騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第三十八話

ここで少し時間は戻る。

狼牙は一人、簪の元へ走っていた。

 

間違いなく襲撃とわかる衝撃

 

そして……まだ、ほとんど実戦経験がない簪。

彼女が一人で、今どんな目にあっているか。

想像したくなかった。

狼牙は、覇鬼をまとって叫んだ。

 

「簪ぃぃぃっ!」

 

目の前にある壁を破壊し、直接入る。

そこに……まさに今、簪に襲いかかろうとしているゴーレムⅢの姿。

同時に狼牙は……簪が無事で、そして来ていてくれたことに……

 

 

 

自身の、昂ぶっていく感情を覇鬼に乗せ……爆発させる

 

 

 

左腕に装着されているシールド、その部分にあるクロー……それが上下に突きだし、ハサミとなる。

ハサミは、ゴーレムⅢを挟み込む。

狼牙は、少しでも簪から遠ざけるために……スラスターを全開にした。

 

「ぶっとべクソヤロウ!」

 

壁際に向かい、同時にハサミのブースターが火を噴き……壁際までゴーレムⅢを吹き飛ばす。

すぐさまハサミをシールドに戻し、狼牙は簪を見た。

 

「無事か簪!」

 

「……あ」

 

簪をかばうように狼牙は立つ。

すでにハサミを戻し、ある程度ゴーレムⅢを突き放したが……やはり、ダメージはなさそうだ。

しかし、簪の体にも異常はなさそうだった。

 

「すぐにISを!」

 

「う、うん!?」

 

簪は言われるまま、弐式をまとう。

だが、その間にゴーレムⅢがこちらに左手から熱線を放っていた。

そのため、狼牙は簪に抱きつくように空中へ舞いあがり……壁を蹴って、別の場所へ下りる。

 

「簪……いけるか?」

 

「だ、大丈夫……いける」

 

「よし!」

 

狼牙は、簪を腕から解放する。

護られるように立っていた簪が、狼牙を見上げていた。

 

「ろ、狼牙君」

 

「話は後だ……間に合って、よかった」

 

「……」

 

簪は、黙っていた。

あんなことがあった後なのに……嬉しく、そして見捨てられていなかったことに。

そして、何よりも

 

 

 

(私も……狼牙君と、戦う。信じて、支えて見せる!)

 

 

 

自らを鼓舞するかのように、拳を握っていた。

同時に、弐式のエネルギーが……呼応するかのように、一気に上がっていく。

狼牙の覇鬼も、それに感応しているのか……互いが、互いを高めていく。

 

「行くぞ!」

 

「うん!」

 

ゴーレムⅢの熱線が二人を襲う。

二人は攻撃を回避し、それぞれの得物を構えた。

そしてその頃、別の場所では

 

「くっ!?」

 

すでに眼帯を外しているラウラ。

そのそばに倒れているシャル。

戦っている相手はやはり……あのゴーレムⅢ。

シャルを護りながらでも、戦う気でいるようだが

 

「!?」

 

ラウラはなにかを感じたのか、突然身を伏せる。

と、その頭上を……赤紫のビームが通り過ぎた

 

「……さすがだな」

 

「なっ……何故ここに!?」

 

そのビームはゴーレムⅢのシールドに阻まれるが、動きが止まる。

一瞬動きが止まれば十分で、牙狼は……雷剛と共に突撃。

雷剛がシールドにブチ当たるが、ゴーレムⅢは吹き飛ばされ壁に激突する。

そうして牙狼は二人の前に躍り出た。

 

「「牙狼!?」」

 

ラウラとシャルが驚きの声を上げる。

しかし、先ほどはさすがラウラとしか言えない動きに、牙狼は苦笑していた。

 

「おやおや、代表候補らがそろって大丈夫か?」

 

「むっ……ふん、のこのこ出てきて何を言う。これから私の本気を見せるところだったのだ!」

 

「あはは……牙狼、君がいるってことは」

 

警戒はしつつ少しばかり安心感が見える二人。

牙狼は二人が言いたいことをわかってはいるのだが

 

「あ~……悪いがアレは違うからな?……今回俺は完全に部外者だ」

 

自身は無関係と、はっきり答える。

そして別の場所では、すでに戦闘に入っている狼牙達のウインドウ。

あちらもあまり余裕はないようだ。

しかし、今向くべきはここだと牙狼は判断していた。

 

「司、悪いが」

 

「……しょうがないなあ」

 

司は外のワゴンで溜息をし、それを……スコールは見ていた。

彼女は彼女で、今もずっと学園外で情報収集を行っている。

実行する牙狼と司。

そして情報を集めるスコール。

すでに数回の戦闘でデータはかなり得られている。

撤退は牙狼の自由だが……亡国機業、彼女らは常に動いている。

 

「いくか……後は任せた!」

 

それでも、牙狼は出来うる限りとどまることにした。

司の遠隔操作で、雷剛は動きだす。

後ろからラウラとシャルの声が聞こえるが……今は、やるしかない。

もうひとつ、コアが回収できればいいと思ってはいた。

しかし、狼牙がやられては……いや

 

 

 

正確には、狼牙のISがやられては全て終わりだ

 

 

 

だから、あまり時間をかけられない。

どのみちある程度ダメージを与えれなくとも……この二人なら、問題はなさそうだ。

動きだしたゴーレムⅢだが、やはり激突のダメージはあったようで……ラウラとシャルは、思考を切り替えている。

さすがだと、牙狼は……かつての仲間を視界から消し、雷剛を走らせる。

その思考の切り替えこそ、今はありがたいのだから。

 

「……狼牙、苦戦してるな」

 

キバが手綱を引き、雷剛はひたすら駆ける。

見ているのは、司がハッキングしたピット内のカメラからおくられる映像。

そこでは、狼牙と見慣れぬIS……パートナーのだろう。

対峙しているゴーレムⅢもいた。

 

「そうだね……どうする?」

 

「ハッキング対策は?」

 

「一応終わったよ?……ま、私だって負けないから」

 

どこかの誰かが行ったハッキング。

それを司はすでに解除一歩手前……まあ、解除するのは全て牙狼の為なのだが。

 

「狼牙のとこだけ、アリーナへ繋がる部分のシールドは?」

 

「部分的な解除はすぐだよ……私としても、狼牙がやられるのは黙ってられない」

 

「決まりだ……頼む、司」

 

「任されて~っと!」

 

牙狼は、跨っている雷剛を中継し司との連絡を終える。

そうしてアリーナへのシールド……その一部を解除したらしい。

 

「牙狼、闇血邪剣(あんけつじゃけん)だと威力がでかすぎるから注意して」

 

闇血邪剣……以前、学園祭の時にキバがアリーナで放ったものだ。

あれはエネルギーを一点に集め、敵に向け剣のエネルギーをいっきょに開放する技。

だから、ここで使わないのはエネルギーを使いすぎてしまうからだった。

司の言葉にうなずき、牙狼は両腕を左右に伸ばす。

するとキバの両手首から、紅い剣が伸びた。

 

その剣は、以前戦った箒……紅椿から奪った力。

 

紅い剣から、エネルギーがあふれだす。

司の指示により、攻撃する場所が表示された。

 

「邪双交撃」

 

その場所へ向かい、振るわれた両腕。

赤紫のエネルギーが、刃となって壁を破壊する。

それを知らず、攻撃を続ける狼牙達。

覇鬼のウルフファングが、ゴーレムⅢへとふるわれ……ブレードによって弾かれる。

 

「くっ!」

 

「これなら!」

 

簪はそのフォローと同時に、その身を前に向わせ……背部から速射荷電粒子砲【春雷】を脇下からまわす。

向けられた砲から荷電粒子砲が連続して放たれた。

しかし、全てゴーレムⅢの周囲に浮いている可変シールドユニットに防がれてしまう。

 

「簪」

 

「……ごめん、ここじゃ弐式は」

 

そう、弐式の武装の一つであるマルチロックオンシステム。

テストさえしていないものだが……どのみち、この狭い空間では存分に発揮することはできない。

 

「なら近接で仕留める」

 

「うん」

 

覇鬼のウルフファング。

弐式の対複合装甲用超振動薙刀【夢現】。

二人はそれらを構え、ゴーレムⅢに向き合った。

だが、突然エネルギー反応が壁の外で発生し……それは壁を突き抜け、無防備のゴーレムⅢを直撃。

 

「「!?」」

 

狼牙と簪はとっさの攻撃に、とびかかる寸前で止まった。

ゴーレムⅢもやはり可変シールドユニットを展開していたが、押されている。

追撃の赤紫のビームが突き刺さり、地面を削るように押され……アリーナへ飛ばされた。

 

「あ、あれは……」

 

簪の戸惑いの声。

それを聞きながら、狼牙はそのエネルギーが飛んできた方を見るが……崩れた壁だけしかない。

しかし、狼牙は何かわかっていた。

 

(……兄さん)

 

来ているのだ、兄が。

そして、今自分を助けてくれたのだと。

追撃の攻撃がないということは、あとはこちらでやれということなのだろう。

 

「簪、チャンスだ! 行くぞ!」

 

「!?……う、うん!」

 

このチャンスを逃すわけにはいかない。

幸いにアリーナへ続くシールドもなくなっている。

一気に二人はアリーナへ飛び出し、姿勢を戻したゴーレムⅢと再び対峙した。

狼牙の動きがよくなったことで……牙狼は、目的の場所へ着く。

 

「やっと見つけれた」

 

「うん……介入する?」

 

「ああ、エム……マドカがいないうちにな」

 

そこでは、箒、セシリア、鈴音……そして一夏。

四人が戦っており、幸いなことに楯無も教師らもいない。

そして予想通り……セシリアと鈴音を行かせたことで、四対一になっている。

だからだろうか、一夏と箒は……どこか、安心感を漂わせている。

 

現にゴーレムⅢを押しているからだ

 

準備は、整った。

今ならラウラとシャルも、目の前の倒しやすい敵に向かう。

狼牙とそのパートナーも……戦いやすい場に移ったことで、戦闘を継続するだろう。

楯無はすでに、他のグループに向かっている事はハッキングしたカメラから知っていた。

 

「いくぞ、目標は奴だけだ」

 

「うん……決めるよ、牙狼!」

 

牙狼は雷剛を奔らせる。

壁を打ち破り、その場へ突撃したのだ。

ピット内に響き渡る、突然の轟音。

壁が破壊され、そこから出てきたのは……

 

「「「「キバ!?」」」」

 

一夏、箒、セシリア、鈴音。

ゴーレムⅢと対峙していた四人が驚きの声を出す。

その一瞬のすきを突き、ゴーレムⅢはセシリアに向けて荷電粒子砲を撃ち放った。

 

「きゃっ!?」

 

セシリアは反応したが……やはり避けきれない。

BTライフルを破壊され、爆発の余波でブルー・ティアーズが吹き飛ばされる。

 

「セシリア!? くっ!」

 

一夏と箒、鈴音が援護に向かおうと動く。

しかし……突撃してきたキバ。

その手に持つ刃が、驚くことに一夏を弾き飛ばした。

 

「がっ!?」

 

キバは雷剛から飛び降り、一夏に対し……刃を振りきる。

それを、さすが一夏というべきか……雪片弐型でどうにか防ぐが、衝撃は止められない。

箒と鈴音も、一瞬動きが止まる。

司は雷剛を二人に向かわせ、一夏と牙狼をさえぎるように立った。

 

「邪魔はさせない!」

 

嘶きを上げる雷剛、その両脚部。

その部分が円形丈に左右へ突きだし……シールドを発生させる。

ゴーレムⅢとはまた違うが、さえぎる壁となっていた。

 

「「一夏っ!?」」

 

「よそ見してるひまもないよ?」

 

そう、まだゴーレムⅢもいる。

どうやら先に箒達を相手にするようで、右腕のブレードを向けていた。

しかし……箒が即座に二刀を振り、ゴーレムⅢの右腕を弾く。

 

「邪魔を」

 

「するなああああああ!」

 

先ほどと違い、覇気がこめられた鈴音の龍砲。

ゴーレムⅢを見事直撃し、壁にめり込ませる……どうも、先ほどより隙が見えた。

 

「……」

 

司がモニターでそれを見ながら、後方の戦いに笑みを浮かべる。

キバが、白式を……討ち取る寸前だからだった。

 

「ぐっ牙狼っ!」

 

「……」

 

一夏は白式の姿勢を戻し、迫りくるキバの刃をかわす。

だが、突然の攻撃と……牙狼から感じる何かに、一夏は押されている。

目の前にいるのは、牙狼には見えない……別の何かに見えるのだ。

自身が感じる嫌な重圧……キバというISから、白式が何かを感じているのがわかる。

 

(な、なんだよこれ……なんで、こんな)

 

「死ね……」

 

「!?」

 

一夏は耳を疑った。

今、はっきり牙狼は死ねと……その剣に赤紫のエネルギーがはしる。

だが、それ以上にパワーが違いすぎたのだ。

 

(パワー負けしてる!?……違う、これは!)

 

「なんだその剣捌きは?……しょせん、織斑千冬の弟か」

 

「て、めえっ!?」

 

牙狼の呆れた声。

一夏はその言葉に激昂するが、それでも押し返せない。

だが、それ以上に伝わるのは……剣を通し、一夏に届くこれは

 

(こいつ、本当に牙狼なのか!? あいつは、こんな)

 

「どうした一夏……こんなにお前は弱かったか?」

 

「なに、を!」

 

「零落白夜を使えよ」

 

牙狼はそう言う。

そのキバの白い目を通し……一夏を見ている。

 

「っ!? なら、使ってやろうじゃ」

 

「それで、俺を殺すんだな?」

 

「えっ……」

 

「何言ってる? あれには絶対防御も意味がない……簡単に人が殺せるぞ? 加減せず今俺に使えばな」

 

牙狼が、嗤っている。

一夏には……キバという仮面に覆い尽くされた、その牙狼の顔が見えた。

自分が、震えている事にも気付かず……自身の持つ刃が、キバの刃に押される。

 

「やらないなら、死ぬだけだぞ?」

 

「……ぐっ」

 

「……甘ったれが……お前にあの人は護れない」

 

「!?」

 

牙狼が、動きが鈍くなった一夏の剣をはねあげ

 

 

 

死ね、白式!

 

 

 

だが……牙狼は一夏の名ではなく、彼のISの名を叫ぶ。

その赤紫のエネルギーを帯びた剣はまっすぐ振りおろされ

 

キバが突然白式を蹴りつけ……その間を、真紅のエネルギーが通り過ぎる

 

牙狼がその方向へ眼を向けると、そこには……両肩が左右にスライドし、巨大なクロスボウのようなものを構えた紅椿。

箒が、今の攻撃を行ったのだ。

それは、雷剛によるシールドが箒と鈴音をさえぎっていた時の事。

 

「やめろ牙狼!」

 

「一夏ぁっ!」

 

箒と鈴音の攻撃。

それがシールドにはじき返される……鈴音では、これ以上の出力は出せない。

箒も……今のままでは同じだった。

破れない、今のままではと……箒は、己の想いを叫びに変える。

 

 

 

「紅椿! お前の力はそんなものか! 今、今出さないでいつ出すのだ……私の一夏を護る為に力を貸せっ!」

 

 

 

歯を食いしばって放った言葉。

それが……鼓動を、よびさます。

紅椿の両肩が左右にスライド。

突如現れるパネル、そこへ表示される。

 

【穿千(うがち)】

 

戦闘量だの一定を超えるだの説明が長ったらしく出るが、箒は無視した。

とにかく、今もっとも有効な武器が手に入ったと。

鈴音は眼を見開き、雷剛を遠隔操作している司は……ワゴンの中で、吐き出すようにつぶやいた。

 

 

 

「くそったれ」

 

 

 

雷剛のシールドを消し、回避動作に。

そうして紅椿の両肩から発生したエネルギーを察知し、キバへ伝える。

 

「牙狼! 上に避けて!」

 

「!?」

 

牙狼は司からの通信で……剣を戻す勢いで回し蹴りを行い、白式を吹き飛ばす。

同時にマントを翻しながら跳躍。

その下に見えるのは、大地を焼き払い壁を消滅させた真紅のエネルギーのビームだった。

 

「……おいおい、一夏ごと殺す気かよ」

 

先ほどの声と違い、呆れたような牙狼の声。

そうして着地をしながら、紅椿の姿をみる。

 

(……展開装甲だったか、それ以外にもまだ武装が残されているってか)

 

すでに紅椿のデータは蓄積されている。

だが、予想通りまだまだ何かありそうだ。

牙狼の思考は、先ほどの激昂が嘘のように冷めて……一夏を、白式を、見ていた。

一夏は蹴られたダメージがあるようだが、ISをまとっている限り大事には至らない。

 

「がはっ……」

 

「無事か一夏!」

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

その場所へすぐさま向ってきた箒、鈴音、セシリア。

先ほどの爆発でも、セシリアは大事に至ってないようだったので、牙狼は心の中で安堵している。

と、キバの隣に司が操る雷剛が来ていた。

 

「牙狼……もしかして」

 

「ん?」

 

「……いい、後で聞くから。それより狼牙がやばい」

 

「!?」

 

その言葉に、牙狼は……優先順位を変える。

 

「至るか?」

 

「無理だね……狼牙は、まだ迷ってる」

 

「……いくぞ」

 

牙狼は、こちらに視線を向ける一夏たちに向かい……赤紫のエネルギーをまとった劔を、ふるった。

そのエネルギーは地面を直撃し、盛大な爆発を起こす。

 

「ぐっ! 牙狼!」

 

「待て一夏! 今は奴よりこっちだ!」

 

箒が示すのは、再び立ち上がったゴーレムⅢ。

再び四人をターゲットにしたようだ。

そして再度戦闘が開始される……牙狼は、その間に狼牙の元へ。

 

「司」

 

「時間の問題だね……でも、もう条件は整ってる。覇鬼が……」

 

「ああ……闇に、堕ちる」

 

数分前からアリーナに出て戦っていた狼牙と簪。

両者は決定打をゴーレムⅢに与えることができず……狼牙は、すでにザ・ビーストを発動させていた。

両肩と両脚部から放熱フィンが飛び出す、エネルギーが噴き出していた。

 

(す、すごい)

 

簪はその姿に、以前見せてもらった覇鬼のフィギュアとは……迫力が違うと。

牙が見える口で叫び、その素早くも不規則な動きはまさに獣。

ゴーレムⅢの動きをほんろうしつつ、殴り蹴り……簪の援護射撃。

だが、それでもあのシールドを破りきることができない。

 

(せめて、マルチロックオンが……テストもしてないのに、できるの?)

 

簪は今になり、自身の行いを後悔している。

狼牙と自分が全ての力を合わせれば、確実に倒せる相手だと認識したというのに。

今も、狼牙が一人でゴーレムⅢを翻弄しているおかげで、楽に照準も合わせれたはず。

なのに準備不足が、今になって……しかし

 

(でも……何も、何もやらずに)

 

今の狼牙、いや覇鬼に必要なのは……隙を作る援護。

隙さえ作れば狼牙が必ず倒してくれると……簪は状況からすぐに判断できた。

力の差は、そこまで大きくは無い。

未知の部分もあれど、現に押しているからである。

 

「簪っ……簪!」

 

「!?」

 

「マルチロックオンシステムは使うな!」

 

「えっ!?」

 

簪は何故という顔で狼牙を見る。

しかし……狼牙は、そんな簪を見ないで答えた。

 

「まだ未完成の武装で、簪にそんなことはさせられない!」

 

「で、でも」

 

「そんなのがなくても俺らは勝てる! 簪……お前なら、ずってそこで視てたんだから!」

 

「……!?」

 

狼牙の言葉。

その意味に、簪は……頷いた。

 

「頼む……二人で、いこう!」

 

「うん!」

 

「……覇鬼、フルッバーストォ!」

 

覇鬼が、さらに形態を変える。

背にそって左右四つずつ、装甲が解放される。

あふれるエネルギーが翼を作りだし、その勢いで四つん這いとなっていく。

赤く染まったモニターの砂嵐が激しくなり

 

【99.9】

 

モニターに現れた砂時計に、フルバーストが使用できる制限時間が表示される。

通常のザ・ビーストではこの時間表示がなくエネルギーが尽きるまで戦える。

だが、このフルバーストは限界以上の動きを要求するため、現状の狼牙が耐えきれる時間を計算しての時間表示なのだ。

すでに拘束がなくなった口が大きく開き、両手両足の爪が地面を食い込み……狼牙が、牙をうならせ獣となり駆ける。

 

(さっきまでの動きである程度は……)

 

不規則な動きをする狼牙へゴーレムⅢはすぐに対応しようと……射撃でなくブレードを選択したようだ。

簪はそんな狼牙の突撃を、静かに息を吐き、そして……相手の動きを、視た。

春雷を脇下から伸ばし……エネルギーを溜める。

連射式の荷電粒子だが、一撃でなければだめだった。

自身の眼、そして狼牙の動き、敵の動き。

 

そこから計算し出される、ゴーレムⅢの予想される未来

 

簪は、次に狼牙へ攻撃を振るわれるであろう……部位をねらい打つ。

その一撃は、見事……ゴーレムⅢの振るわれていたブレードに直撃し、大きく弾かれた。

 

「狼牙君!」

 

「エネルギー全開!」

 

ガギッと、覇鬼の左腕……そこにある専用武器「ウルフファング」。

その展開されたハサミが、可変シールドを展開する前に弾かれたゴーレムⅢの懐へ潜り込む。

ハサミがガッチリと……腹部を挟み込んだ。

その根元に、膨大なエネルギーを収束させたまま敵を拘束し

 

 

 

「あばよ」

 

 

 

ゴーレムⅢの腹部に、ウルフファングから放たれたビームが直撃。

以前の模擬戦でラウラにだけ見せた……覇鬼の奥の手である。

ウルフファングのシールドから撃ち出される、格闘に特化した覇鬼が滅多に使わない拡散ビーム。

それを収束させ、ウルフファングの拘束からゼロ距離発射したのだ。

一撃でゴーレムⅢを打ち砕き……その機能を、停止させる。

 

「……ぐっ」

 

「狼牙君!?」

 

だが、その爆発と衝撃は覇鬼を吹き飛ばす。

ウルフファングは弾け飛び、地面にしこたま体を打ちながらも狼牙は……勝利を確信した。

左腕の様子がおかしいが、それでも……痛みを帳消しするを得たと。

そう、確信していた……吹き飛ばされた場所から見える、簪の背後を見るまでは。

 

 

 

闇に染まった騎士が、簪の背後に立っていた

 

 

 

とっさに簪が……何かを感じたのか、振り向きざまに夢現を振るう。

だが、その刃が届くことはなかった。

キバの左手首に仕込まれている刃が、柄を弾きあげ……右手が簪の首をつかむ。

 

「うっ!?」

 

「ふ、はははは……よお狼牙」

 

「牙狼! やめろっ!」

 

牙狼は簪の首を持ったまま、ギリギリと締め上げる。

狼牙はすぐに立ち上がろうとするが……フルバーストを使い続け、すでに全身にガタが来ていた。

まだフルバーストは解除はしていない……いや、したら簪の元へ行けなくなるからだった。

距離もある中、牙狼は目の前の簪……いや、弐式からエネルギーを吸収する。

 

「あっ……か」

 

「ははっ、やっぱ専用機は味が違うな……キバも喜んでるぜ」

 

「簪!」

 

狼牙がスパークの発生する機体を起こし立ち上がる。

しかし、再び倒れてしまった。

 

「……ふっ」

 

「うっ……がはっ」

 

エネルギーの大部分をキバに奪われ、簪はISが動かせないようだ。

そのまま簪を放り、拳を開け閉めしながら感触を確かめていた。

キバは、敵ISの武装やエネルギーを自身のものにすることが可能なISであり……それは、異常なISでもある。

今までも紅椿やゴーレムのエネルギー、武装を奪い……そして、コアをも取り込む。

 

 

 

キバは、そうして進化し続ける

 

 

 

それを知ってか知らずか……司は、何も言わない。

ただ、キバの強くなる姿を待っている。

牙狼が、強くなるのを待っている。

放り投げられた簪は、喉を押さえ軽くせき込んでいるが……

 

「簪ちゃん!」

 

「……ん?」

 

突然響く声。

そして降り立った……ランスを構えるIS。

 

「会長さん、先ほどぶりですね」

 

「牙狼君……いえ、不動牙狼!」

 

いまだ無傷の楯無。

しかし、エネルギーはそこそこに消耗しているようで

 

「遅かったですね……貴方ならあんな奴に後れを取るとは思ってなかったのですが」

 

「ええそうね、色々回ってたから……一番の敵を、最初に倒すべきだった」

 

「敵とはまた失礼ですよ?……俺はこうして救ってきたのに」

 

「どの口が言うのかしら?……人の妹にまで手を出して!」

 

楯無のISから感じる力。

いや、これは彼女の発する純粋な怒りだろう。

 

「妹……ね。なら、会長さんには悪いが」

 

牙狼は……楯無の背後にいる簪を見る。

いまだにむせこみ、弱弱しい目で楯無を見ていた。

キバの持つ剣、そこに奔るエネルギーは……今出せるギリギリの出力を振りしぼっている。

その姿から……楯無に、嫌な汗が浮かぶ上がる。

 

「……貴方、まさか」

 

「やっぱあの子は貴方の妹さんなんだ。これ当たると痛いだろうな……特に今の状態じゃ」

 

「!?」

 

間に合わない。

牙狼は、楯無へ向かい……その剣を×字に振るう。

 

「灰と化せ」

 

そこから放たれた、赤紫の激流。

自分の位置をよければ、体勢を崩している簪を……楯無はその身を使い、簪への攻撃を受ける。

 

「くっ!?」

 

牙の剣から放たれたビームが、楯無の体を襲い続ける。

楯無は全てを防御に回していた。

少しでもかわせば、簪を襲うほどの威力だからである。

そのためシールドが一気に減っていき……彼女は、追撃の一撃をまともに受けて吹き飛ばされた。

 

「い、やっ……いやああああああああああ!」

 

「せんぱ……先輩!」

 

簪と狼牙の声。

その声は絶望に染まっているのだが、牙狼は満足していないようだ。

キバの白く染まった眼が、獲物をとらえている。

 

「これだけじゃまだ、至らないか……やはり」

 

冷めた声で、牙狼は簪を見る。

彼女が、楯無の言っていた妹……とすれば

 

「やはり、君がいいね……」

 

「!?」

 

震えている簪に、牙狼は歩み寄る。

その剣から赤紫のエネルギーが立ち上り……簪を、威嚇する。

 

「や、やめろ! やめてくれ兄さん!」

 

「……」

 

ゴーレムⅢと戦っていた狼牙は、簪の危機に気づき……兄に、叫ぶ。

だが、牙狼は止まらない。

藁にもすがる思いで、狼牙は簪へ叫ぶ。

 

「逃げろ! 逃げろ簪ぃ!」

 

しかし簪には聞こえていない。

その目にある絶望と怒りの涙が……銃口をキバに向けさせる。

震える口が開かれた。

 

「よく、も……よくもっ!」

 

簪は、向かってくる牙狼に対し……弐式の残ったエネルギー全てをつぎ込む荷電粒子砲を打ち放った。

しかし牙狼は剣を地面に刺し、背のマント部分……ナノマシンがキバの全身を覆う。

そこへ荷電粒子砲が直撃した。

それは……鮮やかな閃光を散らし、茨のように絡み合い、そこに咲く血のように赤い……キバの放つ赤紫のエネルギー。

まるで、花弁が散るように赤紫の炎があがる。

その中から牙狼は瞬時加速をかけ……反応しきれない簪に剣を向け

 

 

 

割って入った、楯無を斬った

 

 

 

簪が、か細い声を出す。

聞き取れないほどの……それは、牙狼にはっきり聞こえていた。

 

「どうして」

 

牙狼は、剣を引き抜く。

パッと鮮血が舞い……楯無の体が、簪に倒れかかった。

先ほどの防御で、すでに装甲は朽ち果てている。

絶対防御が発動したのか、意識は無く……死んではいないようだが、ダメージは通っていた。

簪の上に、楯無の体が落ち……その身に、赤い血がかかる。

 

「……あっ」

 

何があったのか、簪はしばし呆然とした。

そして……姉の血がついた手を見て、声にならない声を上げる。

 

「せ、んぱい……あ、ああ」

 

「ふ、ふふ……くく、ははははは!」

 

遠くからこっちを見ていた狼牙の、呆然とした顔が眼に浮かぶ。

牙狼は剣に付いた血を振る。

赤い紋章が入った剣が、さらに赤く染まっていた。

 

 

 

(お膳立てはしてやったぞ狼牙。さあ……こっちへ来い、力の世界に!)

 

 

 

倒れ、息も絶え絶えの楯無と……その姉を抱え、叫ぶ簪。

その二人を前にし、牙狼は嗤う。

明らかに、感じが変わった。

自身の弟が、変わっていく姿に……感じた、力を欲する衝動に。

闇へ、進んでいく自身の半身に。

 

「狼牙は生まれ変わる……さあ、こっちだ」

 

牙狼は、アリーナの反対側にいる狼牙を待つ。

狼牙はすでに限界だった。

再び現れた兄に追いつくことすらできず、狼牙は地に膝をつく。

ザ・ビーストもフルバーストを使い続け……タイムリミットは迫る。

 

【7.7】

 

カチカチカチ。

赤く染まった、砂嵐が生まれるモニターに表示される砂時計……その、残り時間。

すでに8秒を切っている。

狼牙は……苦悶の声をあげながらも、歯を食いしばり立ち上がる。

 

 

 

簪を護る、それは……すでに狼牙の心には無かった

 

 

 

砂時計は、時を刻み続ける。

速度は変わらず、だが確実に進む。

 

【5.0】

 

残り5秒を切っていた。

だが、覇鬼のフルバーストは……変わらず、狼牙の意思で続けられている。

 

「うぅ……うわぁぁぁ!」

 

簪の声。

聞こえている、聞こえているが……傷つけられたその姿。

同時に先輩の綺麗な白い肌を、そして共に築き上げた物を壊された狼牙は……吼える。

純粋な怒り、そして……憎しみ。

 

その身の、獣を吐き出し続ける

 

狼牙の瞳が、濁った金に変わる。

左腕の破壊されたウルフファング……もはやただの拳だ。

それを前に構え、振りぬいた拳。

だがキバの左腕に抑え込まれ、覇鬼は動けず……そして

 

 

 

砂時計は【0】を示し……砕けた

 

 

 

牙狼は突き放すように剣をふるい、狼牙を宙に打ち上げる。

狼牙は吹き飛び、そのまとっていた装甲が数か所弾け飛んでいく。

同時に、覇鬼のフルバーストによる放熱フィンがすべて閉じられらた。

しかし……狼牙は、消えていく視界の中で……ただ、願った。

 

 

 

獣化第二形態……破棄

 

モード移行……条件確認

 

シンクロ上昇……裏コード承認

 

獣化第三形態……発動準備完了

 

 

 

狼牙の全身を、何かが奔っていく。

それは……心地よく、そして熱く……息が、荒くなる。

 

(もっと……もっと、力を!)

 

かつて、狼牙の兄である牙狼も……願った。

絶望を感じながら、ただ感じるまま……戦いをするために。

目の前にある、赤く染まったモニター。

そこに表示された文字……狼牙は、掴むような声で……つぶやいた。

 

 

 

【心滅】

 

 

 

起動音。

覇鬼の全身の装甲、フルバーストで光りの線が奔っていた部分から……ドロドロしたものが染み出す。

そうして狼牙、そして覇鬼だった者は……今は、見えない。

あふれだした何かが姿を覆い、そして発光……現れる、巨大化した何か。

銀の装甲はくすんだ色になり、ところどころに血管のような……黒い模様が奔る。

 

それは、覇鬼であった何か

 

鬼のような赤く染まった眼。

全てをなぎ払えると感じさせる、鋭い爪。

そして伸びた尻尾の刃……唸りを上げる牙。

 

「!?」

 

「あれ、は」

 

今しがた、ゴーレムⅢを退けやってきた一夏と箒。

そして彼には、彼女には……見覚えがあった。

数ヶ月前……あのトーナメントで。

ラウラの時と、似ていると。

知ってか知らずか、一夏は叫ぶ……自身の友が、変わっていくことに。

 

「狼牙! それ以上はだめだぁ!」

 

「どけっ!」

 

眼の前に出てきたのは、傷ついた一夏。

すでにボロボロに近く……白式は、ダメージを受けている。

しかし、一夏は再び狼牙を止めようと前に出た。

 

「落ち着け狼牙! 怒りで我を忘れるな!」

 

「勝てる、これで勝てる! 兄さんに! なら僕はどうでもいい!」

 

「力に全てを売る気なのか! お前は……お前は牙狼じゃない!」

 

「兄さんに……勝つには、この力がいる……どけぇ!」

 

「ぐはっ!?」

 

狼牙は、その鋭い爪を持った右手で一夏をつかむ。

白式は……その圧倒的なパワーに装甲が、シールドエネルギーの減少が速い。

すでにレッドゾーンに突入している装甲も、ひびが広がっていく。

 

「眼をっ、覚ませよ……うぐっ!?」

 

「ふう、ふう……どけっ!」

 

「がっ!?」

 

狼牙は一夏を握りつぶそうとする。

だが

 

「狼牙君!」

 

そばに降り立ち、ラファールをまとっているのは……真耶だった。

今日は護衛のため、教師らもISを所持している事は知っていたが……どうやら牙狼の開けた部分から入ったらしい。

真耶は狼牙の前に立つ。

 

「邪魔だっ! 僕は壊す! そして倒す!」

 

「そんなの違う! そんなの狼牙君じゃない!」

 

真耶は目の前にいる、巨大化した覇鬼を前にし……足を震わせ、叫ぶ。

一夏を握りしめる力はかわらず、白式が警告を鳴らしていた。

 

「狼牙っ……そんなの、お前らしくない」

 

「黙れっ! 僕は兄さんを倒す! なにもいらない! この力しかない!」

 

そして尻尾をふるい真耶を払おうとし……真耶の隣に、滑るように現れたのは……簪だった。

見ると、すでに楯無は箒によって介助されているが……何故、来たのか。

簪はその身を震わせながら……狼牙の前に立った。

 

「狼牙君……」

 

「簪ぃ……どけ!」

 

「嫌、絶対にどかない!」

 

狼牙は簪に空いた左手をのばす。

その鋭い爪が、簪に向けられる。

 

「この力があれば負けないっ……負けない!」

 

「……そん、なの……狼牙君じゃ、ないよ」

 

「!?」

 

「いや……貴方を失うのは嫌!」

 

簪は、姉の血に染まった手を狼牙の左手に当てる。

その時、柔らかな光が簪の指輪、待機状態の弐式から漏れているのがわかった。

光りは狼牙の左手に触れるように……いや

 

 

 

まるで、弐式が覇鬼に呼びかけているかのようだった

 

 

 

狼牙は、動かない。

と……一夏の拘束が解かれ、白式は地に膝をついた。

 

「ぐっ」

 

「お、織斑君!?」

 

「大丈夫、です……狼牙は」

 

一夏が前を見ると、変異した覇鬼は……動きを止めたまま。

だが、そこに簪がすがるように……眼を閉じ、祈るように立っている。

真耶は……おもむろに、簪の隣に立ち、先ほどまで一夏を締め上げていた狼牙の右手に触れる。

そして眼を閉じ……気づいた。

狼牙が、戦っている事に。

 

「……簪さん」

 

「……はい、狼牙君は」

 

「うん……大丈夫」

 

簪と真耶。

二人は、目の前の獣に震えながらも祈り続ける。

狼牙の勝利を祈って……牙狼は、その動きを見ながら……すでに剣を収めていた。

 

「……ここ、は」

 

そして狼牙は、気がつけば……真っ白な空間にいた。

どこもかしくも白一色。

いや……白といえるのか、わからないほどに。

だが

 

「!?」

 

狼牙の目の前に、突如現れた……銀の閃光。

それは、形を創り出していく。

 

「覇鬼!?」

 

現れたのは、狼牙のISである覇鬼だった。

その赤い目は……狼牙の体を映している。

 

「お前は……」

 

「私は、お前の内なる影……そして」

 

覇鬼は……左腕のウルフファングを展開する。

 

 

 

「お前がもっとも恐れる存在だ」

 

 

 

その牙が、狼牙を切り裂く。

狼牙はとっさに……いつの間にか、自分自身の左腕に持っていたウルフファングで防ごうとする。

だが、その切り払いに対応できず……切り裂かれ、地に膝をつく。

 

「ぐっ!?」

 

「お前は、次なるステップに進もうとしている……そのための力を、最強の力を、私を倒し手に入れろ」

 

「なにをっ……最強だと? 俺は……戻らないと」

 

しかし狼牙は……そんな覇鬼の言葉に、顔をそむける。

立ち上がり、その場を立ち去ろうと背を向け

 

 

 

「背を向けるな……これは、お前の兄も通った道……人殺しで最低な裏切り者の、不動牙狼のな」

 

「っ……うわぁっ!」

 

 

 

その言葉に、狼牙は顔をゆがめ……振り返り、ウルフファングをふるう。

しかしその一閃はかわされ、お返しと言わんばかりに右の回し蹴りを左頬に食らい……錐揉みし、地に倒れる。

狼牙は立ち上がろうとし、その前にウルフファングを向けられた。

 

「怒りで我を忘れ……何を護る?」

 

「……黙れぇ!」

 

立ち上がる勢いで狼牙は、ウルフファングを下から振り上げる。

覇鬼は振り上げられるクローを後退しかわしつつ……向かってきた狼牙を、その赤い目で見る。

狼牙はウルフファングのクローを構えながら、覇鬼に迫っていく。

 

「まるで獣だな、お前は」

 

「うおおおお!」

 

跳躍。

上空からクローを突きたてようとし、それは左腕のシールドで阻まれた。

金属音が響き、弾かれた狼牙。

そこへ……爆音とともに覇鬼のウルフファングがハサミの状態で射出され、狼牙の首を挟む。

 

「ぐっ!?」

 

覇鬼は繋がれているワイヤーを戻し、引きずるように狼牙を目の前に伏せさせる。

 

「しょせん、お前は兄に勝てない……偽物なのか?」

 

「……何を」

 

「兄は自分の道を選んだ……だが、お前はどうだ?」

 

ハサミが外され、仰向けの狼牙は覇鬼に強く胸を踏まれる。

その踏み付けには情けなど無く……狼牙の胸骨が、ミシッと音をたてた。

 

「ぐっ」

 

「……お前は一人だ」

 

「!?」

 

「一人だからこそ、兄を失い絶望した……そして、今は」

 

覇鬼がその姿を変える。

身体全体が大きくなり、尻尾のようなものが生え……爪を伸ばした、獣に。

 

「お前自身が望んだ姿……戦いに酔いしれ、破壊を望む」

 

狼牙は、震えた。

信じたくない、だが……何度も、簪に手を掛けようとした。

そして、真耶にも……あの日、楯無にも。

 

 

 

大切だから、壊したい

 

 

 

自分の中で、何かがうごめいている。

兄を失ってから、変わった。

それを今、突きつけられている……だが

 

(……俺が、僕が僕であるために)

 

「わからないのであればそれでもいい……とどめだ」

 

(僕は、誰かを超えるために戦ってはいない……護る為に、夢をかなえるために戦っているんだ!)

 

狼牙はその、覇鬼によって振るわれた……攻撃を、受け入れた。

だが……痛みはなく、その攻撃は狼牙の体を傷つけることもなかった。

刃が、体をすり抜けていったのである。

 

「……気づいたようだな、不動狼牙」

 

「僕は、いつのまにか……戦いを、そして誰かを超えることだけに執着していた」

 

「そうだ……私は、お前の内なる影。お前の戦いを渇望する、傷つけようとする獣の衝動……」

 

覇鬼は、狼牙に向けた爪を戻す。

 

「影を恐れれば、影に飲み込まれる。だが、お前は……臆すこともなく、踏み込み、自分を受け入れた」

 

「僕は、自分自身を認めたくなかった……この、内なる影のことを」

 

「それが心の弱さ……お前と、兄の違いだった。だがそれを知り、受け入れたお前なら……「心滅」すら、扱えるだろう」

 

覇鬼の体が、光りだす。

そして光りは拡散し、狼牙の体を覆う。

角のように生えていた覇鬼の一角が、二つに分かれ……顔つきが、狼のように変わる。

 

 

 

それはまるで、銀色に輝く狼

 

その手に持つは、ウルフファングの上下にあるクロー……それが分かれ、二つの剣へと変化する

 

左右の手に収まる、銀色に輝く双剣

 

 

 

そして、光りが消える。

覇鬼がいた場所に立っているのは……一人の、美しい銀髪の少女。

彼女は微笑み……狼牙に、道を示す。

 

「さあ、行きなさい。貴方を待つ者たちがいる場所へ……覇道を歩む鬼神でなく、人を護りし銀の狼【絶狼(ゼロ)】」

 

「ああ!」

 

「……あの二つの光りを、決して見失わないで」

 

少女の指さす方向に、ある光り……狼牙はそこへ向かう。

己の護る者たちのもとへ……そして、答えを得るために。

前に見える、二つの光を追って……飛び込んだ。

 

「……あ」

 

その声は誰のものか。

異形の姿となっていた覇鬼。

だが、光りがその身を覆い再び晴れた時

 

「「……綺麗」」

 

それを目の前で見ていた簪と真耶。

同時につぶやき、そして……膝をついた。

単純に、緊張の糸が途切れたためだろう。

そして光りが晴れた場所にいる、覇鬼とは違う……銀のIS。

 

「簪、山田先生。ありがとう」

 

声を出したのは、普段通りの狼牙。

その声には怒りも憎しみも感じられない。

そして、視線が向けられるのは……キバ。

 

「「……」」

 

牙狼が歩くと同時に、狼牙も前へ。

その場にいる者たちは、二人の動きを黙ってみていた。

そして二人は同時に、剣を構える。

剣を持つ右腕を前にし、刃をそらせる独特な構えの牙狼。

両の手に剣を持ち、左右へ振るいウルフファングを構えていた時同様、左腕を前に構える狼牙。

 

「「……」」

 

二人の視線が、同時に足を動かした。




遅くなりましたが、三十八話を見ていただきありがとうございます。
次回で第七巻の内容は終わります。
マルチロックオンシステムは、ぶっつけ本番ではちょっと……と感じて、今回使用しませんでした。
以下簡単な説明を。

・獣化第一形態=ザ・ビースト
・獣化第二形態=フルバースト
・獣化第三形態=心滅獣身

狼牙が使っていたのはこのようになります。
近いうちにオリキャラ、IS説明の文を投稿します。
今後も、よろしくお願いします。
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