磔にされた風鳴弦十郎ッ!
しかし運命は、味方は、彼らを見捨ててはいなかったッ!
なんやかんやで追い詰められたシンフォギア装者達!
色々あってあーだこーだでギアも全部破壊されてしまったぞ!
かくかくしかじかで緒川さんもやられて、弦十郎の旦那に至っては十字架に磔にされてしまっている始末!
「キャーロキャロキャロキャロ、どうやらオレ達の勝ちのようだな」
「ガリィぃッ! 一人称と声色をオレのそれに似せて変なことを言うのはやめろッ!」
「いーじゃないですかマスター。煽り力高いんですよ。
第一いつものキャロル・マールス・ディーンハイムとどこが違うんですかー?」
「控えめに謙虚に言って全部だ」
対しキャロル陣営は余裕綽々。
あれこれあって、彼女らは一人の欠けもなく勝利を掴み取っていた。
「くぅ……!」
「私達は、ここで終わりなのか……!?」
いつだって逆転の鍵となっていた響ですら膝をついて苦悶の声を上げ、翼ですら剣を支えに立っているのがやっとという状態。
クリスは真っ先にやられ、その左右には調と切歌が倒れていて、マリアも戦える状態ではない。
弦十郎も意識はあるが、十字架に磔にされ脱出はできなさそうだ。
「まあいい。唯一の不安要素だった風鳴弦十郎も十字架に磔にして、これで……」
キャロルがそう、勝利宣言をしようとした瞬間。
どこからともなく声が飛んできて、レイアがそれに真っ先に反応した。
「窮地において血の繋がりの有無によらず、義にて実にて、助け合う絆。
人、それを……『兄弟』と言う」
「何奴ッ!? 名乗れッ!」
「風鳴弦一郎!」
「風鳴弦二郎!」
「風鳴弦三郎!」
「風鳴弦四郎!」
「風鳴弦五郎!」
「風鳴弦六郎!」
「風鳴弦七郎!」
「……風鳴八紘……」
「風鳴弦九郎!」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
『我ら風鳴十兄弟! またの名を風鳴十傑集ッ!』
そしてキャロル達五人の予想を、真正面からぶち抜いた。
「弦一郎兄貴、弦二郎兄貴、弦三郎兄貴、弦四郎兄貴、弦五郎兄貴、
弦六郎兄貴、弦七郎兄貴、八紘兄貴、弦九郎兄貴、来てくれたのか!」
「当たり前だ、可愛い弟分のピンチだからな」
「兄として、拳風吹かさずには居られんよ」
「俺達は兄弟。足りない分は補い合い、助け合うと誓っただろう?」
なんとなんと、今日まで隠されていた奥の手にして大目玉!
風鳴弦十郎は、十兄弟の末っ子だったのだ!
「今助けるぞ、弦十郎ッ!」
弦一郎~弦九郎の八人が、磔にされた弦十郎に向かって走る。
八紘は走らなかった。
オートスコアラーの四人はこれ以上数を増やされてたまるかと、その行く手を遮るように立つ。
そして、蹂躙が始まった。
トップバッターガリィ。
相対するは弦一郎に弦二郎。
どうやらオートスコアラー一人に対し、風鳴兄弟二人がかりで行く作戦のようだ。
「脳筋はいいカーモでぇーすよぅー?」
ガリィは初手分身。
彼女はポケモンで言えばどくどくを撃ってから影分身をひたすら撃つタイプ。
十六人くらいに増えたガリィが弦一郎と弦二郎を包囲する。
「むん!」
それとほぼ同時に、おもむろに二人は手の平を叩き合わせた。
「猫騙しぃ? それに効果があると思ってる脳筋はこれだからへにゃまちゃぶっ!?」
そして弦一郎は跳び上がり、弦二郎は前蹴りの体勢を取り、互いに互いを蹴った。
否、弦二郎は弦一郎を蹴り飛ばし、弦一郎は弦二郎の蹴りをジャンプ台にして水平方向にジャンプして、すっ飛んで行った弦一郎がガリィの顔面に飛び蹴りを決めたのだ。
ガリィはブッピガンと吹っ飛んで行き、近場の岩盤にクレーターを作りながらめり込んだ。
「手を叩き、返って来た空気の振動の波形を肌で正確に感じ取れば……」
「水分身と実体の判別など、造作もないッ!」
ガリィ・トゥーマーン、撃破。
セカンドバッター、レイア。
「もうちょっと地味で良かったんじゃない、あなた達」
レイアの手元から金貨の暴風雨が放たれた。
マシンガンのごとく放たれたそれは、一発一発がアンチマテリアルライフルを超える威力を内包した、必殺の一撃。
空間を通り過ぎるだけで空気が引き裂かれ、爆発音が鳴り響いていく。
「弦三郎ッ!」
「おう、弦四郎ッ!」
それに対応し、三男と四男が呼吸を合わせる。
なんと彼らは、弦三郎が弦四郎の手を掴んだまま振り回し、俗に言うジャイアントスイングを戦闘中に始めたのだ。そしてその勢いのまま、弦四郎を放り投げる。
あまりにも強力な力、圧倒的過ぎる回転力を加えられた弦四郎の体は空中で高速回転し、円盤のようにさえ見える形でレイアへと一直線に特攻。
レイアの投げ銭をキンキンキンと全て弾き、そのままレイアすらも弾き飛ばした。
「ひでぶっ」
空中でトリプルアクセルを決めて地面に叩き付けられたレイア、きっちり着地も決めた弦四郎を見て、切歌は一言。
「あれ、見かけだけだと調の円盤攻撃みたいデスね」
「はっ倒すよきりちゃん?」
レイア・ダラーヒム、撃破。
三番手、ファラ。
「しょぼい要素が微粒子レベルで無いわね、これ」
ここに至っては先手を取る権利すら奪われていた。
五男・弦五郎、六男・弦六郎は兄弟の中でもせっかち。
「チェストォッ!」
「チェストォッ!」
弦五郎と弦六郎が同時にカカト落としを放って来たのを見て、ファラは頭上に剣を掲げる。
まずは防御して、そこから反撃しようという腹積もり。
だが、風鳴兄弟を計算で語れるものかよ!
「エンッ」
弦五郎のカカト落とし。これは剣で受け止められた。
だがなんと、弦六郎が弦五郎の落とした足のつま先にカカトを当てるように、コンマ一秒以下の時間差でカカト落としを重ねてきたのだ。
『二重の極み理論』の原理により、物理法則に則った作用が生まれ、剣は粉砕。
二人分のカカト落としがファラの脳天に命中し、ファラの首から下全てが地面にめり込む。
機能停止したファラの首だけが地面から突き出ている様は、まるでさらし首のようだった。
ファラ・スユーフ、撃破。
四番、エーススラッガーミカ。
オートスコアラーの中でも屈指のパワーヒッターであるミカは、他三機と比べても段違いの戦闘能力を有し、現に風鳴兄弟二人相手にも善戦していた。
相対する弦七郎、弦九郎も手を抜けないほどの強敵。
「あはは、楽しいゾ~」
だが、その性格が仇となり、一瞬の隙を生んでしまう。
その一瞬の隙を見逃さず、弦七郎は彼女を蹴り上げ、宙高く打ち上げる。
「「 勝機ッ! 」」
そして二人は、ミカが落ちて来る地点を挟み込むように、互いに右腕を掲げ走り出す。
「むっ、あれは!」
「知っているんですか翼さんッ!」
「ああ。立花は知らないだろうが、あれは叔父様も得意とする二つの技を組み合わせた秘技。
風鳴家一族に伝わる伝統のツープラトン!
敵を空高く打ち上げ、二人のラリアットで落ちて来た敵の首を取る……クロスボンバーだッ!」
そして落下してきたミカに対し、弦七郎は前から、弦九郎は後ろから、ミカの首を挟み潰す勢いで前後からのラリアットをぶち当てた。
「ゾッ!?」
最強、陥落。
「俺達の!」
「勝ちだ!」
ミカ・ジャウカーン、撃破。
オートスコアラー四体をあっという間に撃破して、風鳴兄弟は弦十郎を十字架から解放した。
「兄さん達……ありがとう」
弦十郎の礼の言葉に、男達が「何を水くせえ」と言わんばかりに鼻を親指でこする。
非常に男臭く、男らしい漢達が並び立つ光景が、そこにあった。
(クッ、装者相手にアルカノイズを使い切っていたのが裏目に出た……!)
キャロルは自分の失策を悟る。
勝ちが見えたからと、手札を使い切ってしまったのは明らかに失敗であった。
「来い、チフォージュ・シャトー!」
だが、まだ勝負は終わっていない。
キャロル・マールス・ディーンハイムは諦めない。
ここに来てキャロルは、テレポートジェムの応用による召喚術を実行。
自らの拠点チフォージュ・シャトーを召喚し、何もかもを押し潰すという作戦に出た。
「潰れてしまえッ!」
「兄さん達! アレをやるぞッ!」
弦十郎達九人は、それに対し僅かな怯えすらも見せやしない。
兄弟は弦十郎の掛け声に力強く頷き、フォーメーションを組み立てた。
まず弦一郎が地に足つけて身を屈め、その弦一郎の肩の上に立った弦二郎が身を屈め、弦二郎の肩の上に立った弦三郎が身を屈め……そうして、弦十郎を頂点とした人の塔が立つ。
いや、これは塔ではない。
バベルのような崩れ去る脆いものの同類ではない。
これは発射台だ。
風鳴兄弟の九人により作られた、発射台なのだ!
「俺達十兄弟の力を思い知れッ!」
発射台はチフォージュ・シャトーへと向けられ、兄弟はほぼ同時に体を伸ばし、跳躍。
一番下の弦一郎、その上の弦二郎、弦三郎へと次々と力が伝わって行き、頂点の弦十郎に九人分の凄まじいパワーが集約され、弦十郎という名のロケットが打ち出される。
それはチフォージュ・シャトーを蹴り飛ばす弦十郎の右足に乗るエネルギーとなり、チフォージュ・シャトーを日本の東の方にあるどっかの海まで蹴り飛ばすのだった。
「これが俺達十兄弟の絆の力だ!」
九人の男達が並び立つ。
キャロルはそれを見て、帽子を掴み、地面に叩きつけて叫んだ。
「ふざけるなッ! ウルトラ兄弟じみた戦力と数揃えてきやがってッ!」
パチン、とキャロルが指を鳴らせば、現れ出るはレイアの妹。
巨大ロボとしか言いようがないキャロルの切り札が出現し、キャロル自身もどこかから鎧を召喚してバインバインモードに変身。
これが敵の最後の一手。
ならばここで決めてみせると、風鳴兄弟は息を合わせて一斉に跳び上がった。
「行くぞッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
「おうッ!」
そして空中で身を捻り、九人同時の飛び蹴りを撃ち放つ。
キャロルとレイアの妹は、なんかものすごい系のバリアを張って防御するが、あえなく粉砕。
そしてキックが命中し、爆発。
理屈も理由も科学的な説明も必要としないお約束の爆発が、彼らの勝利を証明するのであった。
「鍛錬が錬金に負ける道理など無いッ!!」
風鳴十兄弟の絆がある限り、世界の平和は守られ続けるのだ!
「師匠!」
「おっさん!」
「叔父様!」
「司令!」
「司令!」
「司令!」
「よぅしお前ら、夕日に向かってダッシュだ!」
装者が勝利を掴んだ弦十郎の周りに駆け寄り、笑顔で彼に付いて行く。
謎のノリに誰もが違和感を抱かないままに、大人と少女達は夕日に向かって走り去って行くのであった。
弦十郎の兄達も、弦十郎の危機を救い、彼の元気な姿を見て満足したのか、やがて笑顔のまま一人、また一人とどこぞへと消えていく。
彼らはこれからも、この世界のどこかで人を助け続けるのだろう。
人知れず、世界の裏側で。
そうして風鳴十兄弟のほとんどが帰って行った後、弦十郎も奏者達も皆走り去って行った後、後に残された男が一人。
翼の父、風鳴八紘。
何もしていなかったというのに、何故か他の兄弟九人に『あいつは今日も大活躍だったな』と世辞でも皮肉でもなく言われる、そんな彼は今日も呟く。
「……もうあいつらだけでいいんじゃないかな……」
夜空に走る流れ星を見上げた彼の周りには、気絶したキャロル達が死屍累々と並んでいる。
今日も地球は平和であった。
(Get Wildが流れる音)