華扇が何者かに攫われた。
瞬間を、俺はずっと妖怪の山の隅でひっそりと千里眼で見ていた。
見るからに奴が話に出ていた前弟子だろう。華扇の尋常じゃ無い顔を見ればどれだけヤバイのかもよく分かる。
助けようとすれば助けられる。でも、助けない。何故なら、此処で大事を起こせば今度こそ神様達に見つかる。
それに、そこまでのリスクを冒してまで助ける必要が無い上に、華扇と俺はもう関係無い。
たった今、華扇が男にいかにも怪しげな屋敷に連れ込まれた。どうやら、気を失っているらしくピクリとも動いて居ない。
男は、広めの部屋に入り布団の上で華扇を寝かせると手足を縛り付けた。
もう、此処でこれから何が行われるのか大体察しがついてしまった。
「・・・・っ‼︎」
気付くと、握り締めた拳から血が出ていた。そこで、自分が矛盾している事に気付く。
もう、関係無いとか言っておきながらなんで俺はこの様子を観察してるんだ?どうして、心配してるんだ?
華扇は、敵だろ?
なら・・どうして・・
その時、男に蹂躙されようとしている華扇の口元が微かに動いた。
その、口は確かにこう呟いた。
『(助けて・・氷坂・・』
「・・・・」
「いひひヒヒやっと、一つになれますね〜‼︎ししょおーー‼︎」
「やめ・・て・・」
「いひひヒヒあははハ
俺は、そんな汚い言葉を発する汚物の顔面を霊墜の威力を載せた脚で蹴り飛ばす。
まるで、スロー再生にでもなったように男の顔面が湾曲し身体が吹き飛んで行く。
男は、吹き飛んだ先で数戸の建物を貫通し木をなぎ倒し地面に轟音を立てて衝突する。
「ひ・・氷坂⁈」
「だー‼︎くそッ‼︎やっちまった‼︎こんなはずじゃ無かったのにーー‼︎」
ほぼ全裸で拘束されている華扇の手枷、足枷を外してやり毛布を被せる。
そして、頭を掻きむしりその場に崩れる。
「ぼぼぼぼくと、師匠を天狗ごときが邪魔をする?おおおお前、しにたいの?」
奥の方から男の声がする。その声は怒りに震えており、瓦礫をどけて此方に歩いて来る。
「なぁ、華扇。別に俺はお前が心配で此処に戻った訳でも、お前が好きだから戻ったわけでも無いからな?」
「じゃあ・・どうして」
「あういう奴が一番気に入らないからだ・・‼︎」
怒りを露わにして、男を睨み霊墜に妖力をこめる。
出来るだけ早く終わらせる。だから、最初から全力で行かせてもらうぜ‼︎
「別にお前に何の恨みも憎しみも無いけどな。ただ、気に入らないから殺す。よくも、こいつが泣くようなことしてくれやがったな」
「いひ、いひひヒヒ‼︎バカが‼︎」
両者ほぼ同時に踏み出す。
遅い‼︎男の拳を頭だけで躱し霊墜を顔面に炸裂させる。
「ブッ‼︎」
後方に高速で吹き飛ぶ男を追い掛け男の胸を両足で踏みつけ地面に叩きつける。
「⁈」
だが、怯む様子も無く俺の脚を掴み立ち上がると遠心力をかけて俺を飛ばす。
流石・・なんて馬鹿力・・‼︎必死に止まろうとするが止まれず空中を滑空してしまう。俺を追い掛けて飛んで来る男。男が目の前に来たところで防御の構えを取る。
「なに⁈通り過ぎた⁈」
俺の直ぐ横を通り過ぎた男は反対側の壁を蹴って俺の背後をとる。
体制を立て直せずに男の蹴りを背中に喰らう。
ベキベキバキブチッ
「ッッ‼︎」
上半身と下半身が引きちぎれるかと思う程強烈な蹴り。それを、歯を強く噛み締めて堪え男の脚を掴む。
霊墜で遠心力を高め地面に叩きつけ男を盾に転がる。
それは、さながら大車輪。進行方向の木々どころか地面も抉りとる。
「オラァァァ‼︎」
ラストに大岩に男の顔面を叩きつけ、距離をとる。
「ハァハァ、流石に霊墜の全力使用はかなり体力が削られんな・・決着をいそがねぇと!」
霊墜で踏み出し、起き上がる男に追い打ちをかける。
「いひひヒヒいいねぇ」
男の両腕を掴み身体を固定し、男の顔面に連続で脚を使い霊墜を決める。
男の足場が衝撃波と、重みで崩れバランスが取れなくなり強引に男の腹を蹴り上げ吹っ飛ばす。
「くそ・・このままだとこっちの力が先に尽きちまう・・」
仕方ない、今回もやるしか無い。使いたく無いとかそんなこと言ってる余裕なんか無いしな。
「ッッッ‼︎ああああ‼︎」
霊墜に妖力を限界まで詰める。案の定負担が来て身体が軋む。
打てて三発。出来れば2発で蹴りをつけたい所だな。
空中を漂う男に向かって一直線に突っ込む。男は、舐めているのか全く避けるそぶりが無い。
「霊撃墜ィィィ‼︎‼︎‼︎‼︎」
「ッッッ⁈ッッガッハッッッ‼︎‼︎」
防御する腕を脚で弾き、見事男の腹に直撃させる。
男は、予想以上の衝撃に完全に不意を突かれたという様子で盛大に血を口からぶちまける男。
そのまま、下方向に殴り飛ばし地面に直撃する男。
衝撃波と風圧で周りの木々や岩が吹き飛んでしまっている。我ながら自らを犠牲にしているとは恐ろしい威力だ。
「ッッッ‼︎オエエエ‼︎‼︎ガハッグフッ‼︎きさ、貴様ああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
激昂した男が俺に向かって飛んで来る。
スピードでは、俺が断然上だ。捕まらなければ問題無い。怒りに任せた初撃を躱しその力を利用して遠くへ投げ飛ばす。
その隙に妖力を再装填する。
「ッッ⁈ガバッ‼︎‼︎ゴホッゴホッ‼︎‼︎」
流石に二発目となるとキツイか・・‼︎血が口から止めど無く流れ出る。この一発で決めないと、流石にヤバイな・・・・‼︎
「逃げるなぁぁあ‼︎‼︎」
此方に向かってくる男を視認して、霊墜を構える。
「ッッッ‼︎ガハッッ‼︎」
打つ直前で身体に激痛が走り血が再び吹き出る。
ックソ‼︎外す訳には・・‼︎体制を立て直し、強引に男の腹に打ち込む。
「ッッッ‼︎」
「ガッッッッ⁈」
男の腹に打ち込むと同時に、男の掌打を腹に喰らう。
両者同時に後方に吹き飛び身体が地面に叩きつけられる。
「ッッッ‼︎ッッッーー‼︎」
身体が異常な激痛に囚われる。その痛みに悶えて地面を転げ回る。もう、傷の再生は見込めないか・・‼︎
あいつは・・‼︎
「ひヒヒ・・‼︎ひひヒヒヒヒ‼︎‼︎」
「糞がぁ・・‼︎」
もう一発か・・‼︎・・・・?どういうことだ?妖力が、放出出来ない・・?何故だ⁈
「いひひヒヒ‼︎‼︎使えないだろう⁈お前の体内に方術で隠したある物体をねじ込んだぁ‼︎‼︎それは、僕が死なない限り止まることは無い‼︎‼︎僕を殺さなければ妖力は体外に放出することは出来んぞ⁉︎」
「・・・・⁈」
「お前の負けだぁ‼︎いひひヒヒあははは!」
此方に向かって飛んで来る男。回避しようと飛ぼうとするが、妖力が扱えないため飛べず走って回避しようとする。
だが、流石に遅く、男の攻撃を食らってしまう。
ビキビキバキバキ
「コバッッッ‼︎」
身体が既に限界だというのに、更に立て続けに攻撃を喰らう。最早、反撃の術すら無い為されるがまま。
「イヒヒひゃひゃひゃ‼︎‼︎」
殴られるうちに意識と感覚が遠のいて行く。
まさか・・負ける・・のか?
「(また・・かよ・・)」
「所詮僕の出来じゃ無いな」
男は、血みどろの肉塊を離し地面に放り捨てる。
すると、華扇に目を向け再び邪悪な笑みを浮かべる。
「イヒヒ師匠ぉぉぉ〜さあ、続きをしましょおおお」
華扇の元までゆっくりと歩み寄る。それに、後退りする華扇。逃げる余裕すら無いのか足がガタガタ震えている。
「イヤ・・やめて・・こないで」
そんな華扇を押さえつける男。そんな様子を死にかけの身体で遠くから何も出来ずに見る。
(また、護れないのかな・・)
(また、繰り返すのかな・・)
(また、あんな風に・・)
違うだろ。
(でも、動かないよ・・)
それも、違うだろ。
ああいう奴が憎いんだろ⁇
憎くて仕方ないんだろ?
だったら、殺るしか無いだろ。
護れないのがどれだけ辛いか
知ってるんだから
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼︎‼︎‼︎‼︎」
「⁈」
華扇を組み伏せていた男が驚いて振り返る。
「参ったなんて・・‼︎言ってねぇだろうが馬鹿が・・‼︎」
身体は、血みどろ、傷だらけ、死一歩手前。でも、立つ。でも、殺す。
守りたいから。繰り返したく無いから。
腕にはめた霊墜が妖力を極限まで吸い上げ更に込めることによって風が渦を巻いている。
「何故だ⁈何故、妖力が使える⁈」
「妖力を放出で来ないなら体内で使えばいい・・‼︎」
「⁈」
そう、霊墜をはめているのは切断した腕の断面。霊墜から、血がドロドロとこぼれ落ちて居ることを見れば直ぐに分かる。
それを見て、男はまたも驚きの表情をみせる。
「だ、だが立ってるのも精一杯だろう?当てられなければ意味が」
「動けんのかよ・・お前」
「ッッッ⁈」
突然、男の身体がピタッとその場で止まる。そう、何故なら
「糸⁈方術で隠していたのか・・‼︎お前・・ただの天狗じゃ」
「お前が、俺に方術を体内で教授してくれたからなぁ。やっと、盗めた・・‼︎」
糸を体内から放出し、方術を使い密かに結界を張っておいた。
「お前の負けだ」
限界を超え、更に霊墜に妖力をこめる。霊墜にこめられた妖力に呼応するかのように周りの地面の土や岩が浮く。
「クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソォォォ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「死ね
霊撃墜ィィィィィ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「ッッッガアアア⁈⁈⁈」
異常な衝撃波が男の胸を貫く。衝撃波は止まらずに木々をなぎ倒し地面を抉り、妖怪の山に極大の大穴を開ける。
「・・・・かは」
俺はその場に倒れた。いや、倒れたのかも分からなかった。もう、全ての感覚が無い。身体が段々冷たくなっていくのが分かった。
あーあ・・やらかしちまった・・
「氷坂‼︎‼︎氷坂・・‼︎どうして・・此処まで・・‼︎」
ああ、きっと今頃華扇が隣で泣いてんだろう。最後に・・伝えないと・・‼︎
「逃・・げ・・・・!」
「喋らないで下さい‼︎お願いです‼︎このままだと死んでしまいます‼︎」
声が出ない。でも伝えないと・・伝えないとこいつを殺してしまう!
再び口を開こうとすると何かが口を塞ぎ口の中に何かが染み渡る。
何故か、視力と聴力が若干回復する。華扇の酒か。
「華せ
再び口が塞がる。どうやら、口移しで俺に酒を飲ませているようだ。
俺の蘇生に必死になっているようで泣きながら顔を真っ赤にしている。
「喋らないで下さい‼︎‼︎お願いです‼︎‼︎死んでしまいます‼︎」
「いいから逃げろ‼︎俺はどのみち助からない‼︎お願いだから逃げてくれ‼︎」
「そんなこと出来るわけ無いでしょう⁈貴方だけは・・貴方だけは救って見せます‼︎」
「違う‼︎違うんだよ‼︎お願いだから逃げてくれ・・」
そこまで言うと再び俺の口を奪う華扇。今度は、普通のキスだ。
「もう、いいんです!私は、貴方が好きです‼︎大好きです‼︎だから、もう二度と離れたく無いんです」
「ッッッ‼︎馬鹿野郎・・‼︎」
もう、ダメだ意識が薄れて来た・・‼︎早く、早く逃がしてやらな
「危ねえ‼︎」
上から降ってくる物体に危険を感じ反射的に華扇を突き飛ばす。
狙いは俺だったようで下半身が丸々潰れて無くなる。
「ウギャァァァァ‼︎‼︎アアアアアア⁈⁈⁈」
「氷坂‼︎‼︎」
これは・・御柱⁈⁈神奈子か・・‼︎
ほぼ消えかかる意識で上空を見上げる。すると、多数の影が見える。多数の影の中に、霊夢もいた。
そうか・・そういうことか・・‼︎
神様達の狙いはこれだったのか。初めから、狙いは空じゃなく俺か!
そして、今まで襲わなかったのは霊夢や他の妖怪との協力を得ていたからか!
「氷坂‼︎氷坂ぁ‼︎」
完全にパニックに陥っている華扇が必死に俺にしがみつく。
俺は、最早それを退ける余裕すらなく最後の力を振り絞って声を出す。
「お前ら全員・・地獄に堕ちろ・・‼︎」
絶命
「私が・・私が貴方を救ってみせるから・・氷坂」
霊夢が札を地面に打ち付けると、巨大な結界が妖怪の山を包む。
それと同時に全員が臨戦態勢を取る
「さて、妖怪の山の主戦力に加え博麗の巫女でどれだけ渡り合えるのか・・」
天魔四人、神三人、博麗の巫女一人
対
終わりの妖怪一人
今此処に始まる。
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