「ふんふんふ~ん」
「……」
どこかわからぬ、とある場所。
そこでは……鼻歌が聞こえ、一人の女性がせわしなくコンソールを動かす。
金属製のうさ耳が動き、ある程度終わったのか……体を伸ばした。
「プログラム終了~……あ~暇」
その女性は、自身の身だしなみにはあまり無関心なのか……くるくると椅子に座りながら回る。
と、急に思い出したかのように一つのウインドウを目の前に持ってきた。
「……ちーちゃんに近づく悪い子は~」
映し出されている、黒いIS。
そして……別のウインドウにある、銀のIS。
「そろそろ消えないと……完璧じゃないこの子らも」
自身の指示をまったく受け付けない。
ネットワークに接続すらしていない……出来そこない。
その女性にはそれが、我慢ならない。
「じゃ、始めよ~っと」
どこかで起動する存在。
命令を受け、一斉に立ち上がり……動き出した。
そして場所は変わり、IS学園のある一室。
眼を開ければ、そこは見慣れた天井。
そして……隣は、空っぽのベッドが一つ。
(……最悪な目覚めってやつかな?)
狼牙は、ゆっくり身を起こす。
時計は七時を指しており……ベッドから降り、背を伸ばす。
今日は専用機持ちのタッグトーナメント当日。
とうとう、この日が来てしまった。
(簪……)
結局狼牙は、あの後簪とは一度も話していない。
彼女も、狼牙の元へは来なかった……なので、狼牙は一人で真耶と訓練を続けていた。
「いいですか? 戦いにおいて……誰かを護りながら動くというのはとても難しいんです」
真耶の言葉がよみがえる。
狼牙も、簪は前に出るタイプではないから前衛をするべきなのだが……
(そのパートナーがあれじゃな)
簪は来るのか、それもわからない。
来ても彼女はまともに戦えるかどうか……ならば、自分しかいない。
だが……やるべきことは全てやってきた。
後は、結果を出すだけである。
「……おしっ!」
気合を入れ、狼牙は……鏡を見る。
狼牙の兄とまったく同じ顔……だが、自分は兄でもない、狼牙だ。
左手の中指にある指輪、待機状態の覇鬼を確認し……狼牙は、準備を整え会場へ向かった。
そして同時刻……簪は、のそっとベッドから起き上がっていた。
(……行かなきゃ)
何はどうあれ、自分も出場する。
だがこの一週間……自分は、ISの調整すらしていない。
武装など、メインのマルチロックオンシステムのテストすらしていない。
(……)
それでも、体は勝手に動く。
自分は……今も死んだような眼をしているというのに。
ヒーローが、いたなら
そう思う自分、姉に勝てない自分。
そんな自分の前に……ヒーローなど、現れるものかと。
狼牙の熱い体、その鋭くも優しい目……それらが夢見るヒーローと重なる。
(……とにかく、行かなきゃ)
今にも消えたい。
それほど惨めな気持ちのまま……簪は向かう。
だが……その頃、IS学園近くの町。
そこに、一台のワゴン車が止まっていた。
「……予定通り開催だね~」
「そのようね、狼牙君も出るみたいだし」
「スコールさん……来ると思いますか?」
「十中八九、来ると思うわ……だから、来たのでしょう?」
ワゴン車の中にいるのは、牙狼、司、そしてスコール。
三人が話し合っている。
どうやら亡国機業も動き出したらしい。
「それで、今回スコールさんは?」
「……そうね、私は少し別件もあるから……二人に任せるわ」
「いいんですか?」
「ええ……牙狼君にも、色々でしょう?」
スコールはある程度こちらの自由も認めている。
先日の接触についても、事前に申請をしておいたため何も言わなかった。
「司、例のあれは?」
「もっちろん、この司様に限れば……といいたいけど、実際大変だった」
「そうか……だが、出来たんだな?」
「うん……でも、私すっごく頑張ったんだよ?」
司は、目に隈を作っていた。
それも、全て牙狼に帰ってきてもらうために……やったこと。
牙狼は、そんな司に感謝しつつ……手をとる。
「ありがとな、司」
「……帰ってきたら、また抱っこしてね」
「ああ……」
「それとお風呂も」
「そこは少し……スコールさん、笑わないでください」
牙狼は、体面に座っているスコールに対しそういう。
スコールはというと……二人の掛け合いにほほえましさを感じ、口元に手をあてていた。
「ごめんなさい、でも相変わらずなのね」
「私と牙狼の仲だからね~……エムには内緒だけど」
「……はあ」
苦笑した牙狼は、司から新たな力を譲り受ける。
それは……もしIS学園で何かが起こった時に使うものだった。
三人はワゴンの中で、しばし動きを待つことになる。
そして、再び場所はIS学園に戻る。
ざわめく会場。
生徒一同は集まり、会場でトーナメント開始の合図を……狼牙と簪は別々で聞いていた。
姉が、今話している
簪はそれを、死んだような眼で見る。
言葉など何も耳に入らず、ただ……人気のある姉と自分を比べ、沈むばかり。
そうしていつの間にか、賭け……としか言えないことが始まる。
優勝ペアを予想
狼牙と自分のペア。
すでに周囲は知っているが、どうせ大したことは無いのだろう。
自分には……関係なかった。
だが、スクリーンに第一試合が表示されると
「!?」
簪と狼牙。
二人はそれぞれ離れた場所でそれを見て……眼を見開く。
第一試合【織斑一夏&篠ノ之箒 VS 不動狼牙&更識簪】
間違いなく、表示されているのは自分らの名前。
そして……相手は、あの一夏と箒。
周囲が一斉にざわめき、同時に……千冬と真耶、楯無は真剣な顔になっていた。
トーナメント第一試合が、貴重な男女タッグ同士。
だが……内容を見ればそれは違う。
片やあの千冬の弟とIS開発者の妹のペア
片や無名の双子の弟と日本代表候補生のペア
正直にいえば、どちらの方に期待がかかるか……倍率は明らかだ。
しかし……その中で、狼牙と簪のペアに賭けている者たちがいる。
桔梗と瑠璃、そして共にIS製作・調整をしてくれた整備科の先輩方だった。
「……オッズでは最下位ですか」
「まあ、狼牙君についてもだけど……ほら、簪さんは未知数だから」
溜息を交えて言うのは桔梗だ。
瑠璃は、心外だという感じで口を開く。
「まったくね~……評判だけで決めちゃうのは、お姉さん好きになれないよ」
「いえ……俺も簪も、実力でいえばこれのとおりでしょうし」
ちなみに、一夏&箒のペアは……予想外にも、二位に食い込んでいた。
トップは二年と三年のペア、三位はシャルとラウラ、四位は鈴音とセシリア。
ここまではおおむね、狼牙の予想通りでもある。
IS学園で唯一の国家代表、楯無が今回は出ないことも関係している。
「……やってやるさ、どんな相手だろうがよ」
狼牙は拳を握り、自身のテンションを上げようとしていた。
ISでの戦いは精神力も重要だ……負けるわけにはいかない。
左手の中指にある指輪が、鈍い光を放っていることにも気付かず……先輩らの激励に応え、ピットへと向かう。
第四アリーナで行うため、それなりにかかるが……試合前の為、なるべく急いで行った。
「!?」
だがその途中、狼牙は一夏と箒に出会う。
思えば、この二人がペアを組むこと……それでかなりいざこざがあったが、一夏は箒を選んだ。
その時から少し……二人の空気が変わったようにも、狼牙は思えていたが。
「よお」
「狼牙!?……まさか、初戦で狼牙とはな」
「そうだな……やれやれだ、最新鋭の二人相手は気が気でないよ」
「私たちを何度も負かしておいてよく言うな?……私は今回、自分自身に対しても挑戦するつもりだ……手加減はしないぞ?」
「ふっ……手加減したら殴るぞ箒?……後でな」
向こうはかなりリラックスしているようで……狼牙は、自分の状態を悟られないよう繕う。
狼牙は一夏と箒に軽く手を振り、彼らと別れた。
そうして早足で……自分のピットへ向かう。
足が速く動いてしまうのは、きっと……
今も……隣に支えてくれるであろう簪がいないことで、恐怖を感じているからだ
先ほどの二人を見て、狼牙は胸の中で……もやもやしたのが消えない。
互いに信頼し合っているのが、目に見えて分かる。
(……僕は)
気持ちが、まだ固まっていない。
そして同時に……ああいった仲のいい二人と自分を比べ、暗い感情が湧きあがる。
もしこの先で簪が、彼女がいなかったら、一人だけだったら……戦えるのか。
あの二人に勝つ、と……一人では絶対に無理だと。
狼牙は、ピットへ向かい……突然の衝撃で壁に手をつく。
廊下の電灯全てが赤くなり、全てのディスプレイが「非常事態警報発令」の文字を映す。
「……ざけんな!」
教師の緊急を呼びかける放送……それが途切れ、狼牙が吼える。
そして今、頭にあるのは……自身のパートナーの、簪の安否。
狼牙は走り出した。
その目に、顔に……憎しみにも似た、表情を浮かべ。
左手の指輪が、光っていた。
各勢力が動き出します。
次回、戦闘ばかりになると思うので……中途半端なとこで申しわけありません。
タイトル……をつけるなら、次回「心滅」。
どうかお待ちください。