騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第四十四話:疑心暗鬼

牙狼から機械馬である雷剛を借りた一夏は、雷剛の高速移動によりすでにIS学園へ。

おかげでほとんどエネルギーを使うことなく……到着できる。

先ほど謎の敵の襲撃により少し時間を食ってしまったが、それも取り返せた。

 

(牙狼……でも、呼んでいるのは)

 

ずっと誰かが呼んでいる。

自分を、呼んでいると。

ならば行かなければならない。

 

 

 

(俺は織斑一夏なのだから)

 

 

 

雷剛の手綱を引き、IS学園内へ。

そして白式のセンサーがとらえたのは、学園の渡り廊下。

黒いアサルトスーツの男たちに運ばれていく楯無。

一夏は……叫ぶ。

 

「その人を……離せぇぇぇ!」

 

その声に応じたのか、雷剛がさらに加速。

一夏は雷剛から飛び降り、楯無を強奪するかのように抱き留め……地面を削りながら、荷電粒子砲を地面に向けた。

しかし……すでに男たちは、雷剛が中心から発したスパークにより地面に倒れている。

機械馬である雷剛は、ぶるるっとうなりながら……両腰から突き出ているユニットを戻す。

どうやら、あの部分はバリア発生だけでなくスパークも生み出せるようだ。

 

白式に被害が来ないよう……いや、むしろ楯無に当たらないよう雷剛が注意したのだろうか

 

雷剛は、どことなく自我があるように一夏は思っていた。

牙狼の愛馬のようだが、おそらく一夏を助けろと命令をされているのかもしれない。

 

「楯無さん!……楯無っ!」

 

強く一夏がいうと、彼女は薄ら目を開ける。

どうも意識がもうろうとしており、薬でも打たれたのだろうか。

彼女の出血を見た一夏が焦るが、楯無は……地下へ向かえと。

一夏はそんな彼女の言葉に従い、抱きかかえ廊下を駆ける……雷剛は、自分から着いてきた。

 

(くそっ! 何が一体どうなってるんだ!)

 

邪魔な隔壁などは破壊しながら進む。

余裕が無さそうな楯無を見れば、いつものような躊躇はそこにない。

 

「ここか!」

 

パネルを操作し、ドアを開ける。

中に入れば、そこには千冬と真耶……そして

 

 

 

千冬に刃を向けている、ゼロをまとった狼牙がいた

 

 

 

一夏がIS学園へ来る数分前。

探索をつづける狼牙は、先に偽ゴーレムを撃破したがまだいるかもしれないと捜索を続けていた。

ここら一帯を見ても、センサーには反応しないのだが……

 

(……地下)

 

すでに楯無が残りを倒したのか、静かすぎる。

もっとも……他から救援要請などもないのが気になる。

だが、狼牙は今もIS学園を信じきれないと。

 

(どうする……地下、行っても大丈夫なのか)

 

『あの女はいつもそうだ、必要なことを言わないから』

 

意を決し、狼牙は……地下へ。

ウインドウに示されていたポイントへ向かうが、やはりIS学園の存在は異常といえる。

 

(何がある……ここは、高校を隠れ蓑に何をしてる?)

 

『そう、いつもそうだった……だからやるべきことは一つ』

 

と、地下を行く狼牙にすら届く轟音。

それは先に見えるフロア……ISの反応もある。

 

「!?」

 

ゼロの背部に現れるブースターを吹かし、狼牙はそのフロアへ飛び込む。

そうして見えたのは……地に倒れ、おそらくISの絶対防御が発動したとみられる女性。

さらに、奥に見えるのは

 

「……山田先生?」

 

「!?……あ、狼牙君?」

 

「狼牙……来たか」

 

見慣れぬ重武装のIS。

いまだ回転をしている超大型ガトリングを四つ付けた……デカブツ。

 

「クアッド・ファランクス……」

 

最強の攻撃力。

それを得るために失くしたのは機動力。

しかし、拠点防衛に適した……まさに砲台だ。

千冬はISを使っていないのか、その身は対ショックスーツを身に着けている。

髪型も後ろで縛っており……どこか箒に近い感じだった。

そして何より

 

 

 

今の彼女は、素手のみ

 

 

 

狼牙はそう判断した。

しかし、奥の真耶はどうだろうか。

 

「……」

 

いまだに狼牙は二人に近寄らない。

二人が訝しげに狼牙を見ていると

 

瞬時加速と同時にゼロの双剣を、千冬の首筋へ向けた

 

その行動に真耶は反応していない。

しかし、千冬は目を細め

 

「何をしている?」

 

「……」

 

「はっ!? ろ、狼牙君!?」

 

千冬の声にも、狼牙はむしろ戦闘態勢を保ったまま。

いつでも、剣を振りぬける位置にいた。

そうすれば……今の千冬なら、倒せそうな位置だ。

 

しかし千冬は瞬時加速の勢いにすら押されず狼牙を見ている

 

動じていない。

視線もぶれず、震えすらない。

その眼はいまだに、狼牙を見ている。

 

「狼牙!」

 

と、背後からの声。

ゼロのハイパーセンサーがとらえるのは、楯無を抱き上げている一夏。

そして驚くことに……漆黒の機械馬である雷剛もいる。

 

「織斑、少し取り込んでいる。すぐにお前は他の専用機もちの救出へ迎え!」

 

「なっ……千冬姉!? 狼牙てめえっ! 何を」

 

「黙ってろ」

 

冷たい声。

普段聞いたことのないような、狼牙の声。

本気だと……その場にいる者たちは瞬時に悟れるほど。

 

(そうだ、この女は危険だ)

 

『ISを使いわざわざ危険なハッキングを行う理由がある』

 

狼牙の中では、千冬の存在が……鬱陶しい。

あの束博士が間違いなく、今までの事件で裏にいるはず。

それを一番知りながら……何より、一夏を優先しているように見える千冬。

 

(兄さんが言った意味は)

 

『牙狼がああなった理由もそうだ』

 

身内を大切にするのはわかる。

だが……巻き込まれた側は、たまったものではない。

それはどんなものであれ……

 

(いずれこの女のせいで、兄さんが不幸になる)

 

『だからお前は戦うのさ』

 

今もこれからも、千冬がいなければあんなことには。

狼牙は目を細め……首筋にあてた刃を引き抜くために

 

 

 

「狼牙君!」

 

「狼牙!」

 

 

 

同時に聞こえる、そして腕をつかまれる。

人の手、IS越しでも……何故か温かく感じた。

それは真耶と……奥から騒動を聞きつけ、駆け付けた簪の手。

二人が千冬へ向けられている双剣を持つ手を持っていた。

一夏より速く駆け付ける二人。

 

「狼牙! だめ……あの時みたいになっちゃだめ!」

 

「貴方は、貴方はそんなことをしてはだめです!」

 

二人から見れば、今の狼牙は……あの、変貌した時の姿に見えたのか。

雰囲気があの時の様子に似ていると。

そして目の前の千冬は、そんな二人に視線を向ける。

狼牙は……刃をどけた。

 

「……すみません」

 

謝る狼牙。

頭を下げるが、千冬は……手を出さない。

 

「……お前がそう思う心当たりは、あるだろうからな」

 

千冬はそれだけ言い、もう気にしていないように一夏の方へ。

 

「何をしている織斑! 更識と共にさっさと行け!」

 

「えっ……あ、でも」

 

「この私に口答えか?」

 

「うっ……わ、わかりました」

 

急いで奥へ向かう一夏。

そして……一度狼牙を見た簪も、すぐに顔を引き締め一夏のもとへ。

狼牙は、ISを解除する。

 

その眼はすでに戻っていたが……目は、いまだ疑いのものを持っている

 

千冬はそんな狼牙に対し、何も言わない。

真耶は一夏から楯無を任されたが、その傷は……すでにある程度適切な処置がされている。

大事には至らない、そう判断したようだ。

 

「……さて」

 

楯無は問題がないと思い、千冬は雷剛を見る。

雷剛はジッと、千冬の方を見たままだった。

 

「お前は……自我もあるようだな。ならば、私の言葉はわかるか?」

 

すると、雷剛は頷くしぐさをしたのだ。

話を聞くことはできるらしい。

 

「……ならば質問に答えてもらおう。一夏を助けたのは牙狼の指示か?」

 

雷剛は頷く。

それを聞いた千冬は、目を閉じる。

 

「そうか……」

 

そうして、狼牙の方をむく。

 

「狼牙、お前は私を疑っているのだな?」

 

「ええ……正直、EOSの時もですが」

 

「……ふ、ふふっ。やはりお前にも疑われてしまうか」

 

「まあ、聞いても教えてくれませんよね……」

 

聞いても、またはぐらかされてしまう。

それはいつものことだった。

 

「でも、今回の行動。そしてこの施設のこと……」

 

「何も言い訳はしない。だが、私はお前たち生徒を守る」

 

「……今は、その言葉を信じます」

 

それだけ言い、狼牙はこれ以上いう気になれなかった。

しかし千冬は雷剛の方を見て

 

「それでお前はいつまで黙っているのだ……牙狼?」

 

「「!?」」

 

その言葉に狼牙と真耶は驚いた顔になる。

 

『……はは、やっぱわかってたんですね』

 

「当然だ、馬鹿者……お前ならそうすると思ってな。友を見殺しにはしないだろう?』

 

『そうですか……といっても、これは通信なので』

 

雷剛から聞こえる牙狼の声。

牙狼はキバを纏い、離れた場所から雷剛を通し話している。

 

『それで千冬さん、二つ言いたいことが』

 

「ふむ……言ってみろ」

 

『司からの情報ですが学園から少し離れたカフェに迷子の仔猫がいます、ぜひ会った方がいいかと……怖い狼さんらもいますが』

 

「なるほど、それはぜひ会いに行こうか……もう一つは何だ?」

 

千冬の言葉に、少し黙る牙狼。

全員が訝しげに思っていると

 

 

 

『明後日の休み、俺とデートしてください』

 

 

 

そう言い放ったのである。

同時に、珍しく……千冬の顔から余裕が消える。

 

「……この非常時に面白い冗談だ」

 

『冗談ではありませんけど』

 

「……」

 

千冬の様子から、牙狼は場所と時刻を指定。

そうして千冬は黙ったままなので

 

『もしよろしければで構いませんので……じゃあ、これで失礼』

 

通信が切れた。

同時に、千冬が顔を右手で覆う。

 

「あの、大馬鹿者が」

 

「……兄さん?」

 

同じように狼牙があきれた声……いや、少し違うようだ。

真耶は……呆然とした顔。

 

「……山田先生、更識はどうだ?」

 

「え、あ……はい。現状で命に別状はないかと」

 

「そうか、私は少し出てくる……狼牙、貴様も来い」

 

千冬はそう言い放ち、狼牙を見る。

おそらく学園内の掃討及び……先ほど牙狼が話していた内容についてだろう。

狼牙は、さっきまで疑いを持っていたことなどすでにどうでもよくなっていた。

 

「そちらで倒れている女性は?」

 

「すでに無力化した、問題はない」

 

「そうですか……なら、行きましょう」

 

「うむ」

 

二人はそろって出口へ。

しかし、その後ろ姿をジッと雷剛が見ていた。

雷剛は蹄を鳴らし、真耶のそばへ。

 

「?」

 

真耶のそばで足を曲げ座りこみ、今度は周囲を見ている。

どうやら彼女たちのボディガードらしい。

漆黒の機械馬は、背に乗せる主の代わりにその場で周囲を警戒し続けていた。

 

「……未知の敵だと?」

 

「見た目は先日襲撃してきた無人ISに似てました……今回は無人でもなく、ISでもなかったですけど」

 

「しかし、多少はISとも渡り合えるか……」

 

千冬と狼牙は学園内を歩き、すでに楯無と一夏が遭遇した者たちを拘束する。

もっとも、雷剛の攻撃を喰らい気絶していたのだが……

 

「狼牙」

 

「?」

 

「お前は、狼牙だ……牙狼ではない、な」

 

「……似てきてますか?」

 

その言葉に、千冬は返さなかった。

狼牙もそれ以上は聞かなかった。

そうしているうちにシステムが復帰したのか、全ての隔壁が戻り電力も復旧したらしい。

 

「終わった、でいいんでしょうか?」

 

「いや……まだだな」

 

千冬はそう言い、すぐに戻ることになる。

そこには無事電脳世界から戻ってきた五人……一夏はまだらしい。

すぐにその体は医療施設へ移される。

しかし、今度は一夏をどうやって目覚めさせようかと躍起になっているようで

 

「簪、お疲れ様」

 

「ありがとう……狼牙、も」

 

「ああ……あっちはいつも通りだがな」

 

二人は呆れ顔で一夏関係で騒ぐ面々を見ている。

と……鈴音がシャルに対し放ったドロップキック。

それがかわされ、放たれた先にあるドアが開けられる……ドアを開けたのは、千冬。

 

「ほう」

 

これ以上は恐ろしくて狼牙と簪は目をそむけていた。

そして思う、墓に刻むのは何がいいかと。

 

惨劇は回避できないようだった

 

狼牙と簪は、そっと千冬の脇を通り抜け出ていく。

だが、その数秒後……断末魔が響いた。

その頃、牙狼は司と共に倉持技研のそばに来ていた。

 

「司」

 

「……白式のデータどころじゃないね、世界がまた動くよ」

 

空中に表示される投影型ディスプレイ。

浮遊車椅子は、束の持つ移動型のラボほどではない。

しかしハッキングから分析まで簡単に行えるものだ。

 

「でも遅すぎる……量産するのは、あっちの方が先」

 

「……ISの時代が終わるのか?」

 

「終わらないよ?……次の戦いに繋がるだけ。ISは、絶対じゃない」

 

映し出されるウインドウの一つに、先の偽ゴーレム。

しかし……複数のタイプがある。

 

「これだけ出てきているなら、亡国機業はもう……」

 

「まだ、終わってないさ……未来は、終わってない」

 

ギリッと、牙狼が歯をかみしめる。

そして司は振り返り、牙狼を見る。

 

「スコールは新しいコアと機体を欲しがってたけど、エムはあの兎と一緒に行くのかな? それならまた、状況は変わるけど……」

 

「ああ……サイレント・ゼフィルスはもう限界だ。エムのスペックについていけていない……だが、もしエムが兎を蹴るなら」

 

牙狼が、司がそれぞれで出したウインドウの一つに触れる。

そこにあるのは……

 

 

 

「サイレント・ゼフィルスの意志は、私が必ず受け継ぐよ」

 

「そして……福音は蘇る。今度こそ、一緒に飛ぶために」

 

 

 

二つの機体。

それは、希望を詰めた機体。

 

(……一夏、お前も決める時が来てるぜ)

 

「牙狼、私たちも行こう」

 

「ああ……?」

 

だが、司が何か変だった。

笑顔なのだが、妙に覇気が出ているというか……

 

「デートの件は、後でじっくり聞くから」

 

「……」

 

逃げ場はなさそうだ。

スコールたちと合流するまで、牙狼は生き延びることを優先する。

IS学園での戦いはひとまず終わりを迎え……千冬は、一人……動き出していた。




正月も終わり、人心地つきました。
皆様はどのようなお正月を過ごされましたでしょうか?
狼牙の中で、IS学園と千冬に対しての疑いは強まる一方。
そして千冬と牙狼のお話……はもう少し先になります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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