向かい合った牙狼と狼牙……キバとゼロ。
そして、同時に駆けだす。
牙狼の横薙ぎを狼牙は飛び上がって回避している。
狼牙は上空からその両手に持つ銀の剣を、ブーメランのように投擲。
その二刀をキバは弾くが、そのうちの一つを瞬時加速で手にした狼牙。
牙狼の背後へ回り、振り向く牙狼に剣を振るう。
金属音が響き、二人の持つ剣が噛み合う。
「お前も強くなったな、狼牙……」
「兄さん、思いだしてくれ! 僕たちがIS学園へ来た日の事を、叶えると誓った夢を!」
「……忘れたな」
「!?」
ギリギリと互いの剣が押し合う中、唐突に牙狼は右へ跳躍する。
そこへ、先ほど弾いた筈の……狼牙のもう一本の剣が、飛び込んできた。
「遠隔操作も可能か」
「この二刀は、ウルフファングが別れたもの……二つの牙は、つねに一つ」
「……だが、俺とお前は違う」
牙狼の剣を、狼牙は弾く。
地面を削り牙狼は……剣に手を添え、赤紫のエネルギーをまとわせた。
だが、突然……牙狼は劔を収める。
「……」
すると、狼牙の身体が地面に崩れ落ちた。
同時に纏っていたゼロも解除され……なんとか立ち上がろうとするが、崩れ落ちたままだ。
それを見て、牙狼は喋り出す。
「狼牙、どうして俺とお前はISが使える?」
「?」
「疑問に思わなかったか?……ろくに思い出せない幼少時のこと、断片的な両親、そして」
狼牙はその、兄の声を聞いている。
その声は、間違いなく自分が無意識に知りたかったことではないのかと。
「存在するはずのない、二つのコア。そして、俺たちの異常なIS」
「……兄さん?」
「束博士と同じ存在の司……千冬さんと同じ存在のあいつ」
「!?」
聞いてはならない。
この声を、聞いてはならない。
無意識に……だが、牙狼の声が、離れない。
「そして、俺とお前は……本当に、この世界の人間か?」
牙狼は、纏ったキバの中で……無表情。
言った意味、そしてそれが示すものとは。
「本当の敵を、間違うな」
「兄さん……」
牙狼は、近くに来ていた雷剛に跨り……何も返さずその場を去っていった。
追撃は……誰もしなかった。
頭上を見上げ、自身の指輪を、拳を握り締める狼牙。
泣いていた
表情は無く、その目を伝う涙だけ。
その隣に立った一夏は……傷ついた白式を解除し、狼牙をゆっくり抱き起こす。
「狼牙」
「……一夏」
「俺には、牙狼の言葉がわからねえ……でも、あいつは……」
一夏はそれ以上は言わなかった。
普段の彼とは違い、狼牙に何も言わない。
そしてもう一人。
「牙狼……」
おそらく牙狼は気付いていた。
一度だけ視線を向けていたのだ……アリーナへ来た千冬へ。
彼女もまた、止める事もできずただそこにいた。
IS学園での戦いは幕を閉じる
しかし、牙狼が残した言葉。
その意味を理解できたものは、その場にはいなかった。
だが……すでに舞台は、次のステージへ動き出している。
襲撃後のIS学園では新たな絆が、分かり合えた姉妹が、そして
「学園の一つや二つ、守ってやるさ……命をかけて、な」
決意を、一人の女性がその眼に宿す。
そして銀の悪鬼は銀狼となり……その牙を、研ぎ澄ます。
「やってやるさ」
一人、自室で顔を洗い鏡を見ている狼牙。
だが……その眼に宿るのは、千冬と同じもの。
「兄さん……兄さんが何を言いたいのかは分からねえけど、僕は」
自身の指輪を、強く握る。
と、急に戸がノックされる。
狼牙がその戸をあけると
「あっ……こ、こんにちは」
入ってきたのは、簪だ。
彼女も傷は特になく、あの後も……姉である楯無と色々話していたようだ。
その件は狼牙は特に聞く気もない……聞くだけ、野暮だろうと。
「簪……」
「……狼牙君」
二人はしばし、見つめあったまま。
だが、狼牙は……そんな簪から目をそらしてしまう。
「怖かった」
「ごめん」
予想出来た言葉だ。
狼牙がその爪を向けてしまい、簪は……恐怖しただろう。
「僕は」
「でも、嬉しい」
「……え?」
「狼牙君が、私を助けようと怒ってくれた……姉さんを護ろうと、怒ってくれた」
簪にとって、誰かが自分のために動いてくれた。
そして狼牙が……簪を、必死に守ろうとしてくれたことを知っている。
「自分を責めないでほしい……私は、貴方のパートナーだから」
「!?……簪」
「だ、だからその……私と」
何か想いが詰まった声。
簪が、意を決し狼牙に口を開こうとして
「すみません狼牙君! 遅れてしまい……」
「……山田先生?」
あけっぱなしの戸。
そこから姿を見せたのは……真耶だ。
そういえば、狼牙はこの後事情聴取があるとか言われていたのを思い出す。
しかし……おもむろに、部屋の空気が重くなっていく。
「「……」」
ほとんど背が変わらない簪と真耶。
おもむろに簪は、体を真耶の方へ向け狼牙に背を向けた。
真耶は真耶で……ちらっと簪の後ろにいる狼牙に視線を向け
「狼牙君、時間になりましたので……少し、先に行っていてくれませんか?」
「あ、はい……じゃあ簪、悪い」
「うん」
狼牙は簪と真耶の横を抜け、そのまま事情聴取の場へ向かう。
そして彼の姿が完全に見えなくなったところで
「……ふふ」
かちゃっと、真耶は眼鏡をはずす。
その姿は、童顔をさらに際立たせるものだが……
「更識さんも、そうなんですね」
「……先生も」
簪は、眼鏡をかけ直す真耶を見て……正面から、見る。
おどおどしていたころの姿はそこになく、真耶もはっきり、それを受け止めていた。
「私は……この歳まで、そういったことをあまり考えていませんでした」
「先生が、ですか?」
「ええ……恥ずかしながら、最初は織斑君かなって……でも、違った」
接するうちに、話すうちに、気になっていたのは一夏ではなく……狼牙。
生徒と教師。
そういった関係のはずだったのに……そして同時に、真耶は簪の想いにも気づいている。
向こうもそれを承知だったのだ。
だから、ここではっきりさせる。
「負けませんからね?」
「わ、私も……負けません!」
普段の簪や真耶とは思えない気合の入った声。
そして同時に……二人は、微笑んだ。
「あ、でも普段は秘密でお願いしますね?」
「もちろん……わかってます」
「ありがとうございます、簪さん」
「……はい、真耶さん」
真耶は名字でなく、簪を名前呼ぶ。
それに応えるように、簪も名前で呼んだ。
「では、簪さんも」
「わかりました」
すでに狼牙は先に行っている。
急いで追いかけなければと……簪と真耶は、狼牙の元へ向かった。
だが、IS学園から少し離れた場所では……
「……襲撃?」
ワゴンの中で戻ってきた牙狼と司。
その二人に、スコールは……遠い場所で起こった事件を話している。
「オータムさんは無事なんですか!?」
「大丈夫みたいね……ただ、他のメンバーは全員」
「……相手はあの兎?」
「司、違うわ……敵はISではないみたい」
スコールがウインドウの一つを二人に寄こす。
そこに映し出されているのは、煙の中に見える……人影が複数。
「しかし、今のオータムさんがISを持ってないとはいっても」
「そう……問題はそこね。ただ、証拠などは全て始末を終えた後だからいいんだけど」
「……兎はまだ動かない?」
「落ちつきなさい、司……奴らはすでに動いているのだから」
牙狼がギリッと歯を食いしばっている。
司はそんな牙狼を見つつ……ウインドウを解析していた。
「幽霊は動き出した……私達も、本格的に動く必要があるわ」
「はい……IS学園はどうしますか?」
「……例の二人がどうでるか、ね。それまでは監視を継続しましょう。私も……少し早いけど、動くわ」
そういい、スコールは今後の行動を話す。
別行動になるが、とりあえず明日にまた集合となるだろう。
牙狼と司も頷き……複数あるウインドウの一つを、見る。
黒く染まった髑髏のマーク。
牙狼と司は、そのマークを……握りつぶした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
IS8巻が出ているので、今後どうしようかと思ってましたが……当初のオリジナル展開に八巻の内容を混ぜる形、になるかもしれません。
どうかよろしくお願いします。