騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第四十一話:銀の狼と闇の狼

白と紅。

二つがぶつかり、砕けていく。

代わるのは銀と金、そして……闇の中へ消えていく。

その二つもぶつかり……消えた。

 

ぱあぁんっ

 

何かが弾ける音に、狼牙は目を覚ます。

時刻は……まだ朝になりかけ。

どうせまた一夏関係だろうと、無視することにしたようだ。

 

「んっ」

 

軽く身体を伸ばす。

しかし、気分はあまり良くない。

 

(なんだろう、あの夢)

 

ぶつかりあう何かがいた。

消えた後、再び別の何かがぶつかりあっていた。

よく、見えなかったが……

 

(最近、疲れてんのかな)

 

自身の左手中指にある待機状態のゼロを見て、そう思う。

兄である牙狼との接触後、全員が黙っていた。

牙狼はIS学園を離れても一人、戦い続けている。

それが正義であれ悪であれ……男である一夏と狼牙には、辛かった。

 

(兄さん……)

 

シンクロの返事は、いまだにかえってこない。

なので、今は自身の出来ることを続けると。

狼牙はひとまず、顔を洗ってから考えることにした。

だが……何故か今日は一夏の不幸が続く日らしく

 

「どんまい」

 

「……」

 

沈んでいる一夏。

それを慰めている狼牙……何故か体操服姿。

実は、一夏が身体測定の体位係なのだと……付け加えると、男女両方分。

例の会長さんの高笑いが聞こえる気がした狼牙だった。

なので今は一人しかいない狼牙の分をやっており、一夏の分は……後回しになる。

 

「なあ狼牙」

 

「だめです!」

 

「ってわけだ」

 

一夏の言葉を遮るように、記録係りの真耶が言う。

今回、狼牙のことで何気に一番反対していたのが彼女だとか……

 

「ほら、やっぱ男の僕がするのはおかしいだろ?」

 

「俺は!?」

 

「……ふっ」

 

「鼻で笑われたっ!?」

 

一人称が僕になった……いや、戻した狼牙は。

以前と違い、雰囲気が変わったようにも見えた。

 

「安心しろ一夏」

 

「狼牙?」

 

「ほんのちょっと、そうちょっとだけ……耐えろ」

 

「何をだっ!?」

 

二人の漫才に似た何かを見ながら、千冬はため息。

真耶は……一夏でよかった、という感じの安心顔である。

そうして狼牙は、一夏を千冬に任せ……教室外へ。

 

「ろーくん、準備はできたの~?」

 

「ああ、みんな入ってくれ……しかし一夏の幸せ者め」

 

「もうっ、狼牙君ったら!」

 

本音の声に、狼牙は苦笑しつつ返した。

しかし、実は一夏ほどではないが狼牙も人気がある。

双子というだけでも話題だが、数少ない男性操縦者であり……セカンドシフトに至ったISを持つ。

性格も悪くないし、何より顔だってイケメンではないが普通だ。

成績と身体能力は一夏より上な面もあり、どっちかというと先輩方に人気だとか。

 

「狼牙、本当に……一夏がやるのか?」

 

「……僕の案もあったらしいが、山田先生も反対だったみたいだし。見られるかもしれないから普通嫌だろ?」

 

箒がおそるおそる聞いてくる。

狼牙はそんな彼女に笑って返したのだが

 

「……む、むう。確かにそうかもしれませんが」

 

「でも、別に狼牙でもそこまでは思わない、かな」

 

「私は狼牙でも別にかまわん……お前は信頼できる」

 

意外にも、一夏が好きな彼女達はそこまで考えてないらしい。

狼牙は……そんな彼女たちに手を振る。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕は男だからさすがに遠慮するなあ」

 

「……そこが、一夏と狼牙の違いだな。ちゃんとわかっている」

 

「箒、そう言うなって。まあ今回は、一夏に頑張ってもらうさ……それじゃお先」

 

惨劇が起こる前に逃げる。

狼牙が、IS学園で最初に学んだ……大切なことである。

教室から離れ、狼牙は一人で歩く。

しばらく騒動が続く、そんな未来を予想したからだ。

 

(一夏もなあ……)

 

全員に対し、何かしら感じているのは間違いない。

だからこそ狼牙は、必要以上に言わなかった。

 

(早く選べよ……僕も、人のこと言えないけど)

 

真耶と簪。

狼牙が、はっきり好意を寄せているといえる女性。

だが……二人とも、好きだといえるわけがない。

向こうもそれを知っているのだろう。

 

(ちぇっ……僕も、ダメだよな)

 

軽い自己嫌悪に陥りながら、狼牙は一人で一年一組に入る。

がらんとしたここで、しばらく待っていることになる。

そうして待ち続けると少しずつクラスメイトが戻り……専用機組だけ、帰ってこなかったが。

 

(やれやれ)

 

あきれながらも、狼牙は無視することに。

 

「狼牙」

 

「あ、織斑先生……」

 

「織斑がしばらく使えん、他の馬鹿どももだ」

 

「厳しいですね」

 

言い方はあれだが、千冬も相当あきれている。

まあ……いつものことといえば、そうだが。

 

「なので、貴様が代わりに資料などの運び出しを手伝え」

 

「え~……なんでもございません」

 

千冬の一睨みとちらっと見えた出席簿ですぐに対応する。

狼牙はそのまま、職員室へ逃げるように行き……そこの教師たちから指示をもらい、資料などの運び出しを手伝った。

そんな感じで一日は過ぎていき、一夏は保健室で休んでいたようで……まあ、あちらもいずれ決着がつくだろう。

そうして数日が経ち、今日は全一学年合同でのIS実習。

グラウンドには、一学年全員がおり……狼牙は、こうしてみると一年も相当いると感じていた。

 

と、簪と目があい……狼牙は軽く手を振る

 

彼女は顔を赤め、上目遣いになりそっぽを向いてしまった。

それを見ていた他の四組生徒が簪に色々言っているようだが……

 

「静かにしろ」

 

千冬の一声で全員がだまった。

さすがの貫録としか言えない。

 

「織斑、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識! 前に出ろ!」

 

と、千冬は急に専用機持ちたちを呼び出す。

その中に狼牙の名がないので全員が訝しんでいたが

 

「先日の襲撃事件で、狼牙を除く全員のISはすべて深刻なダメージを負っている。自己修復のため、当分の間ISの使用を禁止する」

 

全員、それについては承知していたのかすぐに返事をする。

狼牙は少し違うが、すでに調査もあらかた終え……政府からはこちらに任せるといわれている。

なので狼牙の使用は問題がないようだ。

 

「さて、そこでだが……山田先生」

 

「はい! みなさんこちらに注目してください!」

 

そう言われ真耶のほうを見れば、何やらコンテナのようなものが複数。

最初からおいてあったものなので全員が気になっていたものだ。

 

「なんだろ、あれ?」

 

「もしかして新しいIS?」

 

「でもISなら普通ハンガーでしょ?」

 

「じゃあじゃあ、新しいお菓子かなあ~ろー君はどう思う!?」

 

「……いや、なんでお菓子なのかな、布仏さん」

 

狼牙は一組から集中され、とどまいながらもこたえる。

それを千冬は……見逃さなかった。

 

「静かに! お前たちはまったく……山田先生」

 

「はい! それでは、オープン・セサミ!」

 

真耶が何やら呪文のようなものを唱えた。

一年が全員黙ったままなので、何やら真耶はショックを受けている。

 

「世代差って残酷です……」

 

(可愛いな……)

 

涙ぐむ真耶にそんなことを考えている狼牙。

と、簪がジト目で狼牙をいつのまにか見ている。

 

(……ああいう簪も、いいなあ)

 

だが、プイッとそっぽを向かれる。

狼牙は苦笑しつつ、コンテナの中を見た。

現れたのは、金属の塊みたいな……重機にも見える、何か。

 

「こ、これは……なんですか?」

 

一夏がそういい、千冬にはたかれた。

アーマーにも見えるそれは、狼牙も覚えがある。

 

「確か……EOS」

 

「むっ、狼牙は知っているようだな」

 

「あ、はい……政府のほうで、最近知りました」

 

狼牙のわずかなつぶやきですら見逃さない。

恐ろしいと思えるが、今回はお咎めなしらしい。

 

「そうだな、あと知っているのは……ボーデヴィッヒだな。ちょうどいい、二人で説明をしてみろ」

 

ラウラは狼牙に視線を向け、狼牙が自身をトントンと指で示していたのでうなずく。

 

「これは国連で開発中の外骨格攻性機動装甲【EOS】……Extended Operation Seekerの略です」

 

「使用用途は主に災害時の救助活動、平和維持活動などで、様々な運用を想定しています」

 

狼牙の後にラウラが答える。

千冬は二人の言葉に頷き、OKを出していた。

 

「うむ、今の二人の言うとおりだ……貴様らもこの二人のように、IS以外もよく学べ」

 

どうやら回答は間違っていなかったらしい。

ラウラを見ると、向こうが視線に気づいたのか狼牙のサムズアップに、微笑を返してくれた。

しかし、何故EOSがあるのか。

その理由は……どうも専用機持ちらに使わせ、その実稼働データの提出だとか。

 

「……うへえ」

 

狼牙も、あれとは違うが似たようなものを使ったことがある。

IS学園に来る前にだが、ISがいかに優れているかを知るために乗らされていたのだ。

と、そんなこんなをしているうちにEOSを動かすことになったのだが

 

「更識、今は貴様の分までEOSがない。今回は織斑たちが出す実稼働データの解析にまわれ」

 

「は、はい……あ、あの。ろ……不動君は?」

 

「……名前で言ってもよかろう? それを気にするものはいない」

 

千冬はいつになくやさしい声でそう言う。

簪はビクッとしながらも、少し緊張がなくなったようだ。

 

「わかりました……狼牙はどうするのですか?」

 

「あいつは他の訓練機たちのほうで指導に回らせる……山田君」

 

「わかりました、狼牙君はこちらでお願いをします」

 

ひょこっと出てきた真耶。

簪は……狼牙と一緒でなく少し残念そうだが、真耶もそんな気はなさそうだ。

さすがに、授業中に公私混同はしない。

 

「更識さん、頑張ってください!」

 

「あ、はい……山田先生」

 

彼女の笑みに、簪もつられて笑みになる。

そんな二人に千冬は……何も言わなかった。

 

「はーい。皆さんはグループを作って訓練機の模擬戦を始めますよー。格納庫から運んできてくださいね」

 

「えー」

 

真耶の言葉に、不満げな声。

だがそれらも千冬の一睨みで黙り……

 

「狼牙君も、お願いします」

 

「わかりました……じゃあみんな、頑張れ」

 

「ああ」

 

一夏が少し頼りない声を出す。

狼牙はそれを聞き……ぼそっと、告げる。

 

「それと、下敷きにならないようにな」

 

「なんだと!?」

 

不吉な言葉を残し、狼牙は専用機組達から離れる。

と、もたついている彼らを千冬は出席簿ではたき作業をせかした。

狼牙は……他の一年に混じり、まずは訓練機を準備することに。

 

「では、グループ分けを」

 

「先生! 不動君と一緒がいいです!」

 

「私も私も!」

 

一斉に、数人の女子らが言い始める。

いきなりのことなので、真耶は顔をあちこちに動かしているが……

 

「え~と……組み分けって、決まってるんじゃないですか?」

 

狼牙は慌てる真耶に助け舟を出す。

すると彼女は、はっとした顔で

 

「そ、そうです! だから出席番号順に」

 

「でも、今日はクラスごとですからね……もしよければ、僕も各クラスを回りましょうか?」

 

「えっ?」

 

「先生一人じゃ、一学年全部を見るわけにいきませんし……」

 

訓練機はそこまで数があるわけでもない。

ましてや、今日は一学年全員が参加なのだ……真耶一人では厳しい。

真耶は狼牙の申し出に……甘えることにする。

 

「で、ではお願いします」

 

「わかりました」

 

狼牙は、真耶とは別で動くことになる。

そうして……訓練機と模擬戦を行っていくことに。

 

「それでは始めましょうか」

 

「はい」

 

真耶の言葉に左手中指にある指輪が光り、狼牙がISを纏う。

その姿は、以前の鬼のような姿から一転し……銀の狼。

ゼロと名を変え、その銀の身体をさらしていた。

専用機を持っていない者たちも、その……ゼロの姿に、綺麗と。

全身装甲のため狼牙の生身などは見えないが、やはり感じるものがあるようだ。

 

「そ、それじゃあ……お願いします」

 

「ああ」

 

目の前に訓練機である打鉄を纏った同級生。

しかし、狼牙には見覚えのある子だった。

彼女は確か四組の生徒……そう、タッグマッチのために簪を誘いに行った時、狼牙が最初に話しかけた子である。

 

「それと、あの時はありがとう」

 

「え?」

 

「簪のことでさ……君が教えてくれて、僕は簪と戦うことができたから」

 

突然の狼牙の言葉に、驚いたような顔。

だが、すぐ笑顔になる。

 

「覚えててくれたんだ……こちらもありがとう、かな。更識さん、クラスのみんなと前よりお話しする様になってくれたから」

 

「そっか……じゃ、飛ぶよ!」

 

そう言い、二人は飛翔する。

狼牙としてもゼロの調整を兼ねてのものだが、専用機相手の彼女は……追いつこうと必死だ。

今回、模擬戦とはいっても武器は刀か素手のみにしてある。

打鉄の彼女が刀でゼロに斬りかかる中、狼牙は……銀狼剣を左右に呼び出し、受けとめた。

 

(やはりっ)

 

以前と違う武装。

さらに双剣など扱ったことのない狼牙。

受け流すにも、完璧にはいかない。

 

「はぁっ!」

 

続けざまに彼女は迫ってくる。

狼牙は元々近接戦闘メインなのでもってこいなのだが……今、ゼロを動かすことに集中していた。

各装甲の下にあるスラスターが小刻みに動き続ける。

 

(しかし、動きははっきりわかる……身体も、軽い!)

 

以前の様なけだるさもなく、何よりゼロが一緒に戦ってくれている……ような感じだった。

おかしな表現だが、一人で戦っているような気がしないのだ。

 

「……そこだっ!」

 

「うっ」

 

ゼロの左の剣が打鉄の刀を受け……その刃を流す。

火花を散らし刀がそれた瞬間、狼牙が右の剣で打鉄の首筋に刃をそわせた。

 

「あっ……負けた~」

 

「ふう……結構鋭い斬り込みだよ」

 

「うう、負けてるのに……」

 

そんな彼女に苦笑しながら、二人は地上へ。

と……気付けば、他の生徒達が皆狼牙の方へ。

 

「ねえねえ不動君! 今度は私と戦って!」

 

「いいでしょ? いいよね!」

 

「他にも技とかあるんでしょ! 見せてほしいな!」

 

「うっ、いや……その」

 

どうやら彼女達は狼牙のISがセカンドシフトしたことで、どれだけ変わったか興味があるようだ。

一夏と違う意味で女性の対応に狼牙は困っているのだが……

 

「皆さん! 不動君はじきに回りますから! グループを守ってください!」

 

と、いきなり声が響く。

全員がそちらを向くと……真耶がラファールを纏い、腰に手を当てながら叫んでいた。

 

 

 

しかも、若干眼を細めているのだ

 

 

 

そんな真耶の、見慣れぬ覇気に押されたのか……彼女らは自分のグループへ。

狼牙は、さすが教師……と、感心してたが

 

本命は、真耶の背後に笑顔の千冬がいたことが一番の原因だったらしい

 

すぐに気付いた彼女らはさすがである。

真耶も全員が元のグループに戻ったのを確認し……何やら不機嫌そうな顔。

 

「や、山田先生?」

 

「むっ……不動君も、みんなと楽しそうでいいですね」

 

「え?……まあ、僕としても助かっていまして」

 

「そうですかっ!」

 

彼女はプイッと顔をそむけ……どうやら一夏達の方も終わっていたらしい。

今、コンテナにEOSを収納する最中だったようだ。

狼牙は、声をかけれる雰囲気ではないと判断し……

 

「狼牙」

 

「簪?」

 

いつの間にか、後ろにデータを集め終えたのか簪がいる。

しかし……顔は無表情だ。

いつもの彼女に見えなくもないが、それでも少し違うような気もする。

 

「な、なに?」

 

「ばか」

 

「え」

 

「狼牙のばか」

 

それだけ言い、彼女も一夏たちのほうへもどっていく。

残された狼牙は……仕方なく、他の女子のもとへ戻っていった。

一夏たちのペイントまみれのかっこうは、忘れることにして……授業は、終わる。

 

コンテナを格納庫まで運ぶのは、一夏たちが頑張っていたのが印象的だった……生身で、だが。

 

そうして全員、それぞれ更衣室やシャワーに向かっていく。

狼牙は一夏と共に増設された男子更衣室へ。

 

「ふうっ……やっと落ちた」

 

「中々カラフルな一夏だったな」

 

「うっせえよ……狼牙、ISは順調そうだな」

 

「まあ、今のところは……ね」

 

男子二人だけ。

そのためか、声が止まればとたんに静まり返る。

 

「……一夏、お前は兄さんの言葉をどう思った?」

 

「正直……俺には分からねえ。あいつが正しいと思う自分がいる」

 

「そうか……実際、兄さんの行っているのは正しいのかもな」

 

自分らの知らないところで、もしかしたら今も戦っているのかと。

牙狼の行動は、別に世の男性のためというわけでもないだろう。

それに、略奪をおこなったりしている亡国機業が正しい、というのもおかしい。

だが……

 

 

 

「「本当の敵、か」」

 

 

 

二人が聞いた牙狼の言葉。

その意味するものがなんなのか……男性である二人にあてたものか、それとも。

 

「……一夏」

 

「ん?」

 

「もっと、強くなろうぜ」

 

「……ああ」

 

二人はシャワーを止め、ついたて越しに視線を合わせる。

彼らの意気込みが、牙狼との接触でさらに強いものとなっていた。

そうして再び女性陣と合流した男子二人。

 

「あ、悪いけど僕は少し……」

 

「ん? どうしたのよ?」

 

狼牙が急に一同から離れると。

今日は土曜なのでもう授業はないのだが

 

「少し……キバのデータを分析したいんだ」

 

「!?」

 

その言葉に、専用機もちたちは反応する。

思えば、この中で一番牙狼のIS「キバ」と接触してるのは狼牙だ。

なのでそのデータも、一番多いだろう。

 

「今までのデータを一度解析しようかなって」

 

「なら僕も付き合うよ」

 

「私もですわ」

 

すぐさまシャルとセシリアが名乗り出る。

いや……

 

「狼牙、水臭いぜ。ここにいる全員がキバと戦ってるんだしよ」

 

「一夏……簪は、いいのか?」

 

「……うん。私も、狼牙の力になりたいから」

 

やはり牙狼との接触で、全員の心構えが少し変化したようだ。

そして何より、あの牙狼を……友として、大切に思う気持ちがさらに強まったのだろう。

なんとしても牙狼を、止める気なのだ。

 

「じゃあ、みんなお願いするね……もう先生には許可をもらってるから、個室でやるよ」

 

そうして一同はHRを終え、解散後に再び集まる。

狼牙が事前に頼んでおいたシミュレータールームだ。

まず、狼牙は自身のISを表示する。

 

「僕のISである「ゼロ」……元は「覇鬼」がセカンドシフトにより至った姿」

 

銀の悪鬼が、狼へ。

そして最大の特徴は

 

「メイン武装は二つの剣である銀狼剣。そしてこれが、僕のISに発現したワンオフ・アビリティ」

 

モニターに表示されるのは、四文字の漢字。

 

 

 

【心滅獣身(しんめつじゅうしん)】

 

 

 

文字だけではよくわからない。

一夏は、そんな狼牙に質問する。

 

「狼牙……それは「ザ・ビースト」とは違うのか?」

 

「厳密には進化したんだ……この前の、アレだよ」

 

「っ!」

 

その意味を、簪が真っ先に理解した。

遅れて一夏も……いや、あの映像を見た者たちすべてが。

 

「……今は、大丈夫なのか?」

 

「ラウラの心配はありがたいけど、制御はできる。むしろ前のが未完成だったんだ」

 

ゼロの解析を進めれば、どうも心滅した姿はもっときれいな姿らしい。

巨体は変わらないが、姿は不規則でなく……巨大化した獣、のようなものみたいだ。

 

「心配いりませんわ、狼牙さん……またそうなったら、今度は私たちが止めてさしあげますわ」

 

「セシリア……ありがとう」

 

セシリアの言葉に、狼牙は恥ずかしそうに言う。

簪や真耶、そして一夏の言葉で自身はあの時戻ってこれた。

だからこそ……同じ過ちは、繰り返さない。

 

「で、これがキバ」

 

映し出されるのは、学園祭で現れたキバ。

剣から発せられる巨大なエネルギーが、アリーナへたたきつけられ大爆発を起こす。

 

「……すさまじい威力だな」

 

「キバに至る前の「牙」も収束系の攻撃があったから……それがさらに強力になったみたいだね」

 

「だが、あれほどの技なら消耗は相当なものではないか?」

 

ラウラがそう感じるのも無理はない。

あの爆発はかなりエネルギーを使用したはずである。

現にキバは毎回一度しかあの技を使用していない。

しかし

 

「これが、兄さんのキバにはある」

 

映像が切り替わる。

それは

 

「っ!?」

 

箒と簪が、息をのむ。

それは……キバに自身が首をつかまれ、身動きができなかった時の映像。

見れば紅椿と打鉄弐式のエネルギーが……キバへ、流れている。

 

「……おい、これ」

 

「キバは、相手のISからシールドエネルギーを奪うことができる」

 

狼牙の言葉に全員が黙る。

それが本当なら、ISが相手をすれば……

 

「へたすりゃ全部奪われておしまいってわけね」

 

「鈴音の言うとおりだけど、実際そう簡単じゃないと思う」

 

「そうだね……キバのそれは、確かに脅威だと思うけど」

 

相手も無抵抗ではない。

さらに映像から判断すれば、掴まなければエネルギーも奪われないようだった。

 

「……でも、一番の問題はこれ」

 

映像が、紅椿がキバに放り投げられた後。

箒が強制的にISを解除された目の前で……キバの両手首から、紅い剣が二本伸びたのだ。

 

「箒、これ」

 

一夏が目を見開く。

その理由は、全員すぐ理解できたのか……箒を見る。

箒は、顔をしかめ……口を開いた。

 

「ああ……紅椿の武装である「雨月」と「空我」……その二つだ」

 

「兄さんは、紅椿の技を独自にアレンジしたものを使っているみたいなんだ」

 

二対の紅の刃。

それがエネルギーを帯び……振り切られ、×字のエネルギーとなり壁を破壊していた。

壁はえぐられ、その後に爆発したのか跡形もない。

威力では、紅椿以上に見える。

 

「……じゃあ、もしかして」

 

簪が何か思ったのか、狼牙を見る。

その意味が狼牙と簪以外にはわからなかったが

 

「簪のISにも独自の武装があったんだ……でも、あれは簪がいてこそ使えるから」

 

「確か……マルチロックオン、だっけ?」

 

「うん」

 

シャルの言葉に簪は頷く。

しかし、紅椿と同じ状況だったから……ありえないことではない。

 

「兄さんではあれを使えないと思うけどね」

 

狼牙はさすがに、牙狼が簪ほどの能力を持っているとは思っていない。

なので、大丈夫だとは思うが……

 

「とりあえず、これらを見ていくとキバの……特性がわかってきた」

 

「……キバは、奪う」

 

「ああ……一夏の言うとおりだ」

 

牙狼のISは奪うことに特化している。

エネルギー、武装。

そして

 

 

 

【陰我吸囚(いんがきゅうしゅう)】

 

 

 

まだ狼牙しか知らない。

牙狼が、シンクロで伝えた……キバのワンオフ・アビリティ。

ISのコアを喰らうことが、できると。

 

(……でも、今まで兄さんは専用機のコアを奪おうとしたことがない)

 

今までチャンスはいくらでもあった。

しかし牙狼は、それらを行わなかった。

 

「しかし……牙狼は、かなり好戦的なのね。今までもそういう感じはしたけど」

 

「鈴音がそう思うのも仕方ないけど……兄さんは容赦ないから」

 

「……容赦しないのは、実戦慣れしている証拠だ」

 

ラウラが続くが、牙狼は……死を間近で経験した。

それも、今の彼を作る要因にもなったのだろう。

 

「でも、兄さんだけじゃない。僕らだってまだまだ強くなれるはずだ」

 

「……私も、まだ」

 

「簪の言うとおりだ……戦う前から気圧されては」

 

箒が簪の言葉に続く。

牙狼とキバは、戦えば戦うほど強くなっていく。

しかし、それは一夏や狼牙も……IS学園のメンバーもそのはずだ。

 

「呼びかけ続ける……拒否されても、僕は」

 

「俺たちも、同じだからな」

 

狼牙と一夏。

二人の男性操縦者は、握り拳を作り……キバを見た。

 

「「「……」」」

 

そして、部屋の外にいる三人の女性。

千冬に真耶、楯無。

 

「あの子たちも強くなりましたね」

 

「ふんっ……ひよこが少し、歩けるようになっただけだろうがな」

 

「織斑先生も手厳しい……私も、かんちゃんの成長に喜んでますよ」

 

そう言う千冬だが、その口元は確かに笑っている。

彼女らは彼女らで……戦いが、あるのだ。

 

「ところで、例の件なのですが……少し気になることが」

 

「更識、何かわかったのか?」

 

「世界各地で各方面軍の基地が襲撃を受け、情勢が不安定になっているようなのです。小規模な基地ばかりですが……」

 

「……テロ、とかそういったものでもないんですね?」

 

「山田先生、襲撃後基地は壊滅状態だと……敵はISでもない上に国を選ばず攻撃をしています」

 

楯無の報告。

そして、牙狼の残した幽霊という言葉……あの教会にあった、黒い髑髏のマーク。

 

「さらに、あのマークが残されていたと」

 

「……一番近い場所は?」

 

「アフリカから始まり、つい先日に東南アジアで……日本に近づいている感じかと」

 

「で、では……もしかして」

 

真耶の言葉に、千冬は目を細める。

正体不明の勢力。

やり方は、亡国機業のものでもない。

ならば、考えれるのは

 

「やはり新たな勢力か」

 

「……亡国機業との繋がりも見えず、おそらく二つの組織は協力関係では無いのかと」

 

「むしろ逆に敵対、というところか?」

 

「それもまだ……情報が、少なすぎるので」

 

楯無も、四方八方に手を尽くしている。

むろん千冬や真耶もだが……それでも、出てこないのだ。

 

「備えておく必要は、あるということか」

 

「……はい。それと織斑先生、白式のことですが」

 

「山田先生、その件では織斑を倉持技研へ向かわせることにした」

 

「わかりました、こちらでも伝えておきます」

 

そうして、三人も場所を変えることに。

人は変わっていく、そして時代も。

IS学園の知らない場所で、何かが動き出していた。

 




八巻内容に突入。
しかし一夏は本当にどうなるのか……狼牙、楯無には二人とも好きだといってるからなあw
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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