人里 寺子屋
「こいつをこっちに持って来てやるとやり易くなるから、そこんとこにだけ気をつけてやってくれ」
『はーい』
俺が黒板を使って出した指示に従い黙々と鉛筆を動かす生徒達。鉛筆は、外のものなのだろう。
今日此方に来る時に、当然華扇にも同行してもらったわけだが今は里の見回りでもして居るのか寺子屋に姿は無い。
「そう言えば、案山子先生はどうしたんですかー?」
一人の男の子が皆が抱いていた出あろう質問を俺にする。
「体調が優れなくてなー。また、直ぐに来るから気にすんな」
男の子の質問に、生徒達の様子を見回りながら応える。
男の子は、予想通りの回答で詰まらなかったのか不満気になーんだと言う。
案山子・・今何をやっているか俺にも分からない。心配は、絶えないが案山子だからよっぽどの事が無い限り大丈夫だろう。
心配が絶えない理由は神様達の行動が鈍すぎる事にある。あれから、目立った動きが全く無い。流石にそろそろ場所を突き止められてもおかしく無い筈だ。いや、それでもかなりの過小評価だ。今まで考えないようにして居たが、妖怪の山に逃げた時点でバレていた筈だ。
「せんせー」
一体何を考えている?
「せんせー!」
一体何にそんなに時間を用している?
「せんせー‼︎‼︎」
「おお⁈なんだ⁈どした?」
生徒の大声に驚き跳ね上がる。それを見てクスクス笑う生徒達。
「どうしたの?せんせー?」
「あー、何でもねーよ。んで?なんだ?」
「ここ、分からないですー」
生徒が指差す問題に目をやる。
今は、考える時じゃ無いな。取り敢えず、目の前の事に集中しよう。
「あー、此処はな?ーーーー
「うし!キリもいいし此処で終わる。お疲れ!」
『有難う御座いましたー』
俺の合図で荷物を纏め帰っていく生徒達。大分、日も傾いてきている。
「あ、そうだ。リグル、ター、ミナ明日は慧音先生だから朝宿題を集めといてくれ」
リグルと、男の子、女の子を呼び止め明日の指示をする。それに対して一つ返事をして帰っていく三人。
因みにターが男の子。ミナが女の子。この前喧嘩してた二人だ。
リグルの方は前回の件もあり苦手意識というか完全に敬遠されている。まあ、あんな事があってそれだけで済んで居るんだから贅沢言っちゃいけない。
「終わりましたか」
いつの間にか扉に寄りかかって此方を見ている華扇。
寺子屋から出て行く生徒を見て、来たのか知らないがグッドタイミングである。
「帰るか」
「今日こそ・・話して下さい。私も話しますから・・」
帰路につく中、そう言う華扇。
あれ以来寺子屋の帰りはいつもこうである。今まで、無視して居たんだが・・。彼方も駄目元で言っているんだろうから、話すつもりがあるかと聞かれれば無いのだ。
「・・・・」
あと、一回だ・・・・あと一回発動の瞬間を見れば盗める。そうすれば、此処からでて行ける。
あれこれ考えるうちに華扇宅に到着。
華扇が一息つく。方術を解いたのだろう。それを確認して俺は、足早に修行の準備を進める。
ふと、振り向くと真後ろに華扇が立っており小さく身体が跳ねる。
「ど、どうした?」
「私は、貴方が間違った方向に進まないように正す義務があります。ですから、話して下さい。今日こそは、話すまで修行は始めません」
そう、小声で言う華扇。
俺は、いつも通り無視して再び準備を再開しようとすると手を強く踏みつけられる。
「話して・・下さい!」
「・・・・」
俺は華扇の顔を睨むように見るが生憎俯いて居るので目は合わない。
「どうして、そこまで俺の過去に執着するんだよ?俺を弟子に取った以上知らなきゃいけないってのは分かるが所詮表向きのもんだろ?」
「・・・・貴方は私の前の一人弟子に似て居るのです」
俺の質問に対して俺の手を踏み付ける足をどかしゆっくりとその場で語り始める華扇。
俺は、早速疑問を覚えそれを中断する。
「俺が前の弟子に似て居るのがどうして悪いんだよ」
「・・・・その弟子とは、千年以上苦楽を共にした家族、とも言って差し支えない程に信頼し近しい仲でした」
「・・はぁ」
「しかし、そこまで近い関係でありながらも彼の変化に気付くことが出来ませんでした。いえ、近いからこそでしょうか」
そこまで言うと止まってしまう華扇。かなり悔しかった、いや悲しかった出来事なのかいつの間にか噛み締める唇から血が出ている。
「私は彼に告白されました」
「っ!はあ?」
どんな真面目な話かと思いきや、告白⁈え、今までシリアスな雰囲気だったよね⁈んんん?
「師弟の関係では無く夫婦として伴侶として僕と添い遂げて欲しい、と。私に、その気は微塵も無かったので勿論断りました」
おっと・・・・大体展開が読めたぞ。告白で終わる程簡単では無いらしい。
「しかし、彼はそれに余程ショックを受けたのか私の前から姿を消しました。そして・・そして」
「・・・・⁈」
気付くと華扇の身体が震え、目から涙が零れ落ちている。
俺は、反射的に華扇の肩を抑える。
「邪仙になって戻ってきた彼に襲われて・・・・命からがら逃げ延びました・・・・。私は・・・・貴方にそのような邪悪な物になって欲しく無いのです!」
俺の胸ぐらを掴み手繰り寄せる。
懇願するように、悲鳴を上げるように叫ぶ華扇。
「私は・・現実から逃げるように、弟子と入れ違うように現れた貴方を新しい弟子として迎え、自分を騙し今まで通り何も無かったように暮らそうと思っていました」
「・・・・」
「でも、もう同じような事を繰り返したく無いんです!だから、お願いします!もう、建前を言うつもりも綺麗事を言うつもりもありません!だから、どうか・・お願いします!」
その場に泣き崩れる華扇。俺は、それを支えゆっくりと座らせてやる。
成る程・・そんな事があったのか。
でも、
「・・・・結論から言うと・・無理だ」
「⁈どうしてですか⁈」
「俺の本質が悪だからだよ。俺の意思、感情に関係無く全てを壊す」
華扇の隣に座り、自分のことについて話し始める。
「俺とお前は、近いうち必ず対峙する。必ず敵になる。お前は、俺を退治しなければならなくなる」
それに意味が分からないと言う風に不満気な顔を向ける華扇。
それを無視して再び口を開く。
「俺がこうやって、逃げてたのも間接的にとはいえそれが原因だ」
「ですが、それは私が
「無理なんだよ。今まで騙すような真似して悪かったな」
俺は、それだけ言って立ち上がり中に入って行く。
華扇は、ただ呆然としてその場に座っていた。
もう、此処には居られないな。仕方ない。
ごめんな。支えになってやれなくて。
「じゃあな」
荷物を纏め終えると、その場を離れた。
side 華扇
「どうして・・どうして・・」
ただ、私はその場に呆然としている事しか出来ません。
私は、彼を止められませんでした。
私は、彼をみちびけませんでした。
私は・・・・彼を・・・・
私は・・彼に何を求めていたのでしょうか?彼に逃避し安らぎを得ているうちに、いつの間にかそれ以上の物を求めていたのでは無いでしょうか?
・・・・彼を、前弟子のようにしたく無い、それですら建前。
本当は・・本当は・・彼と長い時間を共にして・・慰めて・・欲しかった
「やめて・・・・・・・」
現実を否定するように首を横に振り、とめど無く流れる涙を必死に堪えようとします。
でも、耐えられませんでした
「行かないで・・!」
私は、思うがままに彼を追いかけ走り出しました。外に出て、ただガムシャラに。
「一人に・・しないで・・」
そして・・一つの影を見つけました。私は、その影を追い掛け・・て・・・・
「やっと、見つけましたよ〜〜師匠ーーー‼︎ヒヒヒ」
「臥龍・・⁈」
それは、氷坂では無く前弟子・・臥龍でした。彼は、邪悪な笑みを浮かべ此方に歩み寄って来ます。
私は、恐怖のあまり脚が震え力が入らずその場に座り込んでしまいます。
「ずっと、隠れてるもんだから見つかりませんでしたよ?ヒヒヒ全く、逃げるなんて酷いことしますよねー」
臥龍は、最早無抵抗の私を肩に担ぎ上げます。
必死に抵抗しようとしているのに力が入りません
「や・・やめて・・やめてぇぇ‼︎」
「さぁ・・行きましょう?僕達の愛を育める二人だけの場所へヒヒヒ」
「いや・・‼︎イヤだ‼︎もう、あんな事・・‼︎やめてぇぇ‼︎」
「いひひヒヒ」
急展開ていうかなんていうか、ってなってるかもしれないです。
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