天帝の神殺し 改訂版   作:コード・アンノウン

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よろぴく


1話 久利宮周と新たなるカンピオーネ

 

 

 

 

              1話 久利宮周と新たなるカンピオーネ

 

 

 

 

 その日、久利宮はイタリアに来ていた。 理由は簡単である。 ただ呼び出されただけだ。

 

 あまりアクティビティーな性格ではなく、海外旅行など生きてきた中で片手で数えるほどしかないため、海外の空気というものにいまだに慣れない。 なんとなく居場所がないように思えて少々息苦しい。

 

「空港に着いたはいいけど、ここから待ち合わせ場所までどうやって行けばいいんだよ……」

 

 言葉が通じないというわけではないし、行こうと思えばいけないこともない。 ただめんどくさがっているに過ぎない。

 

 スマートフォンを取り出せば、13時37分と表示されている。 指定されていた時刻は13時40分。 あと三分だが間に合うのだろうか? あ、あと二分になった。

 

 最悪の事態として徒歩も可能性に入れておこう。 なんて思って、人地獄と化しつつある空港の待合室を出る。イタリアはちょうど夏真っ盛りなのかジリジリと太陽が肌を焼く。 太陽を見上げて、大地をサンサンと照らすそれに少しだけ恨めしげな視線を送る。

 

 熱いのは嫌いなのだ。

 

 空を見上げているとクラクションの不快な電子音が耳を打つ。 発生源は一台のリムジン。 時刻はきっかり13時40分。

 

 それに近づいていくと、自動でドアが開く。 

 

 

「さすが。 時間ぴったりだよ」

 

「王を待たせるわけにはいきますまい?」

 

「もし遅れてたら『イタズラ』しようと思ってたのに」

 

「卿のいたずらはいささか規模が大きいので、なるべく控えてもらいたいですな」

 

 

 この久利宮周という男はほかの神殺しに比べると、気性も穏やかで話も聞き入れるほどの器量も持ち合わせているのだが、いかんせん、やはりと言えばいいのか常識を持っていなかった。

 

 

 かつてこの男のやってきたイタズラを振り返れば納得できる。

 

 

「そのいたずらで私たちは何度頭を下げたことか……」

 

「むう。 最悪でも地形は変えていないのに」

 

「生態系が崩壊しかけたこともありましたね」

 

「懐かしいなー。 僕がやんちゃ坊主だったころじゃないか」

 

 

 会話こそ普通に成立しているが、リムジンを運転していた壮年の男性は背筋にうっすらと冷や背をかいている。 久利宮のかつてのいたずらを思い出しているのだろう。 それに対し、周は気負うこともなくリムジンに乗り込み、備え付けのシャンパンのコルクを引き抜くとグラスに注ぐことなく、損のまま飲み始める。 周の不遜な態度を咎めることなく、車を発進させる。 ゆっくりと動き出し、ほとんど揺れの感じないことに確かな技術を感じさせた。

 

 

「今回お越しいただいたのは――」

 

「新人君の話かな? エリカから少し聞いてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。 名を草薙護堂。 八人目のカンピオーネについてです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「イタリアを旅行中に英雄神ウルスラグナと接触。 その後、プロメテウス碑宮により権能を一時的に簒奪し、見事神殺し達成か……。 なお赤銅騎士団大騎士、エリカ・ブランデッリもその場に居合わせた」

 

「自分の愛する人が心配ですか?」

 

 そう尋ねる運転手の声には好奇心が混ぜ込まれている。 いつの時代になっても人というのは他人の恋愛は気になるらしい。

 

 

「まあ、最初に聞いたときは驚いたけど大した怪我もないようだし、何よりエリカは強いからね。 心も身体も」

 

 

 はにかみながらそう言った久利宮からは優しい雰囲気が感じられる。 今の彼からは心の底から彼女のことを愛していることがうかがえた。

 

 二本目のシャンパンの栓を開き、照れ隠しのように話題をすり替える。

 

 

「で、僕は何をすればいいのかな?」

 

「草薙護堂の実力を試したい。 といったところです」

 

「なるほど」

 

 

 神殺しに対抗できるのは、同じ神殺しとまつろわぬ神だけ。 つまりはそういうことだろう。

 

 

「でもなー。 ウルスラグナは相性最悪なんだよ」

 

「絶対の勧善懲悪を謳う拝火教において、あなたは悪神の権能を使いますから」

 

「言葉にしなくてもわかってますー。 まだなったばかりだっていうし手加減にはちょうどいいんじゃない?」

 

 

 車窓を流れるイタリアの街並みを横目に、発した言葉は自信にあふれている。 負けることはないと確信したそれはたしかに事実だろう。

 

 潜り抜けた死線が違う。

 

 そんな自信がありながらも、一切慢心していない。 いつもなら自分が格上だと信じ、少しくらいは慢心していたかもしれない。 だが久利宮は気になる噂を聞いていた。

 

 

「ねえ」

 

「何でございますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「護堂君がドニに勝ったって、ほんと?」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

「事実にございます。 ドニ卿はあの戦い以来好敵手だと定めているようでした」

 

「ふーん」

 

 

 いくら性格が穏やかといえども彼は神殺し。 闘争の申し子にして災害クラスの化け物。 そんな彼らの本質はバトルジャンキーであるといっても過言ではない。 そしてそれは久利宮にも当てはまる。

 

 先ほどまでの穏やかな雰囲気は保たれているが、かすかにピリピリとした威圧感が交じっている。 久々に本気で戦えるかもしれないということが彼を高ぶらせていた。

 

 

 ヴォバン侯爵と同時期に、極東で神殺しに成り上がり、なお現在まで生存する数少ないカンピオーネのひとり。

 

         『天帝』 久利宮周

 

 

 彼を乗せたリムジンは着実に目的地であるコロッセオに近づいていた。

 

 

 

 




……つかれた
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