織斑姉弟+1   作:kuni

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第四戦 弟は授業に来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思ったぞ!!」

 

「朝からなんだ。一体」

 

朝食の時間、数人掛けの席をたった一人で占拠していた善助の前に一夏が乱暴に腰掛けてきた。

 

その隣には箒が当然のように席に着く。

 

「お前のせいで箒に追いかけられたんだぞ!!」

 

「そりゃ良かった。もっと不幸になれ。そして死ね」

 

「……………お前な」

 

悪意満載の善助の言葉に、一夏は逆に毒気を抜かれてしまった。

 

「それと、何を勝手にこの席に座っているんだ」

 

「いいじゃないか、顔見知りなんだし箒以外に知り合いがいなくて心細いんだよ。箒だってお前と話したいだろうし――――」

 

「眼科に行け、お前の横に座っている女子は俺の事射殺しそうな目で睨んでいるぞ」

 

昨日の事がある以上、好意的な視線を向けられるはずがないのだが、そんな状態でも平然としている善助も大概である。

 

「箒の目付きが悪いのは元々だろぉう゛!?」

 

「眼科にに行く前に脳外科に行ってこい」

 

余計な事を言って隣の女子に足を思いっきり踏まれる一夏に善助はため息をついた。

 

「……………大体、こんなところで飯を食ってる場合か、あの金髪と決闘するんだろう。練習でも何でもしてろよ」

 

「心配してくれるのか?」

 

「そうすれば、お前と顔を合わせないですむ」

 

どことなく嬉しそうな感じの一夏を善助はそう一蹴する。

 

「さっきから聞いていれば、こんな事になったのも元はと言えばお前が原因だろう」

 

「…………勝手に話が大きくなったのはお前のせいだけどな」

 

「…………………」

 

善助を責める箒だが、一夏に口を挟まれるとそっと視線を逸らした。

 

「………大体、俺は間違ったことは言ってないぞ。箒ちゃんも含めて、俺らは特別なんだよ」

 

そこまで言って一夏と箒を見る。

 

「世界唯一の男性操縦者にその同一遺伝子保持者、そしてISの開発者、篠ノ之 束博士の実妹」

 

「あの人と私は関係ない!!」

 

「本人がいくら言ったって世間はそう思ってくれないよ。どうせ特別扱いされるなら楽しんだ方が特だよ」

 

「私はそんなことはしない!!」

 

冷めている善助に対してヒートアップしていく箒。

 

そろそろ止めに入ろうかと一夏が思ったところで事態が動いた。

 

「一体何を騒いでいる」

 

「あ、千冬姉」

 

「ち、千冬さん」

 

「……………チッ」

 

黒いジャージを着て食堂に現れた千冬に対してそれぞれがリアクションを取る。

 

「食事は迅速にとれ!! 遅刻した者にはグランド十周させるぞ!!」

 

その言葉に周りの人間が慌てて食事を掻き込み始める。

 

食事を残さないあたり躾が良いか意地汚いかの判断は微妙なところである。

 

「それと織斑、お前に学園から専用機が用意される。放課後手続きの書類を取りに来い」

 

「え、本当ですか?」

 

「お前は世界で唯一の男性操縦者だ。データ取りのためにも、特例が認められる」

 

専用機、それは世界に五百ほどしかないISの一体を個人に提供するという特別扱いだ。

 

本来なら激烈な競争率を勝ち抜いたエリートにだけ適用される物だが、一夏の希少性はその比ではない。

 

「安心しましたわ。まさか、訓練機で私に挑むことはなかったでしょうけど、勝敗を性能差のせいにされてはたまりませんわ」

 

どこから出てきたのかセシリアがトレイを持って立っている。

 

その手には紅茶とパンとサラダという朝食というか軽食がのせられていた。

 

ちなみに彼女も専用機を持つエリートの一人だったりするのだが、とりあえず一夏は今最も気になっている事を言った。

 

「早く朝飯を食べないと、遅刻するんじゃないのか?」

 

「始業まで、後十分だな」

 

「っ、また来ますわ!!」

 

一夏と善助の言葉に慌てて空いている席を探しに行くセシリアだった。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「あの、織斑先生?」

 

「何だ?」

 

「善助のやつはどうしたんですか?」

 

1時間目が始まってからしばらくしても善助は教室にやってこなかった。

 

「…………あいつは授業に出席しない。特例処置で、授業への出席が免除されている。そもそもISに乗れないあいつが授業を受ける意味はないからな」

 

「納得いきませんわ!!」

 

億劫そうな千冬の答えにセシリアが立ち上がる。

 

「ここは世界中から集められた者達がISを学ぶための学び舎のはず。そのような特例が許されていいわけがありません!!」

 

「オルコット、一学生であるお前が異議を唱えるのは勝手だが。これは上層部が決めた事だ。いくら文句を言ったところで覆りはしない」

 

オルコットの異議を千冬はバッサリ切り捨てた。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

一方、その頃善助は廊下を歩いていた。

 

「いやー、廊下を歩いていたら綺麗なお姉さんに声をかけられるなんて今日はついているな」

 

「ふふ、お上手ですね。でもついているのは私ですよ。荷物を持ってもらって――――」

 

「そう言ってもらえると嬉しいですね。美人のために働くのは男の報酬ですから」

 

横を歩く少女に善助は照れたように笑顔を向ける。

 

先ほど廊下を歩いていた善助に少女が荷物運びを頼んだのだ。

 

それを了承した善助は、彼女と一緒に生徒会室までの道を雑談しながら歩いていた。

 

「はい、ご苦労様です。お礼にお茶でもどうですか?」

 

「ええ、いいんですか?」

 

「ちょうど会長もいらっしゃいますし、一緒にどうぞ」

 

「え、その会長もひょっとして美少女ですか?」

 

とても失礼な善助の質問にも少女は微笑を崩さない。

 

「ふふ、私より綺麗な人ですよ」

 

「うわ、緊張してきたな」

 

今更ながら髪などを整え始めた善助を背にに少女は扉を開けた。

 

「あら、虚ちゃん、そっちの子は?」

 

「初めまして、人吉 善助って言います」

 

中にいた人物が善助と一緒だった少女、虚に問いかけると彼女の代わりに善助が答えた。

 

「ひょっとして、あの噂の男性操縦者の弟さん?」

 

中にいた人物、水色の髪をした少女がそう問いかけた瞬間善助の顔が歪む。

 

「止めてくださいよ。あれと、身内だと言われるたびに蕁麻疹が出るんですから」

 

「…………そう、それは悪かったわね」

 

彼女は素直にそう謝罪した。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

少女は自分の事を更識 楯無と名乗り、お茶会が始まった。

 

特に何ともない雑談をしながら時間が過ぎていくが、虚がDVDを取り出してセットし始めた。

 

「そう言えば、面白い物を手に入れたんだけど見る」

 

「あ、映画か何かですか?」

 

善助に答えず、楯無しがスイッチを入れる。

 

画面に映像が映った。

 

どうやら学校の一部を映している防犯カメラの映像らしく、校舎裏の風景が移っていた。

 

そこに女生徒達と、それに引きつられるようにして善助が出てきた。

 

女生徒達が善助を壁際に追い込む、とても友好的な雰囲気とは言えない。

 

「恥ずかしいところを見せましたね」

 

「あ、違う違う。この場面じゃなくて、この次の場面のことなんだけど」

 

そう言いながら楯無はリモコンのボタンを操作する。

 

「記録が残っていないのよね」

 

言葉通り、本来常時記録を取り続ける画面には砂嵐しか映っていない。

 

「カメラの故障か何か知らないけど、記録が残ってないの」

 

「それは良かった。この後また情けないことになるんで会長には見て欲しくないんですよ」

 

「……………そろそろ、とぼけるのは止めてくれないかしら?」

 

安堵したように息を吐く善助に楯無しは笑顔を向ける。

 

ただし目は全く笑っていない。

 

「な、何を言って――――」

 

戸惑う善助の体がふらつく。

 

「あ、あれ、これは―――」

 

「抵抗は無駄よ。象だって踊り出すような薬だから―――」

 

善助の表情が弛緩し、やがて人形のような無表情になった。

 

「あなたの目的は何?」

 

顔を近づける楯無に、虚ろな表情のまま善助の口が動く。

 

「いい加減にしろよ。この野郎」

 

焦点を結んでいなかった瞳がしまり、瞬時に表情が切り替わった。

 

「くそまずい自白剤入りの茶なんぞ飲ましやがって、我慢して猿芝居に付き合ってやっていたがもう限界だ」

 

心底不快だとばかりにカップを机に叩き付けて粉砕する。

 

「どうして」

 

「生憎、自白剤ぐらいじゃ俺の体は何ともならないんだよ。それより」

 

人間どころか大型動物ですら正気を失う量の薬品を摂取しても、善助は平然としていた。

 

「更識には話は通しておいたはずだぞ。どういうことだ」

 

ソファーにどっかりと腰を下ろして確認するように聞く。

 

「…………話は聞いていたけど、事情は知らされていないのよね」

 

自白剤が効かなかった事に驚きはしても、特に慌てもせずソファーに座り直す楯無。

 

その横では虚が割れたカップを片付けていた。

 

「犬ならご主人様の命令に従ってろよ。更識の存在意義は日本の国益を守る事だろう」

 

更識家は日本の暗部を守る対暗部用暗部と言う役割を持つ家である。

 

そして、その現当主こそ目の前に座っている更識 楯無なのだ。

 

「と、言われても学園内で問題を起こされると困るのよね。私って生徒会長だし―――」

 

「だったら、うまく処理しろ。それがお前らの仕事だ」

 

楯無はこの学園の生徒会長である同時に、合法非合法裏表問わずのトラブルを処理する役に就いている。

 

今回の世界唯一の男性IS操縦者とIS開発者の実妹の保護は彼女の仕事であり、それと一緒に人吉 善助の行動に対する不干渉と事後処理いうのも依頼されている。

 

「何も事情を説明してくれないと、それもままならないのよね」

 

本来ならそんな事は許されないのだが、聞かないわけにはいかなかった。

 

普段は全く仕事をしない幼なじみが、わざわざ忠告までしてきたのだ。

 

本当に危険な事態が起こっていると言っても過言ではない。

 

「なら分かりやすく言い換えてやる。お前が妹の幸せを願うなら、何も聞かず仕事をこなせ」

 

そう善助が言い放った瞬間、楯無がISを展開し水流を纏った槍を振るった。

 

「止まれ」

 

そうつぶやいた善助の言葉を無視して、槍の刃が首筋に突きつけられる。

 

「簪ちゃんに手を出したら殺すわよ」

 

「その前にお前が死ぬがな」

 

首筋に突きつけられた水で作られた刃は鉄板すら易々切り裂く物であるが、同時に楯無の首筋にも善助が握ったフォークが突きつけられていた。

 

「あたしの方が早いわよ」

 

「お前は首を落とせば死ぬだろうが、俺はどうかな? 絶対防御に頼ってみるか?」

 

ISに搭載されている絶対防御は核攻撃からも搭乗者を守る性能を持っている。

 

フォークごときで突破できる物ではないはずだが、楯無には確信が持てなかった。

 

「止めたわ」

 

そう言って楯無は水の刃をかき消す。

 

「薬を盛った事は謝るわ。でも、これだけは聞かせてちょうだい。あなたはこの国に害を及ばすの?」

 

「必要があれば、だがそうならないように誰かが事前に手を打っておけば不要な事はしないな」

 

暗に自分が干渉する前に面倒ごとは片付けておけと伝えると立ち上がった。

 

「じゃあな、生徒会長さん。頑張って俺のために学園を守ってくれよな」

 

それだけ言って善助はさっさと生徒会室を後にする。

 

「………」

 

しばし残された楯無と虚はそのまま体を硬くしていたが、きっかり一分後力を抜いて大きく息を吐いた。

 

「本当に洒落にならないわよ。あれ、事前に忠告されてなかったら防げなかったわ」

 

そういう楯無の眼前にはシールドエネルギーが半分を切った自分の専用機のステータスが表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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