織斑姉弟+1   作:kuni

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第六戦 パフェの代金は弟が払った

 

 

 

 

 

イギリス代表 セシリア・オルコット 貴族を祖とする名家の出身で容姿端麗、頭脳明晰、文武両道の才女である。

 

彼女が使用する専用機は特殊レーザー、通称BT兵器が搭載された第三世代の中距離特化最新機であり、その実力はIS学園新入生の中で上位に食い込む物だ。

 

対する、世界唯一の男性操縦者と同一遺伝子を持つ、人吉 善助は一般家庭に暮らすただの【異常】な高校生。

 

使う機体は量産型近接の特化の打鉄だ。

 

その二人が戦えば結果は明らかである。

 

 

 

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「ひょっとしてと思うんだが、もしかして手加減してくれたのか?」

 

沈黙に包まれたアリーナの中で善助は思案するように首をかしげた。

 

「ああ、そうだ。そうに違いない。イギリス代表のセシリア・オルコット、あんたが俺に負ける要素など無かったはずだ」

 

自分に言い聞かせるようにそうつぶやき続ける。

 

「一握りの才能に血の滲むような努力、最高の環境に最新最高の機体、対する相手はIS戦など初めてのド素人で使う機体は不完全な量産型。さてさて、あんたが負ける要素はどこにある? 何にある?」

 

道化のようなおどけた仕草で問いかける。

 

「無いよな? 何処にも。 無いよな? 何にも」

 

壊れた玩具のように繰り言を繰り返す。

 

「だから負けてくれたんだよな。両親を侮辱した相手に、嗤った相手に、つまりお前は認めたんだな。両親がクズな事を―――」

 

優しげに慈愛さえ浮かべて告解を聞く神父のような表情で確認する。

 

「なんて酷い娘だろうな。育ててくれた親をクズ扱いするなんて最低だ」

 

舞台役者のような大仰な仕草でそう断言する。

 

「――――だから、そんな最低のお前は空を優雅に舞うよりも、そうやって地面で虫けらのように泥に塗れているのがお似合いだぞ」

 

見下ろす視線の先には言葉通りバラバラになった機体と共に泥に塗れて転がったセシリアが居た。

 

(何をされたんですの?!)

 

セシリアが知覚できたのは銃を撃ったことと、自分が善助を見失ったことと、落下したこと、そして吹き飛ばされたことだけだった。

 

13秒、銃の引き金を引いてから、地面に叩き付けられて泥まみれになるまでの時間である。

 

シールドエネルギーが無くなるどころか、ISが強制解除されるまでのダメージをその時間で受けたのだ。

 

有り得ないとしか言えない。

 

例え、世界チャンピオンと対戦したところで敗北はしても、何かされたと言うことは理解できるはずだ。

 

それなのに、文字通り気付いたときには負けていた。

 

「教えてやるよ。お嬢様」

 

そんなセシリアの疑問に答えるように善助が眼前に立つ。

 

「簡単な理屈だ。俺とお前のISの性能差が10倍だろうと、俺とお前の性能差が100倍あれば俺が勝つに決まっている。俺はごく一般的な【異常】(アブノーマル)だが、お前程度の【特別】(スペシャル)に負ける事は無い」

 

そこまで言うと善助は装甲に覆われた巨大な手をセシリアに伸ばして頭を鷲掴みにした。

 

「ぐ、な、何をする気ですか?」

 

「何、そのむかつく頭と顔を潰そうとな」

 

一瞬何を言われたか理解できなかったセシリアだが、理解した瞬間顔から血の気が引いた。

 

「そ、そんなこと「許されるわけないとでも。俺が誰か忘れたか」

 

鼻で笑いながら善助は徐々に腕に力を込めていく。

 

ISの補助を失ったセシリアにそれを防ぐ手立てなどない。

 

「俺はIS委員会と契約をした。そのうちの一つに俺の独断でIS学園の生徒を処理する権限が与えられているんだ。昔で言う切り捨て御免だな」

 

善助がこのIS学園に通うに当たって様々な条件をIS委員会に突きつけたのだ。

 

彼の価値を知っている委員会はその条件を全て了承し、数々の特権を与えた。

 

「当然だろう。男がISを使うために必要な俺は世界の必要とされているんだよ。予備がいくらでも居る代表候補生とは価値が違うんだ。俺が血の1滴でも渡してやれば、お前御自慢の誇り高い祖国も快くお前を見捨ててくれるはずだ。良かったな。勉強になって、来世で役立てろ」

 

痛みと屈辱と恐怖と絶望で顔を歪めるセシリアをせせら笑いながら、善助はさらに力を込めた。

 

「…………おい、何しやがる」

 

音も無く動力系を切断され、セシリアの身体が地面に落ちる寸前一夏が抱きかかえた。

 

「これ以上はやりすぎだ」

 

「これは正当な手続きを持って行われた処理だ。お前を先に始末してもいいんだぜ」

 

セシリアを背に庇う一夏に善助は不愉快そうに指を突きつけた。

 

「生憎、俺は世界で唯一の男性操縦者でな。割と貴重らしい」

 

世界で唯一の男性操縦者本人とその弟、どちらが貴重かと言えば前者だろう。

 

そもそも、善助の価値は世界で唯一の男性操縦者が兄として存在しているからだ。

 

「それはいいな。お前が死ねば。俺がここに居る必要がなくなる」

 

しかし、善助は気にした様子も無く拳を構えた。

 

「まさか、自分が殺されないとでも? 俺としてはお前を殺す建前が出来て喜ばしいことだ」

 

周囲の圧力が高まっていき弾けそうになった瞬間、善助は構えを解いてアリーナの客席を見上げる。

 

そこでは千冬が一夏と善助を見下ろしていた。

 

「…………………邪魔が入ったな」

 

そう吐き捨て、善助は躊躇いも無く一夏に背を向けるとそのままアリーナを後にした。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

(無様ですわね)

 

セシリアは医務室のベットに横になりながら自嘲した。

 

一夏に庇われた後の記憶は無く、気付いたら手当をされここに居たのだ。

 

アリーナに入場した時は、生意気な男に制裁を下そうと思っていたが蓋を開けてみれば一夏はそんな男では無かったし、その後の戦いも本当に楽しみだった。

 

しかし、善助が乱入してきて全てが変わってしまった。

 

相対した瞬間、自分の敵では無いと思ったが実際に戦った結果無様に惨敗したのだ。

 

そして殺されかけた。

 

あの男の前では自分の能力も技術も知識も権威も何も通用しなかった。

 

端から見れば滑稽だろう。

 

身の程知らずに思い知らせてやろうと思った自分が身の程を知らなかったのだから―――

 

だが、一夏はそんな無様な自分を庇ってくれた。

 

恐ろしい男の前に立ちはだかってくれた。

 

「織斑 一夏」

 

その名前を口にするだけで身体が熱くなり、自分を背中に庇う姿を思い浮かべると心臓が強く波打った。

 

彼女はこの感情の意味にまだ気付かないが、一夏似会いたいと強く思った。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「で、これで良いのか?」

 

「うん、充分だよ~」

 

善助は休み時間まで時間を潰した後、食堂に出向いていた。

 

その正面にはダボダボの制服を着た女子が特大のパフェをぱくつきながら座っている。

 

「会長もお姉ちゃんも、ヨッシーの危なさを分かってくれたと思うよ。これで下手に干渉することはないだろうね~ ついでに邪魔な人たちも居なくなってくれたし、これでしばらくこの学園は平和だね~」

 

「………俺は甲羅を食って、火を吐いたり空を飛んだりしないぞ」

 

とりあえず訳の分からないあだ名に抗議しつつ、コーヒーをすする。

 

「それに邪魔者の排除ならお前にも可能だろう。布仏 本音(のほとけ ほんね)」

 

「嫌だよ~そんなめんどくさいこと、私は楽に楽しくゴロゴロしながら生きていきたいんだから~」

 

善助の言葉に本音と呼ばれた少女は頬を膨らませる。

 

「大体、ヨッシーの立場だから簡単に排除なんて出来るんだよ」

 

例え各国の工作員が生徒という形でここに侵入してきたとしても、問答無用で処理できる善助の特権は本音達のような人間には非常に羨ましい物なのだ。

 

「全く、国やら立場やらめんどくさいことが多すぎるよ~ 私にだって仕事があるのに~」

 

「お前、仕事してたのか」

 

「あ、酷い~ 私はこれでも勤勉なんだよ~」

 

心底驚いたとばかりの善助の表情に、本音は心外そうな顔になる。

 

「私は仕事をすると邪魔になるから、年中ゴロゴロしているんだよ」

 

「……………」

 

胸を張る本音に馬鹿なことを聞いたと後悔する善助。

 

「それより、次は転校生でしょ~ あんまり人を増やして欲しくないんだけど」

 

「対価は払った。文句は言わせんぞ」

 

「だけど、バレないようにやるならここの生徒を使ってもいいよ~ そっちの方が面倒も少ないし」

 

「残念ながらもう準備済みだ。それにここでやるとあれが邪魔だ」

 

そう言うと善助の顔が歪む。

 

自分の血を分けた人間の姿が頭を過ぎったのだ。

 

「織斑先生だね。あの人は嫌いじゃないよ」

 

「それは良かったな。俺は嫌いだ」

 

言葉を話すたびに善助の表情がどんどん不機嫌になっていく。

 

「喧嘩は止めてね。今日もヒヤヒヤしたんだから」

 

「安心しろ。今は殺らない」

 

「やるんだったら、学園外でやってよ」

 

とりあえずニュアンスの違いに突っ込む物はいない。

 

「でも、どうする気だったの?」

 

「何がだ?」

 

「おりむ~が助けに入らなかったら、ヨッシーの能力はおりむ~には効きにくいんでしょ~」

 

「あいつが、助けないわけないだろう」

 

欠片も疑っていない様子で断言する善助に、本音はにんまりした笑みを浮かべた。

 

「ヨッシーってツンデレだね」

 

「殺されたいのか?」

 

「あはははは、照れてる。照れてる。怒っちゃや~よ」

 

セシリアを震え上がらせた殺気も本音はニマニマした笑顔で流す。

 

しばらく殺気を向けていた善助だがやがて無駄だと悟るそれを納めた。

 

「そのパフェの代金は生徒会に請求書を回しておく」

 

その言葉に本音が初めて顔を青くした。

 

「ちょ、こ、今月はピンチなんだよ。お菓子たくさん買っちゃったりしたり、それにお姉ちゃんに怒られる!!」

 

「俺が知るか」

 

「分かった!! おっぱい揉ませてあげるから!!」

 

本音が歳分不相応に実った二つの果実を差し出すが、善助はそれを一瞥して―――

 

「はっ」

 

「鼻で笑われた!?」

 

「さて、生徒会室に行くか」

 

「待って!! 待って!! お慈悲を!! お慈悲を!!」

 

端から見れば仲の良い友人のような様子で二人は食堂を後にした。

 

 

 

 

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