「う・・あ・・」
声が出ない。身体が動かない。目は開くが視界が霞む。耳も残念ながら何かが詰まったように微に聞こえはするが聞き分ける程では無い。
あの後、どうなったんだ?全く状況が分からない。多分寝てるんだろうが、どういう所に寝てるかもわからない。
・・・・妖力もほぼ空か。
「ーーーーーーーーー」
なんだ?誰か・・・・話してるのか?ダメだ、分からない。誰だ?
「あ・・う・・」
話しかけようにも声が出ない。五感が使い物にならないと、こうまで何も分からないなんて。当然の事ながらなってみると恐ろしくて仕方ないな。
side change
「まさか、あの最恐最悪の妖怪と渡り合うなんて思ってもみませんでした・・私が思っている程単純な方ではなさそうですね」
どうやら、起きているようですが目どころか耳も鼻も使い物にならないようです。
罰という名目で彼女と戦わせましたがここまで重症になってしまうと罪悪感が湧かないでもありませんね・・・・
氷坂が少々ボコ・・もといピンチになった所で助けに入るつもりだったのですがつい我を忘れて見入ってしまいました。
「あ・・う・・」
おっと、何かを言おうとしているようですね。
・・・・まともに喋ることも出来ない程疲労しているなんて。流石にやり過ぎました・・。反省しなければ。
それは、それとして此方はどうしましょうか・・。連れて帰って来てしまったんですよ・・最恐最悪の妖怪。幽香さんを。
悪いのは私。完全にこの人は迷惑をこうむった側です。それなのに放って見殺しにするというのは外道のやる事。・・・・あまり私が声を大にして言えることではありませんが。
幽香さんは、流石というか目立った外傷は無く、きっと内蔵の方がやられてしまったのでしょう。あれだけの衝撃波です。今もまだ眠り続けているのを鑑みれば納得でしょう。
二人を連れ帰って早三日。
「先が思いやられますね・・」
定期的に氷坂に私の百薬枡で酒を飲ませていますが、全快にはあと二日三日かかるでしょう・・。
幽香さんは、幽香さんで起きた後が心配です・・・・。
それにしても・・
「暇ですね」
暇・・・・少し違いますね。寂しい、ですね。
今まで誰かしら隣に居て騒いでいたからすっかり当たり前になっていました。
全く、一人というものには慣れませんね。
翌日
「誰か・・・・誰かいるか・・?」
早朝、日の光を浴びながら鍛錬を行っていると氷坂の弱々しい声が聞こえました。
私は、慌てて氷坂の元へ向かいます。
「ど、どうしましたか?」
「か・・・・華扇か?」
此処が何処なのか誰が居るのか探るために左腕を仕切りに動かしています。
私は、その手を握って私が此処にいることを優しく伝えます。
「私は、此処に居ます。安心してください」
「そう・・・・か・・良かった・・」
そうでした。彼は、覚醒してから音も光も痛みも無い、まさに無の状況に置かれて居たのです。不安になって当然でしょう。
そんなことにも気が回らなかった自分が憎らしいです・・。
「華扇・・あいつはどうなった・・?」
「幽香さんですか。他の部屋で寝ていますよ」
「そうか・・良かった」
「良かった・・ですか。貴方は、殺されかけたんですよ?」
氷坂の発言に疑問を覚えます。いえ、疑問では無く気持ち悪さです。
まるで、当然のように出るその言葉に不気味さを心の底から感じました。
「迷惑をかけたのは俺だからな・・それなのにああやって返り討ちみたいな事しちまった・・」
何でしょう・・この違和感は。氷坂は、間違ったことをなに一つ言っていません。
ですが、明らかにおかしいと分かるのです。そう、きっとそれは
「何故・・何故、貴方は平気で命を奪うのに・・何故それを本気で言えるのですか・・・・?」
「・・・・」
何故・・何故、そんな矛盾を受け入れていられる⁈
そうだ・・この人、前の私の弟子に似ている。邪仙になってしまった、私の一人弟子に。
「何故貴方は平気な顔をしていられる⁈何故平気でそんな事を言える⁈一体・・・・何を考えて生きている」
ただ、頭の中に浮かび上がる疑問を浮かび上がるままに氷坂に投げつけました。ずっと、前から抱いていた前の弟子への疑問を。
しかし、氷坂の顔つきは弱々しいものとは打って変わり怒りに歪んでいました。
「お前に・・‼︎何が分かる・・‼︎」
「・・‼︎」
私はハッとしました。私はいつの間にか彼を知った気になっていました。いつの間にか前の弟子に重ねていました。
私は、もうその場にいられませんでした。
「す・・すみません」
「・・・・」
逃げるように私は、その場を走り去りました。
side 氷坂
「華扇?おい?」
逃げてったのか無視しているのか、どっちにしろ話掛けても返事は返って来ないな。
全くどいつもこいつも矛盾だ、何だと。何だよ、俺がおかしいみたいじゃ無いかよ。
まあ、それはいいとして。
案山子と空が何処にいるか、もう分からなくなった。千里眼での神様たちの監視も出来ていない。今まで動きが無かったから今になって突然動き始めるというのもおかしな話なんだが。
「心配だ・・・・」
「あら、自分の心配をするべきじゃ無いかしら?」
この声は・・ん?なんか、聞き覚えがあるような・・ああ、あの時の女性。確か、幽香とかいったか。
「なんだ、起きたのか」
「意外ね。取り乱したりしないのね」
「まあな」
「あらそう。最後に言い残すことはある?」
きっと、俺に向けて傘を向けて居るんだろう。あの時のように。
内心、苦笑するしか無かった。そうだな、俺は殺されようとしてるんだ
「すまなかった。お前にとってどれだけ花が大切だったか知らない。だから、それしか言えない。もし、それで許して貰えないのなら好きにしてくれ」
「・・・・」
俺は、どうあっても死ぬわけにはいかない。なのに、こんな事を言ったのは確信があった。こいつは、俺を殺さない。
「あんたの怒りが、俺には分かる」
「・・・・」
隣で何かが置かれる音がすると同時に、座ったのだろうか布がこすれる音がする。
「・・・・全く、せめて醜く騒いでくれたら清々しく殺せたのに。こんなん様子じゃ後味が悪いわね」
一つ、溜息が聞こえる。
けっ、素直じゃないこって。最初からそんなつもり無かっただろう。
しかし、随分平然と話してるが怪我は大丈夫なのか。
「怪我の方はいいのか?」
「其処らの妖怪風情に傷付けられる身体なんて持ち合わせて無いわ」
「そうか」
「・・・・」
俺が挑発に乗ることを期待していたのか小さく舌打ちが聞こえる。
聞こえますよー〜お嬢さん?
「そういえば、貴方が何者か聞いてなかったわね」
「なに、名もなき其処らの妖怪風情ですよ〜」
「うるっさいわね。とっとと言いなさいよ」
「何だよ、そっちがそうやって振って来たんじゃ無いかよ。氷坂。唯の天狗だよ」
「いい加減にしないと殺すわよ?」
グイグイと頬に尖ったものが押し付けられる。
汚いから傘で刺すのは勘弁してほしいな。
「唯の天狗が私と渡り合う訳無いでしょ?」
「本当に唯の天狗だって。大体、お前と渡り合ったって言ってるけどこっちは命を削ったんだ。代償の度合いがまるで違う」
「・・・・納得出来ないわね」
「さいで」
傘で俺の頬をグリグリするのをやめる幽香。
そうだ、俺はこの通り寝たきりになってるっていうのにこいつはピンピンしている。こいつが、死ぬ気で俺を殺しに来たら絶対に勝てない。
「なんだ、帰るのか?」
俺の隣から段々と足音が遠のいて行く。幽香が扉に向かって歩いて居るのだろうと推測しそう声をかける。
「そうよ。私も暇じゃ無いのよ」
「そうか。花の件はどっかのタイミングで償うよ。じゃあな」
「あらそう。ならたまに此処に来るわね。貴方に興味が湧いたわ」
暇かよ。もう一度言わせてもらおう暇かよ。まあ、此処を訪れるだけで償いがきくなら安上がりだ。
最後にそういい残した幽香は、部屋から出て行った。
「ま、俺も暇なんだけど」
暇・・でもやることも無い。というか、出来ない。
・・・・寝よ
翌日
「・・・・流石に3.4日で戻るとは思わなかったな」
目覚めると同時に身体を起こして唯一ある手を握ったり開いたりしてみる。
妖力も身体も全快とはいかないが、身体が動くのなら上出来だろう。きっと、華扇が俺の口に時折流し込んでいた酒が特殊な物だったんだろう。
近くの柱に捕まり、立ち上がる。まだ、おぼつかない足取りで玄関から外に出る。
久々に直視する日光に眩しさを覚えながら顔を洗おうと井戸に向かう。
「おはよう」
「・・・・おはよう・・ございます」
前回の事で気まずいのか逃げるように後ずさりして俺に井戸を譲る華扇。
俺は、遠慮なく井戸の水を汲み上げ片手で顔を洗う。
「片腕・・無かったんですね」
別に今気付いた訳では無いだろうが、改めて気になったのだろう。
丁度華扇とは逆の腕か。
「なんつーか、色々あってな」
「・・・・話して下さい」
急に真面目な顔をして突っ込んでくる華扇。一体どうしたのやら
「・・・・これだよ。初めて使った時に腕が反動に耐え切れずに両腕が無くなった。そんだけ。まあ、片腕は治ったけどな」
腰にかけている霊墜を腰を振って揺らして見せる。
それを見て腑に落ちない様子の華扇。
「何故片腕だけが元に戻ったのですか?」
「・・・・」
言うべきか言わないべきか・・。俺の素性をよく思わない奴なんてごまんといるって思い知らされた。
こいつも、仙人だ。それなりに長く生きているだろうから、俺のことを知ってるかもしれない。
・・・・言わないべきだな。
「・・・・色々あってな」
「教えて・・くれませんか?」
若干戸惑いつつも、詰め寄り質問してくる。
「ああ、ダメだ」
「どうして・・ですか?」
「まだ、勘違いしてるかもしれないが俺とお前は師弟関係ではあるがそこまで話すような間柄でも無い。何年もお前と旅をしている弟子でも無ければ仲の良かった弟子でも無い」
俺の言った事に対して一瞬衝撃を受けたような顔をする。だが、踏み止まる様子は無くまた口を開く。
「・・・・!そ、それは・・承知しています!が、しかし
「お前がどんな感情を抱いてどんな事を思って俺を弟子にしたかは、知らないが俺は、近いうちに此処を出て行く」
「それでも‼︎私は、もう貴方にあんな事を言われたく無いんです‼︎」
「もし、俺の素性を知ればお前は必ず俺の敵になる。それでもか?」
その言葉にどんな事を思い、感じたのか。それは、分からなかった。
でも、何か強い決心があるかのように胸を張る。
「そしたら、私が貴方を引き戻します。貴方と一緒に罪を償います。私は貴方の師ですから」
この言葉に俺はどれだけ説得力を感じられただろうか。
きっと、前なら素直に華扇の言葉に縋っていたことだろう。でも、今は違う。
「そうか・・」
「そうです。ですから、近いうちに私に貴方の事を話して下さい。その時は私も貴方に話します」
そう言って中に入っていく華扇。俺はその後ろ姿を見つめる。
こういう奴は必ず
「俺の・・・・」
「敵・・」
彼の敵意識の基準はずれているので其処だけご注意をば。
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