進撃の亜人   作:薩摩芋

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更新遅れてすみません、仕事忙しくって……

それでは、どうぞ。


14話

 

「次ッ!プレゼンチェカ訓練兵、前へ出ろ!」

 

「はい!」

 

緊張する体を軽くジャンプする事で解し、私は一歩前へ進む、後ろを見れば数多くの訓練兵が乱雑に存在し、仲間と話している者、立体機動装置の点検をしている者など様々だが、やはり一番多いのはその場で座り込み集中力を高めている者だろう、そのためか、ただでさえ薄暗い巨大樹の森がよりいっそう陰りを増している気がする、ハッキリ言って今の雰囲気は好きではない、まぁかくゆう私も先程まで黙りこけていたのだ、愚痴る資格などあるはずもない、下らない事に頭を働かせてないで、今は目の前の事に集中しよう

 

「準備は良いか?」

 

キース教官が訪ねてくる

 

「問題ありません、いつでもどうぞ」

 

目は合わせず、やや顎を引き、前だけを見つめて手袋を嵌め直す、本当は立体機動に手袋なんて邪魔なだけだが、これは気分の問題だ、格好いいだろう、手袋

 

「よろしい、ではこれより二次卒業模擬戦闘試験を開始する」

 

キース教官はそう言うと腰のポーチから煙弾を取りだし、右手に持った発射装置に取り付ける、そしてそれを空に向け

 

パァン!

 

撃った

同時に私は走り出す、しかしそれも足場の良い地面の時だけ、土が柔らかくなるのを足で感じると、即座に立体機動に移行する

 

パシュッ

 

アンカーを射出し木に刺さった事を確認するとワイヤーを巻き上げ同時にガスを噴射、キィーンと耳障りな音と共に私の体は急速に空中に引っ張りあげられる

 

「ッ!」

 

全身に掛かる圧力に顔を歪める

 

 私はコイツ(立体機動装置)が嫌いだ、扱いずらいクセに些細なミスで人が死ぬ、その上装置からは何のサポートもない、命を掛けるのならば、やはり人や馬のような相棒が良い、人の命を預けるには、コイツは少々冷たすぎる

 

とまぁ内心愚痴りながらも私は立体機動をつづける

 

 しばらく進んでから、私は一度停止し、予備のガス、煙弾、発射装置などが入ったリュックから地図を取り出して、現在地と目的地を確認する

 

「いけない、コースから外れてしまっていたか」

 

地形に違和感を感じて地図を見てみると、どうやら私は知らない間に最短ルートから外れていたらしい、さっき下らない事を考えていた時だな、早めに気づけて良かった、急いで方角を修正して立体機動を再開する

 

 道中、要所要所にいる試験官にドヤ顔をプレゼントしつつ、私は空を翔て行く、立体機動は嫌いだが、この、全身を風が包み込むような感覚だけは嫌いじゃない

 

良い馬を全力で走らせた時、立体機動を限界まで行使した時、視界から色が消え、音が消え、余分な感覚の一切を排した瞬間、私は、今よりほんの少しだけ自由になれる

 

 

その一瞬が好きだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14話

 

 

 

 

 

「ユミル、私は貴女のことを魅力的な人だと常々思ってました、男子達が貴女のことをレズだの両刀だの言っていますが彼等はきっと貴女が何時もクリスタと一緒にいることに嫉妬しているだけです、現に女の子からの受けは悪くないじゃないないですか、だからあまり気にしなくても良いと思います、それと日頃私のことをいいように使っていることはこの際水に流しましょう、正直今でも良く思ってはいませんが、え~そうですとも、まったく腹立たしい限りですが、なにも悪いことばかりではありませんでしたし、アレのおかげて不器用だった私が人並みに家事ができるようになってしまいましたし、もうリュカに手伝ってもらはなくてもベッドメイキングで教官にどやされることもなくなりましたし、そのおかげてリュカに誉めてもらえましたし、そう思えば寧ろ感謝してもいいくらいですよ、分かりましたか?私がどれだけ貴女のことを評価しているか、理解できたのなら今すぐ私の荷物の整理を手伝って下さい」

 

「ヤダ」

 

即答である、一瞬の思考の間隔もなく返ってきた返答にサシャの顔がひきつる

 

さて、今の状況を端的に説明しよう

 

まず場所と其処にいる人物であるが、ここは訓練兵団の隊舎の一室でそこにサシャとユミルが二人っきりで部屋の整理をしている、一応あと二つベッドと机があるが、そのどちらも綺麗に整頓されており生活臭というものがまるで感じられない

 

最後にサシャとユミルが何をしているかだが、彼女達は今自分の荷物を纏めている、では何故そんなことをしているのかと言えば、話は簡単で、二年間の訓練を終えたサシャとユミルは、いや、この二人に限らず今訓練兵団に所属している104期の兵士達は昨日をもって訓練過程を全て終了し、もうこの訓練場に滞在する必要がなくなったのである

 

「あ~ッ!!もうこんなの終わるわけないですよ!」

 

もともと荷物の少ないユミルはリュックサックにテキパキと自分の服やら本やらを詰めてゆき、その他の物はポイポイとゴミ箱に投げ入れている、程なくしてユミルの荷物整理は終わるだろう、一方サシャは手際は悪くないのだが、如何せん荷物が多すぎるせいで整理はあまりはかどっていない、もともとリュカの手伝いを期待していたサシャだが彼女は自分の荷物が終るとすぐに何処かへ行ってしまった

 

まぁそもそも自分の荷物くらい自分でやるべきだ

 

ちなみにサシャのリュックにはまだ半分くらいしか入っていないのだが、既にもう子供一人入るくらい大きくなっている、彼女は一体ナニを入れているのだろうか、まったく検討もつかないが、ちょうど今サシャのリュックからジャガイモが転がり出てきた、そのジャガイモはコロコロと転がってユミルの膝に当たる

 

「……」

 

「……」

 

それを無言で取り上げ冷めた目でサシャを見つめるユミル

 

「おい、お前まさかそのリュックの中、厨房から盗んだジャガイモしか入ってなんじゃないだろうな」

 

ユミルの言葉にやや機嫌を損ねるサシャ

 

「何をッ!まったく失礼なヒトですね!」

 

そう言ってジャガイモをユミルの手から乱暴な手つきで取り上げ、優しく自分のリュックに戻した

 

「そんなには取ってませんよ」

 

また黙々と荷物の整理を始めるサシャ、そんな彼女の後ろ姿に何を思ったのか、ユミルは無言で立ち上がりその足で部屋を出ようとする

 

「ちょっと待ってください」

 

「……なんだよ」

 

「何処へ行くつもりですか」

 

「教官室」

 

「何故?」

 

「そりゃぁお前決まってんだろ」

 

「……」

 

「私は兵士として同僚の不祥事を報告する義務があるからな」

 

ガァッ!!

 

ユミルが言いきると同時にサシャはユミルに飛び掛かる、日々の訓練と度重なる窃盗の罰によって鍛え上げられたサシャの脚力は、成る程たしかに104期上位10名に入るだけはある、一瞬にしてユミルに肉薄するサシャ、対するユミルはサシャが黙った時点である程度彼女の行動を予測していたのか問題なく対応する、上位10名には入らずも彼女も大概優秀な兵士である、こうしてサシャとユミルのキャットファイトが始まった

 

 

10分後

 

 

 

「ハァー…ハァー!」

 

「ゼェ~ハァーッ!!」

 

「「フゥ~」」

 

 

 

 

 

「「……馬鹿らしい」」

 

また黙々と作業を始める二人だった

 

「あ~あ、リュカさえいてくれれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの人気のない一室で青年と初老の男性が何やら会話をしている

 

「ふむ、ではマルコ君、君の希望兵科は憲兵団の技巧科ということで良いのかね?」

 

「はいマース教官」

 

ここは助教室と呼ばれる部屋で、今でこそマルコとマースの二人しかいないのだが普段であれば常にもう3~4人の教官がいる、では何故今いないのかと言えば、一応名目上は兵科の最終確認であるが、実際はそれぞれ目に掛けていた訓練兵に労いと別れの言葉を言いに行っているのだ

 

そしてそれはマースという教官にも当てはまる、それはつまり、この教官はマルコに目を掛けているということである

 

「ふぅそうか、安心したよ」

 

マースは確認が終わると机の上の紅茶を手に取り一口啜り、同時に背もたれに背中を少しだけ預け先程よりもやや砕けた体勢になる、口には出さないがこれは‘楽にしても良し’という合図であり、察しの良いマルコはそのサインを直ぐに理解する

 

「とは言ってもあくまで僕一人の希望ですから、通るかどうかなんて分かりません」

 

口調は多少碎けるが姿勢は崩さない、マースは彼のこうゆうところを気に入っているのだろう、いつもどうりの穏やかな目つきのまままた紅茶を飲む

 

「いや、その心配はいらないよ」

 

「どうしてですか?技巧は枠が狭くて毎年結構な倍率になっていると聞きますが」

 

マルコの言う‘技巧’とは数多ある、いや、あんまりない兵科の一つであり(他にも大砲科 普通戦闘科 等がある)おもに大砲や立体起動装置の改良、そして新たな戦術の開発等を行う特異な兵科である、出世はしづらいが給与も良く安全な内地に住め、何より万が一にも巨人と戦わなくて済む、そのため毎年かなりの数の訓練兵が技巧科を希望するが、当然適正も厳しく入れる人数も限られているため、狙って入ろうと思うならばある意味憲兵団よりも難しい所かもしれない

 

その事を良く理解できているマルコだからこそ、入れると断言するマースの言葉に疑問を感じるのだ

 

「確かに例年ならそうなんだが、今年は何故か脳きn、いや屈強な者ばかり集まってね、適性のある者は君を含めて三人しかいなかったのだよ」

 

「さ、3人ですか」

 

3人 そのあまりに少ない数字にマルコは戦慄する、一応言っておくが技巧に必要な能力は、明晰な知能 豊かな発想力 旺盛な探究心 の三つであり、この三つを備えたものから、さらに振るいにかけて掛けて選抜するのが例年であった、今年は優秀な兵士が多いとふんだマースは‘また競争が激しくなるな’と内心苦笑いをしていた、たがしかし、後者二つはともかく、一番大事で克つ技巧に入るなら大前提である筈の 明晰な知能 これがいけなかった、訓練過程の成績において最も多くの割合を占めるのは立体機動である、だが、だからといって決して座学が全く出来なくても良いわけではない、にもかかわらず座学が壊滅的なサシャとコニーが104期の上位10名に入っている、何故そんなことになってしまったのかは、察してほしい

 

「ちなみにだが、この三人の内技巧に進むのは君だけだ」

 

「しかも僕だけ!?」

 

「あぁ私も長いこと教官をやってはいるが、技巧の定員が割れるなんて初めてだ、近い内に超大型巨人でも出現するんじゃないか?」

 

「やめてくださいよマース教官、縁起でもない」

 

親しげに会話をする二人、本来であればあまり望ましいとは言えないが、まぁ上下関係こそあれすれ二年間も一緒にいれば多少絆されてもしょうがないだろう、何より、お互い会話が出来るのは今日で最後だ、ちょっとくらい羽目を外してもバチはあたらないのではないのだろうか

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

だが残念かな、楽しい時間というものは例外なく早く過ぎてしまうものだ、マースにもマルコにも別れの言葉を掛けるものは他にもいる、ここらが潮時であろう

 

「そうですね、残念ですが僕ももうそろそろ行かないと」

 

マルコはそう言うと椅子から立ち上がり、そのまま二歩後方に下がる、そしてその場で敬礼

 

「マルコ=ボット訓練兵、要件終わり 帰ります!」

 

 

 

「待ちたまえ」

 

ちょうどマルコがドアノブに手をかけた時マースが急に停止をかける

 

「何でしょうか?」

 

「君はアルレルト訓練兵と仲が良かったね?」

 

「はい」

 

「ふむ、では彼に会ったらダメもとでいいんだ、技巧に誘ってみてくれないか?」

 

「あぁ、はい分かりました」

 

「よろしい」

 

マルコの返事に満足したのか、目をつぶったまま笑うマース、マルコはそのまま助教室を退出しようとするが、マースが「あぁ、それと」などと言ってまたマルコを止める、どうやら技工に勧誘したい人はアルミンだけではないようだ

 

 

 

「このことは彼女にも伝えといてくれたまえ」

 

彼女?はて、誰のことだろう、また随分と大雑把な言い方だが、まぁ幸いというか残念というか、明晰な頭脳というだけで候補はすぐさま一桁まで絞り込めた、マルコは考える

 

「(彼女?誰のことだ?頭が良くて、好奇心旺盛で、多少なりとも僕と関わりのある女性で……

 

「灰銀の髪が魅力的な」

 

灰銀の髪、成る程、あぁ彼女のことか、ん?)」

 

「え?ぼ、僕がですか?」

 

漸く謎が解けたにも関わらず、マルコの顔は優れない、まるで件の彼女の話題があがることがマルコにとって都合の悪いような

 

「何か問題でもあるかね?君も同期が多い方が嬉しい筈だろう」

 

「そうですが……」

 

「それに」

 

 

 

「彼女に話しかける良い口実だと思わないか?」

 

「ちょ、ちょっと」

 

目に見えて慌て始めるマルコ、彼女が誰を指すのかは分からないが、少なくともマルコには理解できているようだ、そしてその様子を見ているマースの顔は、まるで我が子を見るような穏やかでな表情で、これで人をからかったりしていなければ、まぁまぁ絵になる光景だろう

 

「クククッ良いではないか、難しい女性だがしっかりした良い娘だと思うぞ、励みたまえよマルコ=ポット訓練兵」

 

「ななな、な何のことでしょうか僕にはさっぱり分かりません」

 

「私としてはおっとりした女性の方が君には向いていると思っていたが……成る程、存外君は振り回されるのが好きらしい」

 

「話を聞いて下さいよ!」

 

マルコの儚い抵抗もまるで相手にしないマース、純粋な青年に狡猾な老兵では少々相手が悪い、勢い余って大声を出してしまった

 

「何だね?ところで君はいつまでここにいるつもりかな?退出要領はとっくに終わった筈だが」

 

「~ッ!!失礼しましたッ!」

 

散々からかわれたマルコはズンズンと扉に向かって歩いて行き、乱暴に扉を開け、しかしゆっくり閉める、この時ドアノブを回して閉めた際にカチャリと音をたてないようにするのも忘れない

 

そして部屋にマースだけが残った

 

「ふぅ~愉快だな」

 

夕暮れが近づき、やや赤みを帯び始めたた助教室、その窓辺に寄りかかりそっと外のグラウンドに集まっている訓練兵達を見る、その目は優しげで、そしてどこか哀しげだった

 

「頑張りたまえ諸君、どうか死んでくれるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~カルラさんって昔は酒屋で働いていたんですか」

 

「意外か?」

 

「はい、正直言えば、ですが確かに思い返してみればあの人は確かに肝の据わったヒトだった」

 

昔を思い出すようにリュカの目が遠くなり、そして直ぐに目の前にいるキースに視線を戻す

 

リュカは今キースの教官室で彼と二人で談笑している、彼女もまた世話になったキースにお礼を言いに来たのだ、ただマルコと違う所があるとすれば、マルコはマースに呼び出されたのに対しリュカは自分からキースに会いに来たのだ、そして話している場所も複数人いる助教室と違い、教官室とはいわば教官の私室である、それはつまり本人さえ許容すれば多少態度を崩しても問題ない

 

まぁあくまでキースがそれを許せばの話だが

 

「そうか、カルラさんは酒場の女性だったのか、まぁ私にとって一番意外なのは、貴方がカルラさんと知り合いだったことですね」

 

「あそこは当時壁の最南端だったからな、壁外遠征の度に通っていたさ、それに調査兵団はストレスの掛かる職場だ、情けない話だが酒でも飲んでなければやってられない」

 

「フフフッそんなこと言って本当はカルラさん目当てで行っていたんじゃないですか?」

 

「そんなわけあるか、茶化すな馬鹿者」

 

 

話が乗ってきたおかげかキースの舌の回りも良くなってきた、本人にも自覚は無いのだろうがリュカがキースを慕っているように、彼もまたリュカと話すことを満更でもなく思っているのだろう

 

その後もキースの昔話は続く、話の上手くないキースだからこそ彼の話は余計な装飾がなく、当時の状況を事細かくに説明してくれた

 

例えばキースの武勇伝とか

「俺の巨人の討伐数?自慢出来る数字ではない、少なすぎて忘れてしまったな」

 

例えば旧友の今とか

「何っ!?あの呑んだくれが部隊長なのか!ならば今度会ったら祝いの酒でも飲むか、当然奴の奢りだがな」

 

カルラとキースの馴れ初めとか

「酒を飲まなければやってられないと先程言ったが、実際俺達が飲める場所は自宅かカルラの酒場くらいなものだったな、当然兵舎で酒を煽るわけにもいかんし‘お前達がいると酒が不味くなる’と言われてどこの酒場にも出禁をくらっていたからな、カルラくらいなものだったよ、死人みたいな俺達の背中を叩いてやれる人は、今思えば……アレにはかなり助けられた気がする」

 

 

 

そんなこんなで二人は話を続けていると、ちょうどエレンの父グリシャ=イェーガーの話が出た時点で、二人の表情に陰が差した

 

「あの人は……今頃何をしているのでしょうか」

 

先程の明るい空気が嘘のように一瞬で沈む

 

エレンの父グリシャ=イェーガーはシガンシナ区が陥落した際、偶然にも北部に診療に行っており難を逃れた、家と土地とそして最愛の妻を亡くしたグリシャだが幸運なことに子(エレン)は残った、しかしグリシャは何故かエレンを残して姿をくらましてしまった、そのせいで他に身寄りの居ないエレンやミカサが辛い開拓地の生活を迫られたとも言える

 

普通に考えればグリシャの行動は辛くなるであろう今後の生活の負担を少なくするために、エレンとミカサを見捨てたように思えるが、それだけは無いとリュカは思っている、では何故そう思うのかと聞かれれば、ハッキリとは分からないが、強いていうなら‘あの人がそんな小さなことするわけがない’といった感じだ

 

リュカにとってグリシャとは自分を拾ってくれた恩人である、今も昔もその事に対して感謝を忘れたことはない、尊敬もしている、リュカ本人は聞いたことしかないが一度シガンシナを伝染病から救ったこともあるらしい、すごい人だ、リュカは素直にそう思っている、だが同時にこうも思っていた‘よく分からない人だ’と

 

いったいどうやって流行り病の治療法を見つけた?

そんな知識何処で手に入れた?

そもそも貴方はいったい何処から来た?

貴方は何者なんだ?

 

リュカやミカサを拾ったこともそうだ、酷い話だが超大型巨人が出現する前は今よりは治安も経済状況も良かったが、それでも捨て子や人身売買は存在した、医者にしては珍しく出張の多いグリシャなら、リュカやミカサ以外にも身寄りのない子供を見たこともあるだろう、にもかかわらず拾ってきたのはリュカとミカサの二人のみ、そしてこの二人とも他の人よりも際立って高い能力の持ち主だ

 

これを単なる偶然で片付けて良いものだろうか、そして、そんな男が妻を亡くした瞬間、子をほったらかして二年間何をしているのだろうか?

 

リュカはこの二年間ずっとその事を考えていた、ほんの少しの不安を胸に秘めながら、きっとリュカは恐れているのだろう、グリシャ=イェーガーという人間を、それは本人にすら気づかない程小さく些細な程度だが、薄くそして広くリュカの心に広がっていた

 

「あの男のことは……よく分からん、今何処にいるのかも、アイツが何を考えているのかも、ただ何の理由も無しに子を捨てるような男じゃないし、ましては何処かで野垂れ死んでいるのも考えられん、いなくなるにしても何かしら訳があるんだろう」

 

リュカの心情を知らないキースは彼女を気遣うことを言う、髭を弄りながら

 

 

 

「はい、そうですよね……」

 

だがリュカの返事は素っ気ない、リュカは別にグリシャがエレンとミカサを見捨てたなんて毛ほども思ってない、生きていると思っているからこそ不安なのだ、勿論キースが自分の事を気遣ってくれていることは分かっている、素直に嬉しい、だが今は逆にそんな彼の配慮に応えられない自分がとても情けなかった

 

対するキースもまたリュカと同じように激しくおちこむ、それはひえに彼女が落ち込んでしまった原因が自分にあると思っているからであり、それと同時にキースもまたグリシャに思うところがあるのだろう、そしてそれは彼の様子から察するに、あまり良い感情とは言えない、時が経ちいくらか薄くなったとは言え、それでもなお消えない想いをキースはグリシャに懐いているのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

やや沈んでしまった空気のなか、キースが突然そう切り出した

 

「お前俺なんかと話していて楽しいか?こんな話なら別に俺じゃなくても良いだろう」

 

キースの問いに若干の違和感を感じたリュカ、だがその違和感の正体もよく分からない、故にリュカ聞き方も曖昧となる

 

「ん?楽しいですけど、すみません失礼を承知で尋ねるのですが何故そんなことを?」

 

質問を質問で返す、これは本来ならば失礼に当たる行為であり、キースのことを慕っているリュカが取るとは思えない行為であるが、キースの質問の意図をイマイチ掴めていない今回ばかりはこの返答が案牌であった

 

「いや、今のは俺の訊き方が悪かったな、俺が知りたいのは、こう……」

 

「こう?」

 

くちどもるキースの言葉の続きをリュカは急かす、するとキースはどこか吹っ切れたように一呼吸おいて口を開いた

 

「どうしてお前は俺のような男に懐く、自慢ではないが、俺は人類でも指折りの屑だぞ」

 

自虐にしてもこれはあまりに酷い、しかし本人の顔を見る限り冗談を言っているようには見えない、きっと本人は本心からこの言葉を言っているのだろう、そしてそれを聞いたリュカも少し哀しい顔こそすれ否定の言葉は出てこない、何故なら事実としてキースは屑であるからだ、それは本人の性格云々の話でなく、その人生が、その生きざまが、最早真っ当とは言えないほどの血で塗られているからだろう

 

「ククク、今思えば何故俺は調査兵団になど入ったのだろうな、今更考えたところで既に詮無き事だが、お前も後学のために知っておけ、先人の失敗は次世代の教訓になることくらいしか使い道がないからな」

 

カラカラと乾いたように笑うキース、その姿はどこか憐れで痛々しい

 

何もキースとて最初からこうではなかったのだろう、入団当初はきっと若く気高い志を持っていた筈だ、しかし、時間が、老いが、仲間の死が、彼を変えた、なんともまぁ調査兵団とは、業の深い職場だ

 

それから少しすると、返す言葉もなく口をつぐんでいたリュカが口を開いた

 

「それは……」

 

「ん?」

 

「それは私にとって、貴方が命の恩人だからですよ」

 

リュカにとっては万感の想いを込めた言葉だ

 

思い返してみれば今まで散々キースに愛想振り撒いていたリュカだが、何故自分がキースの事を慕っているかは説明したことがなかった、であればこれは案外良い機会かもしれない

 

「命の恩人?すまん俺には思い当たる節がない」

 

「……は?」

 

が、どうやら助けた筈のキース本人は忘れてしまっているようだ、まさか忘れているとは思ってなかったリュカはしばらく呆気にとられる

 

「ほ、本当に覚えがないのですか?」

 

「あぁ嘘ついてどうする」

 

「普通忘れませんよ!」

 

「そんなこと言われても実際分からんモノはしょうがないだろう」

 

「良く思い出して下さい!」

 

「ええい!しつこい、分からんモノは分からん!」

 

「こ、これはなかなかショックですね……」

 

今までに見たことない変な顔をするリュカにやや困惑気味のキース、すると今度はリュカのめつきがジト目に変わる

 

「何だその目は、俺を殉職させるきか」

 

本気で何の事だが分からないキースは目に見えて狼狽する、普段では決して見ることのできないレアな光景だ、とは言えそれでリュカの機嫌が良くなるわけもなく、依然としてジト目を止めないリュカに観念したのか、キースは重々しく口を開く

 

「わかった俺が悪かった、だから何の事だが俺に教えてくれ、ついでにその目も止めてくれ」

 

キースの言葉を聞いたリュカは、はぁと一回ため息をついて再度問う、ちなみにめつきは戻っている

 

「これが最後ですよ、本当に分からないのですか?」

 

対するキースの答は

 

「あぁさっぱり分からん」

 

即答である、リュカは呆れたような顔つきになり人差し指と親指で自身のシワのよってしまった眉間を揉みほぐす

 

「……まったく、貴方という人は」

 

再度ため息、そして一呼吸おいて喋り出す

 

「何で忘れてしまうんですか、ウォールマリアで寝ていた私を保護してくれたのは、他でもない、貴方ですよキースさん」

 

それは今から5年程前、リュカが一人でウォールマリアにいたところをキースが保護してくれたことだ、この時リュカは眠ってしまっていて当時のことはまったく覚えていないらしいが、聞いた話によると、どうやらリュカを保護する際部下と一悶着あったらしい、当然だろう、いくら子供とは言え人一人馬に乗せての部隊行動など敵地ですることではない、加えてキース達の部隊の役割は偵察、より早くより詳細で新鮮な情報を後方の本隊に伝えなければならないのだ、民間人の救出は任務になく、それが任務の阻害になるのならリュカのことを間て見ぬ振りをするのが兵士として正しい選択である、にもかかわらずキースは部下の反対を押しきって自分の馬にリュカを乗せた

 

その時キースが何を思ってそんな行動に出たのかはリュカには分からない、もしかしたらリュカが思っているのとは違う理由かもしれない、けれど、そんなことはリュカにとってはどうでも良い、真実なんてものは見方によってはいくらでもその形を変える、ならばせめて自分の都合の良いように捉えるだけ、それくらいの自由は許されるべきだ、楽観的だと人は言うかもしれないが、それがリュカ=プレゼンチェカという人間であり、彼女自身そんな自分に満足している

 

「貴方にとっては忘れてしまう程度のことかもしれませんが、少なくとも私にとって貴方は、カルラさんやグリシャさんと同じくらいの大恩人なんですよ」

 

大恩人、それはキースが受け取るには全くもって似つかわしくない言葉、何故ならキースがリュカを助けた理由は、単純にリュカがカルラの……いや、言うまい、例え彼女がキースに抱いている幻想が嘘と誤解と偏見で創られた虚像だとしても、リュカ自身がそれを自覚した上で今尚その見方を止めてないのだ、そして何よりも、キースが今、リュカ=プレゼンチェカという少女を助けることができて良かったと心のそこからそう思えているのだ

 

辿る過程がどうであれ、結果的に二人は今理想的な関係になっているといえよう、それはそう、まるで   のような

 

一通り言いたいことをリュカが言い終えると、何故かキースは目を瞑り

 

「大恩人か……クククッ」

 

小さく笑った

 

目を瞑り瞼の裏に映るのは、5年前キースが保護したリュカと調査兵団の隊員を会わせた日の出来事、長い時間を生きていたキースにとっては5年前などまるで昨日の事のように思い出せる

 

 

 

 

 

 

 

 

リュカと調査兵団の出会いは、一言で言えば

 

微笑ましかった

 

『エレンとミカサの居場所が分からないなら仕方ない、本当はこんなことしたくもないが背に腹は変わらん、取引しよう』

 

壁が壊され混乱を極めた壁内に、開拓地に送られた大量の人々を一々記録できるほどの紙など存在しなかった、その結果リュカは完全にエレンとミカサの足取りを失ってしまっていた

 

一応自分が開拓地に志願するのも視野にいれていたリュカだが、そもそも当時のリュカはグリシャがエレン達をおいて失踪をしてしまった事を知らなかった、そのためてっきりリュカは‘エレン達はグリシャと一緒に行動しており今までグリシャが治療した誰かの世話になっている’なんて楽観的なことを考えていた、それは何の根拠もないことであり‘そうであるに違いない’なんていう確信からではなく‘そうであってほしい’という彼女自身の願望から来るものである、それ故‘本当にそうか?’という思考がそもそも浮かばなかった

 

『私はこう見えて、およそ一般的と言える家事は全てこなせる、だからこうしよう、エレンとミカサはきっと二年後の訓練兵団に必ず志願する、だから』

 

まぁ何にしても、エレンとミカサのいなくなったリュカは‘良き姉’である必要がなくなり、彼女はほんの少しだけ幼くなった

 

『だからこの二年間、私はお前達の世話をしてやる、その代わりお前達は私を養え』

 

しかしその事に本人は気付かない、彼女の中では自分はまだしっかりした人間なのだ、その結果

 

『良いか?これは公正な取引であって商売だ、だからお互いお礼も何も必要ない、私はお前達のことが大嫌いだからな!本当なら話したくもないんだぞっ、何だ?その目は、止めろ!そんな生暖かい目で見るな!このロリコンども!』

 

周りから見れば、ただ必死に大人ぶって背伸びしようとしている子供にしか見えなくなってしまった

 

別に取り引きなんてしなくても調査兵団は彼女を受け入れただろう、しかしそれはリュカのプライドが許さなかった、別にリュカにとって調査兵団が‘エレンを惑わす悪い連中’であったからとか、そんなことではない、理由は至極単純で、一方的に施しを受けるなど、そんなの、そんな関係では対等とは言えないからだ、一体ナニを指して対等というのかはリュカにも分からなかったが、とにかく彼等調査兵団に貸しをつくるのだけは嫌だった

 

しかし、そうやって意地になる彼女の様子は調査兵団の皆にとってはただただ微笑ましかった

 

例えば、彼女にちょっとでも親切をすると

 

『おぉ、ありが……何でもない!』

 

なんて自分からした約束を進んで破ろうとするのだ、まぁ根が真面目で礼儀正しいリュカにとっては土台無理な話である、頭も勘も鋭いリュカには彼等調査兵団の隊員が皆誠実な良い人であることは一日と経たずに理解できてしまい、自分が失礼な態度をとることが何だか情けなく感じるようになってしまった、そしてそんな生活が三日ほど続いたある日キースが馬に乗れないリュカを乗せてあげたときに、リュカは言ってしまった

 

『ありがとう』と

 

もうその日からはどうでも良くなってしまったのか、リュカは積極的に調査兵団の隊員達とふれ合った、料理の出来栄えを聞いてみたり、朝に弱い隊員を起こしに行ったり、女性隊員と一緒に料理の研究をしたり、潔癖性の人類最強とはソリが合わなかった、歌も歌った、酒も飲んだ、そして、仲間が死ねば共に泣いた、片手の指じゃすまない別れと出会いを経験して、そうして彼女は成長した、二年かけて大きく成長した、それこそ、目の前にいる百戦錬磨の老兵と‘対等’に話せるくらいに

 

 

 

 

 

 

「何かおかしなことでも言いましたか?」

 

突然笑いだしたキースに、リュカが不思議そうな顔をする

 

「いや、何でもないさ、少し感慨に浸ってただけだ」

 

「そうですか」

 

その言葉を境に二人の間にまた静寂が訪れる、しかし今回は先程のような気まずい沈黙ではなく、単純に二人ともこの場の空気に浸っているのだ

 

キースはともかくリュカにとっては3年暮らした訓練場を離れることにはいろいろ思うところがある、窓の外にあるこの夕焼けに染まった殺風景な景色を見るのも、今日で最後なのだ、多少感傷に浸るのも良いだろう

 

だがまぁ、そうそう上手くいかないのが世の中おもしろい所だ

 

「ヒソヒソ……やべぇぞアルミン、重大な問題が発生した」

 

「どうしたのさエレン、早くリュカを呼んできてよ」

 

「アルミン、それが無理なんだよ」

 

「なんでさ?」

 

「緊張して入室要領忘れた」

 

「……チッ」

 

ドア越しですら聞こえる舌打ちとは、それを目の前でやられた者の気持ちはどんなものだろう、流石にそこまではわからないが、静まり返ったドアの向こう側を想像すれば察するにあまりあると言うものだろう

 

しかし、それはあくまでリュカの場合だけで、キースとしては折角何の邪魔もなくリュカと会話をすることができた貴重な時間を邪魔されてしまったためか非常に機嫌が悪くなる、彼ほどの兵士となれば口に出さなくとも隠す気のない気配は自然と漏れ出す、まして勘の鋭いリュカがそれに気付かないわけもなく、目は気まずいように少しだけ垂れ下がるが口だけは微笑むように僅かに吊り上げるという起用な表情をしていた、その様子に毒気を抜かれたのか、キースはこれでもかというほど大きなた溜め息と精一杯の呆れ顔でリュカに退出を促す

 

「行ってやれ」

 

「ははは、なんかすみません」

 

「お前が謝る必要がどこにある、だがイェーガー訓練兵、いや元訓練兵にはこのあとここに残るように言っておけ」

 

「わかりました」

 

クスクスと笑いながらその場を立ち去るリュカ、しかしどうゆうわけか、部屋を出る直前にくるりと回りまたもキースと向き合った、その顔は先程とは違い余計な感情を一切省いた真剣そのもの、そしてそのまま

 

「お世話になりました」

 

ペコリと頭を下げる

 

普段よりほんの少しだけ永く頭を下げると、リュカは今度こそキースの部屋を出る

 

‘お世話になりました’それは何に対して言った言葉なのだろう、調査兵団で過ごした3年のことだろうか、それもと訓練兵の2年間の事だろうか、答えは否、その両方だ、キースと一緒に過ごした全ての時間に対してお礼を言う、これはリュカなりの別れの言葉なのだ、‘5年間お世話になりました、もう十分です’と

 

 

  

 

 

 

 

 

紅く染まった自身の部屋で一人、彼女の後ろ姿と遠ざかる足音を聞きながら、キースは部屋に元々備え付けてあったソファーに深く腰を掛け、大きく息を吐いた、静寂に包まれた一室の空気を味わいながら、キースは久々に自分の気持ちに整理ができないでいた、リュカに別れを言われたことは正直少しだけ悲しい、しかし胸の内に吹き抜ける風は心地よい、部屋の窓は開いていないから比喩表現である

 

いつまでも彼女が自らの側にいるとは毛程も思っていないが、いざこうして真っ向から別れを言われるのは胸に来るものがある、しかし同時にああも立派に育ってくれたことを誇りに思う自分もいる、別にリュカが自分の背中を追って成長した訳ではない事は分かっている、それでも、例え反面教師としてでも、自らの失敗が彼女の成長の糧となってくれていれば、それだけで俺の余生にも意味はある

 

あぁ何だか今日は酒が飲みたい、珍しく気分が良い、騒がしいのは嫌いだが、あの飲んだくれを誘っても良いかもしれない、はぁ何だろうな今の気持ちは、久しく味わっていなかった、まったくもって俺らしくないが、悪くない、成る程、親しい者との別れは何もツラいことばかりではないということか、この年になってもまだ学ぶことがあるとは、世の中面白いものだ、さぁそうと決まればさっそくだ、棚に置いてある酒瓶を取ろう、もう何十年も前に貰ってから一切手をつけてないのがあったはずだ、勿体無いが今夜は特別だ、特別ついでに言ってしまおう、本来俺が言って良い言葉じゃないが、別に良いだろう

 

「リュカ、お前は俺の誇りだよ」

 

どうせ誰も聞いちゃいない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?どうしたのさリュカ、急に顔赤くして」

 

「いや その、なんだ、耳が良いのも困りモノだな、今度あの人にあったらハグでもしたくなってしまった」

 

 




ふぅ~漸く更新できました、一応毎日チマチマ執筆はしていたのですがいかんせん時間がありませんでした、すみません、最後の方は作者の息切れが伺えますね、適当な文になってしまって申し訳ないです。

どうでも良いんですが、エレン達って訓練課程を2年間も耐えてきたのですよね、三ヶ月でギリギリだった自分から言わせてみれば考えられないくらい凄いです

感想まってます。

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