織斑姉弟+1   作:kuni

3 / 9
第三戦 幼馴染みの下着は地味だった

 

 

 

箒は人気のない校舎裏を急いでいた。

 

剣道部の体験入部に出るため道場への最短距離を歩いていたのだが、その足が止まる。

 

「こ、これは?」

 

箒の眼前に広がっていたのは、地面にボロボロの姿で倒れ伏す少女達だった。

 

「あ、箒ちゃん。どうしたの、こんなところで」

 

建物の影から善助が姿を現す。

 

篠ノ之 箒にとって織斑 春十という幼なじみは、織斑 一夏の弟であり、いつも姉や、兄の後ろに隠れていた大人しい少年であった。

 

兄の一夏と違い剣道をやったりせず、どちらかといういつも箒の姉である束と一緒にいた気がする。

 

あの破天荒な姉と大人しい春十の気がどうあったのか知らないが、実の妹であるい箒よりも余程姉に懐いていた。

 

しかし、今の善助の表情は軽薄そうな笑いが張り付いていて、昔の姿とは似ても似つかない。

 

「お、お前がやったのか?」

 

「まさか、そんなわけないよ。実はこの子達に呼び出されてね」

 

あり得ないという風に善助は肩をすくめる。

 

「ほら、さっきの演説が凄い勢いで広がったみたいでね。こうやって呼び出されたわけだよ。だけど校舎裏とかって言うのはどこでも変わらない定番だね」

 

善助の言ったことはこの学校に所属する人間にとっては、ひどい侮辱に感じられるだろう。

 

だからこんな風に人気のないところに呼び出される羽目になったのだ。

 

「何かわからないけど、途中で仲間割れみたいなことが起こったらしくて、互いに殴り合ったんだよ。その結果がこれだよ」

 

「事情はわかったが―――」

 

箒は周りを見回した。

 

倒れ伏す少女達は殴り合ったという割にはあまりに凄惨な様子だった。

 

いくら何でもたかが女子高生が歯が折れて顔がふくれあがるまで殴り合うだろうか?

 

そんな疑問を箒が感じている間に善助はどこからか金属バットを取り出した。

 

箒が何か言う前に善助がそれを振り下ろす。

 

当然のように倒れている少女にバットがぶつかり苦痛の声をあげる。

 

箒が呆然としている間に善助は特に面白くなさそうに少女を滅多打ちにしていった。

 

「よ、よせ!! やめろ!!」

 

「おや、どうしたの? 箒ちゃん」

 

「それはこっちの台詞だ!! 一体、お前は何をしている?」

 

「殴打」

 

あっさりと自分をやっていることを指し示す善助だが、すぐに聞かれ意味が違うと思い言い直す。

 

「せっかく俺を呼び出した人間が倒れているんだから、この機にボコボコにして再起不能にしておこうかと思ってね。また、呼び出されたら怖いじゃん」

 

「ふざけるな。そんな卑怯な真似が許されるか!!」

 

「相変わらずだね。箒ちゃん」

 

大の男ですら怯みそうな箒の一喝も善助の軽薄そうな笑みは崩れない。

 

「でも、この子達はまた俺を呼び出すかもしれないじゃん。その時俺がこの子達に怪我させられたらどう責任をとってくれるの? 俺は痛いのは嫌なんだ。だから今のうちにこの子達には学園から消えて欲しいんだよ」

 

「―――貴様は最低だ」

 

「箒ちゃん、もしもここに居たのが一夏だったら、同じことを言った?」

 

「っ、あいつはお前とは違うっ!!」

 

「だろうね、俺もあいつと一緒にされるのは御免だよ。どうせこのことは君には関係ないんだ。さっさとあっちに行ってくれない」

 

そう言って再び暴行を続けようとする善助の鼻先に竹刀が突きつけられた。

 

「剣道場に来い!! 貴様の性根を叩き直してやる!!」

 

「それをして俺に何のメリットがあるのさ?」

 

言い返す善助を箒が睨み付けるとやがて根負けしたように手を上げた。

 

「分かった。了解したよ」

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

剣道場に居た先輩に許可を取り、場所を使わせて貰えることになると善助はおもむろにガムテープを取り出した。

 

「ねえ、簡単なゲームをしない?」

 

「ゲームだと?」

 

道場の床に10m四方のガムテープの正方形が出来上がると善助はおもむろにそう言った。

 

「そ、ルールは簡単俺はこのガムテープ内で逃げ回るから、箒ちゃんはその俺に竹刀で触れば勝ち、制限時間の10分間俺が逃げ切れば俺の勝ち。もちろん場外に出たら出た方が負けだからね」

 

「くだらんな」

 

「そう言わないで付き合ってよ。もし、箒ちゃんが勝ったら箒ちゃんと一夏に昔通りハルって呼ばせてあげるよ」

 

「それは本当か!?」

 

あらか様に呆れた様子の箒だったが善助の一言に目の色が変わる。

 

一夏が善助との関係に悩んでいる事を知った箒は、彼女なりにどうにか関係が修復できないか考えていた。

 

その理由が好きな幼なじみに元気になって欲しいという、微妙に下心のある物だったが善助は気付かないふりをした。

 

「その代わり、俺が勝ったら一つ言うことを聞いてもらうよ」

 

「いいだろう。約束を忘れるな」

 

その時点で、もはや箒の頭に始めの目的は存在していなかった。

 

「じゃあ、始めようか?」

 

「防具は着けないのか?」

 

「どうせ当たらないんだから必要ないよ」

 

「っ後悔するなよ」

 

箒自身も防具を取り外し竹刀を構える。

 

「準備は良い?」

 

許可をした先輩がそう聞くと、二人とも頷いた。

 

「じゃ、始め!!」

 

先手必勝とばかりに箒が竹刀を振り抜いた。

 

剣道全国大会1位と言う称号を持つ彼女は、つまり同姓、同世代での大会参加者の中で彼女が最強であることを示している。

 

そこら辺にいる喧嘩自慢や腕自慢では相手にならないほどの力量を彼女は持っていた。

 

しかし、その竹刀は善助を捕らえることはできないでいた。

 

縦、横、斜め縦横無尽に振るわれる箒の竹刀を善助は軽々とよけている。

 

「くっ!?」

 

「どうした、全国1位」

 

へらへらと笑う善助に箒の竹刀はかすりもしない。

 

かすっていないと言っても、本当にぎりぎり後数センチの差で竹刀が触れるというところで避けられているのだ。

 

(一体どうしてだ!?)

 

箒も自分が最強だとは思っていない。

 

千冬を始め、自分より高みにいる人物は山ほど知っている。

 

だが、善助はそういう者達と全く違った。

 

攻撃が躱されたと言うことは理解できても、どうして躱されたかが全く理解できない。

 

相手は早く動いているわけでも、特殊な動作をしているわけでもないと言うのに、当たったと思った次の瞬間には、躱されと言う事実を突きつけられる。

 

今まで剣を握ってきた人生の中で、当たったと思って外したことや外されたことは多々あるが、それでも外されたという事実を突きつけられれば、どうして外れたかと言うことは何となく理解できた。

 

しかし善助の回避はまるで狐が化かしているかのような気分になる。

 

まるで過程と結果が噛み合っていないような、後で冷静に考察しても、当たっているはずなのに実際は当たっていない。

 

「あれ、これはやばい?」

 

善助の呟きに箒は気付いた。

 

いつの間にか善助は正方形の頂点に追い詰められていたのだ。

 

(取った!!)

 

善助に向かって突きを放ちながら、箒は自分の勝利を確信した。

 

箒の竹刀はまっすぐ善助の身体の中心を捕らえている。

 

後ろにも左右にも逃げ場はない。

 

強引に回避しても体勢を崩した姿では次の攻撃を避けられない。

 

「取ったと思ったでしょう」

 

気付いたときには善助の顔が眼前にあった。

 

そして次の瞬間には善助の全身が消えたのだ。

 

(どこに行った!?)

 

一瞬混乱する意識を強引にねじ伏せ、状況を確認する。

 

自分の前方に善助の姿はない。

 

左右にも、勿論居ない。

 

そして下は床になっているのなら、答えは一つだけだ。

 

(上か!?)

 

驚くべきことに、善助は助走なしの垂直跳びで自分の視界から消えたのだ。

 

だが、上空に浮いてしまった以上、そこから回避はできない。

 

確かの確信とともに、箒は竹刀を上に突き出して目を向けた。

 

そして、そこには何もなかった。

 

むぎゅう

 

「うひゃあっ!!」

 

突然の衝撃にそんな声を上げて体勢を崩してしまった。

 

「本当に大きいな、これ、予想通りとはいえ、衝撃だね」

 

声に対して背後を振り返ると同時に、持っていた竹刀を投げつけるがそれは簡単に回避されてしまった。

 

「なななななな」

 

「はい、箒ちゃん、落ち着いて深呼吸~深呼吸~」

 

胸を揉んだ不埒者、人吉 善助は何事もなかったように箒の背後に立っていた。

 

「まだまだ未熟だね。左右と後ろがだめなら、上と瞬間的に判断したのは評価できるけど剣道やってたら足捌きで相手をすり抜ける技があるのは知っているだろうに――――」

 

確かに箒も足捌きだけで相手を抜く技術が剣道に存在するのは知っている。

 

しかし、それは才ある人間が血の滲むような努力を長年続けて到達できる境地だ。

 

それこそ、視界から消えるほどの高さまで真上に跳躍することの方があり得ると思えるほどの異常事態だ。

 

「それはともかく、この勝負は俺の勝ちだね」

 

「な」

 

その時になって箒は自分がテープの外にいることに気付いた。

 

「さーて、箒ちゃんには何してもらおうかな」

 

その言葉になぜか善助の視線が胸に行っている気がして慌てて胸元に手をやる。

 

「こ、こんなのは無効だ!!」

 

「おいおい、それはないよ。本当に変わっていないな」

 

昔から負けず嫌いで往生際が悪い箒の様子に善助はため息を吐く。

 

「そういうことを言うとこういうことしちゃうよ」

 

突然善助が両手を持ち上げるとそこには二つの布切れがあった。

 

箒は咄嗟にその二つの布切れが何か分からなかったが、妙に見覚えがある物だと思い三秒ほど考え込んだが、次の瞬間には自分の道着の上と下を確認する。

 

結論は、無しだった。

 

「一夏を誘惑するつもりだったら、もうちょいこだわりなよ。こんな地味なのじゃ本番の時に引かれるよ」

 

箒は壁に掛かっていた木刀を握りしめ、思いっきりド変態の顔に向けて投げつけたが簡単に回避された。

 

「死ねええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」

 

「おーこわ。その殺意の千分の一でも下着の色気に回せばいい物を――――」

 

善助の両手に持っている布切れは、それぞれ箒が今までつけていたブラとショーツだった。

 

しかし白で飾り気のないそれは、色気という点では疑問を持たずには居られない物だった。

 

「どうせその胸のサイズに合う物がないからデザインが限られたんだろうけど、もうちょっとどうにかならないのかな」

 

壁に掛けられた真剣、(おそらく模造刀)を振り回してくる幼なじみの攻撃を回避していると道場の扉が開いた。

 

「すいません、剣道場ってここですか?」

 

「へい、パス」

 

箒と事前に試合の約束をしていた一夏が入ってきたので、手に持っていた下着を投げ渡すと相手は反射的に受け取った。

 

「おい、これは一体「*>*#%&!!」」ぬぉお!?」

 

その手に持っている物が咄嗟に分からなかったため、善助に問いただそうとした一夏だったが、その前に奇声を上げた幼なじみが襲いかかってきたのでそれは出来なかった。

 

「ちょ、おい箒一体何がぁ!?」

 

何とか意思疎通を図ろうとする一夏だったが、箒はショックで正気を失っているらしく真剣(模造刀)を振りかぶって一夏を追い回す。

 

「ま、待て箒、とりあえず落ち着けな、な、」

 

しかし、人に対して言葉は有効だろうが、猛獣に対しては無意味だ。

 

「”#`*>?!!」

 

「うぎゃあぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」

 

「帰るか」

 

悲鳴を上げて逃げ出した同一遺伝子保持者と 、それを追っていった幼なじみを見ながら善助は剣道場を後にしようとした。

 

「その前にこれを片付けていってくれない?」

 

「やったのは箒ちゃんですよ。本人に伝えてください」

 

先ほど許可を出した先輩が、箒に散らかされた道場を見ながら言うが善助は取り合わない。

 

「今のあの子の前に出たら。巻き添えを食いそうだからそれは無理ね。大体、原因は君でしょう。女の子の下着を取るなんて訴えられるわよ」

 

「いやこんなのは軽い挨拶ですよ。可愛い女の子がいたらセクハラするのが普通でしょう?」

 

「今のこのご時世で、よくそんな事が言えるわね」

 

世界最強兵器であるISが女性にしか動かせない以上、必然的に世界は男性より女性を優遇するようになっていった。

 

今では昔の男尊女卑と逆転して女尊男卑の時代だ。

 

セクハラなどしたら速攻で刑務所行きであるが、善助はそんな事は全く気にしていない。

 

「同意の上ならセクハラだって訴えられる事もないでしょう。惚れさせるだけなら簡単ですし」

 

「………………同じ女として貴方は好きになれそうもないわね」

 

「そう言われても、俺は普通にしているだけですよ。その人を『理解』して最短距離と最適解を辿っているんですから」

 

剣道部部長の軽蔑したような視線にも善助は動じない。

 

「人は好かれるために、相手を知りたがる。容姿に金銭、趣味に愛の言葉、相手の求める物を捧げて相手に好かれようとする。俺もそうやっているだけですよ。それはそうと、何でそんなに俺から離れているんですか?」

 

善助と部長との距離は10メートルほど離れている。

 

会話をするには少々遠い距離だ。

 

「貴方にセクハラされたくないからよ」

 

「俺がセクハラするのは可愛い女の子だけですよ」

 

「よし、そこに正座しなさい。首をはね飛ばしてやるから」

 

割と本気で模造刀を掴み取る部長に善助は肩をすくめた。

 

「冗談ですよ。だけどそこまで言われると期待に応えなくちゃいけませんね」

 

言葉が終わると同時に善助の体が凄まじい速度で部長の横を通り過ぎた。

 

さっきの箒との試合で見せた速度とは雲泥の差であったが、停止した善助は顔をしかめている。

 

「これだから、あの人の端末は嫌いなんだ」

 

「あら、もうちょっと深く踏み込めたと思ったのに貴方本当に凄いわね」

 

模造刀で打たれた手を痛そうに降る善助に部長は意外そうな顔をする。

 

「自信を持って良いわよ。私はこういうことに関しては端末の中で上位なだけだから、たいていの相手になら通用するわ」

 

善助はすれ違った瞬間下着を抜き取ろうとしたが、部長はその手を模造刀で打ち据えていたのだ。

 

全国一位の腕前を持つ箒でさえ気付かれずに抜き取ったというのに、この部長は易々とそれを破って見せた。

 

それだけで彼女が『普通』ではないことが見て取れる。

 

「それに、総合力では貴方の方が――――」

 

部長の声が途中で止まる。

 

その目は善助の打ち据えられた手とは逆の手を見ていた。

 

「この年になってクマさんはないと思いますよ」

 

その手にはクマの絵がプリントされた下着が握られていた。

 

文字通り下に着ていた方だ。

 

「…………………」

 

部長は無言で模造刀を振り上げた。

 

そして善助は兄と同じように剣道場から逃走することになる。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。