騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第三十二話

「はい、ええ……わかりました」

 

ここはIS学園の一年一組。

四時限目が終わり、一行は食堂へ向かおうとしていると……狼牙に突然電話が。

そのためしばし教室の隅で何やら話していたが、一夏は戻ってきた狼牙に尋ねる。

 

「どうしたんだ?」

 

「ああ、政府からの電話だった」

 

「所属先の?」

 

「まあな……色々問題が出て来たらしい」

 

「問題?」

 

と、一夏に便乗し箒が聞いてくる。

他のメンバーもどうしたのかと見ている。

 

「牙狼のことさ」

 

「!?」

 

「その件で、アメリカが俺の方にちょっかいを出してくる……かもって」

 

その話を聞き、一同は黙る。

確かに、男性IS操縦者の損失はその所属国家には致命的だ。

牙狼はアメリカに来るはずだった……それが失われたことで、残ったのは狼牙のみ。

一夏には強力な後ろ盾も存在しているため、手出しは容易ではない。

だが、狼牙は違う……まだ、所属先のEUというのも仮定の話しだと。

 

「だから、IS学園にいるからこそ警戒しろだと……好き勝手言ってくれるぜ」

 

「ん? なんで警戒なんだ? ここにいれば」

 

「ハニートラップ……意味わかるか? 俺に近づく奴にはよく気を付けろって言われたよ」

 

狼牙が呆れた声で言うそれを、女性陣はすぐにわかったらしい。

 

「……ま、0じゃないから可能性を少しでも考慮し、警戒してくれってさ……確かに拉致よりずっと楽だからな」

 

「あ、あの……狼牙さん?」

 

吐き捨てる様に言い放つ狼牙。

セシリアが何か、言いたげな感じだが

 

「大丈夫さ、君たちがそんなのじゃないって……よく知ってる」

 

「狼牙……」

 

狼牙はセシリアが言いたいことをわかっていた。

だが、その口から言われたのは信頼の言葉。

シャルはその言葉に、微笑む。

 

「まあ、俺みたいなやついきなり近づいてくりゃすぐわかるぜ~ここにはイケメンがいるんだし」

 

「なんでそこでこっち見るんだよ?」

 

「けっ~この無自覚野郎が! 男の敵が!」

 

「うわっ!? な、なにしやがりゅっ!?」

 

狼牙がジト目で一夏の頬をつかみ、左右に引っ張る。

イケメンが横に伸び、思わず箒が苦笑する。

 

「ふふっ、面白い顔だぞ一夏」

 

「だろ?」

 

「~~~~!?」

 

バッと逃げるように狼牙の手から逃れる一夏。

先ほどまでの空気が吹き飛んだようで……狼牙は、すでに教室の出口に。

 

「じゃ、俺先約があるからまたな~」

 

「あ、待て狼牙!」

 

「あばよ~」

 

一夏が追いかけるが、足の速さではかなわない。

すぐに見失ってしまった。

そうして一夏から逃げた狼牙は……屋上に来ていた。

 

「……遅い」

 

「ごめんごめん、ちょっと忙しくて」

 

「これで、二度目」

 

「悪かったって……これ、お詫び。どっちがいい?」

 

狼牙は、すでに来ていた簪にりんごとぶどうの缶ジュースを見せる。

彼女はしばらくそれを見て

 

「……ぶどう」

 

「じゃ、俺はりんご」

 

簪にぶどうジュースを渡し、狼牙はりんごを。

そのままプルタブを開け、簪の隣に座る。

ここは昼でもときおり人がいるが、今日は珍しく誰もいなく……簪と狼牙は、フェンスの前にいる。

 

「……最近、彼が来なくなった」

 

「ああ、俺が簪と組むって伝えたからな……他にはまだ内緒だけど」

 

「そうだったんだ」

 

「いや……ま、いつまでもあいつの相手を待たせたくないしな」

 

簪はそういう狼牙の顔を見る。

呆れながらも、苦笑していた。

 

「織斑君と、仲いいんだね」

 

「そりゃな……友達だ。あいつはあいつで、妙に気が緩んでる時が多いから大変でよ」

 

「……そうだね」

 

そういいながら簪は、少し別のことを考えている。

狼牙と自分は……どうかと。

 

パートナー、相棒。

 

言い方は色々だ。

しかし、簪から見れば……それはトーナメントが終われば、終わってしまう関係。

 

 

 

そんなの、絶対に嫌だ

 

 

 

今、簪は自分がそういった考えに至っているのを不思議に思ってはいない。

ただ、缶を握る手に力が込められているのも……気付いてはいない。

 

「簪」

 

「……」

 

「おい簪!」

 

「!?……あ、ごめんなさい」

 

「大丈夫か? ISの方もだいぶ進んでるけど……息抜きも大事だぜ?」

 

狼牙はそういい、簪を心配そうに見つめる。

ただ、簪はその視線から逃げるように顔をそらす。

 

「う、うん……」

 

「……なあ簪、今度の日曜日は一緒に外出しないか?」

 

「うん……え?」

 

突然の言葉に、簪は驚き再び狼牙を見る。

そこには、少し気恥ずかしそうな狼牙の顔。

 

「ほら、最近いろいろ籠りっ放しだったし……たまには外に行くとか」

 

「……」

 

「俺、日曜日には外に用事もあるし……一人だと少し寂しいしさ」

 

簪は無言。

狼牙は、やっぱ無理かなとあきらめかけているようだ。

 

「あ~……すまん、やっぱ」

 

「い、いいよ」

 

「だめだよな……え?」

 

「……わ、私もその……たまには、いいかなって」

 

思いもよらぬ簪の言葉。

彼女はあっさり、同行すると言ってきた。

 

「ほ、本当か?」

 

「う、うん…… 息抜き、悪くないと思う」

 

と、狼牙はにこっと笑う。

自分にはできそうにないそんな笑顔で……二人は、日曜の外出を決めた。

日曜当日、なにやら一夏と箒の動きが怪しかったような感じだったが……IS学園を出て、狼牙と簪はリニアから降りる。

 

「じゃ、まず俺のほうの用事片付けてからだな」

 

「用事……って、なんなの?」

 

簪は淡い色合いのロングスカートにチュニックシャツ。

狼牙は白シャツにブルーデニムと……二人とも秋らしい格好だ。

 

「ああ……まあ、なんだ。迎えも来たから」

 

「?」

 

すると、一台のバンが目の前に止まる。

そこから降りてきたのは

 

「狼牙君、おはよう」

 

「おはようございます、久木野さん」

 

スーツを着た、20代中盤ぐらいの女性だ。

しかも、なにやら狼牙と親しそうだが……簪が二人を見ていると

 

「彼女は更識簪、今日はちょっとだけ一緒に来てもらおうと思いまして」

 

「彼女ね……こちらでも色々大変だったわよ?」

 

「そこは申し訳ありません……ただ、彼女は」

 

「わかってるわ、代表候補だもの……さ、乗って」

 

ドアが開けられる。

簪は狼牙を見るが、彼はスッと簪の手を取る、

ビクッと簪が驚くが……狼牙の手に引かれ、そのままバンに乗り込んだ。

 

「簪、ちょっとびっくりするが大丈夫だ」

 

「……突然すぎる」

 

「あらあら、若いってのはいいわね~全く」

 

運転席から冷やかすように久木野が言い、バンは動き出す。

簪はそれとなしに車の内装などを見ると……外見と違い、かなり違う。

おそらく、極秘に使う移送用のものなのだろう。

 

「一応、政府専用でな……まあ、いまさらだけど」

 

「私達としても、今狼牙君を失うわけにもいかないのよ」

 

久木野の言葉に、簪は目を細める。

わかってはいた、しかしそれでも……狼牙のことを、どう思っているのかと。

 

「……更識さん、貴方たちの家のことでも私達は感謝してるわ」

 

「!?」

 

「特に、お姉さんのほうは」

 

姉。

その言葉は、今は聞きたくない。

狼牙の前でそれを聞きたくなくて……簪は声を出そうと

 

「久木野さん、それはおかしいぜ?……俺は、すげえ感謝してるんだからよ」

 

「……そうね、ごめんなさい簪さん」

 

「っ!?……いえ」

 

今の狼牙の言葉の意味は、どういうことだろうか?

簪はそっと狼牙の顔を見ると……彼も簪のほうを向いて、目が合った。

 

「「……」」

 

とたんに、無言になる二人。

そのままささっと目をそらす。

それをバックミラーで確認しながら苦笑している久木野だが、あるビル内部に到着したらい。

 

「じゃ、二人とも私についてきてね」

 

久木野の指示で二人はバンから降り、そのあとに続く。

見た目はどこにでもありそうな雑居ビル。

だが、内部の警備は相当な物だった。

簪は不安に駆られながらも密かに……狼牙の隣に寄り添う感じで歩いていた。

久木野は、どうやら政府の人間だが……研究関係の職に就く者らしい。

簪も暗部の人間、であり観察眼にはすぐれている。

 

(やっぱり、これって……私、本当にはいって大丈夫なのかな?)

 

思考が学生から更識の物になる。

しかし、警備の者たちは顔を見てすぐに通して……いや、通路のいたるところにセンサーがあった。

それで確認しつつ、監視もかねているようだ。

だが、狼牙はちょっと別の話があるようで一人、別室へ向った。

 

「狼牙?」

 

「簪、すぐ行くから待っててくれ」

 

急に分かれたため、驚きと不安になる簪だったが……久木野は大丈夫よと言い、簪を案内する。

と、通路の先にあったのは……真っ白な部屋。

何をするのだろうと簪は思っていると

 

「それじゃさっそくお願いするわ……簪さんも」

 

「え?」

 

「撮影の協力だってさ」

 

「!?」

 

背後からの声。

後ろを振り向くと……IS「覇鬼」をまとった狼牙がいた。

いつもの銀に染まった全身装甲だが……相変わらず眼は赤く、簪を映している。

そして周囲を見ると、いろいろ照明器具やらカメラやら……なぜこの部屋が真っ白なのか。

 

「……もしかして、写真撮影?」

 

「そっ……宣伝用らしいぜ。男性専用のISのことで……一夏とは別でな」

 

「ごめんね~簪さん。実はモデルの子もいるんだけど……」

 

久木野は、こっそり耳もとで簪に話した。

 

 

 

「彼、撮影ならぜひ簪と写りたい、って言ったのよ」

 

「!?」

 

 

 

その静かな言葉は、簪の眼を見開かせる。

スッと視線が久木野に移り……彼女は、微笑んでいた。

 

「ただ、貴方の意思も聞いておきたいから……結構大きく宣伝するし、もし嫌なら」

 

「……や、やって、みます。やらせて、ください」

 

「その言葉、待ってたわ! じゃあさっそく向こうで……あ、そうだもしよければね」

 

簪は何かを決意したかのような顔。

その顔は、以前狼牙と拳を合わせた時の顔だった。

狼牙はその間、どういったポーズにするかをいろいろ話していたのだが

 

「お待たせ、狼牙君」

 

「あ、はい……!?」

 

「……」

 

久木野の声に振り返ってみれば、そこにいたのは……髪をおろし、眼鏡をとって普段と違う雰囲気を醸し出す簪の姿。

一瞬誰かと思ったが、髪の色と服装で分かった。

しかし……

 

「簪、か?」

 

「ちょっとだけ変えてみたんだけど、簪さんは何でも合う気がするわ」

 

そういうが、簪は顔を伏せている。

前髪で眼のあたりが見えないが、若干顔も赤い。

彼女の眼鏡がない姿を見るの初めての狼牙も新鮮な感じだった。

 

「簪」

 

「な、なに?」

 

「いや……すげえいいなって思ってさ。眼鏡取ってる姿も」

 

「!?」

 

狼牙の正直な言葉に、簪はますます顔を赤くする。

ぎゅっと手でスカートを握っているが……久木野は手をたたいて二人に声をかけた。

 

「はいはい。それじゃ二人はあっちね」

 

「あ、はい……簪、お願いするぜ」

 

「……う、うん」

 

今回は狼牙だけだが、私服の簪はこのままでも問題ないと判断されたようだ。

なるべく自然を装った感じが、一層宣伝になるのだろう。

そうして始まる撮影だが……狼牙に守られるように寄りそう簪や、軽く抱き上げているポーズなどなど。

 

(こ、これ……確かこの前の、アニメでやってた……ヒロインの)

 

簪は撮影の中、今の自分がヒーローに守られているヒロインの図に重なっていた。

ポーズに関しては、久木野がいろいろ指示を出している。

狼牙はその中で、簪の体に無理がかからないよう注意を払っている事にも気づいていた。

 

(……なんだろう、すごく……嬉しい)

 

今、狼牙は自分を守ってくれていると。

抱きあげられていると……そう感じれるのだ。

これがもし、模擬戦でもきっと……

 

(絶対……私を守ってくれるんだよ、ね……私も、狼牙君を守る)

 

だが、今簪はとてもいい笑顔になっていることには気づいていないようだ。

そのため順調に撮影は進行し……ようやく終わった。

 

「二人とも、お疲れ様」

 

「いえ……これも大切なことで、むしろ簪に」

 

「私は大丈夫……楽しかった、から」

 

簪は普段の姿に戻していた。

しかし、最後に久木野が簪にあるものを渡す。

 

「これ、もしよかったら……はい」

 

「!?」

 

それは、簪と狼牙のツーショット。

先ほど一枚だけ、撮影終了後にISを戻した狼牙と撮影したものだった。

二人で並び、笑い合ってる光景だった。

 

「い、いいんですか?」

 

「もちろんよ……あ、でも狼牙君には秘密ね。彼って結構恥ずかしがり屋だから」

 

「……そうなんですか」

 

実は、久木野は狼牙の担当でもありIS学園入学後もサポートをしてきていた。

だからこそ、狼牙からもよく相談が来るという。

 

「彼の事、お願いね……簪さん」

 

「は、はい……ありがとうございました」

 

簪は写真を仕舞、久木野に頭を下げる。

そんな簪を優しい笑顔で見ている久木野は、二人を送っていくことに。

再びバンに乗った狼牙と簪だが……その間に無言。

簪は先ほどの撮影で会ったことを思い出していたが……狼牙は違う。

 

(あの会長さん……俺に簪をお願いするとはね)

 

実は、簪の知らぬところで狼牙は何度か楯無と話していた。

もっともそれは……向こうからきているのだが。

 

(今回のタッグ、会長さんは辞退か……まあ、メンバーがあぶれちまうし)

 

トーナメントで、本来合うはずの人数が奇数になってしまうため会長である楯無は自ら辞退していた。

そのことを、そして狼牙が簪とどういう状態になっているかなどを……いろいろ話した。

 

(撮影の事も事前に話しておいたとはいえ、こうもあっさりね……ま、どっかで監視はしてそうだけど)

 

簪は楯無にとって大切な存在。

そのため前もって今日の事は話してあるのだが、意外にもすんなり行かせてくれたのだ。

しかし、狼牙は楯無からの言葉を忘れてはいない。

 

(……簪は俺のパートナーだ、絶対守って見せるさ)

 

狼牙は楯無に言われるまでもなく、簪を守るつもりだ。

だからこそ……楯無も、期待してるような眼をしていたのだろう。

と、気づけばバンは最初の場所に戻ってきていた。

 

「それじゃ、今日はありがとう」

 

「「失礼します」」

 

二人は久木野に頭を下げ、そのままバンから降りる。

彼女はそのまま、二人に手を振り……バンを発進させた。

遠ざかっていき、姿が見えなくなると……狼牙は、簪の方を見る。

 

「さ、俺の用事は終わりだ……簪、行こうぜ」

 

「……うん」

 

二人は街の方へ歩き出していった。

その日は、買い物の他にゲームセンターに行ったりして……狼牙が簪の欲しいという視線に負け、クレーンゲームでそれなりの額を使ったとだけ。

ただ、得た物は……簪の嬉しそうな笑顔だったことで、狼牙は満足したそうだ。

そして簪も……狼牙との写真を、大事に抱えながら。

タッグトーナメントの開催は、迫っていた。




トーナメントも近づいてきました。
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