穂乃香がカーテンを開けると同時に射し込んできた朝日は昨日の暗い雰囲気とは相反するくらい眩しかった。
結局、昨日話し合った結果警察に届けることはなかった。希が脅迫状の裏面に印刷された、もうひとつの文章に気がついたからだ。
「警察に届ければ、高坂雪穂の命はない」
海未が震えた声で読み上げたその文章は、今まで明るく振る舞ってい穂乃香を大きく落ち込ませた。
その後、穂乃香が警察への通報に猛反対したのは至極当然の流れだったに違いない。
「おはようございます、穂乃香」
家を出た後、海未の声で穂乃香は顔を上げた。
あれだけショックなことがあると却って寝坊することが少なくなるらしい。いつもは一番遅く到着するはずの穂乃香は、ことりよりも早く来ていた。
海未は何事もなかったかのように装ってはいるが、やはり表情はいまひとつ冴えない。このままμ'sが恐怖に包まれてしまうかと思うと、心の底から不安になるのだった。
「‥‥まだ、雪穂には何も言ってないのですか?」
「言えるわけないよ」
しばらくしてことりが来ると、三人はいつもの通り歩き出す。会話は、一切なかった。
部室に集まると悲しそうな面持ちで希が座っていた。他の面々はまだ来ていないようだ。
「絵里は? 一緒ではないのですか?」
「うん、ちょっとね‥‥」
希の口調も案の定と言うべきか、決して明るいものではなかった。
「にこは?」
「にこっちは‥‥こころちゃん達が心配だから今日は休むって」
「そうですか」
直後、凛と花陽の二人が部室に駆け込んできた。真姫の姿が見えないのに気付いて、ことりが尋ねる。
「ねえ、真姫ちゃんは?」
「今日は休みだって、今朝連絡がきたにゃ」
「真姫ちゃんまで‥‥」
しばし沈黙があったが、やがて海未が意を決したように全員に告げた。
「仕方ありません。あの脅迫状のことについて少し話したかったのですが‥‥今日は連絡を中止にします」
さらに、帰ろうとした希に、
「このあと、少し良いですか?」
穂乃香とことりには先に帰るように言って、希と海未は二人部室に残っていた。
「単刀直入に訊きます。絵里に何かありましたね?」
「やっぱり、隠し事は難しいもんやね」
希は椅子に座り込むとぼやくように言った。
「昨日、亜里沙ちゃんが誰かに殴られたらしいんや。命に別状はないけど、随分怖がってるみたいやから今日一日側にいるって‥‥」
海未の脳内にはすぐに脅迫状のことが浮かんでいた。このタイミングの一致。最早偶然で片付けるとは難しいだろう。
「それで、警察には?」
「えりちのお母さんは脅迫状のこと知らないんや。だから、すぐに通報したって」
事態はどんどん悪化しているに違いない。
「分かりました。やはり理事長に報告した方が良いかもしれませんね。それと、一人で帰るのは危険です。一緒に帰りましょうか」
海未がそう言うと希は少し安心したように、「うん」と返した。