騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第三十四話

IS学園の専用機タッグトーナメントは迫っていた。

出場する者たちは、自身のパートナーとともに申請を終え……調整もいよいよ最終段階に。

整備室があわただしくなる日々……そして、狼牙と簪のタッグも。

 

「簪、大丈夫さ」

 

「……うん」

 

簪のIS「打鉄・弐式」が完成したのだ。

整備課のメンバーも総出で……実は、最後あたりはほぼ徹夜で行っていたためほとんど屍となっているが。

そうして今、簪と狼牙は第六アリーナに来ていた。

初めは様子見ということで、カタパルトからでなくアリーナからの出発にしたのである。

 

「来い、覇鬼」

 

「来て、弐式」

 

二人の右手と左手、それぞれの中指にはめてある指輪が光り、二人はその身にISをまとう。

ISをまとい、簪はすぐさま機能の確認に入る。

狼牙はそれを隣で見守っているが……

 

「うん……」

 

フワッと、簪の身が宙に浮く。

どうやら異常は見られなかったようだ……当然だ、自慢の先輩方があれだけやってくれたのだから。

 

 

 

何度も何度も……無駄かもしれないと感じれるほど、自分では嫌で投げ捨てたくなるほど同じ部分を繰り返し点検し続けるなど……

 

 

 

最初はバグが何度も見つかり、直す。

そしてまた違う部分のバグが見つかり、直す。

直せば、次はシールドの部分で問題が見つかる……それを繰り返し続けた。

 

しかしそれが、彼女たちのするべきこと。

 

そして簪の素早い計算、先輩方による綿密な計画。

全てがそろって……何週間も費やし、ようやく完成だった。

狼牙は、今客席からこちらを見ている先輩たちを見る。

整備課の彼女ら、そして桔梗と瑠璃は……ガッツポーズをしていた。

 

「やった!」

 

「ついに私たちはやったのよ!」

 

「IS製作に携わる! これは素晴らしいことだわ!」

 

一同が歓喜に包まれる中、桔梗は……クスッと微笑み、瑠璃は安堵のため息。

それだけ嬉しかったのだろう。

そして簪も……自身の身にまとっている弐式を、嬉しく思っていた。

 

(私は一人じゃない、一人じゃできないことも……協力して乗り越えた)

 

簪が今実感してることは、まさに努力の集大成。

仲間と協力し、初めて成し遂げることのできた……その、成果。

と、浮遊していた簪の隣に……覇鬼が来ていた。

 

ちょいちょいと、指を前方に向けている

 

簪は頷き、中央タワーを昇っていく。

その周囲を二人は周り……思ったより、弐式は速い。

 

(……スペック的にはセシリアのブルー・ティアーズに近いかな)

 

狼牙がそう感じられるほど、弐式の出来は素晴らしい。

簪はつねにデータを確認しながら両手でコンソールを動かしている。

エネルギーの配分やスラスター制御など、暴発などもなく順調だ。

もしものために狼牙は一緒にいたが……どうやら、いらぬ心配だったらしい。

あれだけの時間を、念の為に費やしたのだ……その結果はしっかり出ている。

そして同時に、狼牙も……自身の相棒の調子と同時に、飛行の勘を取り戻していた。

 

「いい感じだ、そっちはどう?」

 

「……予測以上の結果が出てる」

 

「俺の方も、覇鬼の修復と……勘も戻ってきたよ」

 

二人は綺麗に横に並び、共に飛び続けた。

飛行中も異常が起きることはなく……スラスターの異常も、装甲の異常も見られない。

観客席でモニタリングをしている先輩方の方でも、ディスプレイに異常は無いようだ。

 

「簪、気分はどうだ?」

 

「うん……最高だよ、狼牙君」

 

「ああ、俺もだ……おめでとう、簪!」

 

狼牙は上空で制止し、同じように止まった簪の手をとる。

簪は、その手を大事そうに……握る。

ISの装甲のため、触った部分から金属感が伝わるが……二人には、生身で触っているように感じられていた。

 

「「……」」

 

ふと、触れ合う互いの手を見ていた二人。

そのうち、急に気恥しくなったのか……パッと手を離した。

 

「じ、じゃあ……そろそろ戻るか」

 

「……う、うん」

 

ふよふよと、二人はピットに戻る。

ISを解除し、スーツ姿になった。

 

「とりあえず、明日は武装確認だな」

 

「そうだね……マルチロックオンシステムが成功すれば、あとは」

 

「打鉄・弐式は完成……そして、トーナメントだな」

 

狼牙は、この数週間を思い返す。

かなり無茶もしたがここまで来たのだ……なんとしても、勝つ。

だが、簪にはまだ心配なこともたくさんある。

自分はほとんどISでの戦闘経験がなく、同時に今度の相手は……IS学園の専用機組ら。

さらには、いまだ姿を見ていない上級生タッグもいるらしい。

 

(もし、弐式の性能に私が付いていけなければ……戦い慣れてない、私が足を引っ張ったら)

 

「大丈夫さ」

 

「!?」

 

と、狼牙は考え事をしている簪に声をかける。

眼鏡越しの眼は、少し不安げに……簪は狼牙を見上げる。

狼牙の目は……とても柔らかなものだ。

 

「簪となら……絶対に、勝てる」

 

「……」

 

「今だって簪はやり遂げた……俺じゃ、とても出来ないことをさ」

 

「違うよ……私が、ここまでこれたのは……狼牙君の、おかげ」

 

もし、最初に狼牙が簪を誘っていなかったらどうなっていただろう。

あのまま、完成せず……また、姉の後ろを見ているだけだったのか。

それとも……別の道があったのだろうか。

 

「それは違うよ、簪」

 

「……」

 

「簪が前に進んだ結果だ……自分で、勝ち取った結果だ。俺はその手伝いをしただけだよ」

 

簪の右手、その中指にはまる指輪を見る。

狼牙の言葉は、簪を幾度も動かしてくれた……だから、わかる。

彼が自分にとって、どれだけ大きな存在になってきているのかを……

 

「私……多分、狼牙君がいなかったら……」

 

「……簪」

 

そんな自分の感情を悟られたくないのか、簪は少し俯き……前髪で顔を隠している。

狼牙は、そんな簪の言葉と先ほど見えた眼に……初めて出会った数週間前を思い出す。

今の簪は、とても魅力的だと思い……

 

 

 

脆く、美しいその作品を……壊したくなる

 

唇が歪み、その歪みから見える歯は噛み合わされる

 

瞳が、濁った金に変わる

 

 

 

気がつけば、狼牙は……簪の頬に、手を伸ばしていた。

スッと左の頬を軽く触れられ、簪は……ビクッとしたが、彼女は振り払わない。

いつも熱い狼牙の手は、一層熱く感じられたのだ。

 

「っ……」

 

と、狼牙の手が軽く簪の顎下に伸び……簪は、何かに引き寄せられるかのように前へ体を倒す。

自分の意思とは思えないほど、体が軽く動き……

 

「もしも~し」

 

「「!?」」

 

「ごめんね狼牙君、お邪魔だった?」

 

こっそりこちらをうかがっていたであろう桔梗と瑠璃……その背後に、整備科の先輩方。

みんな顔を赤くし、キャーキャー言っている。

簪は、先ほどの事を思い出し……ハッと気付いたのか、顔を真っ赤に俯いてしまった。

狼牙も、正気に戻ったかのように手を引っ込めていた。

 

(あ、あれ……俺、何してたんだ?)

 

先ほどの行動が思い出せない。

なんで簪に手を伸ばしていたのだろうか……と。

 

「狼牙君、お姉さんはあまり人前でそういうことは感心しないなあと思った、というわけで正座!」

 

「へっ?」

 

「正座! いい! 女の子はね!」

 

と、瑠璃が桔梗を押しのけ狼牙に説教を開始する。

瑠璃は色々言ってきているが、狼牙はほとんど耳に入ってこない。

何故自分が先ほど……妙な行動をしていたのか。

簪はなんで、あんなに顔を赤くしているんだろうかと……ごちゃごちゃして、もどかしくて。

 

「瑠璃先輩」

 

「ということでつまり……ん、なにかな?」

 

「無意識の行動って、俺の願望の表れなんでしょうか?」

 

「……わからない」

 

「そうですか」

 

そのまま狼牙は立ち上がり……ふらふらと、歩いて行ってしまう。

残された瑠璃は、あまりに自然に行かれてしまったため反応できなかった。

だが、桔梗は……そんな瑠璃に苦笑しつつ、簪の背を軽く押す。

 

「えっ?」

 

「簪さん、追いかけないと……ね?」

 

「……は、はい」

 

桔梗はニコッと笑い、他の整備科の上級生らは……頑張れと声をかけていく。

簪は、さらに顔を赤めつつ……意を決し、狼牙の後を追う。

だが……追いついて、なんといえばいいのだろうか。

そう思うと、急に……先ほどの光景が浮かぶ。

 

(わ、私……さっき、のことで)

 

何かに期待していた。

そういう風に……感じていたのだ。

だが、それは妄想にすぎない……とは、片づけられない。

 

(ろ、狼牙君がそういったことを軽率にすること自体ありえないと思えるし……だめ)

 

今の自分は、顔を真っ赤にして思考もおかしい。

いったん落ち着き……深呼吸をする。

そうして、いつかのお礼にと……りんごジュースとぶどうジュースを購入する。

 

(……ふふっ)

 

今度は、自分が同じことをしてあげよう。

そんな悪戯心のような、ふわふわした気分で……簪は狼牙が入ったロッカールームの前に。

簪は……意を決し、ノックをしてから中に入ろうと手を伸ばし

 

「ありがとう狼牙君」

 

その声に、手を止めた。

聞き覚えがある……それも、身近な。

 

(な、んで)

 

その声は、姉である楯無の声。

手が、震え始める……何故だろう、盗み聞きなんて……聞いてはいけないはずなのに。

簪はドアの前から動けない。

 

「簪ちゃんの事で……機体のことでもね」

 

「先輩、別に俺は何も」

 

「いいのよ……私もあの後、他の整備関係で友達に頼んでおいたんだし」

 

その言葉は、簪の……眼を見開かせる。

確かに、思えば途中から整備関係のメンバーが増えて……

 

「私の渡したデータも、役に立ったでしょう?」

 

(!?)

 

聞こえた言葉。

それは、簪の……先ほどまで積み上げてきたものを、壊す言葉。

同時にドアが開かれ……出てきたのは、姉である楯無。

彼女は目の前にいた簪に眼を見開き……まずいといった顔になる。

 

「……!」

 

簪は楯無の背後に見えた狼牙を見て……目の前が、真っ暗になったような感じに陥る。

狼牙は、姉と……繋がっていた。

 

 

 

全て……姉の根回しだと

 

 

 

顔を伏せ、簪は……走って行った。

ガシャガシャと、缶ジュースが床に堕ちて……転がっていく。

後ろから何かが聞こえたが、耳に入らない。

簪の心の中で、浮かび上がる楯無の幻影。

 

追い続けてきた背中、追いつけない背中

 

自分を否定されるかのような、そんな……完璧で、超人な姉。

今もまた……自分が、成した筈のことを否定された。

走って走って、それでも簪の耳には、眼には……姉の声、姿が。

 

(私っ……わた、しだって)

 

振り払えない、姉の幻影。

いつか狼牙が聞かせてくれた、兄の話なんて……優しく、強く励ましてくれたことすら忘れるぐらいに。

簪は自室で、布団の中で……泣いていた。

 

 

 

「うわああああっ……うああああん……」

 

 

 

死んでしまいたい。

それほどに……惨めな気持ち。

簪は、ただ泣き続けた。




トーナメント目前。
梅雨明けから、毎日暑いですね……
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