが……

 

「ああ、うちの店にちょくちょく来てたから……」

 

「俺もその経由で知り合ってな」

 

「そ、そうなのか?」

 

「おうよ」

 

すでに牙狼が二人と知り合いだってことに驚く。

 

「牙狼さん、こんばんは!」

 

「やあ蘭ちゃん、この前以来だね」

 

「蘭とも知り合いなのか!?」

 

「あ、はい! 以前、牙狼さんに助けてもらったことがありまして……」

 

聞けば、牙狼が「偶然」食事に来ていた五反田食堂で騒ぎを起こした男から蘭を助けたと。

その時に五反田兄妹や店主らと仲良くなったらしい。

 

 

 

だが、その男でさえも……亡国機業の者で、わざと彼女らに近づくために騒ぎを起こしたことは知られていない

 

 

 

一夏は、牙狼が自身の知らないうちに知り合いを増やしていることに驚いていた。

だからこそ、彼はここに来ると言ったのだろう。

知らず周囲から、少しずつ少しずつ……知り合いが、牙狼と仲良くなっている。

と、黙っていた黛がズイっと踏み込んで来た。

 

「が、牙狼君! 貴方は確か」

 

「あ~……それ以上は政府関係のことなので、ちょっと話せないんですよ……ね?」

 

「……そう。確かに貴方達は事情が特殊だものね。ただ」

 

「黙っていてください、絶対に……もらさないよう」

 

ずっと休学していた牙狼。

その事情を知りたいのだろうが……彼の言葉は、確かに有り得ること。

疑問も残るが、深追いすると危険という彼女の勘が告げていた。

なので、しぶしぶ下がることにしたらしい。

 

「と、一夏~ほれ」

 

「?」

 

どこにあったのか、牙狼は一つの袋を差し出す。

それを受け取る一夏だが

 

「誕生日おめでとう一夏、俺からはこいつだ」

 

「なんだこれ……ってこれ!?」

 

「ああ、確か欲しがってただろ?」

 

ニヤッと笑う牙狼。

それは今有名なシューズ。

以前、男だけで遊びに行ってたこともあり……一夏が欲しがっていたのだ。

 

「覚えていたのか?」

 

「まあな……サイズも、以前聞いただろ? 遠慮なく使ってくれ」

 

「(……複雑だが)ありがとな牙狼」

 

一夏は今、牙狼と複雑な立場だとわかっている。

だが、牙狼はあまり気にしていない様にも感じられた。

 

「ん?」

 

ピピピと、携帯の着信音。

全員が一斉に……牙狼を見る。

牙狼は、表情を変えないまま……電源を切った。

 

「悪い、俺そろそろ行くわ」

 

「え、もう行くんですか?」

 

「そ、そうだぜ牙狼」

 

「五反田兄妹~すまんな! 今度また喰いに行かせてもらうからさ!」

 

二人に軽く手を振る。

そうして、牙狼は……IS学園のメンバーを見る。

全員……いや、専用機組と更識の者達は牙狼を違う目で見ている。

 

「……」

 

牙狼は目で外を見、一度玄関から出る。

そうしてしばらくし……先ほどのメンバーが出て来た。

出て来たのが予想通りのメンバーで、牙狼は微笑を浮かべる。

 

「総出で見送りか?」

 

「そうね……今ここで貴方を捕らえてもいいんだけど」

 

「会長さん、止めた方がいいよ?……俺も、人を殺すのは避けたいんだ」

 

脅しではない。

本気のようだ……その眼を見れば分かる。

 

「ならかわりに、聞きたい事があるのよね」

 

「貴方がそういうのは珍しいですが……なんでしょうか?」

 

「一つだけ聞くわ……貴方は、サイレント・ゼフィルスの操縦者を?」

 

「……ええ、よく知ってます。ただ」

 

楯無の問い。

それに対し牙狼は、闇世の中で……口元を歪める。

 

 

 

「あいつを、俺は護り抜く……敵が、誰であろうとも」

 

 

 

そう言い、牙狼は背を向ける。

と、何かを思い出したのか一瞬顔を向け

 

「ああ、狼牙の奴を頼むよ……俺の、弟を。一夏、みんな……またなっ」

 

その言葉を残し、牙狼は闇の中に消えた。

街灯が点滅するようにジジっと音を立てる中、一同は黙っていた。

 

「またな、か」

 

「……牙狼は想像以上に強くなっていた。私達もこのままではな……引き下がれん」

 

「もちろんですわ」

 

「うむ……このまま、引き下がるわけにはいかん」

 

「そうだよね……僕たちも、負けられない」

 

「あいつには、次に会ったときに土下座させて謝らせてやるわ!」

 

一夏、箒、セシリア、ラウラ、シャル、鈴音。

それぞれが引き締まった顔で思い思いに言う。

その中、楯無は……狼牙のことを考えていた。

 

(……彼も、もしかしたら同じ存在になるのかしら? でも、そうなるなら)

 

牙狼と狼牙。

この双子の今後が……IS学園の運命を大きく動かす、そんな気がしていた。

そして、キャノンボール・ファストは終わりをつげ……新たな舞台へ、引き継がれる。




七巻の内容まで入ってました。
続けてもう一話……今回の話の裏側、と学園編です。
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