騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第四十話:想いと絆と

どこかの……軍事基地らしき場所。

そこはすでに廃墟と化し、生きている人間は確認できない。

だが、その場所に立っている数個の影。

 

異形の姿のそれらは、その場から早々に消えた

 

そんな事件が世間を騒がすこともなく、世の中は平和である。

ここIS学園でも、先のタッグマッチトーナメント襲撃事件後も特に何もなかった。

専用機持ちのメンバーも、自身のISダメージが大きくしばらくは使えない。

 

「で?」

 

「っ……」

 

IS学園の放課後。

そのカフェテリアで……今、一年の専用機組が一か所に陣取っていた。

男性を除いて、だが。

 

「鈴落ちついて……僕達としても、やっぱり興味があってね」

 

話しかけているのはシャル。

先ほどのは鈴音の様だが……で、その相手というのが簪だった。

彼女は先日真耶と宣戦布告をしあったばかり。

だが、今は別で……一夏を好きなメンバーらに聞かれている。

 

「やはり同じクラスメイトのことでもあるのでな……」

 

「そうですわね……なにせ、狼牙さんのことですし」

 

「……ま、まあ後学のためにと。ここには女しかおらず私達も口は固い、できれば……聞いておきたいんだ」

 

ラウラ、セシリア、箒。

彼女らも明らかに狼牙に好意を抱いている簪のことが気になっているようだ。

そうして、交流も含めて……ぶっちゃけ、もうここまで来たら全て話すまで帰してもらえないだろう。

 

「そ、その……狼牙、とは」

 

「狼牙っ!?」

 

全員が驚きの声。

今まで簪が彼を君付けで呼んでいたのは知っている。

しかし、その呼び方は……この前の事情聴取後、変わったのだ。

 

「っ……わ、私がそう呼ぶことにしたの」

 

強力なライバルである真耶。

彼女は現在の立場上そう呼べず……性格もあるが、少しでも彼に意識してもらいたいと。

いざ呼んでみて、狼牙はむしろ嬉しそうだったのが……少し、近づいた様な気がするのだ。

簪はポツリポツリと、顔を真っ赤にしながら話す。

 

その姿に、以前から聞いていた簪と全く違うと

 

五人はそう思いつつ、ここまで女は変わるものかと驚いていた。

しかし、それは彼女らにも当てはまるのだろう。

だが、先ほどから妙に簪は右手をポケットに入れっぱなしで

 

「あんたさっきから何いじってるのよ?」

 

「えっ、あっ!」

 

一番近くにいた鈴音が簪の右手を引き抜くようにテーブルの上へ。

そしてその右手に握られていたのは

 

「写真?」

 

小型のケースに収められている一枚の写真。

その写真を見て……全員が驚きの声を上げる。

 

「これ、二人で撮ったの?」

 

「……こ、この前……宣伝のためにって」

 

「そういえば狼牙さん、そんなことをおっしゃってましたが……」

 

シャルとセシリアも、以前狼牙が言っていたことを思い出した。

一夏とは別路線で、男性のISを宣伝していくと。

 

「それで一緒に撮ってもらったと……大人しそうな顔をして、やるな」

 

「~~~~~」

 

ラウラのニヤッとした顔に、簪はすぐケースを手に小さくなる。

しかし、このことは狼牙と真耶すら知らない簪だけの秘密だった。

 

「ふう……ここだけとっても、お熱いですわ」

 

「あ~はいはいごちそうさま」

 

「うらやましいなあ……素直って」

 

「むう……私も嫁といつか」

 

「……」

 

セシリア、鈴、シャル、ラウラ、箒。

彼女たちは……簪と話せて、色々楽しい様だ。

簪は上目遣いで、五人を見ているが

 

「ふふっ……とりあえず、今後ともよろしく頼む」

 

「あっ……うん」

 

箒が手を差し伸べ、簪はおずおずとそれを取る。

しかし、ほほえましい女性陣とは裏腹に……男性の狼牙はと言えば

 

「……結構なお手前で」

 

千冬につかまり、茶道部にいた。

しかし、他に生徒はおらず……千冬と真耶がいるだけだが。

 

「ここはそこらの部屋よりセキュリティが厳重だからな」

 

「なるほど……織斑先生、急に話したいことがあるとは?」

 

「貴様のISのことだが……山田君。その後はどうだ?」

 

「ISについてはどうも……おかしな、というのも変ですけど……従来のどのISとも違います」

 

狼牙のISであるゼロ。

セカンドシフト後、その機体の調査をし……判明した事実がある。

 

「いまだ繋がらないコアネットワーク、そして……ブラックボックス、か」

 

「はい……狼牙君の使用していた覇鬼では確認されなかったものが、セカンドシフト後に」

 

真耶の声は、すでに疲れた声だ。

いきなり未知の領域に入っていくモノだから、余計に疲れたのだろう。

 

「……キバ」

 

「?」

 

「兄さんのキバは、相手を喰らう……僕のゼロは」

 

兄弟機。

最初にそう説明をしている誰かがいる。

狼牙の、ノイズがはしる記憶の中で誰かがいる。

 

「希望、絶望を詰め込んでいるIS」

 

「狼牙?」

 

「……僕にそう言っていた、人がいました」

 

フッと浮かんできた、忘れていた過去。

最近になって急に……少しずつだが、思いだしてきていた。

 

「希望と、絶望?」

 

「はい……!?」

 

と、急に狼牙は立ち上がる。

そうして……明後日の方向を向き、目を閉じた。

そのまましばらく、狼牙は黙ったまま……目を開ける。

 

「織斑先生、山田先生」

 

「「?」」

 

「兄さんが、話があると」

 

その言葉に、二人は目を見開く。

同時に思いだした……牙狼と狼牙の持つ、不思議な能力。

どれだけ離れていても、意思の疎通や互いの視界を共有できる。

 

「シンクロ、だったか……牙狼が話しかけて来たのか?」

 

「はい……明日の休みに、夕方4時ごろ」

 

狼牙は詳しい時刻と場所を言って行く。

すでに牙狼の声は途切れてしまったが、それらをはっきり告げていった。

 

「まさかとは思いますが、罠でしょうか?」

 

「いえ、それはないかと……何人連れてきてもいい、とにかく話があるって」

 

「……いいだろう、ならば更識を連れていく」

 

千冬も、何か思うところがあるのか。

牙狼とやっと、向かいあって話す機会が来た……楯無を連れていくのも、そのためかもしれない。

危険はないが、おそらく牙狼はそれを予想しているのだろうと。

 

「……一夏達には、内緒で」

 

「そうだな……更識には私が話しておこう。それと」

 

千冬が柔らかな声で、狼牙にいう。

 

 

 

「ようやく、素の自分を私達に見せてくれたな……不動 狼牙」

 

「あはは……僕、って言ってた方がやっぱり楽ですね」

 

「そうですね……私は、その方が好きです」

 

 

 

真耶も微笑み、そう言っていた。

だが、仮にも相手は亡国機業。

ISを使えるのが狼牙だけという状況で……牙狼は、何を考えているのか。

そのまま夜はすぎ……翌日の、夕方。

IS学園から少し離れた、ある公園。

のどかな風景だが……その公園近くの木に、一人の男性がいる。

 

「……はい」

 

「お兄ちゃんありがとう!」

 

どうやら、サッカーボールが転がってきたようだ。

それを子供に渡していたらしい。

 

「気をつけなよ?」

 

「うん!」

 

そう言い、子供はボールを手に……家に帰ると言って、離れていった。

男性は牙狼で、今日は普段通りの格好をしている。

牙狼は離れていく子の後姿を、少し……懐かしそうに、羨ましそうに眺めていたが

 

「お早いお着きですね」

 

×字の傷を隠すためにつけていた、バイザーを外す。

振り向くと、そこにはIS学園の面々……狼牙、千冬、真耶、そして楯無。

 

「兄さん」

 

「よお狼牙、おめでとう」

 

「何がさ?」

 

「セカンドシフトを果たした……だろ?」

 

牙狼は意味深な笑みを浮かべている。

その×字の傷を隠さず、笑っている。

 

「……嬉しいとはいえないね」

 

「そうかい……ま、今日は別件で呼んだ訳だが……」

 

確かに誰でも連れてくればいいと「シンクロ」では伝えたが……全員とは。

予想通りとはいえ、牙狼は苦笑しつつ千冬を見る。

 

「千冬さん、お元気そうで」

 

「ああ……私もお前と少し話がしたくてな」

 

「それは嬉しいですね……皆色々言いたい事もあると思いますけど」

 

だが、それを遮るように千冬は口を開く。

 

「牙狼、正直に答えろ……お前は、あの無人機を知っているのか?」

 

千冬の声。

いつにもまして、鋭い。

 

「……ええ、以前も襲撃を受けました」

 

「学園と無関係のお前にまで、か」

 

「まあ……問題はありません」

 

「牙狼、もう一つも聞きたい事がある」

 

と、千冬が続けて喋る。

だが、どこか緊張したようにも見えるのだが……

 

「サイレント・ゼフィルスの操縦者、あいつは一体何者なんだ?」

 

「……」

 

牙狼は答えない。

しかし、その顔は……明らかに、笑いをこらえるような顔。

 

「なぜ笑う?」

 

「すみません。今更聞くことかなって思ったので……彼女はエム。彼女は……俺や狼牙と同じ施設の出身だ」

 

「やはりそうか」

 

千冬は、あの教会……その地下にあった部屋。

四つの机。

そこに彫られたイニシャルを思い出す。

 

「宿命というのが存在するなら、いずれ一夏とエムは引き寄せあうでしょう」

 

「……そうか」

 

「今の俺に言えるのはそれぐらい……会長さん、そんな怖い顔しないでくれ」

 

笑顔、といっても感じれる雰囲気は恐ろしい物だ。

隣にいる教師二人も驚くほど、覇気が出ている。

 

「牙狼君、私がどうして怒っていると?」

 

「生の感情が丸出しですから……まあ、理由はわかりますけど。一応加減はしたんですよ?」

 

「そうね……でも乙女のやわ肌を傷つけたのはどうかしら?」

 

楯無の言葉は、確かに普段と違う。

その声とは反対に、あまり言いたく無さそうな牙狼。

しかし、楯無の怒りは治まりそうになかった。

 

「それはそれとして、会長さん。少し、込み入った話があるのでよろしいでしょうか?」

 

「っ!?……何かしら?」

 

「少し……二人だけで」

 

牙狼の言葉。

楯無は、そっと拳をにぎり……

 

「いいわよ」

 

凛とした声で、返した。

牙狼はそんな楯無の声にうなずき、少し一同から離れる。

他の面々は二人の背を見ていたが……

 

「それで、私に話とは何かしら?」

 

「アメリカの件で」

 

「!?」

 

「……どうも奴ら、狼牙に焦点を合わせているようです」

 

セカンドシフト、それだけでもかなり重要だ。

しかし今回アメリカでは、貴重な候補者を失っている……牙狼の事なのだが。

その埋め合わせに、狼牙に対し本格的な圧力をかけてくる気配があると。

 

「つまり、学園内のアメリカ関係者?」

 

「それもありますが、今回の襲撃によって……撃破した機体コアの保持、もしくはデータを奪取するため強硬策をとるかも」

 

「……あり得る話ね、どこの国でもだけど」

 

「いい感じに専用機はほとんどダメージを受けてますし……まあそういうことで、だいぶきな臭くなってきています……ご注意をと」

 

牙狼と楯無の話。

聞きとれないが、他のメンバーはジッと見ていたのだが

 

「あ~もう暇。牙狼のバカ……」

 

突如聞こえる声

いつのまにか、狼牙達の後ろにいるのは……浮遊した車椅子に乗っている司。

彼女は話に混じらず、ふらふらと浮いているだけ。

現在も行方をくらましている、束博士と同じ顔の少女。

格好は相変わらず、胸元を露出した黒いセーラー服だが、ふてくされたような顔をしている。

 

「あ、あの」

 

「ん~?……どうしたの?」

 

突然話しかけたのは真耶。

彼女はおずおずと、司を見て……口を開きかけ、また閉じる。

その様子を見ながら、司は何かを察したようだ。

 

「私はどこぞの兎でもないし、誰もいなかったように視ないから大丈夫だよ……」

 

司は、その場の全員にそういう。

自分は同じ顔だが、束ではないと……はっきり言い切ったのだ。

 

「私は司、あの兎じゃないから」

 

「……確かにな」

 

千冬がそう答えるほど、自身が知っている彼女と違いとてもフレンドリーな感じ。

他の面々に対しても、そこにいないとかでなく……しっかり認識している。

束だったら真耶とか狼牙は視界に入っていないはずだった。

以前、あの教会で出会ったときは一夏に対し敵意もあったが、アレはまた違う感じだった。

 

「貴様……」

 

「ん、あ~千冬さん……ちーちゃんって言った方がいい?」

 

「やめろ、何故か貴様を見ると」

 

「私だってそうだよ……あんたなんて、視界に入れたくもないぐらいに」

 

千冬の鋭い、そして何より威圧。

他のメンバーは少し距離を取るぐらいなのに、司は何も感じていないようだ。

 

「警戒しなくても、牙狼は貴方のことを好きなままだよ?」

 

「!?」

 

突然、司はそう言い放つ。

確かに、ここにいる狼牙や真耶、本人の千冬も知ってはいることだが……

 

「でもね」

 

一方通行の想いなど、なんの意味もない。

通じ合えなければ、意味などない。

それに、千冬は知らないのだ。

牙狼の好意がなんなのか。

 

 

 

その体を存分に傷つけて、流れる血を舐めて……顔が苦痛にゆがむのを見たい

 

 

 

牙狼のそれは、エム……マドカの自傷行為の時にフッと現れていた。

同じ顔で、魅力あふれるそんな女で……あの、顔を見て。

今も、千冬がそうして傷つく姿に奮えそうだろう。

もしかしたら、弟である一夏を傷つければ、同じような顔になるのだろうかと……

だが、牙狼は女性としても千冬のことを好きなのは理解していた。

司にも向けてくれるそれは……

 

「牙狼を好きな女性って意外に多いの」

 

「……」

 

「男性操縦者、とかそういうのじゃない……牙狼をみんな認めてるから」

 

作戦を行動するのは、何もスコールたちばかりではない。

他のISを使う女性たちと組むことだってある。

その中で、新入りでも牙狼は……ただただ、戦い続けていた。

もちろん、千冬にはわからないだろう。

しかし彼女も、自身が好意を抱いている男が他で見知らぬ女と一緒にいることを考えると……

 

(ふっ……私も、この司と変わらないではないか)

 

顔には出ていないが、司は千冬の感じに満足したのか……微笑を浮かべる。

やはり、千冬のことはまた別の問題らしい。

 

「つ、司……だっけ」

 

「……狼牙、まだ思いだしてないんだ」

 

「!?」

 

「まあしょうがないよね……牙狼だって、あの事件後にやっと思いだしてくれたんだし」

 

その言葉の意味。

狼牙は、最近断片的に過去のことを思いだしてきている……だが同時に、簪や真耶に対しても。

何か自身の、抑えきれない感情があふれ出してきていた。

 

「司、兄さんは」

 

「今の貴方が牙狼のことを言う資格はないよ?」

 

「なっ」

 

あまりの言葉に、狼牙は反論しようとしたが……司の、冷めた視線。

その眼は、ジッと狼牙を捉えたまま口を開く。

 

「狼牙……牙狼が、どれだけ、どれだけ護ってくれてたのか知らないの?」

 

「……」

 

「貴方を、いつもかばってたのは誰?」

 

 

 

貴方を人殺しにさせなかったのは誰?

 

 

 

「……笑わせないで。貴方は今も陽の当たる場所にいるじゃない?」

 

「そ、それは」

 

「うん、違うよ……それも悪いことじゃないって。でもね、私は認めれないかな……」

 

司の笑顔。

だが、その目は笑ってはいない。

 

「牙狼の傷見たでしょ? あれは、どうして出来たの?……自分を犠牲にしてまで、狼牙にできるの?」

 

「!?」

 

「そんな勇気もない、ましてやぬるま湯に浸かってる様な、死を恐れてでも前に出ること出来るの?」

 

「……」

 

「軟弱者……貴方に誰が守れるのか、笑っちゃうね」

 

牙狼の傷。

あれは自分達を護る為にできたものだと、あの事件に遭遇したメンバーはよく知っている。

絶望的な状況で、動くことができる牙狼の強さも。

だから……こうして敵にまわった時、その恐ろしさが理解できた。

 

「でも、今度の戦いで見直したよ……軟弱者は、取り消す」

 

「司……僕は」

 

「いいの、双子と言っても違うんだし……でもね、狼牙」

 

 

 

たとえIS学園が、世界が敵になっても

 

貴方は牙狼の味方でいてほしいな

 

 

 

「……」

 

司の言葉に、狼牙は何も言えなかった。

兄については、一番自分が知っていると……それは、間違いだ。

彼女の方が、何倍も兄を慕って……知らない面を、よく知っていると。

 

「兄さんは、戦い続けているの?」

 

「うん……でもね、牙狼は」

 

「司」

 

と、その声を遮るように牙狼の声。

どうやら楯無との話も終わったのか、こちらに来ている。

司も……口を閉じ、車椅子を牙狼の方へ。

もう話も終わりだろう……そう思い、司はすでに帰る準備に入っていると

 

「牙狼!」

 

突如響く声。

バッとそちらを見れば

 

「一夏、箒、セシリア、鈴音、シャル、ラウラ……確か、妹さんだっけ」

 

一年の専用機組。

楯無の妹までいる事態に、牙狼は驚き……いや、千冬達もだ。

 

「お、お前らなぜ」

 

「狼牙も山田先生も楯無さんも千冬姉もっ! なんで俺たちに黙っていたんだよ!」

 

どうやら、妙に様子がおかしいのを感づかれていたのか。

狼牙の態度から、彼らは何か妙だと思っていたらしい。

そうしてこっそりついて来てみれば……案の定だった。

 

「……お姉ちゃん」

 

「簪、ちゃん……」

 

タタッと一夏達は走ってきて、千冬達の方へ。

簪は……そのまま、楯無の隣に来ていた。

 

「へえ……こうして会うのははじめまして、かな。更識 簪さん」

 

「っ!?……狼牙?」

 

やはり、彼女は知らないようだ。

しかし雰囲気が狼牙と明らかに、そして何より……対峙した感じが。

 

「狼牙の、お兄さん……あの、黒いIS」

 

「あの時はどうも……会長さん、だから睨まないでくださいよ」

 

バッと簪をかばうように立つ……楯無と狼牙。

真耶はその狼牙に少し、口を歪ませていたが……牙狼にはしっかり見えていた。

 

(……なるほど、やるな狼牙)

 

色々向こうも複雑らしい。

苦笑している牙狼に、一夏は声を出す。

 

「牙狼てめえっ……なんで千冬姉達と!」

 

「うるさいなあ、きゃんきゃん吠えないでよ………………失敗作が」

 

「えっ?」

 

声を荒げる一夏とは対照的に、冷めた声の司。

その声は先ほどのものは明らかに違う。

失敗作、と言われた一夏は……ぽかんとする。

そして何より……司と初めて会うであろう、箒は……目を見開いていた。

 

「姉、さん?」

 

「君は箒ちゃん、だっけ……残念だけど、私は貴方の姉じゃないのであしからず~」

 

「!?」

 

さっきの冷たい声とは違う。

姉の束と声もそっくりだが、感じられるものは束とは違う。

何より、自分に対して向けている感情が……赤の他人、という感じだ。

 

「今のはどういう」

 

「一夏」

 

司の言葉に反応した一夏が、問い詰めようとし……その前に、牙狼が。

牙狼と一夏の背丈はほとんど同じ、同じなのだが

 

「一夏……ちょうどいいから聞いておきたい。お前は今、この世界をどう思っている?」

 

「!?」

 

一夏は目の前にいる牙狼。

その、眼に……闇を見た。

何もないように感じたのだ。

そうして、自分の体が後ずさっているのに気付かなかった。

 

「俺は、ISが憎い」

 

「えっ」

 

「ISがなければ、いや……俺は、そこから狂った」

 

一夏へ、牙狼は言葉を吐き続ける。

それは、初めてみる牙狼の姿。

 

「俺は白式が憎いんだ……キバも、白式が嫌いだってよ……いや、正確には白い騎士の方かもな」

 

「!?」

 

「俺と狼牙のコア」

 

「?」

 

突然牙狼は、そうつぶやく。

その眼は一夏を捕らえたまま……

 

「なんで、コアネットワークに接続されないか知ってるか?」

 

「……それは、試作だからじゃ」

 

「違う……あれらは、コアに近い何かだからさ。そして……亡国機業は、ただ世界を混乱させるために動いているわけじゃないよ」

 

その言葉に、全員が驚きの顔になる。

確かに性能はコアそのものだが……楯無が、口を開く。

 

「あの組織は、確かに謎が多いけど……一番気になるのは牙狼君、キバが紅椿の技を使えるのはなぜ?」

 

「使える……違います、キバが受け継いでいたからですよ」

 

「?」

 

意味がわからない。

だが、それ以上話す気はない様だ。

 

「まあ、今俺はそこまで自由じゃないからね」

 

「……監視がある様には見えんぞ?」

 

千冬の言葉に、牙狼は苦笑する。

 

「出歩くときは必ず、亡国機業の女性と行動しないといけないので」

 

「今回は私だけどねえ……色々、相方が女性じゃないと煩い奴らがいるの」

 

「煩い奴ら? いったい誰なのですか?」

 

セシリアが尋ねる様に聞く。

それに、牙狼は……ため息をつく。

 

「女性権利団体」

 

その言葉に、その場の者たち全員が理解した。

表では出てこないが、IS学園でもたびたび耳にする言葉。

過激派が多いと言われる、女尊男卑思考の典型的な集団。

近年、その活動が……正確にはISを男性が扱えることが判明後、活発になっていると。

 

「牙狼、君は……まさか」

 

シャルが牙狼の方へ歩み寄る。

その顔は、正直……悲しみが入っている。

その歩みを司が止め、忌々しそうに喋り出す。

 

「千冬さん、学園では牙狼が長期入院ってことになってるでしょ?」

 

司が牙狼の声を遮るように言う。

千冬は司に対し、頷いたのだが

 

「ちょっと牙狼の偽入院情報を流してみたら、その入院先で夜襲撃があったみたい」

 

「!?」

 

「あいつら、いい加減にしないと私も本気で怒るよ……牙狼の居場所をしらみつぶしに探ってるし」

 

女性権利団体の情報は、思ったより深い。

あらゆるところに端末があるのか……IS学園を離れたとされる、牙狼が真っ先に狙われていると。

その、裏で密かに行われている攻防に……一夏だけでなく、他の学生らも言葉がない。

 

「っと、話し過ぎたかな」

 

司が口を紡ぐ。

しかし、牙狼は……目を閉じ、何も言わなかった。

 

「牙狼、お前……俺達とは別で」

 

「兄さん、まさかずっとそいつらとも戦っているの? 僕らの分まで!?」

 

「……さあな」

 

牙狼は答えない。

しかし、男性である一夏と狼牙。

二人からすれば、牙狼が今何を考えているのか……あまり、想像したくないようだ。

他の女性陣も、裏の事情に……楯無も、目を細めていた。

 

「もっとも」

 

「?」

 

牙狼は、その顔にある×字の傷を撫でながら……嗤う。

 

 

 

「いまさら、一人二人関係ないよな……人を殺すなんてさ」

 

「!?」

 

 

 

その言葉に真っ先に反応した狼牙。

飛び出し、牙狼の胸倉をつかむ。

 

「兄さんっ! それは、それは!」

 

「……狼牙、過去には戻れるけどよ。俺はもう戻る気はない」

 

「っ!?……でも、そんなの!」

 

その意味を知っている狼牙。

自身らの両親のことで……牙狼は、狼牙の手を振り払う。

牙狼は……他の面々が向けてくる視線に、背を向けた。

 

背を向けた、その行動の意味

 

その声がとても辛く、悲しそうな声だと皆気付いている。

あの千冬までもが握り拳を作り……顔をゆがめていることに、牙狼は少し泣きそうな、嬉しそうな顔をする。

 

「牙狼……もう時間がないよ」

 

「……みんな」

 

司は何かを確認し、牙狼に告げる。

それを聞いた牙狼は……口を開く。

 

 

 

「幽霊に、気を付けろよ」

 

 

 

そう言い残し、司の車椅子を押しながら……公園を歩いて行く。。

その後ろ姿に全員が持っていた……連れ戻そうと言う、そんな気持ちはすでになかった。

千冬は、目を閉じ……楯無が口元に手を置いていた。

 

(幽霊……どこかで)

 

牙狼の言葉。

そして、その意味を……今はまだ。

 

「牙狼」

 

静かに、しかし強く。

周囲に響く。

牙狼の歩みが、止まる。

 

 

 

「私は待っている、いつも……待っている」

 

「……そこまで上がれたら、いずれ」

 

 

 

千冬は、牙狼に対してはっきり言ったつもりだった。

牙狼はそんな彼女に、ただ……そう返した。

こうしてIS学園での襲撃事件は幕を閉じる……しかし、幽霊は確実に。

存在を許さず、近くに迫っていた。

 

「ねえ、牙狼」

 

「なんだ?」

 

牙狼と司。

二人は、夕焼けに染まる街を二人で移動しながら喋っている。

司の乗る車椅子を牙狼が押して、だが。

 

「帰りたいの?」

 

「……ああ、そりゃそうだ」

 

「よかった、もし帰りたくないなんて言ったら殴ってる」

 

「そっか……やっぱお前も、いい女だよ」

 

「……ありがと」

 

そうして、二人の前に一台のワゴンが止まる。

ウインドウからスコールが手を振っている。

すると後部のドアが開き、そこにいたのは……いい笑顔のエム。

どうやら、青筋まであり……牙狼は言い訳を考え始め、司は笑みを浮かべていた。




本格的に「幽霊」の介入が始まる第四十話。
牙狼、そして司の言葉の意味。
そして亡国機業の狙いとは。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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