「月は出ているか?」
「は?」
「月は出ているかと聞いている!」
「……今日は曇り、しかもまだ朝だ牙狼。そして」
スパンっと、いい音を響かせる。
千冬の出席簿による一閃。
相変わらずのキレの良さである。
「ぐはっ!?」
「この私の前で寝るとはいい度胸をしている……そこは認めてやろう」
「マジで痛い……脳がいてえ~!」
頭を押さえながら叫ぶ牙狼。
周りからはため息と苦笑が聞こえてくる。
「まったく……続きをどうぞ、山田先生」
「あ、はい……牙狼君もいいですか?」
「すみませんでした」
頭を下げ、再びノートを取り出す牙狼。
牙狼と反対側の席にいる狼牙は……完全無視だった。
一夏が頬をかきながら、呆れているぐらいに。
そうして授業は進み、昼となる。
「さあってお待ちかねの昼休みだ」
「はあ……牙狼、お前という奴は」
箒はため息をしながら、苦笑している。
この前の模擬戦以降、ある程度仲が良くなったのか不動兄弟は一夏のグループと昼食をとるようになっていた。
もっとも、その最初の時はセシリアが自前の料理を二人に食べさせたため……惨劇が起きていたが。
「しかしまあ、あの人の授業で寝るなんてあんたも中々よねえ」
そう言いつつ、かつて頭に食らった部分を思い出すようにさするのは二組の代表である凰 鈴音だ。
不動兄弟のことは当日、すでに彼女にも伝わっていたようで……一夏の友達としても、仲良くなっていたようだ。
「でも、どうしてそんなに眠そうだったんだい?」
「シャル、男には秘密があるものなんだ」
「……そうなの、一夏?」
「えっ!? そこで俺に振るのか!?」
牙狼の答えに、シャルロットは一夏に振る。
女性陣の視線が一夏へむけられる中……
「お、これうまいな」
「むっ、負けるわけには」
狼牙は黙々と食べ続ける。
それに続くように、ラウラも……変なとこで張り合っていた。
「し、しかしどうして私の料理は」
「いやいやそれはね」
セシリアが言う前に、全員が手を横に振る。
今後はあの惨劇が来る前に、阻止することが決定事項らしい。
そうして雑談を繰り返しながら昼休みは過ぎていく……と
「あ、ようやく見つけたわ」
何事か聞こえ、数人の……リボンの色からして、上級生のようだ。
ちなみに、全員面識はないようで怪訝そうな顔。
つかつかとこちらに歩いてくるのだが
「悪いわね、邪魔するわ……貴方たちね、噂の双子」
「「俺?」」
やってきた上級生は、突然不動兄弟を見てそういう。
その反応を見ながら上級生は目を細め
「ちょっとそこまで、付き合いなさい」
そう言い放ったのだ。
しかし、どうも態度が人にものを頼むようには見えなく
「お、おいいきなり」
「いい一夏……俺と狼牙に何か?」
「ええそうよ、今すぐに……まだ昼休みだから構わないでしょう?」
こちらの都合はお構いなしのようである。
それに一夏が割って入ろうとしたが、それをまた遮り牙狼は答える。
そのまま、目で何やら狼牙を見ていたが……
「構いませんよ」
「女性の御用ならどこへでも」
「話が早いわね……ついてきて」
席を立ち、不動兄弟は一夏たちにまた後でと残し上級生たちについていく。
それをいぶかしげな目で見ていたのだが……見ていたのは、一夏たちだけではない。
千冬も、その後ろ姿を見ていたのだった。
そして不動兄弟らは上級生数人の後ろへついていき……屋上へ。
「ここですか……愛の告白にしては王道ですが」
「残念ね、そうじゃないわ」
「ええわかってますよ……しかし、俺らが気に入りませんか」
牙狼と狼牙の言葉。
それを意味するのは
「単刀直入に言うわ、あなたたち……少し調子に乗り過ぎじゃない?」
これだ。
まあ、時代が時代であり二人の行動も確かにそうかもしれない。
「それで?」
「男、しかも大して強くないくせに千冬様に対してもよく言ってるわね?」
「むかつくのよ、男のくせに!」
どうやら、初日の牙狼の発言をどっからか聞いたようだ。
狼牙は関係ないのだが、これは牙狼の弟であり男だからであろう。
「やれやれ、聞いたか狼牙?」
「ああ……ありきたりなセリフだな、牙狼。まるで三流ドラマの内容だ」
だが、それを気にせず不動兄弟は返す。
すると火に油を注いだかのごとく、上級生らはさらにヒートアップするが……
「では、そちらがお望みのISで……ご指導願いましょうか?」
言葉を遮り、狼牙がそう言う。
最終的に言おうとしてたことを先に言われ、一瞬驚いた顔の上級生ら。
そんな面々を見、不動兄弟らは本気の顔なので
「いいわよ? たっぷりと指導してあげるわ……」
「では、予約などは任せます」
「ふんっ……明日、放課後にアリーナへ来なさい」
上級生ら数人は、最後に不動兄弟を睨みながら出ていく。
残された二人は……軽く肩をすくめ、同じドアへ向かった。
と
「お前ら」
「織斑先生、昼休みがなくなりますよ?」
「茶化すな牙狼……どういうことだ、一体?」
出た直後、千冬が目の前にいる。
彼女はいつから来ていたのだろうか……
「なんのことでしょうか?」
「先ほどのことだ」
「そのまんま、ということですよ。生徒同士のコミュニケーションです」
狼牙のその言葉に、千冬はスッと目を細める。
しかし、牙狼は続ける。
「男がああいった手前、そうそう引き下がれないんですよ」
「まあ、うちの兄はこういう奴ですから……それに、俺はああいう見下しが大嫌いなので」
「俺もね……それに、上級生の実力も知りたいですし」
「……明日の放課後だったな、私も見させてもらおう」
それだけ残し、千冬は先に出ていく。
去っていく彼女の後ろ姿を見つめ、不動兄弟は各々のISのことを考えていた。
そうして教室に戻ると、すぐさま一夏達が詰め寄ってきたが……なんともない、と。
二人の答えに納得がいかなさそうな一夏達だが、すでに授業も始まるためそれ以上は聞けなかった。
ただ、普段の二人より幾分か……顔が険しかったのもあるかもしれない
そのまま何事もなく翌日となったが、アリーナには……何故か千冬と一夏たちまでもいる。
上級生らはそのメンバーに困惑しているが
「一応いっておきますがね先輩……俺たちは呼んでませんから」
「そうですよ? だから始めましょうか」
牙狼と狼牙はすでにISスーツを着ている。
今回、二対二となったためだ。
上級生らは、二人とも訓練機を借りている。
しかし、その光景を観客席から見ている面々は心配そうな顔だ。
「だ、大丈夫なのか二人は?」
「……あの上級生らは、明らかに二人を目の敵にしている」
一夏の言葉に、箒がそう答える。
どうやら雰囲気で察しているようだ。
「牙狼も狼牙も、それは承知してる……こうなることもな」
「どういうことでしょうか、織斑先生?」
千冬の言葉にセシリアは問う。
「あの二人は言っていた、自身が失礼なことを承知でと……そして、見下すような奴らが大嫌いだとな」
同じ男性操縦者でも、一夏と不動兄弟は立場も圧倒的に違う。
それなのに専用機、あまつさえ不敵な発言。
それを妬み、適当な理由をつけて二人を痛めつけようと言う考えだと。
「そ、それではなおらさでは!? いくら専用機でもあの二人では経験も」
「ボーデヴィッヒ、その答えは直にわかる……あいつらは手加減していたとはいえ山田君を倒し、経験が上の一夏を翻弄したのだ」
千冬は、その真剣な目をアリーナの二人へ向けている。
「もしここで止まるような男ならば、私の前に立つことすら許さん……言ったことの責任をとれるぐらいでなければな」
アリーナの緊迫した空気。
そして観客席でも、全員が固唾をのんで見守る。
「そろそろ始めましょうか……その生意気な顔、地面にこすりつけてきれいにしてあげる」
「貴方達が千冬様を超えようってのが、ちゃんちゃらおかしいわね」
「千冬様が見てるんだもの、さっさと潰れてほしいわ……シールドが0になったら終わりよ。武装は近接のみでね」
そうして展開されたのは二人とも打鉄だ。
それを見て、不動兄弟もISを展開。
しかし……その姿を初めて見たのか、上級生らが一瞬気圧されたように見える。
だが
(……悪い牙狼、ここは俺にやらせてくれ)
(はっ? 何言ってるんだお前!?)
突然、狼牙の言葉が牙狼に届く。
もっとも、それは周囲には聞こえない……頭に直接届いてくるのだが。
(使わしてもらうんだよ……人を捨てた力で)
(ってことは……あれを、やる気なんだな?)
(あそこのライバルさんたちにもお披露目だ……こんなとこで、立ち止まれない)
(……わかった、お前に任せるよ)
すると上級生らの前で突如牙狼が下がり、狼牙が覇鬼の左手クローを構えていた。
彼女らは怪訝そうな顔をしていると
「牙狼の代わりに俺がお相手します……よろしく」
二対二のはずが、一人でいいと言う挑発。
一瞬あっけにとられた二人だが、顔を怒りに染め上げていく。
「ふざけるなっ!」
「なめられたものね!」
アリーナから牙狼が出ていく。
これには、観客席の一夏達も驚きと同時に……不安を感じていた。
「ろ、狼牙の奴なんで……一人でやるなんて」
「そりゃ、あいつが望んだからさ……一夏」
「牙狼!?」
先ほどまでアリーナにいた牙狼が、いつの間にか此方に来ている。
すぐさまセシリアが詰め寄ってきた。
「が、牙狼さん! あなたはなにをしていらっしゃいますの!? このままでは」
「セシリアさん、あいつが選んだこと……好きにさせてやればいいんだ」
「で、ですが」
と、牙狼の顔を見てセシリアは口を紡ぐ。
何かを言おうとしていた他の面々も、牙狼の……心配そうな顔に、黙った。
そしてアリーナでは改めて互いの準備が終わり、別の上級生が……開始のブザーを鳴らす。
開始され、近接用のブレードを持つ打鉄ら。
今回、不動兄弟が得意な分野で叩きのめしどっちが上かをわからせるためにそうしたようである。
そうして二人が狼牙に向かう。
「俺だってな……意地があるんだよ!」
左手のシールドに取り付けられた収納式のクロー「ウルフファング」を構え狼牙も向かう。
上級生らは狼牙を挟み込むながらダメージを与えるようだ。
すぐに二手に分かれ、左右からブレードを振るう。
「男だ女だ、そんなことでいつもいつも振りまわされる!」
と、牙狼は突如左の打鉄に向かい突撃。
肩の装甲部分からぶちあたり、相手の打鉄を吹き飛ばす。
そのまま体勢を変える……相手はこうくると読んでいたようだ。
「そしてなによりてめえらは」
シールドクローの上下におさめられているクローが突出し、巨大なハサミになる。
「大切な、俺にとって大切な家族の夢を笑いやがった! それが一番許せねえぇ!」
そのハサミを撃ち出し、反対側の打鉄を……振るわれるブレードごと挟み込む。
引き寄せながら、その打鉄をもう一方の打鉄へ放り投げた。
上級生らはすぐに体勢を立て直す……大したダメージもない、ここらは経験の差だろうか。
先ほどは男で一人だから油断し、あっけなく攻撃されていたが……今ので、幾分雰囲気が変わる。
「くっ……意外に速いしパワーもあるわね、油断したわ」
「それでもよ! 私達が男に! あんな出来損ないのゲテモノISに負けるわけないわ!」
出来損ない、ゲテモノISとは随分ないいようである。
この二人、今まで男関係で何かあったのではと思えるぐらいの気迫があふれ出してきた。
だがそれでも、狼牙はひるまない。
「俺らも、失礼だとはわかってるさ……でもな、それぐらいの意気込みでなきゃ叶えられない!」
「よく言うわ! 男の分際で!」
「男だからって何が悪い! 男がISを使っちゃいけないって言うのか!」
頭部も装甲で隠されているため、表情は見えない。
しかし、狼牙は……静かに、言葉を口にする。
「モード反転……「ザ・ビースト」」
その言葉をつぶやいた瞬間、ハイパーセンサーから見える光景がぶれるように砂嵐が起き……赤く染まる。
アリーナ内の上級生らにも聞こえるほどの……鼓動が、聞こえた。
「俺や狼牙はな」
「?」
観客席の方では、突如喋り出した牙狼を全員が見る。
その声は、悲しそうであり……心配をしている声。
「いつも、いつも……あの隠された面の下で、ISを纏っていながら恐怖に怯えてるんだぜ?」
「!?」
と、アリーナで戦っている狼牙のIS「覇鬼」に変化が。
肩の部分が少しばかり外へ大きく装甲が広がり、脚部から放熱を促すフィンの様なものが飛びだす。
姿勢が直立から徐々に前かがみとなり……その血に染まったのかの様な目が、強く発光。
口に当たる部分の装甲がはがれ……牙の見える大きく開かれる。
獣のような、全てを振り払うかのような咆哮を上げた
アリーナに響き渡るその咆哮。
上級生らは何が起こったのか分からず……動きが、止まった。
「なっ」
次の瞬間、驚異的な加速と共に打鉄の前に覇鬼が来ていた。
それに反応しようとする上級生らだったが……気が付けば両者とも、殴り飛ばされている。
「瞬時加速!?」
一夏達の、驚愕に満ちた声。
今見せたのは……ISの高等技術。
間違いない、あの間合いを一瞬に詰める移動方法は……それしかないと。
「勝ったな」
ボソッと牙狼がつぶやくのを、千冬は聞き逃さなかった。
その時に……牙狼が自身のIS、待機状態の指輪を力いっぱい握っている光景をも。
殴り飛ばされた打鉄らは、何が起こったのか理解する間もないまま……蹂躙されていく。
腕を掴まれ、やたらめったら振りまわされ、殴られ、叩きつけられ……シールドが、0を示した。
長く見えて短い戦闘が終わり……ブザーが鳴り響く。
「しゅう、りょう」
同時に、膝をつきながらもISを解除する狼牙。
その姿は……酷く、震えている。
と、上級生らは「絶対防御」のおかげかそこまで酷くはないが……何か、酷く怯えている。
狼牙が、二人を見ると……二人はヒッと声をひそめ、駆けつけて来た他のメンバーに起こされる。
「………ごめんなさい」
そんな風に呟き、顔をうつむかせる狼牙の頬を……涙が伝わっていたのを、上級生らは見たのだった。
そうして、アリーナでの模擬戦は終わる。
しかし、その後に待っていたのは……千冬や一夏達からの言葉。
狼牙は疲れ果てて、今は保健室で休んでいるのだから。
「牙狼、あれは……あの姿は、どういうことだ?」
「あれは俺と狼牙の恐怖心を薄れさえ、戦いに特化させるためのシステムです」
「……恐怖、だと?」
「ISをまとっていても……銃口を向けられれば、怖いんですよ?」
その意味は、戦闘のために作られたとしかいえない。
だが、なぜそのような物を作ったのだろうか?
「あの状態になった時、攻撃と防御に回されるエネルギーは倍増し……代わりに、稼働時間が一気に減り負担もかかりますが」
「なんということだ……お前たちのISも試験的に、といっていたな?」
「俺たちはそういった存在ですからね……これから現れる男性操縦者が扱うための、ね」
詳しく聞けば、二人のデータが今後の開発計画に大きくかかわっていくらしい。
そのために、あのような試作されたシステムなどを積んでいるのだとか。
「見返りは、多大な給料と身の安全……ある程度の自由ですかね。世の中ってのは不条理に満ちてるので」
「……」
「ああ、千冬さんが気にすることはないんです。俺達が好きでやってるだけですからね」
立場は弱く、そのためにある程度の汚れ役などをやることもある。
不動兄弟に味方など……いなかったのだから。
一夏はと言えば、自身の立場は今どれだけ恵まれているのか……考えたこともなかったのだろう。
他の面々も、牙狼の言葉にわかることがあるのか黙っている。
「まあ、死なない程度には抑えることもできますから大丈夫ですよ?……叶えるまで死ぬ気はないから」
千冬が、机をたたく。
牙狼がそれに驚いた顔をするが
「……牙狼、お前はなぜそこまで?」
「前にいった通りです……まあ、今の世界に不満を感じてはいますけどね」
そうして、牙狼は立ち上がる。
弟の狼牙の見舞いに行くようで……ドアの前で振り向く。
「いつか、いつか必ず……俺は貴方に追いついて見せますよ、織斑先生」
そう残し、牙狼は部屋を出る。
後に残った静けさを振り払うように……右手の中指にある指輪が、一瞬光ったように見えた。
イメージとしては、出てきた技の名前そのままです。
新劇場版は何度も見直しましたね。