進撃の亜人   作:薩摩芋

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ボツ話です。
最初はこっちを12話にするつもりだったんですけど、途中で止めました、気が向いたら読んでみて下さい。
それでは、どうぞ。


ボツ話

 

ランプで明るく照らされた食堂、そこでは大勢の訓練兵が日々の厳しい訓練によって消費した栄養を補給するため、皆食事に勤しんでいた

 

「今日の走り込みはキツかったな!」「飯旨いな」「辛いと言うより最悪だったね」「汗と雨水でびちょびちょだし、ポンチョ羽織ってる意味無かったよ」

「女子のシャツが透けてて目の保養になった」

「「「「それなっ!!」」」」

 

娯楽の少ない訓練兵達にとって、食事とは数少ない楽しみの一つだった、とりわけ今日の晩御飯は訓練兵の中でも料理の上手い兵士で構成された精鋭達で作っている、当然出される料理は絶品、とまではいかないが、基本的に味の薄い今までのご飯と比べれば十分満足出来た、それにより気分の良い訓練兵達は皆良く舌が回り、今、食堂は大いに賑わっていた

 

一部例外を除いて

 

「リュカいい加減機嫌を直して欲しい」

 

顔は無表情だが声に若干の疲労を乗せて、目の前にだらしなく食堂の机に突っ伏した姉、リュカに言う、しかし当の本人は顔も上げずに机に顔を埋めたままである

 

「何故だ?私の機嫌だ、良いも悪いも私の自由だろう」

 

その声には明らかに不満の色が含まれている、しかし機嫌が悪いかと聞かれれば、そうではない、どちらかと言えば元気がない、周りが騒がしいだけに一人だけ元気の無いリュカは目立っており、それに気付いた者は皆不思議に、いや、不気味に思っていた

 

「(何かヤバそう)」

 

皆がこう思うのも無理はない、リュカは基本的にその人を寄せ付けない容姿に似合わず、とてもフレンドリーである、良く喋り、良く笑い、良く驚く、まるで感情のオンパレードだ、そんな性格をしているため今みたいに賑やかな空気があれば、真っ先に便乗してもっと場を盛り上げようとする、そして、収集がつかなくなるほど騒がしくなり教官が雷を落としに来ると、何故かそこにリュカはいない、‘素直で明るい性格をしていると思いきや肝心なところで掴み所がない‘これが半年かけて染み付いたリュカの104期訓練兵から見た印象だった、それなのに、これだけ盛り上がった空気を前にして今だに沈黙を保つリュカは不気味以外の何物でもなかった

 

「何かリュカの周りだけランプ暗くないか?」

 

「たしかに、てゆうか今日はやけに静かだなアイツ」

 

「不気味ですね」

 

「あぁ、嵐の前の静けさってやつかもな」

 

何人かの訓練兵がイソイソと小声で話はじめる

 

「何かあったのか?」

 

不可解な出来事には必ず何かしらの原因がある、気になったのなら探りたくなるのは道理だ、いったいリュカに何があったのだろう?

 

 

 

 

 

時はやや遡り、ミカサがした誤解をリュカが必死に解こうと四苦八苦していた頃に戻る

 

「放してリュカ」

「私には 殺らなきゃいけない 事がある」

 ミカサ、心の一句

 

「放すか!、心じゃないから!おもいっきし声に出てるから!」

 

出口に向けてグングン進撃をするミカサ、リュカはミカサの腰に掴まり必死に止めようとするがミカサの勢いは全く衰えない

 

「落ち着けミカサどうどう」

 

「今の私はとても落ち着いている、大丈夫リュカ、証拠は残さない」

 

どうやらミカサは殺る気満々のようだ、しかしそれで困るのはリュカである

 

「(いきなり私に娼館を勧めるような下衆だが、彼がいなくては眼鏡が出来ない)」

 

最早リュカにとって問題なのは眼鏡職人よりも彼が作る眼鏡である、無論リュカも考え無しではない、「無駄に頭の回る男だ、何だかんだでミカサから逃げおおせるような気がする」そんな確信めいた予感がリュカにはあった、だが逃げてしまえばリュカの眼鏡を作る人がいなくなってしまう、それはちょっと困る

 

「いいから、取り敢えず止まれ!」

 

力では敵わないリュカはミカサの前に回り込み出口までの進路を塞ぐ、ミカサもリュカを押し退けてまで進む気はないらしく案外アッサリと止まる

 

「一先ず落ち着こうミカサ、私とお前の間にある悲しい誤解を解かなくては」

 

「誤解?私は貴女が何を言っているのか分からない」

 

突然のリュカの発言に頭に‘?’を浮かべるミカサ、正直リュカも本当の事を言うのは余り気が進まなかった、からかう筈が自分の短慮のせいで事を面倒にしてしまった、これ程無様な事などそうないだろう、しかし、このままにしても余計に面倒になるだけだ、何よりこんな下らない事でこれ以上時間は割きたくなかったし、後ろで待たせているサシャにも悪い

 

「そうだ誤解だ、実はあの手紙は職人さんに私の眼鏡を作って貰うために書いたんだ、断じて恋文などではない」

 

「でも貴女はさっきサシャに宛先を聞かれたとき恋人と言った」

 

「あれはお前をからかおうと思ってついた嘘だ、我ながら馬鹿な事をしたと思ってる、本当に申し訳ない」

 

「本当?」

 

「本当だ、嘘だと思うならサシャが持ってる手紙を読んでみろ」

 

リュカがそう言うとミカサはジーっとリュカの目を見る

 

「(な、何故手紙ではなく私の目を見るのだ!?)」

 

予想外の行動にキョドりまくるリュカだが、何とか目は逸らさなかった、そして無言で見つめ合うこと30秒、漸くミカサが言葉を発する

 

「嘘をついているようには見えない、私は貴女を信じる」

 

ちなみに何故ミカサは手紙ではなくリュカを見たのかと言うと、「(リュカなら恋文も、知らない人が見たら事務的なやり取りを書いた手紙に擬態させることも出来る)」そう思ったからである、普通はそんなこと不可能だが、残念ながらリュカにはそれができてしまうのだ

 

「ふぅ~(今度からミカサをからかう時はもっと慎重になろう)」

 

リュカは心にそう誓う、ここでからかうのを止める事が頭に浮かばないのが、リュカと言う人間なのだろう

 

「ちなみにミカサ、私が止めなかったらどうやってトロスト区まで行くつもりだったのだ?」

 

「歩いて」

 

「そ、そうか」

 

余談だが、ここからトロスト区まで馬に乗って二時間半くらいかかる、それを歩いていくとなると……いや、言うまい、普通は無理だがそもそもミカサを普通と比べるのが間違っているのだから

 

 

 

 

 

「そう言えばミカサ、お前私に何か用があったんじゃないのか?」

 

食堂に行く道すがら、思い出したかのようにリュカが言う、そう、ミカサは最初リュカに用事があったのだ、しかし先程のやり取りのせいで当の本人はすっかり忘れていた

 

「そうだった、リュカ何か刃物を持ってない?」

 

何に使うかは分からないが刃物ならリュカは持っている

 

「ナイフならあるが、それでいいならある」

 

そう言って腰に掛けてあるナイフを渡すリュカ、それを受け取ったミカサは、左手で自分の髪を纏めて、右手でリュカのナイフを握り、それを纏めた自分の髪に当て

 

「ちょっミカサ何を

 

ザクッ!

 

切った

ついさっきまで肩まで延びていたセミロングだった筈の髪がごっそり消えて、今ではうなじに少し髪がかかる程度のショートボブになってしまった、切り取った髪は窓から外に捨てる

 

「ありがとう」

 

ナイフをリュカに返すミカサ、しかしリュカの返事は無く、ただ無言で直立不動で佇んでいる、顔の筋肉はピクリとも動かず、瞳は湖の水面のように静かで僅かな機敏も見えない、簡単に言えば目が死んでいる、なまじっか容姿が良いため、今のリュカはまるで精巧に作られた人形のようで廊下の薄暗さと合わさってとても気味の悪い姿だった

 

 

 

なんて事があったのだ。

 

リュカはミカサのような黒髪に憧れていた、それは自分が今でも慕っているカルラの髪がそうであったのもあるし、何よりエレン、ミカサ、カルラ、そして今は謎の失踪で行方不明のグリシャ、リュカがどんな宝よりも大切に思っている彼ら全員髪の色が黒であった、そんな中で自分一人だけ銀髪であることにリュカは密かに疎外感のような劣等感のようなモノを感じていた、だがリュカは自分の髪が嫌いな訳ではない、いや、寧ろ誇りにさえ思っている、この髪は今では記憶の中にも殆んど無い‘本当’の父あるいは母が自分に遺してくれた数少ない物の一つだ、リュカにとっては両親の形見そのもの、それを誇りこそすれ恥じる事など有り得ない、それでもやっぱり羨ましい物は羨ましい、そう思ってしまうのは仕方の無いことだ、要するにリュカが落ち込んでいる理由は

 

憧れの黒髪をまるでゴミみたいに扱われて大ショック

 

と言うことだ。

 

 

 

 

 

そして時は訓練兵が夕食を食べている頃に戻る、そこでは賑やかに食事をしている訓練兵と、今だに暗い雰囲気のリュカとミカサがいた、一見して先程と変わらないように見えるが、実は状況は少しずつ変化していた、リュカとミカサが食事をしている人気のないテーブルから少し離れているが遠くない、そんな微妙な距離に位置するテーブルにちょっとした人盛りができていた、お互いが身を寄せ合い何やら小声で話し合っている

 

少し彼らの声に耳を傾けてみよう

 

ヒソヒソ……「おい聞いたか?エレンとリュカが喧嘩したらしいぞ」ヒソヒソ……「え、そうなの?俺は身内に不幸があったって聞いたけど」ヒソヒソ……「マジ?死に急ぎ野郎が本当に死に急いじまったのか」ヒソヒソ……「何言ってんだ、エレンならそこに居るじゃねぇか」ヒソヒソ……「きっとあれだ、日々の訓練がキてるんだろ」ヒソヒソ……「それは一番ないだろう」ヒソヒソ……「あぁリュカに限ってそれはない」ヒソヒソ……「お前らは何も分かってない、考えてもみろ」ヒソヒソ……「何が?」

 

先程からヒソヒソとうるさい彼らが話している話題とはズバリ‘何でリュカの元気が無いのか?’だ、彼らのヒソヒソは尚も続く

 

ヒソヒソ……「仮にだ、万が一の話だか想像してみろ、アイツはよく人をからかったりするが基本的には気高い性格をしている、だがもしそれが表面上の話だったらどうだ?ここの訓練は尋常じゃないくらいキツい、男の俺ですらそう思う、いくら気が強い女子でもそれだけでついていける程甘くない、実際、本当に嘆かわしいことだが訓練兵を辞めるのは殆どが女子だ、既にそれなりの数の訓練兵が脱落している、リュカの交遊関係の広い事は皆知っている筈だ、当然辞めていった奴の中にはアイツと親しくしていた者もいるだろう、きっとリュカはそんな環境に人知れず孤独を感じていたんじゃないのか?だからああやってミカサに慰めてもらってるんだろ、ミカサなら脱落する心配なんてないからな、それに……

 

      割愛  

 

要するにリュカは、今まで無理して気丈に振る舞っていた分余計に溜まったストレスが今になって辛くなってきたんだろ」

 

  「「「「なるほど」」」」

 

男の説明にある程度納得したのか、周りにいた連中が首をウンウンと小さく縦に振る、皆一斉にやっているためその姿はどこか滑稽だ、リュカの元気が無い理由を知らない彼らは、皆好き勝手に自分の妄想を仲間に聞かせている、客観的に見れば中々気持ち悪い光景だがこれが意外と楽しいのだ。

それなりの人数がこの話題を話しているが、無論全員ではない

 

「なぁマルコ俺気に入らないんだが」

 

「エレンいきなりどうしたんだい?質問には主語が無くちゃわからないな」

 

夕食のシチューにパンを浸したままの状態で少し遠くにいる集団を睨めつけながら、エレンは目の前にいるソバカスの少年マルコ=ボットに愚痴る

 

「なんだアイツら、姉さんのことをリュカ リュカって、ちょっと馴れ馴れしすぎだろ」

 

どうやらエレンは自分の姉を呼び捨てされるのが癪に障るようだ、本人は否定しているが周囲(104期訓練兵)はエレンをシスコンだと認識している、最近はリュカに対しての憎まれ口が増えてきた気がするが、それもまぁ愛情の裏返しなのだろう、少なくともマルコはそう思っている

 

「まぁリュカは自己紹介した時に‘プレゼンチェカじゃ長いだろう、私の事はリュカと読んでくれ’って言ってたしね」

 

突然のエレンの愚痴にも冷静に対応するマルコ、そして自分もちゃっかりリュカと呼んでいる、周囲はリュカ達に目がいっていて気付かないが、実はこのエレンとマルコという組み合わせも結構珍しい、まぁ別にたいした理由などなく、ただ単純に二人ともいつも一緒に食べているメンバーがいないため一人で食べるのも味気無いのでこうして共に食事をしているのだ

 

「そういやジャンはどうしたんだマルコ?お前らいつも一緒飯食ってるだろ」

 

「それが僕にも分からないんだよ、何時もどうり一緒に食堂に入ったら急にピシャリと動かなくなってね、その後ミカサと二言三言話したと思ったら今度は踵を返して宿舎に行っちゃったんだよ」

 

「何だそりゃ変な奴だな」

 

「そう言うエレンも、どうして今日はアルミンと一緒じゃないんだい?」

 

「ん?あぁアルミンなら……

 

その後はお互い雑談をして過ごした

 

 

 

 

 

 

一方その頃件のリュカとミカサだが、こちらの空気は時間が経つにつれて次第に悪化するばかりであった。

とゆうのも

 

「ごめんなさいリュカ」

 

「いや何で謝るのだ、お前はなにも悪くないだろ……ハァー」

 

「……ごめんなさい」

 

「だから謝るなよ」

 

ミカサはリュカの元気が無い原因を大体分かっていた、リュカは自分が髪を切ってから様子がおかしくなった、つまり

 

「(理由は分からないけどリュカが落ち込んでいるのは私のせいかもしれない)」

 

ミカサはそう思った、しかし分かったところでミカサには何も出来ない、いくらミカサでも今すぐ髪を伸ばすなんて不可能である、しかもあまり口数の多くないミカサでは気の利いたセリフを言うことも出来ず、結局ただ謝ることしかできなかった、そしてリュカはミカサに謝られる度に自分自身が惨めに感じる。

おそらくミカサは近いうちに始まる立体起動の訓練に髪が邪魔になると思ったのだろう、リュカもそれくらいのことは直ぐに予想がついた、たからこそ、頭では分かっているのに納得出来ない、そんな自分が情けなかった

 

「(ミカサに気を遣わせてしまっているなんて、年上なのに情けないにも程がある、まったく姉失格だな私は)」

 

そしてリュカは更に落ち込み、それに気付いたミカサがまた謝る、なんとゆう悪循環、リュカもこの空気は良くないと思っていたが、正直どう切り返したら良いか分からなかったし、そんな元気もなかった、状況は完全に詰んでいた、すると突然リュカの肩を後ろから誰かにポンポンと叩かれる、リュカが振り返ろうとすると

 

「むん?」

 

ぷにっと自分の頬が後ろにいたであろう何者かの人差し指に当たった、下らないが最高にムカつくこのイタズラにリュカは一瞬キレそうになる

 

「(誰かは知らんがこのピリピリとした空気でよく私をからかおうだなんて思ったな、ぶち殺してやる)」

 

‘ぶち殺す’なんてのはさすがに冗談だが、それなりの怒りを込めた視線で振り返ると

 

「やぁリュカ、元気が無いけどどうしたの」

 

ニコニコと人の良い笑顔をしたアルミンがいた

 

「え?あ、アルミン?」

 

どうせ能天気なサシャかコニーあたりだろうと思っていたリュカだったが、結果は予想外のアルミン、完全に虚を突かれた上に上機嫌なニコニコ顔、すっかり毒気を抜かれたリュカは ふぅ~ と軽くため息をついて、あらためてアルミンの方に向く

 

「それでアルミン一体私に何の用だ?まさか私をおちょくりに来たわけではないのだろう?」

 

リュカの言葉に「当然だよ」と返事をして、スッと前に差し出したのは一冊の本、それなりの厚みがありアルミンは両手で持っている

 

「ありがとうリュカ凄く面白かったよ」

 

「ん?これは『哀れな人々』か、もう読み終わったのか早いな、これ貸したの3日前くらいだろ」

 

「今日の午後に野外訓練が無くなったのは幸運だったね、お陰で一気に読み進められた、まぁそのせいでこうして夕食に遅刻してしまったわけだけど」

 

「フフン、それは貸した者の冥利に尽きる言葉だな」

 

自分の貸した本が誉められてちょっと得意気なリュカ、そこでふと自分の今の状態を見て、僅に驚く

 

「(私はいつの間に調子を取り戻したのだ?)」

 

今のリュカは機嫌が良い、自分の本が誉めれたのが余程嬉しかったのだろう、ミカサと話していた時とは雲泥の差だ、今思えばアルミンは何故わざわざリュカの頬をつついたのだろう?普通に肩を叩けばそれで良いのに

 

「(あぁ成る程、先程のちょっかいは私を元気付ける為のモノだったのか、と言う事は私はまんまとアルミンの思いどうりになったと言うことだな、何だアルミンめカワイイ顔してなかなか狸じゃないか)」

 

何だかアルミンの掌の上で踊らされた感があるが、まぁ間違いなくアルミンの行為は純度100%の善意から来るのであろう、声は出さずに口だけ動かして感謝の言葉を述べる

 

「(ありがとう)」

 

そう言って薄く微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい見ろ、リュカがアルミンに微笑んだぞ」

「あぁ見たぞ、なんて言うか儚げで綺麗だったな」

「きっとあの微笑みも幼馴染みのアルミンに心配かけない為にしたんだろう、俺には分かる」

「やべぇ俺なんか守りたくなってきた」

「やめておけ、今更俺達が行ったところで逆に気を遣わせるだけだ……悔しいが今日のヒーローはいの一番に声をかけたアルミンだ、出遅れた俺達には只見守る事しか出来ないのさ」

   「「「くそぅ」」」

「(全部聞こえているぞ馬鹿共め)」

 

リュカの微笑みは彼らにも向けられていた、アルミンとはまた違った意味の微笑みだが

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