騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第三十一話

「よし、準備できたぞ」

 

「うむ……では、はじめるか」

 

ここは第一アリーナ。

時刻は放課後になり……向かい合っているのは、なんと狼牙とラウラ。

二人はISをまとい、すでに戦える準備ができている。

 

「模擬戦とはいえ手は抜かん……お前が相手ならなおさらだ」

 

「ラウラにそう言ってもらえるとは光栄だな」

 

「ふっ……狼とは厄介なものだからな」

 

と、二人に間に言葉はなくなる。

そして……数秒後、ブザーが鳴り響き互いに動き出した。

初手はラウラ。

瞬時にレールカノンが火を噴く……が

 

「やはりな」

 

「ちっ」

 

体勢を低く、地面すれすれを滑空するように向かってくる狼牙。

ラウラはレールカノンを、どのみち当てる気などなかった……それでも、狙いは正確だが。

どうも向かってくることを読んでいたらしい。

左のウルフファングが展開され、ハサミの形になっている。

 

「それで掴まれたら私でも逃れられないのでな」

 

「ああそうかい……そりゃ楽しみじゃないか」

 

「……ああ、そうだな。やれるならだが!」

 

狼牙が地面をけり、一気にラウラへ。

彼女は両手首からプラズマ手刀を展開、狼牙を迎えうつ。

近接戦の中で、こういった戦いをするのはこの二人だけ……鈴音、一夏、箒とはまた違っている。

ラウラはどちらかといえば、こういった肉弾戦が得意だと狼牙は感じていた。

共に似たような武器を使い、相手の動きを封じるところもだ。

それは彼女も同じようで……すぐさまワイヤーブレードを、肩腰全てから打ち出す。

 

「6対1ってのはなあ!」

 

「ならば、狼狩りの時間だ!」

 

狼牙のは、左にあるウルフファングのみ。

だが

 

 

 

「モード反転「ザ・ビースト」」

 

 

 

大きく跳躍、そしてラウラを飛び越す様にし……地面を削りながら反転。

前かがみになりがら、両肩が左右に展開され脚部から放熱フィンが飛び出す。

顎部の装甲が外され……牙が解放される。

 

咆哮、加速

 

削った地面を再度蹴り、獣のごとく狼牙は飛びかかる。

ラウラはその動きにしっかり反応しているが……とっさに、狼牙のモーションに目を細める。

 

「!?」

 

全てのワイヤーブレードを地面に打ち付け、狼牙の……左手から放たれているウルフファングを防いだ。

すでにラウラへ向かい、その牙を開き目前に迫っているのだった。

だがそれを防がれたことで、狼牙は宙を飛びラウラの反応を見ながら反対方向へ回る。

 

「よくわかったな!」

 

「ふっ……まさか自身が囮で、本命は飛び立つ寸前で放ったウルフファングで私を縛り上げる……一瞬」

 

ラウラが目を見開き

 

 

 

「騙されかけたがな!」

 

 

 

レールカノンを狼牙の動きに合わせ、撃ち放つ。

狼牙は、地面に足をつけながら姿勢を低くしラウラの周囲を、止まることなく動く。

左にはワイヤーが戻されウルフファングが装着される。

その変則的な動きは……相手から見れば、狙いをつけにくく油断ができない。

地面をけった瞬間、着弾。

それが続けておこり、次第に二人の距離が少しずつ狭まってくる。

 

(あと30秒……いや、3秒でいいか)

 

(奴のリミッターはそろそろ限界のはず……くるか!?)

 

すでに赤く染まった液晶に表示される時間は終わりかかっている。

狼牙は……地面を蹴り、ラウラへ。

 

「うおおおお!」

 

「捉えた!」

 

ラウラは、AIC……停止結界を発動させる。

彼女からすれば、狼牙の攻撃はそれしかないのも確認済みである。

ただ、ザ・ビースト発動時のみ……どれほど効力があるかは未知数だった。

しかし……今こちらに向かいウルフファングを突き出したまま動きが停止した狼牙。

どうやら、いらぬ心配だったとラウラは考えていた。

 

「……くっ、これがそうか」

 

「はあ、はあ……中々素早いが、狩りの時間は終わりだ」

 

ラウラが集中しているため、狼牙はその場から動けずにいた。

しかし

 

 

 

ハサミが開かれたまま、その中央部にある丸い穴が光り出す

 

 

 

いや、最初からすでに光っていたのだ。

それが今……ラウラの方を向いている。

 

「だが残念……チャージは終わってたよ!」

 

「!?」

 

放たれたビームマグナムがラウラへ向かう。

彼女は……とっさに、右へ。

そしてすぐさまプラズマブレードを振り上げ

 

 

 

自身の首を挟む手前で、ウルフファングが止まる

 

 

 

両者の視線が交差し……同時に、得物を下ろす。

と、ザ・ビーストの限界が来たのか……狼牙の覇鬼が、元の姿へ戻った。

 

「相討ちか……」

 

「いや、ラウラの勝ちさ……あの時は左目、そのままだったろう?」

 

「どうかな、私の一撃はどのみち当たっていなかった」

 

二人は一時ピットに戻り、再び合流していた。

互いにベンチに腰掛ける。

 

「ああ、これ」

 

「ん、すまんな……」

 

狼牙は買ってきた缶ジュースをラウラに渡す。

プルタブを開け、二人は喉を潤す。

 

「しかし……昼に突然、模擬戦の申し込みとは驚いたぞ」

 

「はは、今日ギプスが取れることは決まっていたからな……それに、ラウラとはまだ戦ったことはなかったし」

 

「確かに。私もお前とはまだだった……今回のも、似た武器を持つ相手という興味深いものでいい経験だったが」

 

ラウラはそういいつつ、狼牙の動きを素直に評価していた。

つねに不規則な移動を繰り返す狼牙は……獣のような、そんな印象を受けた。

目をはなさず、隙を狙い続けるその仕草。

 

「俺としても覇鬼の調整も兼ねていたからな……身体の方も、運動不足だった割に調子がいいし」

 

「なるほど、だが……タッグマッチも近づいてきたから、だろう?」

 

「まあな……パートナーも、今頃調整を続けている」

 

「ふむ……行かなくていいのか?」

 

「今日はいいんだ、ラウラとのデートがあったし」

 

「ふっ、随分汗臭いデートもあったモノだ」

 

彼女とも、こうして冗談交じりで話すことができる。

ただ、簪には前もって言ってある……狼牙も、自身のISの修復を確かめたかったから。

 

「……ラウラ、この前話していたことは」

 

「牙狼のことだな?……正直に言えば、私はあいつの考えがわからん」

 

「そうか……驚いたぜ、一夏の誕生会に来ているなんて」

 

「だが、あの時の牙狼は……普通の、友人として来ていたからな」

 

狼牙は一夏の誕生会で、何が起こったかを聞いていた。

そのことでも、彼女と話したかったのである。

 

「そして、織斑先生そっくりの襲撃者……なんてな」

 

「あの女はサイレント・ゼフィルスの操縦者とも聞いているが、正直……今は情報が少ない」

 

「……牙狼は、兄さんは知ってる感じだったんだろ?」

 

「うむ、結局話すことはなかったが……知っているようだったな」

 

牙狼が知っているとなると、また別問題だ。

ただ、亡国機業に入ってから知り合ったならいいのだが

 

「今は考えても、仕方ないか」

 

「そうだな……私達も、目の前のことに集中すべきだろう……では、私はこれで失礼するぞ」

 

「ああ、ありがとうラウラ」

 

彼女は空き缶をゴミ箱へ放り、そのまま去っていった。

狼牙はしばし宙を眺め……残ったジュースを飲みほし、同じように空缶をゴミ箱へ放る。

 

 

 

缶はカンッと音を立て……床に転がった

 

 

 

しばし、無言になる狼牙。

スクっと立ち上がり、空缶を普通にゴミ箱へ。

 

「……なにしてるの?」

 

「!?」

 

突然声をかけられ、そちらを見ると……タオルを持った、簪がいた。

彼女は整備室にいるはずなのだが、狼牙が驚いた顔をしているのを見て簪は口を開く。

 

「明日は先輩達、テストがあるって言ってたから……」

 

「早めに切り上げたのか……簪、どれぐらい進んでる?」

 

「……もう少し」

 

簪はコツコツと狼牙の元へ歩いて来て、ソッとタオルを渡す。

 

「あ、ありがとう」

 

「……ノーコン」

 

「ぐふっ!?」

 

やはり先ほどの光景を見られていたようだ。

簪は続けて言う。

 

「……私を放って、一人で調整?」

 

「むっ……いや、それは」

 

「……一緒に戦う、約束……じゃないの?」

 

ジト目の簪。

最初に見たころの視線より冷たいものを感じる。

どうやらお怒りのようだ。

 

「……簪、その」

 

「いいわけ、しない」

 

「すみませんでした」

 

頭を下げる。

やはり、この簪は少し怖く感じる狼牙だった。

だが……

 

(……うん、私もいるんだから)

 

簪には、先ほどの光景が目に焼き付いていた。

狼牙には、いつでも……頼れる仲間が、女性がいる。

自分にも従者は、友達はいる……いるのだ。

でも、なにか狼牙とは違うと。

 

「すまん簪、お前の邪魔をしたくなくてな」

 

「……邪魔、なんて思わない」

 

「そっか……悪い」

 

「それに、狼牙君の……動きは、作戦を立てるためにも見ておきたい」

 

声が真剣なものだった。

改めて簪を見ると……どこか、さびしげな表情にも見える。

 

「……簪、なら少し俺のISも見てくれ。君の意見も聞いてみたい」

 

「……」

 

簪は頷くだけだ。

しかし、少しきつめの気配がなくなったような感じがする。

狼牙はすぐ着替えてくると言い、立ち上がり簪にタオルを返そうとして

 

「っ!?」

 

ふらっと、視界が一瞬ぼやける。

慌てて壁に手をつくが……それにも、力がない。

 

「ろ、狼牙君?」

 

「……あ」

 

止まったまま動かない狼牙に心配したのか、簪が近づくと

 

「きゃっ!?」

 

ふらついた狼牙が、簪を押し倒すように倒れてくる。

無警戒だった簪だが、彼女も日本代表候補であると同時に更識の者。

受け身を取ることはたやすい……たやすいのだが

 

(!?!?!?)

 

ほとんど男性と触れ合ったことのない簪に、ISスーツ越しで狼牙が密着している。

しかも、はためから見れば簪を押し倒しているようにしか見えない。

今も、狼牙の顔が自身の胸に押し付けられており……簪はパニックに陥る。

 

(ひっ……や、だ)

 

どかそうにも、狼牙の力は強く……なかった。

あっさり腕を間に入れることができた上に……よく見れば、狼牙の身体がピクリとも動かない。

 

「え……狼牙、君?」

 

ドサッと横に転がった狼牙。

だが、体は動かず目が閉じられている。

 

「……ま、さか」

 

簪は手を伸ばし、狼牙の首筋に触れ……ホッと、息を吐く。

しかし、一体どうしたのだろうか。

 

(や、やっぱりまだ……と、とにかく人を)

 

「んっ……」

 

「!?」

 

簪は冷静さを取り戻し、まず誰か教師を呼ぼうと思ったその時……くぐもった声を出し、狼牙が目を開ける。

だが、若干焦点が会ってない感じだったが……

 

「え?」

 

その瞳は、金色。

少し濁ったような、そんな感じの……金色。

だが、簪の記憶では狼牙の瞳は違う。

と、一度目が閉じられ、再び開けられた時には……戻っていた。

 

(……今のは?)

 

「っ……あれ?」

 

意識がしっかりしてきたのか、狼牙は顔を左右に向け……簪を視界にとらえた。

そして、右手で頭を押さえ……身体を起こす。

 

「……簪?」

 

「あっ……ろ、狼牙君」

 

「俺……いや、その……ごめん、大丈夫だったか?」

 

どうやら倒れたことは覚えているようだ。

しかし、簪は先ほどの光景もあり

 

「……」

 

「うっ……ご、ごめんなさい」

 

狼牙は簪が怒っていると感じたらしい。

すぐさま頭を下げる。

 

「……怒っては、いない」

 

「そ、そうか」

 

「でも……少し……気持ち悪かった、かな?」

 

そっぽを向きながらそう答えられ、狼牙は口を開けて固まる。

 

(……ふふっ)

 

簪は別に怒ってはいなかったが、少し……狼牙をからかってやりたかった。

一人で、自分を放っておいた仕返し、ともいえる。

 

 

 

さっきの瞳も、きっと見間違いだろうと

 

 

 

今の狼牙を見て、簪はそう思ったようだ。

しかし、このまま狼牙を一人にさせるわけにもいかない。

 

「狼牙君……部屋に、戻った方がいい」

 

「……そう、だな」

 

「私も、一緒に行くから」

 

「むっ……ごめん、ありがとう」

 

狼牙は、若干ふらつきながらも立ち上がる。

簪はその横に、少しぎこちなさを見せながらも立って……気をつけながら歩いて行った。

そうして狼牙の部屋にたどり着き、二人は中に入る。

 

(……お、男の子の部屋)

 

簪は少し抵抗があったようだが、狼牙の付き添い出来た為……そのまま入っていった。

狼牙の身体は、驚くほど熱い。

だが、平熱より少し高いぐらいで……自分の方が熱くなっているんだと、簪が気付くのは自室に戻ってからだった。

 

「……なんかやけにだりぃ」

 

「……病み上がりだから」

 

「ああ……かもね」

 

ベッドに腰掛ながら、狼牙はそう言う。

それを簪は、呆れ顔で見ているが

 

「……ちょっと待ってて、お水持ってくる」

 

簪は、とりあえず水を持っていくことにした。

コップの位置を聞き、備え付けの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターのボトルを取り出す。

彼女は狼牙に背を向け、キャップの蓋を外し

 

 

 

背を向けている簪の白い首筋に……立ち上がっていた狼牙の手が、首を絞めようと伸びる

 

 

 

その顔は無表情で……簪が振り向いた時、その手は引っ込む。

目の前に狼牙がいたことで、簪は驚いたようだ。

 

「ろ、狼牙君?」

 

「……あ、ああすまない。なんでもない」

 

首を左右に振り、何かを振り払うかのように狼牙はそう言い……簪からコップを受け取る。

そのまま、水を一気に飲み干していった。

 

「……ありがとう、だいぶ落ち着いた」

 

「う、うん……それなら、いいの」

 

狼牙は、簪にそばの椅子をすすめる。

簪は、スカートに気をつけながら腰掛けた。

 

「「……」」

 

何故かそのまま無言。

そのなか簪はなんとか会話をしようと試行錯誤しているが

 

「簪」

 

突然狼牙が声を出し、簪はビクッとそちらを見る。

 

「……なに?」

 

「君は、将来なにかなりたいものとか……ある?」

 

「なりたい、もの?」

 

何を言っているのだろう。

簪はそう感じながらも……以前狼牙が話していた夢の話を思い出す。

多分、そのことを言っているのだと。

 

「……考えたこと、ない」

 

「そっか……君は日本代表候補でもあるし、色々事情も絡んでるんだろうね」

 

「そうかもしれない」

 

おもえば、狼牙は日本ではなく外国の所属になると。

そうなれば

 

「ん……あ~」

 

狼牙は簪の思考を遮るかのように立ち上がり、ふらふらとベッドへ。

そのままポスッと、倒れこむ。

 

「悪い、やっぱ俺今日は寝るよ……来てもらって悪いんだが」

 

「……仕方ない、まだ退院したばっかり」

 

「だな……しかし」

 

おもむろに布団をめくり

 

 

 

「独り寝じゃさびしいし……簪に添い寝でもしてほしいなって」

 

「……!?」

 

 

 

最初は理解できていなかったようだが、意味を理解し簪は……顔を赤く染め立ち上がる。

ガタっと椅子が倒れ、簪は狼牙の言葉に口をパクパクと開閉させていたが

 

「すまんすまん、冗談だって……ごめん」

 

「じ、冗談……言っていいこと、悪いことがある!」

 

「……ああ、そうだな。ごめんよ……今日は、寝る」

 

「……ゆっくり、休んでね」

 

どうやら本当につらそうだった。

さっきのは、ごまかすために冗談だったんだろうと……簪は少し、悲しそうだったが。

彼女は、そのまま狼牙の部屋を出ていった。

機嫌を損ねてしまったようだが

 

(……ああ、本当)

 

狼牙はその後ろ姿を見て、目を細める。

口元がニイッとつり上がり

 

 

 

あの白い肌を、赤く染めたいなあ、

 

 

 

そんな、自分の意思とは違うことをつぶやきながら……目は閉じられた。

狼牙のIS、待機状態の指輪が……鈍く光りながら。




お久しぶりです。
一か月以上もかかり、なおかつ短くて申し訳ありません。
狼牙の変化、簪の変化が目立ってきました。
そして八巻発売からそこそこたち、私も頑張って書いていこうと思います。
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