織斑姉弟+1   作:kuni

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第五戦 弟は応援してくれなかった

 

 

 

「とうとうこの日が来たか」

 

晴れ渡る空を見上げながら、一夏は周りを見回す。

 

そこには不機嫌さを隠しもしない幼なじみと弟が居た。

 

「お前が不機嫌なのは分かるんだが、何で箒まで怒っているんだ」

 

「………別に怒っていない」

 

私怒っていますよとばかりに顔を背けられてそんなことを言われても同意できるわけがない。

 

(代表候補生と戦うというのに私が剣の稽古に誘っても来ない奴のことなど知るか―――大体、同室になったというのにほとんど帰ってこないではないか)

 

諸事情により男女同室となった箒と一夏は幸か不幸か共同生活を送ることはなかった。

 

彼女にとってそれはまるで避けられているように感じていたのだ。

 

「……………何でだ?」

 

「お前が箒ちゃんのおっぱいを揉んでやらないからだろう」

 

「な、貴様、何をする気だ」

 

同じ男としてアドバイスを求めたところ、訳の分からん答えを返され幼なじみからは本気で引かれた。

 

「………それはともかく、っっ!?」

 

もうこの話は終わらせようとしたところ、思いっ切り脛を蹴られた。

 

「何すんだよ」

 

「……………」

 

先ほどよりさらに機嫌を悪くした幼なじみがそっぽを向いている。

 

「………………俺のISはいつ来るんだろうな」

 

試合五分前だというのに一夏の専用機はまだ影も形もなかった。

 

ひょっとしてこのまま試合がお流れにならないかななどと思ってみたりもした。

 

「……………」

 

「……………」

 

誰も相手してくれないので多少傷ついたが、とりあえずこれ以上傷つかないように黙っていることにした。

 

「織斑君、織斑君、織斑君って、どうしたんですか?」

 

どことなく重い空気の中に副担任の山田真耶がやって来た。

 

「いや、何でもないですよ。それよりISは来ましたか?」

 

「はい、たった今到着したところです!!」

 

来なきゃ良かったのにと言う本音を飲み込み、一夏は視線を向ける。

 

「これが俺のISか」

 

開かれたコンテナの中には真っ白い鎧が鎮座していた。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

「まあな、それがお前のISか―――」

 

セシリアが身に纏っているのは鮮やかな青の機体、その背後に4つの子機を従えている姿は戦場を駆る騎士のようだ。

 

「このブルーティアーズを前にして余裕がありそうですわね」

 

「そうでもないぜ、世界初のBT兵器の実戦投入機を前にして緊張しているさ」

 

「……………意外と詳しそうですわね」

 

「これから戦う相手の事前調査は当然だろう」

 

一夏が近接ブレードを取り出すとセシリアもそれに併せて、身の丈以上の銃を取り出す。

 

「今すぐ頭を大地に擦り付けて謝るなら許してあげますわよ」

 

「負けそうになったらそうするさ」

 

そうして開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「何だ。あれは!!」

 

「何がだよ?」

 

モニタールームでエロ本を読んでいた善助の襟首を引っ掴み、振り回す箒。

 

「防戦一方じゃないか!! なぜ攻めない!!」

 

「まだ一次移行が完了していないからだよ」

 

専用機は初めて装着した際、登録を行って機体を自分専用に最適化する必要があるのだが試合直前に機体が届いた一夏は、今現在その最適化中なのだ。

 

「どこかの誰かがさっさと持ってきてれば、それもとっくに済んでいただろうにね」

 

「だ、だって仕方がなかったんです」

 

情けない声を上げる真耶だったがそれも仕方がなかった。

 

機体自体どこの企業が開発するかも極秘で、納期さえハッキリしていなかったのだ。

 

今回の件で使うことは伝えてあったのだが、それでも間に合わない可能性の方が高かったのだから――――

 

「まあ、そろそろ終わりだろうが」

 

善助が目を向けるとモニターに映し出された一夏の機体が光り輝いた。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「あなた一次移行前の機体で今まで戦っていましたの!?」

 

セシリアの前に現れたのは純白の白だった。

 

装着した当初より遙かに洗練されたフォルムの形がそこにはある。

 

それは搭乗者にISが最適された証だ。

 

「まあな、これであんたと戦える」

 

一夏の言葉通り、今までの彼は戦ってはいなかった。

 

放たれる弾丸を避けて逃げ回っていたその姿はとても戦いと言える物ではなかった。

 

「……………そうですわね。一発も当たらなかったのですから、戦いではありませんね」

 

「分かっちまうか、やっぱり」

 

「私はこれでも射撃のスペシャリストですわよ」

 

逃げ回りながら一夏はその身に一発の銃弾も受けていなかった。

 

射撃特化のセシリアの機体の段幕に晒されながらもだ。

 

「勘違いしないでくれよ。あんたを侮ってるわけじゃなくて、本当にそれしか出来なかったんだ」

 

「一次移行前の機体で出てきたのにですか―――」

 

どこか胡乱げなセシリアの視線に一夏は肩をすくめる。

 

「そこは悪いと思っているさ。何しろこれ以上時間をかけるわけにも行かなかったしな――――それに予習はたっぷりしてきたぜ」

 

「予習?」

 

「ああ、あんたの映像記録やシミュレーターを使ってな。おかげでずぶの素人のあんたの段幕を避けられた」

 

一瞬何を言ったか本当に理解できなくてセシリアは言葉を失った。

 

「………冗談ですわよね」

 

「冗談だったら良かったんだがな。おかげでここ一週間碌に寝ていないんだ」

 

有り得ない、セシリアはそう思った。

 

少なくとも目の前の男はこの学園に入学する数週間前まではISに関しては本人の言うとおりずぶの素人であり、操縦の経験など無かったはずだ。

 

それでも、一夏がセシリアの段幕を避けられたのは何か特殊な訓練でも受けたか才能があるかそういう何か【特別】な事があったからだと思っていた。

 

しかし、そうでは無かった。

 

シュミレーターと記録映像、それはISの操縦者が対戦者対策に行う【普通】のことだ。

 

武術や戦闘訓練の心得、そしてある程度の才能があれば一週間でセシリアの弾幕を避ける事は出来るようになるだろう。

 

だが、それは本当に血の滲むような努力をして初めて出せる成果である。

 

いや、ひょとしたら一夏には何か特別な才能があるのかもしれない。

 

それでも眼前の男性は一週間碌に寝もせず、シュミレーターと映像記録を使って特訓したのだ。

 

嘘を言っているようにも冗談を言っているようにも見えない。

 

そんな一夏を前にして、セシリアは自分の中似合った苛立ちが綺麗さっぱり消えてしまうのを自覚した。

 

「………………謝罪させてください」

 

「あ?」

 

自然に口から出たセシリアの言葉に今度は一夏が呆気にとられた。

 

「あなたは少なくとも私が知っている殿方達とは違うようですわ。ですから謝罪させてください」

 

頭を下げるセシリアに一夏は居心地悪そうに頬を掻いた。

 

「あー、何だ。ここで謝罪されちゃうと、俺らが戦う理由がなくなりそうなんだが――――」

 

「まさか、私と貴方どちらが上か白黒ハッキリさせましょう」

 

謝罪はしたし苛立ちも消えた。

 

だが、どちらが上かハッキリさせる必要はある。

 

「そりゃそうだ。せっかくの予習が無駄になる」

 

一夏はどこか仕方なさそうに、同時に楽しそうに剣を構えた。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

「おい、何だあれは!? 何であいつと一夏が和解している!!」

 

「はいはい、嫉妬するのは分かるけど落ち着こうね箒ちゃん。あいつはもう少し慎み深い女性が好きだよ」

 

「な、別にあいつは関係ない」

 

全然納得いかない結末に善助の襟首を捕まえ振り回す箒だが、その言葉に揺さぶりが余計酷くなる。

 

「どうどう」

 

「私は馬か!?」

 

そろそろ面倒になり対応がおざなりになってきた善助に対して、箒の感情は右肩上がりだ。

 

このまま行けばアリーナに殴り込んでいきそうな勢いだが、その前に事態が動いた。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

「始めに言っておきますが、貴方の事は認めますが弟さんのことは許したわけではありません」

 

セシリアに他意は無かった。

 

刃を交える前に一応言っておきたかっただけだ。

 

目の前の相手は認めるが、それを利用しようとする弟のことを彼女はどうしても許せなかった。

 

彼女は裕福な家に生まれたが、幼い頃に両親を亡くしたのだ。

 

そして両親の財産目当てに擦り寄ってくる親戚達と善助を重ねていた。

 

本来尊い血の絆という物を利用して、自分達の薄汚い欲望を満たそうとするその人間性は決して許容できる物でなかった。

 

だから、決して認めないと言う宣言を一夏にしたのだ。

 

『………訂正しろ』

 

「え?」

 

唐突に通信機から聞こえてきたその声にセシリアは眼前の一夏を見るが、相手は何かに驚いたような表情をしていた。

 

そこでようやくその声の主が一夏でないこといセシリアは気付いた。

 

「あなた、人吉 善助!?」

 

驚いたのは一瞬、しかしすぐに侮蔑の表情が出てくる。

 

「……………あらあら、人の会話に入ってくるなど無粋ですわね。それとも、今更自分の行いが恥ずかしくなりましたか?」

 

『お前らがどんな雑音を垂れ流そうと勝手だ。ハエの羽音ぐらい許容できる精神は持ち合わせているつもりだ。だがな――――そいつと俺が兄弟なんぞという妄想を垂れ流すな。うっかり、叩き潰したくなる』

 

明らかに分かる苛立ちの口調もセシリアは気にしない。

 

「…………随分な物言いですわね。あなたは一夏さんの弟だからこそ、この場に居られるというのに―――」

 

『最後の忠告だ。お願いだから、そいつと俺を兄弟扱いしてくれよ。そしたら心置きなく叩き潰せるからな』

 

「つくづく救いようのない男ですわね。少しはお兄様を見習ったらどうですか」

 

『…………あは』

 

その声を最後に通信は切れた。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははHAHAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAHAHHAHAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAHAHHAHAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAAHAHAHAHAHAHAHAAHHAHAHAHAhahahahahahahahahhahahahahahahahahahahahahhahahahahahahahahahahahahhahahahahahahahahahahahahhahahaha!!」

 

モニタールーム高笑が響き渡る。

 

それはとうてい人の声には聞こえなかった。

 

壊れた機械が出す不協和音のように、聞いた者を不快に不安にさせる異音だ。

 

と、まるで機械の電源が落ちたかのようにその声が唐突に途切れる。

 

「織斑教諭、契約特記256条の第二項をセシリア・オルコットに適用する」

 

振り向いた善助の顔は満面の笑顔だった。

 

ただし、それは作り物のようで人間にそっくりな人形が笑っているような不気味さがあった。

 

「貴様」

 

「何か文句があるか、戦乙女。IS委員会の飼い犬が―――」

 

善助の言葉に千冬の眉がつり上がる。

 

「生徒を守るのが教師の勤めだ」

 

「生憎、セシリア・オルコットはもう生徒じゃない。それとも、ここで俺と一戦やらかすか【特別】が――――」

 

威圧とともに放たれた千冬の言葉に同じように威圧を持って返す善助、その場に居た箒と真耶は顔を青くしている。

 

数秒の沈黙の後、先に威圧を納めたのは千冬だった。

 

「……………と、まあ了承いただけたところで行ってきますね。手続きは済んでいますのでここで鑑賞して居ていてください」

 

人形のような笑みのまま善助はモニタールームを後にした。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

アリーナの扉をくぐり入ってきた善助を見た瞬間、誰もが声を失った。

 

「貴方、その格好は!?」

 

「ああ、何せっかくこの学園に居るんだ。一度使ってみようと思ってな」

 

善助はそう言いながら自分が纏ったISの表面装甲を撫でる。

 

「貴方は、ISを動かせないはずでは」

 

「人の言ったことを簡単に信じるなよ。と言っても嘘というわけでもないな。ただの【異常】事態に機械が誤作動を起こしているだけだ。ISは男には使えないが、ISが俺を女だと誤認すれば起動は出来る。まあ、本来通りの性能とはいかんがな」

 

言葉通り善助のISはどこか異様だった。

 

基本は量産型の打鉄なのだが、その装甲の所々が歯抜け状態で機械が剥き出しになっており、ブースターなどの装備品も全部揃っていない。

 

とても正常に起動している状態には見えない。

 

「待て、やめ「平伏せ」

 

何かを感じ取った一夏が声をかけるが、遮った善助の言葉通りに一瞬で地面に平伏していた。

 

まるで愚民が王に平伏すように―――

 

そんな一夏を一瞥もせず、善助はセシリアと向かい合う。

 

「さあ、セシリア・オルコット。目の前にお前の大嫌いな男が居るぞ。場所も機会も揃っている。どうする?」

 

「話になりませんわ。これは私と一夏さんの試合です。貴方は黙って見ていなさい」

 

善助の挑発をセシリアは歯牙にもかけない。

 

そもそも、彼女は一夏と試合をしていてそれを中断しているし、善助と勝負したところであんな不完全な起動状態のISで勝負になるわけはないのだ。

 

何より目の前の男には戦う価値すらないと思っている。

 

そんな、セシリアに善助はにっこりと笑った。

 

「なら、やりやすくしてやろう。俺には愛しい弟とお母さんが居るんだ。お前と違ってな」

 

セシリアの表情がピクリと動く。

 

「列車事故だったらしいな。金持ちだったから、どっっかの誰かに恨まれて殺されたんじゃないのか、まあ、お前の両親が死のうが生きようがどうでも良い。せめて、馬鹿な娘も一緒にあの世に連れて行ってくれれば、俺の手間もなくなったんだがな」

 

笑顔で続ける善助にセシリアの手が強く握りしめられた。

 

「それに何だったか、死んだ途端親戚中が遺産に群がってきたらしいじゃないか、まあクズな両親の血族がクズだったと言うだけだろうが、それで戦わないのか? クズの娘」

 

最後の一言と同時に、セシリアは引き金を引いていた。

 

 

 

 

 

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