車から降りる男女。
そこにいるのは亡国機業の者たちである。
牙狼は司の車椅子を降ろす。
「司」
「うん」
牙狼は司を座席から抱き上げる。
そうしてゆっくり、車椅子の上に移乗した。
車椅子に乗った司はそのまま手元のコンソールを操作し、車椅子を浮遊させ……牙狼の隣につく。
この車椅子、色々機能があるとはいえ車の中ではさすがに使えないのだ
そのため乗り降りの時だけは牙狼などが介助しないといけない。
脚が動かない司には、いつもこうしてもらっているのだ。
「では、スコールさんたちはIS学園ですか」
「ええ……IS学園周辺ではもう他の方たちが動いてるようね。協力者からも情報が来ているわけだし」
「まあ、あたしたちも動くんだがな……あちらが意図的に色々流してくれたおかげで、お客は多そうだが」
「……ふん」
スコール、オータム、エム。
彼女らは今日は別件で行くらしいが……すでにIS学園のことは把握している。
もっとも、目的は別のようだが
「エム」
「わかっている」
「……ああ、気を付けて」
「本当にね……あの兎だけには」
牙狼と司はすでに聞いているのか、心配そうに声を出す。
もっとも、司の声は憎悪が混じっているのだが。
「大丈夫だ」
「……スコールさんも、オータムさんも、お気をつけて」
「何も戦いに行くんじゃないわ……大丈夫よ」
「心配するな、そのための保険は準備してあるからよ」
IS学園周辺にいるであろう、異変の元凶。
亡国機業はその元凶が誰につながっているかをすでに把握している。
「俺もするべきことをします」
「……ええ、貴方達も気を付けなさい」
「牙狼も無理ばかりするんじゃねえぞ?」
「はい」
年上二人に言われ、しっかり頷く牙狼。
エムは何も言わない。
と
「牙狼、司」
「ん?」
「なあに?」
今日は珍しく、エムの方から声をかけてきた。
なんだと思っていると
「お前も司も、帰ってくるよな?」
「何言ってる……エムを放っておけるかっての」
「あったりまえじゃん! 私がエムから離れるわけないよ~」
「……そうか。なら、いい」
それだけで満足したのか、エムは動き出す。
目的の場所はすでに決まっているが……
「まったく……エムったら」
「ははっ、まあ悪くないんじゃねえか?」
「……じゃあ、集合する場所はわかってるわね。後で会いましょう」
スコールとオータムも動き出す。
目的の場所、そして……接触のために。
「司」
「うん」
牙狼は司の車椅子が浮遊するのと同時に、キバをまとう。
そのまま二人はステルスを作動させ……宙に浮いた。
司の作り出した、新たなステルス装置。
束と同じ顔であり、やはり彼女も恐ろしい頭脳の持ち主だった
ステルスは現行のものを改良したものだが、これで周囲に溶け込むことは可能だ。
燃費が悪いのは玉に瑕だが、しょうがない。
「行くぞ」
「いざ倉持技研へ」
二人は青空に溶け込むように、倉持技研へ飛ぶ。
そこにいる一夏へ……一度、会うために。
そして場所は移り、IS学園。
狼牙は一人……探索をしながら、警戒を続けていた。
今現在、ここにいない一夏を除いた簪以外の一年の専用機持ちらは……なんと、電脳世界へダイブしたらしい。
だが狼牙はどこか、納得ができないままだった。
(電脳ダイブか……なら、それまで無防備な彼女らを守らないといけないけど)
停電した廊下を、狼牙はゼロを纏い歩く。
しかし電脳ダイブのことについての疑問は尽きない。
(なぜわざわざISから……もしかして、敵も似たようなことをしているから?)
だから、千冬はそういったのだろうか。
でもその場合、まるで相手を知っているような……
(……先生が、招いた? いや、むしろIS学園内に協力者?)
疑問は湧き出てくる。
それは、考えてはいけないことなのに。
(地下にある施設……まるで、僕がいた教会の地下施設みたいな)
と、狼牙はそこまで考え足を止める。
何か……いる。
(……見られてる?)
気配のようなものだろうか。
視線を感じるのだ。
だが姿はなく……自分以外に楯無も出ているはずだが
振り向きざまに左の剣をふるう。
そこに躊躇がなかったのは……今までの狼牙とは、違う。
だが、とらえた感触はない。
(……!?)
すぐさま何者かが攻撃をしてきた。
その手にある光を放った刃。
間違いなく手練れの者で……
「なっ」
そこにいたのは、人間ではない。
全身を武骨な装甲で覆われた……ISでもない、何か。
黒く染められ、頭部、胴体、腕部、脚部とすべてが装甲で覆われている。
頭部にあるスリット、そこに光る赤いモノアイ。
どこか、今まで襲撃してきたゴーレムにも似ているが
「ナンバー00、か」
「!?」
その存在は、手に持つ刀のようなものを手にはっきり喋った。
その声は男とも女ともつかぬ、合成のような声。
「IS……じゃない?」
「……ISを使う裏切り者がよく言う」
「?」
と、その相手……一時的に偽ゴーレムと呼ぶことにする。
偽ゴーレムは右腕をふるい……狼牙へ向けられた指の先が、空洞になっている。
狼牙は直感で横に跳び、先ほどまでいた場所を銃撃が襲った。
「ふっ……神に逆らう貴様は、排除だ」
「神、だと?」
その瞬間、目の前に迫る偽ゴーレム。
狼牙に、その左手……今度は先が尖り、熱を帯びているようだ。
貫手をかわすが、相手の速度は瞬時加速にも負けていない。
(ISでもないのに!?)
偽ゴーレムはその場で回るように姿勢を戻し、狼牙へ。
狼牙は銀狼剣を連結させ、鈴音とは違って……右手一つで掴み、向かっていく。
すぐに右からの貫手を弾くように狼牙は片方の刃で受け、その流れに沿って左の拳をふるう。
「……ふ、ふふ」
狼牙は、ゼロの中で静かに笑みを浮かべる。
今感じているこの感覚は。
(楽しい)
左拳が偽ゴーレムの腹部に当たり、へこませたようだ。
廊下を吹き飛びながら、偽ゴーレムは背から火を吹かせ……あれが先ほどの加速の一因らしい。
(いいぞ)
姿勢を戻したのか続けざま、偽ゴーレムは両手の先を向け銃撃をしてくる。
狼牙はその銃撃を飛び越えるように跳躍し、下へ向かい銀狼剣を振り切る。
切り裂く音ではなく、金属がはじける音。
「どうだっ!」
振り切られた剣。
それは確かに装甲を切り裂いた。
「……なるほど」
「くっ」
確かに切りつけたが、装甲が破壊されただけ。
その下に見える腕は、無傷のようである。
狼牙の目が、すでに濁った金の瞳に変わっているが……自身だけは、気づかない。
「初めに言っておこう、お前に我々は倒せない」
「!?」
「お前、いやお前たちの戦いが無駄だったと思う日がいずれ来る」
何を言っているのか。
目の前の偽ゴーレムは、言葉をつづける。
「そう……人がこの世界にいる限り、我々は消えない」
「お前は……」
狼牙が、いつのまにか剣をおろしている。
聞こえてくる言葉、それが狼牙から……戦意を奪っていくように。
「この世界でもISと渡り合える、これだけで十分だ」
「……この世界?」
「人にして人にあらず。それがお前の、お前たちの役目のはずだ……織斑一夏でも、ない」
なぜか一夏のことを言う偽ゴーレム。
だが、狼牙には気になることが他にもあった。
「役目?」
「ふっ、ISを超えることができるのはISのみである……なるほど、過去の言葉だ。現行の兵器を凌駕するのは、ISだけではない」
「……なんだと?」
「また会おう、裏切りの双子……実験、終了」
と、偽ゴーレムの全身の装甲が一斉にはじけ飛び爆発を起こす。
一瞬見えた相手は……顔を仮面のようなもので隠していたが、体つきから女性に見えた。
だが、爆発と閃光で視界は殺されてしまう。
すぐにハイパーセンサーが切り替わるが……すでに、誰もいない。
「……なん、だってんだ」
ISでもない存在。
そのISにも負けない機動性、防御力、攻撃力。
言っていたことは意味不明だが……あれは、どう見ても軍や民間のものには見えない。
(まさか……兄さんが言っていた?)
牙狼の言っていた言葉。
本当の敵。
さっき現れた存在が、それを指しているならば。
(こうも簡単に侵入している時点で、おかしい)
確かに今は非常時だ。
タイミングよく現れたのは……あの偽ゴーレムがハッキングしたのか、それとも別の勢力か。
だがもし、IS学園が裏でつながっているならば。
兄である牙狼はそれを、どこかで気づいているなら。
(……EOSが、ここに運ばれたのも)
なんとなくだが、先ほどの偽ゴーレムはISというよりEOSに近い印象がある。
千冬がデータを提出するよう求められていたと聞いたのだが……
(発展型を開発中とあった……まさか、もうすでに実用化されている?)
ISに代わる存在。
それは世界でもいまだに研究は続けられている。
現状でコアに限りがあるため、数はこれ以上増やせないからだ。
「……くそ」
訳が分からない。
何がどうなっているのか、何をすればいいのか。
「神、ってどういうことなんだよ」
その言葉を忘れるように、狼牙は進む。
爆発の影響で廊下が崩壊しかかっているが、ゼロのエネルギーは問題ない。
だが狼牙は、自身の胸の内にある疑心暗鬼に悩み……職員室へ。
「……先生方」
ロックされている戸を無理やり開けると、そこにいるのは他の女性教師たち。
彼女たちは一瞬身構えていたが……ISがゼロであると気付き、安堵の声を出す。
「一年の、不動君……よね?」
「はい。救助のために来ました……先ほど敵対するものがおり、撃破しましたが」
その言葉に一同はざわめくが、やはり教師たちは冷静に対処できるようだ。
現状の説明を頼むと
「……一般生徒は避難済み、と聞いてます」
「わかりました……先生方はどうしますか? 僕は楯無先輩と合流し地下へ向おうかと」
「そう……今の私たちでは君の足手まといね……ここに残る事にします」
「なら後で必ず迎えに来ます……では」
狼牙はそのまま身を翻し、すぐさま楯無の元へ。
だが、こことは別の場所にいる一夏。
彼は今、別の存在と遭遇していた。
「くっ」
「……」
倉持技研を飛び出していた一夏。
胸騒ぎ、そして何かに呼ばれるようにIS学園へ戻っていこうと。
だが……突如襲撃を受ける。
それはIS学園で戦闘中の狼牙の相手と、全く同じ
偽ゴーレム。
しかし、こちらは武装が違う。
両手にある巨大なブレードが、一夏に襲い掛かる。
瞬時加速に対応した動きをする相手であり、敵はISでもないと判断していた。
「お前っ!」
一夏は焦っていた。
こんなところで時間を食ってしまえば、IS学園の方へ行けない。
おまけに戦闘をすれば、どれだけエネルギーも被害も出るか。
一夏は……雪片弐型を出そうとし
「待てよ一夏」
「!?」
突如偽ゴーレムへ突撃する黒い物体。
それは偽ゴーレムを弾き飛ばし、その場でとどまる。
漆黒の機械馬と、漆黒の騎士。
「なっ……牙狼!?」
「ははっ、意外に早く会ったな」
「お、お前……じゃああいつは」
「違うぜ? こいつは俺も予想外だったよ……一夏」
と、牙狼は跨っている機械馬である雷剛から降りる。
雷剛はそのまま、一夏のもとへ。
「え?」
「つかえ……IS学園へ向かうよう雷剛には言ってある」
「な、なんで」
「お前がここにいると不都合なんだよ……まだ出番じゃないからさ」
牙狼はそう言い、キバの剣を偽ゴーレムへ向ける。
相手は、牙狼のISであるキバを確認し……ブレードを向けている。
「行け……雷剛のスピードなら白式より早く着く」
「……わかった、恩に着るぜ牙狼!」
「じゃあな」
一夏が雷剛にまたがる。
そしてキバが持っていたように手綱を握ると……雷剛は空を走るように、加速。
一気に姿が見えなくなり……牙狼は、仮面の下で口をゆがめた。
「さて」
牙狼は偽ゴーレムの方を向く。
向こうはすでに姿勢を戻していたが
「お前は、幽霊の一員だな?」
「……裏切りの双子め」
「亡国機業が陰で戦い続けてきた、組織……やっと出てきたってことか」
牙狼が知る幽霊とはなんなのか。
だが、やはり狼牙同様牙狼のことも知っているような口ぶりである。
「古より多くの国で暗躍し、戦争を……今回は、ISに対してか?」
「我らが神は、人を悪と呼ぶ。人は生まれ、戦いを欲し続けるのだ」
「……」
「過去も未来も同じだ……戦いの明日を、誰もが望んでいる。それをISが呼んでくれた! よく覚えておけ!」
そういい偽ゴーレムは宙に浮く。
背にあるバーニアだけではない……ISではない、その機体。
牙狼は手を出さず、そのまま見逃した。
今戦っても……意味はないのだから。
「完璧な気密……宇宙での活動を前提に作られているね、あれ。運動能力も人間のレベルじゃない」
「司……」
と、ステルスで身を隠していた司。
すでに雷剛の操作をやめており、向こうもIS学園に着いたのだろう。
浮遊した車椅子を、牙狼の隣につける。
「牙狼、あいつらはもう手を出しているよ……成層圏に」
「……成層圏を支配する者は、圧倒的に優位だからな」
「そうだね……そうやって、戦い続けているから」
司は、目を閉じる。
「奴らは倒せない……戦いが続く限り」
その意味を知る牙狼。
だからこそ、亡国機業は必要なのだ。
アウトローという立場で……ずっと、戦い続けるしかない。
「IS学園がどう出るかによって……俺たちも、決めないとな」
「でも福音は進化して戻ってくる……キバが手に入れたコアでね。あとは彼女次第だけど」
「司、あの人は必ず飛んでくれるさ……今度は、一緒に」
「……そして、千冬さん次第だね。あの兎も、動き出すと思うから」
「束博士、か」
牙狼はキバを解除し、司の手を握る。
今、狼牙は戦っているのだろう。
だが……牙狼は、待つのだ。
「一夏、狼牙……負けるなよ、幽霊に」
二人はその場から姿を消す。
IS学園での防衛線……一夏は間に合うのか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
新章から、タグにもありますが本格的に他のアニメの要素が入ってきます。
幽霊という言葉、でもしかしたら気づく方もいるかなと……