騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第三十話

簪と共にタッグマッチを戦うことになった狼牙。

彼女と拳を合わせた後、狼牙は……簪と共にヒーロー映画を見ていた。

その中で、色々な話をした。

 

ここがいい、敵も素晴らしい

 

好きな物が共通してるからこそ、会話も弾む。

気が付けば夕方になっており……簪は、寮に戻ることに。

 

「それじゃ、明日は」

 

「うん……整備科の方に」

 

「ああ、おやすみ……簪」

 

「……お、おやすみ。狼牙君」

 

呼び方はぎこちないが、簪はなれていないのだろう。

何か名残惜しそうな感じの彼女だが、ドアの前でこちらを振り返り微笑んで行った。

簪と狼牙は、明日……ISについての協力を得るため整備科に行くことに。

最初は簪が複雑そうだったが、狼牙は……頼れる先輩がいると。

だから一緒に頑張ろう、そういい彼女を説得した。

 

一人では戦えない

 

簪と拳をあわせた意味は、共に戦うこと。

それを意味しているのだから……簪の事情もあるが、狼牙のためにも彼女は戦う決意をしたのだ。

狼牙も、そんな簪の為にも全力を尽くすと。

だからなんとしても、簪の専用機を完成させなければならないのだ。

 

「……さて」

 

簪が帰ったあと、狼牙は携帯を取り出す。

ここはとくに使用制限がされていないエリアで、それは確認済みだった。

そして数回のコール音が鳴り……

 

『もしもし』

 

「こんばんは桔梗先輩、狼牙です」

 

『狼牙君!? も、もう大丈夫なの?』

 

「はい……今、病室からです」

 

それは、二年生の桔梗だ。

狼牙は……今回のことで、経験豊富な先輩を頼ることにしていた。

 

『そう、怪我したと聞いてお見舞いに行こうと思っていたけど……』

 

「ありがとうございます……実は、折り入ってご相談が」

 

『相談?……今から行っても大丈夫かな?』

 

「あ、はい。わかりました……お待ちしてますね」

 

一度電話を切る。

どうやら彼女はどのみちこちらに来る予定だったらしい。

そうして待つこと数十分後

 

「狼牙君」

 

「きたよ~」

 

ノックの後、入ってきたのは……桔梗と、瑠璃だった。

どうやら二人で一緒に来る気だったらしい。

 

「こんな時間にすみません」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「頑張ってる男の子を励ますのは、女の子の役目~」

 

桔梗と瑠璃。

二人はどうやらそれぞれお土産を持ってきてくれたようで

 

「リンゴに……何故にパイナップル!?」

 

「……ごめんね、瑠璃はこういう子なの」

 

「え~パイナップルおいしいよ?」

 

「瑠璃先輩……その優しさが、なんか怖いです」

 

と、そんな感じで会話もはずんでいた。

桔梗がリンゴをむき、三人で食べていると……狼牙は、本題に入る。

 

「実は、先輩方にお願いしたいことがあります」

 

「むむ、狼牙君のなら何でも聞いちゃうよ~」

 

「そうね……どういったことかしら?」

 

「それが」

 

狼牙は、今度の全学年で開催される専用機の合同タッグマッチ。

そのパートナーのISが未完成で、なんとか間に合わせたい。

だが、自分には整備科の知り合いがいないので先輩二人の力を借りたいと。

 

「なるほどね……大丈夫、任せて」

 

「私も、友達が結構整備関係にいるから頼んでみるよ! みんないい子だから~」

 

「ほ、本当ですか! ありがとうございます、先輩!」

 

狼牙はその返事に、パアっと子供っぽい笑顔を浮かべる。

それを見て、桔梗と瑠璃はまた微笑んでいた。

 

「でも、専用機持ちなのに完成していないってのは妙な話ね」

 

「それは……ちょっとばかし複雑な事情でして、まあ……彼女の専用機は後回しにされた状態なんです」

 

「うわっ、なにそれ酷い……でも、なんとなくわかったよ」

 

瑠璃はすぐさま察したらしい。

そういった上の事情故に、泣く羽目になった子もいるのだと。

 

「……そういうことならなおさら、完成しないとね」

 

「はい……俺も、今度は優勝しますから」

 

「おっ! いい顔だよ~お姉さん惚れちゃうかも」

 

桔梗はそんな瑠璃の頭を軽くはたく。

本当、この二人はいいコンビだった。

そうして雑談をしながら、狼牙は看護師が入ってくるまで楽しんでいた。

桔梗と瑠璃は、明日の放課後に第一整備室へ来てと残し、そのまま出ていく。

 

「先輩、おやすみなさい」

 

「ええ……おやすみ、狼牙君」

 

「いい夢をね~」

 

バタンと戸が閉まり、看護師が狼牙の体調などを見始めた。

その後、特に異常もなく……病院食を食べ、狼牙は眠りにつく。

簪のこともそうだが、狼牙も早く治さなくてはならないのだから……

そして翌日、狼牙は自身のISの戦い方について考えていた。

 

(……くそ)

 

やはり、防御全てを犠牲にしなければあのキバの防御は貫けない。

前回は手榴弾を当てたまではいいが、こちらも防御を考えたために甘かった。

そこは……やはり、人としての部分を捨てきれないゆえだろうか。

 

(行くか)

 

検査なども全て終わり、放課後になった。

もうすぐ簪も向かうだろうし、狼牙もすぐに向かわなければならない。

そうしてアリーナにある第一整備室。

今回は訳ありなので、千冬にも事前に話は通してあった。

 

「お、簪」

 

「……遅い」

 

「うっ……ああ、一分遅れてたか」

 

「待たせちゃだめ……」

 

すでに待っていた簪。

どこか機嫌が悪い様に見えるが

 

「また誘われたの」

 

「……もてる女はつらいな」

 

「……嬉しくない」

 

一夏とまた一悶着あったらしい。

 

「あ、発見~」

 

何やら聞こえたかと思えば、ドンッと狼牙の背中に何かが……瑠璃だ。

170センチの狼牙に、150センチの瑠璃……隠れて見えない。

 

「瑠璃先輩……」

 

「わははは、お待たせ」

 

「ごめんなさい、少し遅れたわ……そちらの子ね」

 

桔梗が簪を見る。

簪は初めてみる上級生に頭を下げる。

 

「はじめまして……更識、簪です」

 

「更識?……ああ、会長の妹さんか。どうりで」

 

「うんうん、髪とか瞳の色もそうだけどね~……珍しい名字だから」

 

簪は二人の言葉に少し身を固くしたが、狼牙が軽く右肩に手を置いたのだ。

ギクッとなる彼女だが、狼牙の頬笑みを見て……肩の力を抜く。

 

「あの会長とはずいぶん違うわね、可愛いじゃない」

 

「そうだねえ~……今度久しぶりに襲撃してみようかな」

 

「いいわねそれ、最近挑んでないし」

 

桔梗と瑠璃。

以前の襲撃に失敗していこう、虎視眈々と狙っているようだ。

そんな二人の言葉に目を丸くしている簪だったが

 

「まあ、こんな感じの頼れる先輩だ!」

 

「ちょっと狼牙君、こんな感じは失礼じゃない?」

 

「そうだそうだ~……まあちょっと同意できるけど」

 

「……ふふっ」

 

簪はそんな三人の様子に、少し笑い声が出る。

あまりこういった雰囲気は味わっていなかったが……印象は悪くないようだ。

 

「じゃあ、ちょっと待ってて」

 

と、桔梗が奥へ引っ込む。

すると……数人の見知らぬ女子生徒を連れて来た。

 

「私達の友達、みんな整備科なのよ」

 

「「「「「よろしく~話は聞いてるからね!」」」」」

 

「みんな腕利きだよ、頼りにしていいから!」

 

瑠璃がサムズアップをする。

一方簪は……あ、ちょっと後ずさった。

 

「簪、落ちつけ」

 

「う、うん……あ、あの。よろしくお願いします」

 

簪は再び頭を下げる。

整備科の面々は、あの会長の妹さんか~など言っていたが、特に気にしていないらしい。

曰く、整備などには関係ないことだと。

 

「それじゃあ、更識……なんか会長みたいになっちゃうわね、簪さんって呼んでいいかしら?」

 

「はい、私もその方が……」

 

「わかったわ、簪さん……まず、ISを見せてほしいわね」

 

桔梗に言われ、簪はチラッと狼牙を見る。

狼牙は……左拳を握って、向けてくれた。

 

 

 

二人だけで行った……狼牙と簪だけの、秘密

 

 

 

それを思い出し、簪は……頷き、右拳を前に突き出す。

すると、中指にあるクリスタルの指輪が光り……彼女はISをまとった。

フワッと宙に浮いたその姿は……だいぶ様変わりしているが、雰囲気があるISに似ている。

 

「打鉄?……いや、違うな」

 

「……うん、この子は打鉄弐式」

 

狼牙の疑問に答える。

ほとんど共通点はないが、頭の部分にあるハイパーセンサーだけがそのままだ。

 

「なるほど。見た感じ防御重視の打鉄と違い、機動力重視ね。機体は完成してるようだけど」

 

「……まだ、武装関係で」

 

桔梗に対し、簪はISを跪かせてから装着を解除し……現在の状況を話す。

機体は出来ているのだが、武装方面で詰まっていると。

 

「機体の稼働もまだか~……こりゃ、中々手ごわそうだね」

 

瑠璃がそう言い、他の整備科の面々はデータ関係を取りつつすでに話し始めている。

そのスピードは相当なものだ。

狼牙は、さすが本職だと驚いていると

 

「武装は……マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイル……それと、荷電粒子砲です」

 

「ふむふむ、となるとサンプルデータがいくつかあるから少し応用してみましょうか」

 

「……データ、ですか?」

 

「整備関係にはどうしてもそういったものが必要になるから、あらかじめここにはサンプルがあるの。持ち出しは厳禁だけど」

 

簪は、その中に引き込まれながら……整備科の面々と話していた。

気圧され気味に見えるが、とても真剣にやっている。

女子同士というわけだが……かなり濃い内容の話になっている。

整備科の面々も、簪が話す部分に色々アドバイス等をしながら機体の武装を構築していくようだ。

と、一通りまとまってきたようである。

 

「じゃあ、簪さんは火器管制をお願い。私たちはシールドエネルギーの出力関係ね」

 

「……ご迷惑を、おかけします」

 

「何言ってるの、私達にもいい経験になるんだから……制動システムについては、一緒に仕上げましょう」

 

「は……はい」

 

そういい、一人が簪のサポートに回り他の四人は装甲チェックなどにも。

一気に打鉄弐式の周りが騒がしくなっていった。

だが、狼牙は……そんな簪に何も言わない。

むしろ、自分自身のISのチェックを始めていた。

 

「ねえねえ狼牙君~彼女に何か言ってあげないの?」

 

「俺?」

 

「そうよ、貴方達はパートナーじゃない?」

 

瑠璃と桔梗が狼牙に対しそういう。

しかし、狼牙はそんな二人に微笑みながら口を開いた。

 

「俺がいっても、かえって邪魔になるだけです」

 

「え、でも」

 

「だから」

 

狼牙は、左手でいじっていたコンソールの手を止める。

 

 

 

「俺は俺の……今できる最大限の努力をします……簪の努力に応える為に」

 

 

 

まだ右腕は治りきってはおらず、骨は完全にくっついてはいない。

回復速度は驚異的だが、さすがに数日で治るほどではないのだ。

簪は簪の、狼牙には狼牙のするべきことがある。

と、それが聞こえていたのか……簪は狼牙の方を見ずに、クスッと笑っていた。

 

「……狼牙君、それが君の答えなのね?」

 

「ええ……自分ができていないのに口を出すほど、俺は優秀じゃないですから」

 

「そう……よ~し、瑠璃お姉さんも頑張るよ!」

 

「ふふっ……そうね、私もいっちょ頑張りましょうか」

 

桔梗と瑠璃は、狼牙の戦闘時のデータなどをまとめ始めた。

二人にとっても、狼牙は可愛い後輩であり……大切な友達だから。

もう、こんな怪我をしてもらいたくない。

だからこそ、彼が万全な状態で挑めるように二人も必死だった。

 

「やっぱり、この動作時に数秒ロスが」

 

「ウルフファングにある電撃も、もう少しこっちからパワーを預けれそうじゃないかしら?」

 

「桔梗ちゃん、装甲でもだいぶバラつきがあるし、ここにもう少し」

 

狼牙のほうと簪のほう、双方が騒がしくなる。

だが、簪は……今ひとつ詰め寄れないでいた。

 

(狼牙君って……たくさん、女子の知り合いが……いるんだっけ)

 

出会いのときからそうだったが、狼牙は自分とは全然違う。

友達も多く、何より性格が決定的に違った。

だが、昨日の話では……狼牙も、簪に似た感じだったと。

しかし、今見ているこの状況では……とても信じられなかった。

 

(綺麗な先輩……)

 

簪は、桔梗と瑠璃。

狼牙と仲がいい二人が、少し……羨ましく思えていた。

今の状況なら仕方ないが、二人は多分……自分の知らない、狼牙を知っている。

だから、あんなに近くにいるんだと。

 

(……私、なに考えてるんだろう?)

 

狼牙のことは、彼の問題。

簪には関係が無いはずだから……と

 

 

 

急にエラーが表示され、慌てて簪は計算を直す

 

 

 

すぐにエラーは消えるが、簪は柄になく慌てていた。

今は集中、集中と……自身に言い聞かせるように

 

「狼牙君、ほらまたここがお留守だよ~」

 

「あっ!?……やっぱ、つい忘れちゃうんですよね」

 

「まあ、ダメージレベルCからだいぶ戻ってきたし……明日辺りには飛べるようになるわ」

 

(!? ち、近すぎ……なんで、狼牙君……何も、言わないの?)

 

時折向こうを見れば、三人がほとんど密着するような感じでコンソールをいじり談義している。

だが、狼牙はなんとも思っていない様に見えて……心の中では、少しばかりスケベ心もあるのだが。

それを知らない簪から見れば、妙に気になってしまい平静を装うにも、限度はある。

 

「あ、あの先輩……その」

 

「ん? なにかしら簪さん」

 

「……狼牙君は、いつもああなのですか?」

 

「?」

 

簪は、自身のサポートをしてくれる一人の女子に話しかけた。

その女子はチラッと三人の方を見て……ああっ、と頷く。

そっちでは、何やら桔梗と狼牙があったのか少し顔が赤くなり、瑠璃がそれを見て笑っている。

 

「あの三人はね……いろいろ、あったのよ」

 

「……いろいろ、ですか?」

 

「ええ……最初はいがみあうだけだった、それでも……彼、狼牙君が二人を変えたの」

 

「?」

 

整備科の二年生は、その時に起こったある事件のことを話した。

実はこの事件はあまり知られていないのだが、彼女もあのアリーナでの出来事を見ていた一人だった。

 

「彼は織斑一夏君とも違う、特に才能に恵まれてもいないかもしれない……」

 

と、その女子は簪の方を見て微笑み

 

 

 

「それでもね、狼牙君は戦い続けているのよ……お兄さん、牙狼君の分も。そして、男としてもね」

 

「戦う……男と、して」

 

「彼は、タッグを組む上で……きっと貴方を守るでしょうね。だから、貴方が彼を支えるの……今度の戦いの場で、彼がたった一人信じれる存在なんだから」

 

「……私、が?」

 

「それがタッグマッチというものよ? 互いに、全てを任せれるような存在でなければ……いくらIS性能がよくても、適正があっても……勝てないわ。彼が貴方を選んだのは、全てを任せようと……きっと、そう思ったからだと思うわ」

 

 

 

彼女はそういい、再び作業を開始する。

簪は、今の言葉に……深く、深く、心に突き刺さる何かを感じた。

彼女は自分より一年長く生きているだけ、それでもやはり……その一年の差が、大きく感じられたのだ。

 

(狼牙君は、私に全てを……任せて、くれるの?)

 

まだ知りあって、間もない。

だが、彼の言葉と意思は……自分が持っていないものばかりだった。

そんな自分に対し、狼牙はどうなのか。

 

(……あの、拳を合わせてから)

 

そう、わかりきっていたことだった。

狼牙が自分を信じ、そして……今も、こうして一緒に頑張ってくれている。

ならば、自分がすべきことと……そして

 

(彼と一緒に飛ぶこと……そうだよね、弐式?)

 

簪は自身のISに、心の中で声をかけた。

今は身にまとっていないが、弐式も待ち望んでいるんだと。

実際、狼牙と拳を合わせた後……指輪が一瞬、光った様に見えていたのだから。

 

(……あ)

 

気が付けば、データなどの調整や計算が終了していた。

作業効率が普段の倍ははかどり……隣の先輩のサポートも的確だ。

 

「よし、こちらは終わったわ!……簪さん?」

 

「……一人、じゃない」

 

「ん?」

 

「先輩……私、一人じゃ……ないんですね」

 

簪がコンソールの上に、何かを落とす。

女子は、それが何か分かり……彼女の肩に手を置く。

 

「こらこら、女がそれを見せるのは男の前だけにしておきなさい……私より、彼に甘えた方がいいわよ?」

 

「……」

 

「誰だって一人は辛いのよね……でも、今の貴方にはパートナーがいるじゃない」

 

「…………はい」

 

そう、狼牙がいる。

彼が私を変えてくれる……そんな気がする。

簪にとって、ここまで踏み込んで来た男子はいなかったのだ。

 

「お~い簪、そっちはどうだ?」

 

「!?……こっちは、終わった」

 

簪は目元をぬぐい、平静を装って返事を返す。

狼牙も、一通り終えたのかとてもいい笑顔だ。

 

「そっか、俺のISも大方キリがついたからな……時間もアレだし、続きは明日にしようぜ」

 

「……うん」

 

そう言うと、先輩方も時間を見ていったん終わりということになる。

一同は後片付けを始め、続きは明日の放課後。

一通りのデータ関係はほぼ終わり、明日の最終チェックの後で稼働実験ということになった。

 

「それじゃ」

 

「また明日ね~狼牙君、簪さん」

 

「「ありがとうございました」」

 

桔梗と瑠璃が他の女子を連れて、出ていく。

と、先ほど簪のサポートに回っていた女子が簪の耳元で

 

「(ここからは貴方次第、頑張ってね)」

 

「(……え、あ)」

 

「(桔梗と瑠璃も気を利かせてくれてるし……ちゃんと、パートナーの面倒見ないとね?)」

 

そう言い残し、簪の方を軽くポンとたたいて……彼女も出ていった。

残された二人。

簪はどうしようかと、何も浮かばず止まっていたが

 

「なあ簪」

 

「!?……なに?」

 

「いや、さっきのを見て思ったんだけど……やっぱ、簪ってすげえな」

 

狼牙は近くの壁に背を預け、簪を見る。

その顔は、どこかさびしげな感じだった。

 

「すごい?」

 

「さっき、八つの空間投影キーボード……使ってたろ?」

 

「……うん」

 

「それが、俺にはとてもじゃねえが無理だからな……目の前の一個で悲鳴上げてるってのに」

 

簪には、よくわからなかった。

だが、狼牙は……そんな簪がうらやましく、同時に

 

 

 

「正直、簪の姿を見て……うらやましい」

 

「えっ?」

 

「俺は……夢のために、今よりもっともっと努力しなきゃならない。それを、改めて思い知った」

 

 

 

狼牙の夢。

簪は、自然とその夢の内容を聞いていた。

宇宙に行くこと……それは、確かに努力が必要。

だがそれ以上に、強い意志も必要だった。

 

「今の俺じゃ、夢というのもおこがましいんだってな……簪ほどじゃねえけど、もっと煮詰めないと」

 

「……そんなこと、ない」

 

「いや……俺も、もっともっと努力する。簪みたいに、な」

 

狼牙は、背を壁から離した。

そうして簪の方を見て、口を開く。

 

「よし、それじゃ俺も戻るぜ……簪はどうする?」

 

「っ……あ、あの」

 

「?」

 

「……ううん、何でも無い。また明日……狼牙君」

 

狼牙は首をかしげたが、簪は何でもないと言う感じで別れる。

少し早足で出ていく彼女を見て、狼牙は特に何も思わず……病室へ戻って行った。

 

(はあ……私、何してるんだろう)

 

結局普通に別れてしまった。

先輩が気を利かせ、ああしてくれたというのに……

 

(……何に気を利かせて、なんて……うう)

 

簪は、自身が狼牙のことを気になっているのに気づいていた。

別に彼はどこにでもいそうな、普通の男子なのにと。

出会いは少し変わっていたが……やはり、それでも。

 

「私は……」

 

自室に入り、ルームメイトは食事に行っているのだろう。

今日は異様に疲れた気がして、簪はそのままシャワーを浴びることに。

 

トントン

 

急にノックが。

簪は、シャワーを中断され少しばかり無表情がきつくなりながら戸をあけると

 

「よっ」

 

「!?……狼牙、君?」

 

そこにいたのは、先ほど別れた狼牙だった。

しかし、かなり息が荒い……どうしたのだろうか。

 

「ど、どうしたの?」

 

「あ、ああ……すまんすまん、いろいろあって」

 

「……いろ、いろ?」

 

狼牙は、落ちつけていたのか顔を上げる。

その顔は笑顔で……ニッと笑う。

 

 

 

「数日以内に、やっとギプスが取れるからよ……簪、俺も一緒に飛べるんだぜ!」

 

 

 

とても嬉しそうな顔で狼牙は言う。

だが、それ以上に簪は

 

「それを、言うために?」

 

「あ、ああ……それだけだが?」

 

「……ものすごく、めんどいこと」

 

「ええっ!?……ま、まあそうかもしれんけど。医者に言われて嬉しくってさ」

 

どうやらすぐに病室へ戻る途中、医者にそう言われたようだ。

その嬉しさで、真っ先に知らせに来たかったと……

 

「実際は最新鋭の治療で、骨の折れ方も綺麗だったからすぐくっついたんだけどな……念には念をって」

 

「そう、だったんだ……でも」

 

「俺は大丈夫さ……簪一人でやらせねえからよ」

 

狼牙は左手で拳を作る。

彼の方が背が高いため、簪は見あげる形だが……クスッと、微笑んでいた。

 

「急に悪かったな、用件はそれだけだ」

 

「……うん。明日が、楽しみ」

 

「俺もだ……じゃ、また明日な!」

 

そう言い残し、狼牙は簪の前から離れていった。

簪がドアからひょこっと顔を出すと、狼牙は……廊下を歩いて行く後ろ姿。

それを見送り、簪は……部屋に戻る。

先ほどの狼牙は、とても嬉しそうだったのを感じ……眼鏡を置き、服を脱ぎ、下着を取り……浴室へ。

 

(……名前)

 

簪は、昨日……狼牙に対し、自分の名前を呼んでいいと。

そう言っていた……それがなにを意味するのか。

自分の意思で、そう言ったのだから……簪は、彼のことを考えると

 

「熱い……な」

 

シャワーを少しぬるくする。

火照った顔、少しばかり温めのシャワーがかかる。

彼女の肢体を濡らし、弾かれる水滴。

きめ細かな肌を持つその身体は、女としても十分な魅力があった……だが

 

(……狼牙君は、どうなのかな)

 

彼女の周囲には、女性として魅力あふれるものばかり。

姉然り、従者の姉妹然り。

他の専用機持ちの少女たちも、だ。

 

(……もう少し、大きかったら)

 

男性にはそういう人も多いと聞く。

そう思うと、姉の姿が、その背が浮かぶ。

敵わない……自分では決して。

幼少のころから思い続けていた、そのつらい現実。

だが狼牙の言葉は、その声は……全てを振り切らせるのに、十分だ。

 

「平気……姉さんは、姉さん……私は、私……」

 

シャワーの栓を閉め、いったん止まる。

ポタポタと、髪から滴り落ちる水がだいぶ少なくなってきた頃に……簪は、顔を上げた。

その顔は、一夏に想いを寄せる少女たちと同じ……美しいものだった。

簪はその日はすぐに休むことにし……その翌日、一年一組では騒動が起きていた。

 

「俺、復活!」

 

狼牙が病院を退院したことである。

無論、まだ右腕にギプスはついていたが……今日の検査で問題が無いことが分かれば、明日外すことに。

そのため、学業の遅れも懸念され本日より登校が許可されていたのだ。

 

「狼牙、退院できてよかったな」

 

「おおよ……病院食はどうも慣れないからな」

 

「贅沢は言うな、それだけの怪我だったんだぞ……」

 

一夏と箒はそういいながらも、心配していたことが分かる。

セシリアやシャル、ラウラ……さらに隣のクラスの鈴音も急きょ来てお祝いをしてくれた。

他の一組のクラスメートも、狼牙の退院におめでとうと言いに来てくれている。

 

「みんなありがとよ、なんか恥ずかしいけどさ」

 

「……お前達、喜ぶのはいいがいい加減席につけ」

 

と、いつの間にか千冬が来ている。

彼女も、今回は……大目に見ると言わんばかりに、出席簿を出したりはしていない。

しかし

 

「狼牙、退院祝いに私からも言わせてもらおう」

 

「ん? なんですか織斑先生?」

 

「ああ……実はな」

 

千冬は狼牙にニコッと微笑みかけ

 

 

 

「今日の一限目は小テストがある」

 

 

 

そう言い放った。

その言葉は、狼牙の耳へ届き……

 

「じゃ、みんな。俺は病室へ戻るぜ……うう、急に右腕が痛いなあ。こりゃ重症だ」

 

「どこへ行こうというのだ? ん?」

 

狼牙が教室を出ようとした瞬間、千冬の手がガシッと狼牙の肩をつかむ。

その力は恐ろしいほど、振りきれないという絶望を抱かせる。

慌てて周囲を見る狼牙は……すでに全員が席について、目をそらしている光景。

つまり、全員が声をかけて来たのは……狼牙に対して、哀れみという部分も入っていたのだと。

 

「せ、先生! それはあまりにも無慈悲な行いだと思います!」

 

「入院の身分でうろついてたお前が言うことか?」

 

「それでも! 護りたい世界があるんだ!」

 

狼牙が身を翻し、教室のドアを目指した瞬間

 

 

 

「皆さん~お待たせしましきゃっ!?」

 

「ふぶっ!?」

 

 

 

千冬の拘束を、肩を振り払うかのように脱出し……前のめりに戸へ向かう狼牙。

その先には……戸をあけ、プリントを抱えて入ってきた真耶が。

 

狼牙、真耶を押し倒す……胸に顔を押し付けるおまけつき

 

千冬は、頬をピクピクと動かし……恐ろしい兆候が。

そして、狼牙は……自分が今どんな状況かを理解し、そろ~と顔を上げる。

目の前に見える、真っ赤な顔の真耶。

 

「いっ……いやあああああああああああああ!」

 

バシッと、狼牙の目の奥で火花が散ったような感覚に陥る。

それは、千冬が目を見開くような見事な……鋭い一撃だった。

 

「……ほう、山田君もやるようだな」

 

「あ、あ、あ、あの」

 

「時間も押してる、すぐにテストを始めるぞ」

 

目を回してる狼牙をひょいっと立ち上がらせる。

どうやら、真耶からもらったのは強烈なビンタらしい。

狼牙は……半分理解できぬまま、席についてテストをやることになった。

数十分後、テストが終わり……狼牙は、散々の様である。

だが、千冬は……むしろ真耶が狼牙に対し、あそこまで反応するのに驚いていた。

 

(……ふむ、一夏とは全然違う反応とはな……やれやれ)

 

どこか自分に似て来てるなと思いつつ、彼女は採点を繰り返す。

そうして昼休みに入るが、狼牙は……少し、この時間でやることがあった。

それは

 

「一夏、少し時間あるか?」

 

「?……ああ、いいけど」

 

「じゃ、ちょっと付き合え」

 

四限目が終わり、昼休みになった時。

いつものメンバーで昼食に行こうとして……一夏は、狼牙に呼びとめられた。

なんでも、少し話があるようだが……

 

「悪いみんな、少し借りるぜ」

 

箒たちにそういい残し、狼牙は一夏を連れて……教室を出て行く。

その後姿に、一同は首をかしげていたが……狼牙と一夏は、二人で人気の無い校舎裏へ。

何故こんな場所にと、一夏が思っていると

 

「……一夏、お前に聞きたい事がある」

 

「なんだよ、狼牙……こんなところでさ」

 

一夏は、狼牙が背を向けたまま話しかけていることに首をかしげた。

だが

 

 

 

「お前、なんで更識簪をタッグの相手に選んだんだ?」

 

 

 

そう言い放った。

一夏は、一瞬ギクッと反応し……なんで狼牙が知っているのかと、驚いている。

しかし、雰囲気が普段とは全然違うように一夏は感じていた。

 

「答えろ一夏……なんでだ?」

 

「……楯無さんに、頼まれたんだ。妹をよろしく頼むって」

 

「……」

 

だが、狼牙は何も言わない。

一夏は、どうしたんだと狼牙の右肩に手を置くと……狼牙は振り返り、左腕で一夏を校舎の壁に押し付けた。

 

「ぐっ」

 

「てめえ……本気で言ってるのか?」

 

ギリギリと、右腕が使えないのに相当な力だ。

そして狼牙の声は……怒っていると。

だが、何故なのかは一夏はわからず

 

「な、にしやがる」

 

「……」

 

グッと一夏の胸倉を左手で掴み、引き寄せる。

そうして狼牙は、口を開いた。

 

「お前さ……なんで頼まれて、はいそうですかって引き受けてるんだ?」

 

「それは……」

 

「なにより、お前の周りには組んで欲しいって言う相手もいるじゃねえか……なのに、なんでだ?」

 

狼牙は、思った疑問を口にする。

タッグマッチに、ただ頼まれたからその相手と組むなど……やる気が感じられなかったからだ。

 

「たかが試合、そう考えてるのか?」

 

「っ……いや」

 

「……なあ、一夏。俺は今度のタッグマッチ、簪と組むぜ」

 

「!?」

 

その言葉に、一夏は驚きの表情。

それはそうだろう、何故狼牙が簪と組んだか……知らないのだから。

 

「だがな、俺が簪を選んだのははっきりとした理由がある……勝つためだ」

 

「……勝つ、ため」

 

「お前のやり方を否定するわけじゃねえけど……一夏、お前が本当に求めているものはなんだ?」

 

「……」

 

「自分が本当に組みたい相手を考えず、人の頼みでコロコロ変えれるほどのものか?」

 

一夏は黙ったまま答えない。

もし、こいつが計算して動いているならこの場でぶん殴ってでもやめさせる気だが……どうやら違うようだ。

 

「一夏、お前の優しさは罪にもなるんだぜ?」

 

「罪?」

 

「ああ……待つ者からすればな。ま、お前が誰と組もうと俺はどうでもいい……ただ、簪は俺と組むからな」

 

狼牙は、はっきりそう言い放った。

しばらく茫然とした顔の一夏だったが

 

「でもな……一夏、お前にはお前でなんか事情があるんだろ?」

 

「……まあ」

 

「よければ聞かせてくれ……会長さんがなんでそう言ったのか」

 

それが、どうしても知りたかったこと。

一夏は……狼牙の目を見て、これまでの経緯を話し始めた。

その内容は……やはり、簪の話を聞いて感じていたことだった。

 

「不器用だな、会長さんも……簪も」

 

「?」

 

「一夏、お前は簪の専用機のこと」

 

「あ、ああ……俺のせいで、完成してないって」

 

やはりその部分は、引け目に感じていたらしい。

本来は簪の専用機が完成していたはずだからだろう。

 

「楯無さんは、妹のことを思って動いたんだ……俺も、覚えがあるから」

 

「なるほど、身近にいるっちゃいるな」

 

箒も確かそうだったはずだ。

色々事情はある……しかし、本人の気持ちはどうかだ。

 

「……俺も、お前も」

 

「?」

 

狼牙は一夏の隣にいき、壁に背を預ける。

 

 

 

「お互い、苦労するな……強い兄にも、姉にも。でも簪は、あいつは……振り切って、自分で動きだしたんだぜ?」

 

「……狼牙」

 

「簪に負けるなよ、一夏。お前も見返してやれ……いつまでも、心配されないように。自分の意思で……さ」

 

 

 

一夏は目を見開く。

そう、牙狼にあの夜言われた言葉……それが、ふと狼牙と重なる。

 

『弟を、頼むよ』

 

牙狼は……双子の弟を心配している。

狼牙はそれを理解しているのだ……そして、それが今の自分と同じだと言うことにも。

 

「俺は今度のタッグマッチで、全てをぶつける。今までの全てをな……そして、お前に勝つ」

 

「……俺もそうだ……全てをぶつけるぜ、そしてお前に勝つ!」

 

一夏は、気合が入っている声でそういう。

狼牙に対し、そして……自分の姉に、自分自身に対しても。

 

「やっと腐抜けた感じがなくなったな……この前の福音戦ぐらいの顔にはなったぜ?」

 

「悪い……俺、まだどっかで甘えてるんだな。わかったよ……お前の言葉」

 

「……試合が楽しみだ。お前も、早くパートナーを見つけるんだぜ?」

 

そういい、狼牙と一夏は食堂へ向かう。

皆が、待っているのだ……互いに、とてもいい顔をしていると。

二人はそう思い、急ぎ足で仲間の元へ向かっていった。




IS八巻……まだ読んでないです。
GWは仕事と遊び、両方を満喫中……皆さまも、よいGWを。
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