白猫と盲目の龍人 〜断ち切れない気持ち〜   作:967

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贈り物

~龍斗side~

 

 

アクセサリーショップでの買い物を終え、ショッピングモールの中を歩いていた。

 

 

「どうだった?いいのあった?」

 

「はい!この猫の髪留めとか!」

 

 

小猫ちゃんが嬉しそうな声で髪留めを付けていた。

俺はあの後、ドクロのピアスを購入しそれを付けていた。

勿論耳に穴は空けて無いよ。今流行りのマグネットのやつだからね。

 

 

「龍斗くんのそのピアス似合ってますよ」

 

 

小猫ちゃんがそんな嬉しい事を言ってくれた。

 

 

「ありがとう小猫ちゃん。小猫ちゃんも似合ってるよ」

 

 

そう言って俺は小猫ちゃんの頭を撫でる。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

小猫ちゃんは恥ずかしかったのか俯きながら小さくお礼を言ってくれた。

俺はそんな小猫ちゃんの反応を観て急に恥ずかしくなって慌てて撫でるのをやめる。

 

 

「あ、………」

 

 

小猫ちゃんが残念そうな声をあげる。

え?今の反応なに?

なんか残念そうな声あげたけどそういう訳なの?

や、やばい。胸がドキドキしてやばい。

な、何か話をしなくては!

 

 

「こ、小猫ちゃん。そろそろお腹空いて来たからケーキバイキングに行こう」

 

「は、はい。行きましょう」

 

 

俺達はショッピングモールでの買い物を終え、ケーキバイキングの店へと向かった。

店に行く途中、俺達は何も会話をせずに歩いていた。

小猫ちゃんは俺の半歩後ろを歩いている。この距離感がどこかデートをしている感を醸し出して俺は余計に話しかけれなかった。

何か話さなければと思えば思う程話題が出でこず小猫ちゃんをチラリと観る。小猫ちゃんも少しモジモジしながら歩いている。

俺はどうしたらいいのかわからず頭を抱えていた。

すると、前方から、

 

 

「きゃっ!やめて下さい」

 

 

と言う声が聞こえ、前を観て見ると、一人の女性を複数の男性が取り囲んでいた。

 

 

「いいじゃん。どうせ暇なんだろ」

 

「俺達と遊ぼうよ」

 

「嫌です!放して」

 

 

女性が嫌がって掴まれた手を振り解こうとするが男達はそれを拒み手を放さなかった。それどころか手を引っ張り何処かに連れて行こうとしていた。

 

 

「い、いや…やめて下さい」

 

「いいから来い!あっちでいい事しようぜ!」

 

「う、嘘。い、いy、フグッ!?」

 

「クソ、暴れんじゃねぇ!」

 

 

男達は女性の口を抑え連れ去ろうとする。

 

 

「ちょっと待って下さい!」

 

「あぁ?なんだてめぇ」

 

 

いつの間にか体が動いていて男の肩を掴んでいた。

 

 

「その子凄く嫌がっているじゃないですか。放してあげて下さい」

 

「お前には関係ねぇだろ。それともなんだ、お前は正義のヒーロー気取りの痛い奴か?ハハハ、ウケる。マジこいつ頭イカレてるぞ」

 

 

男が笑うと周りにいた男達もつられて笑いだす。そして男達が俺を周りを囲う様に集まって来る。

 

 

「ちょっと痛い目に合って、そのイカレた根性を叩き直してやるよ!」

 

 

そう言って男達は一斉に殴りかかって来る。

俺はそれをヒラヒラと躱していく。

 

 

「クソ!避けてんじゃねぇ!」

 

「いや、避けないと痛いでしょ」

 

「てめぇふざけてんじゃねーよ!」

 

 

男達はより一層怒り殴りかかって来るも、俺はそれを全て躱す。普段悪魔等と戦っている俺にとってはこんなチンピラのパンチなんて絶対に当たらない自信があった。

男達は当たらない事によりイライラし始め、周りの様子が見えなくなっていた。俺は男達を相手にしながら、なるべく人通りが多いところへと誘導していた。そして人通りが多いところに出ると、チンピラの拳を腹に貰ってしまった。

 

 

「はぁはぁはぁ、やっとあたりやがった。」

 

「手間取らせやがって、このクソ野郎!」

 

 

そう言い男が俺の腹を蹴って来る。俺はそれを腕をクロスさせてガードすると男達は全員で蹴り始めた。だがそれに待ったをかける人がやって来た。

 

 

「そこの君達!やめなさい!」

 

 

そこには警官が複数いた。

 

 

「げ、サツだ。おい逃げr、ガッ!」

 

 

男達が警官を見て逃げようとした時俺は男達のリーダー的な奴を組み伏せる。

 

 

「放せこのクソ野郎!」

 

「嫌だね。さっきお前らもあの子を放さなっただろ。それにお前ら周りをよく見ろよ。こんな所で喧嘩してたら警察呼ばれるに決まってるだろ。」

 

 

男達は俺の言葉にはっとなり周りを見回す。周りには多くの人が俺達を見ていた。

 

そして男達を警察に引き渡し、少しの間事情聴取をされて開放された。小猫ちゃんの所に戻ろうとすると、

 

 

「あの!」

 

「ん?」

 

 

後ろから声をかけられ振り向くと、さっきチンピラに絡まれてた女性がいた。

 

 

「あのもしかして中島くん?」

 

 

なぜ俺の名前を知っているのかと思ったが、この声に聞き覚えがあり、思い出してみる。そして思い出した。

 

 

「もしかして桜井さん?」

 

 

同じクラスにいる桜井さんだった。彼女は大人しく口数が少ない大人しい子だ。

 

 

「先程は危ないところを助けてくれてありがとうございました」

 

 

そう言って頭を下げてくる。

 

 

「いや、俺はそんな大したことはして無いよ。だから頭をあげてよ」

 

「けど…」

 

「本当に大したことはしてないから。けど桜井さんは大丈夫だった?」

 

「はい。私は平気です。それだったら中島くんも大丈夫何ですか?さっき殴られてたみたいだけど」

 

「大丈夫だよ。俺鍛えてるから。…それじゃぁ俺人待たせているからもう行くね」

 

「はい。今日は本当にありがとうございました」

 

「はは、どう致しまして。それじゃぁバイバイ」

 

 

俺はそれだけ言って足早にその場を後にした。

 

小猫ちゃんの元へ戻るとベンチに腰をかけて待っていてくれていた。俺は怒られる覚悟を決め、小猫ちゃんに近づく

 

 

「ごめん小猫ちゃん!急に居なくなって」

 

「いえ、それよりも大丈夫ですか?」

 

 

俺は怒られると思っていたが、小猫ちゃんは起こるどころか俺の体の心配を真っ先に気にしてくれた。

 

 

「え?大丈夫だけど……怒って無いの?」

 

「怒ってませんよ。龍斗くんのした事は正しい事ですから」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。それじゃぁちょっと遅れたくれたけど行こうか!」

 

「はい」

 

 

そうして俺達はケーキ屋に再び向かい始めた。

 

 

 

 

ケーキ屋に着き俺達は席に案内されると小猫ちゃんが俺の分のケーキを取って来てくれるという事で席を立っていた。俺はその間に店員を呼び飲み物を頼んだ。

少しして小猫ちゃんがお皿に山盛りにしたケーキを運んでた。

 

 

「…凄い量だね小猫ちゃん」

 

「大丈夫です!私が全部食べますから。あ、これが龍斗くんの分です」

 

 

小猫ちゃんが俺の前にケーキの乗ったお皿を置く。それには三つのケーキが乗っており、形的に1つはショートケーキと言うのは分かるが後の2つがわからない。すると小猫ちゃんがケーキを指さして種類を教えてくれた。

 

 

「これがショートケーキで、これがチーズケーキ、これが洋梨タルトです」

 

「ありがとう!それじゃぁ食べようか」

 

「はい!」

 

「「いただきます」」

 

 

まず俺はチーズケーキを一口食べる。味が濃厚でとても美味しい。もう一口。この濃厚さが堪らん!けどいっぱい食べると飽きちゃうんだよね。チーズケーキは偶に食べるからこそ美味しく感じるんだよな。

そこで小猫ちゃんをチラリと見ると、さっきまで山盛りだったケーキがもう半分になっていた。

おかしいな。俺まだチーズケーキの半分も食べて無いよ。いつのまにそんなに食べたの?

俺はある意味戦慄を覚え、考えるのをやめた。

俺がチーズケーキを食べ終わった頃には、小猫ちゃんのもうお皿にケーキは残ってなかった。

すると俺の視線に気がついたのか小猫ちゃんは俯きながら、

 

 

「……やっぱりこんなに食べる女の子は嫌ですか?」

 

 

不安げに聞いてくる。

俺は首を振り答えた。

 

 

「嫌じゃないよ。やっぱり好きなものなるといっぱい食べちゃうもんね。俺もラーメン好きなんだけど、よく麺大盛りにもやしをトッピングして食べてるもん。だから気にしないで食べて」

 

「……はい。ありがとうございます!それじゃぁ私おかわりして来ますね」

 

 

そう言って小猫ちゃんはケーキを取りに行ってしまった。

俺は洋梨タルトを一口食べる。

 

 

「うん!美味い!」

 

 

その後小猫ちゃんがまたお皿いっぱいにケーキを持って来たのは言うまでもない。

 

 

 

 

ケーキを食べ終わり俺達は頼んでおいた紅茶を飲みながらたわいない話をしていた。

 

 

「ショートケーキの苺って先に食べる?」

 

「私は最後に食べます」

 

「俺は先に食べるかな。やっぱ好きなのは一番最初に食べないとね」

 

「絶対に最後です!」

 

「ハハハ。まぁそれは永遠の議題になるね。最後に食べるか、最初に食べるかは」

 

「そうですね」

 

 

俺達は微笑み合い紅茶を少しだけ飲む。

やっぱりケーキの後は紅茶だね。あの甘ったるい後味がスッと消えていく。それにしてもここの紅茶も美味しいな。また今度来ようかな。

 

 

「龍斗くんちょっといいですか?」

 

「なに?」

 

 

急に小猫ちゃんが声をかけてくる。その声はどこか真剣みを含んでいるようだった。

 

 

「さっきの事ですが」

 

 

さっきの事?あぁ!あのチンピラから桜井さんを助けた事か!それがどうしたんだろ?

 

 

「なんでやり返さなかったのですか?龍斗くんの実力ならあの人達だって簡単に倒せるのになんでやり返さずにわざと殴られたりしたんですか!」

 

「…………………………」

 

 

俺は無言で返した。

確かにあのくらいだったら怪我をせずに無力化する事は簡単に出来る。けど、

 

 

「小猫ちゃんの言う通り、あのくらいだったら簡単に倒せることは出来るよ」

 

「ならなぜですか?」

 

「俺はもう人を傷つけたくないんだよ」

 

 

俺は重々しい口を開け話し始めた。

 

 

「話したと思うけど俺は1回人を殺しているんだよ。その時俺は仁さんと約束したんだ。絶対に人を傷つけないって。それから俺は人間には一切手を出してない。それと困っている人がいれば助ける。俺はそれしか罪滅ぼしが出来ないからね…」

 

「すいませんそんな事聞いて」

 

「いいよ。別に気にしてる訳じゃないし!よし、重い話はここでお終い!それよりも楽しい話をしよう!」

 

「…はい」

 

「もう小猫ちゃん暗い声出してるよ!ほら笑顔、笑顔!」

 

 

俺はそう言って小猫ちゃんの頬を引っ張る。

 

 

「龍斗くん痛いです」

 

「小猫ちゃんが笑わないからいけないんだよ!」

 

「笑いますからもう引っ張らないで下さい!伸びてしまいます」

 

 

俺達はひとしきり騒いで、ケーキ屋を出た。

 

 

それから俺達はゲームセンターに行き、夕方まで遊んでいた。そして待ち合わせしていた公園まで戻って来てベンチに腰をかけていた。

 

 

「小猫ちゃん今日は楽しかった?」

 

「はい!凄く楽しかったです」

 

「それはよかった…」

 

 

それを聞き俺は心からホッとした。俺はこんなに友達と遊んだ事がなくて、もしつまらなかったらどうしようかと思っていた。

 

 

「ねぇ龍斗くん」

 

「ん?」

 

「目のことクラスの人に言いませんか?」

 

「え!?」

 

 

小猫ちゃんがいきなりそんな事を言い出した。

 

 

「急にどうしたの?」

 

「私ずっと考えていました。今日龍斗くんが人助けした事、人を傷つけたくないって言った事。……龍斗くんは優しいです。だから本当の事を話して、本当の龍斗くんを見て欲しいんです。」

 

「……俺には小猫ちゃん達がいるからいいよ。小猫ちゃん達でも俺の本当を知っててもらえれば」

 

「それじゃぁ龍斗くんがかわいそうです。こんなに優しい人なのにあんな扱いを受けるなんて……私嫌です…」

 

「小猫ちゃん………」

 

 

小猫ちゃんがそれだけ言って俯く。

怖い。もし本当の事を話してまたいじめられたら小猫ちゃんにも被害が出るかもしれない。それだけは何としてでも避けたい。だったら話さない方が安全なんだ。今まで通り俺が傷つけばいい。

でも……

 

 

「……もし受け入れてもらえなかったらどうするの?」

 

「その時は私が殴ります!」

 

「え?」

 

「こんなに優しい龍斗くんをいじめる人は私が殴ります!」

 

「そんな事をしたら小猫ちゃんまで」

 

「そしたら私達一緒ですね」

 

「一緒?」

 

「はい。イジメられ同士です。だから私は龍斗くんと一緒に居ます。勿論部長達も一緒です。龍斗くんを決して一人にしません!」

 

「小猫ちゃん…」

 

 

『一人にしません』と言う言葉が俺の胸にストンと落ちてくる。と同時に心が暖かくなる。

俺は本当に小猫ちゃんに助けてもらってるな。いつも小猫ちゃんが俺の心を暖かくしてくれる。小猫ちゃんは本当に大切な『友達』だ。

 

 

「わかったよ。明日みんなに言ってみるよ」

 

「本当ですか!?」

 

「うん。小猫ちゃんにここまで言われたら漢して断れないよ」

 

「龍斗くん……」

 

 

俺は上を見て、見える筈の無い夕日を見ようとする。やはり夕日は見れないかったが、どこか小さな光が見えたような気がした。視線を落とし、俺の手を観ると微かに震えていた。

やっぱり怖い。怖くて仕方ない。俺の過去がまた繰り返されそうで。

考えれば考える程、震えは大きくなっていた。俺は震えを止めようと手に力を入れるが止まらなかった。そこでスッと手を何か覆う。

 

 

「大丈夫です。私がついています」

 

 

それは小猫ちゃんの手だった。俺の手を優しく包んでくれていた。やはりその手は暖かく、俺の冷たくなっていた心を温めてくれているみたいだった。

 

 

「ありがとう小猫ちゃん……もう少し握ていてもいいかな?」

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 

俺は小猫ちゃんの手を握る。指がすらっとしていて、柔らかくて、小さいさな手。だけどどこか暖かい手だった。俺は小猫ちゃんの暖かさを求めるように様に手を握った。小猫ちゃんも何も言わずに握り返してくる。いつの間にか震えは止まっていた。

それから俺は数分小猫ちゃんの手を握り続けていた。そして名残惜しかったのだが俺は小猫ちゃんの手を離す。

 

 

「ありがとう小猫ちゃん」

 

「どう致しまして」

 

 

もう日が落ち、辺りは暗くなっている時間帯だった。

 

 

「もう遅いし、帰ろうか」

 

「そうですね」

 

「本当に今日はありがとうね」

 

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 

「それじゃぁばいばい」

 

「はい。さようなら」

 

 

俺達はそこで別れ、それぞれの家へと帰って行った。

俺は家に帰り、シャワーを浴びてベットに倒れ込む。

 

 

「………そういえば握ってしまったな……」

 

 

俺は小猫ちゃんの手の事を思い出していた。

朝思っていた事が本当になるなんて。小猫ちゃんの手柔らかかったな。それにスベスベしてたし。

 

 

「…はっ!だから変態じゃねぇか!」

 

 

又しても自分が変態的な事を考えていましい顔を枕に埋めた。そしてもう一度手を観る。

小猫ちゃんの手の感触が今でも残っている。

 

 

「明日……」

 

 

明日の事を考えまた怖くなってくるが、手は震えなかった。多分小猫ちゃんの手の感触がまだ残っているせいだと思う。

 

 

「本当に小猫ちゃんには感謝しきれないね。……よし!明日もあるし今日はもう寝よ」

 

 

俺は布団を被り眠りにつくのだが眠れず結局は夜中まで起きていた。

 

 

 

 

そして今日がやって来てしまった。何時もの時間に起きたがどこかそわそわしていて何かやっていないと落ち着かなかった。朝食を食べ終わり、もう行こうとすると家のチャイムが鳴る。俺は急いで玄関に行き扉を開ける。

 

 

「おはようございます龍斗くん」

 

「やっぱり小猫ちゃんか。おはよう」

 

「来るの分かってたんですか?」

 

「なんとなくそんな気がしていただけだけどね」

 

 

本当になんとなくだった。けど何故か確かな確証があった。本当に何故そんな事を思ったのかわからない。

 

 

「今から準備するから、中で待っていてよ」

 

「はい。お邪魔します」

 

 

俺は小猫ちゃんをリビングまで案内し、登校する準備をした。

準備が終わりリビングへ行くと小猫ちゃんが何かをじっと見ていた。そこには1つ写真立てが置いてあった。

 

 

「それがどうかしたの?」

 

「この写真に写っているのは龍斗くんですか?」

 

「そうだよ。それでその横に居るのが仁さん」

 

「この人が」

 

「うん。俺の育ての親だよ」

 

「顔似てますね」

 

「そうなの?」

 

「はい。面影があります」

 

「たまたまでしょ。それより準備出来たから行こうか」

 

「そうですね」

 

 

俺達は家の戸締りをし、学校へと登校して行った。

 

 

学校に着きまず担任の先生の所に行き、目のことを話すと伝える。

 

 

「そうかい。やっとその気になったんだね。わかった朝のHRの時に時間を作るから」

 

「ありがとうございます」

 

「それにしても何故言う事にしたんだい?」

 

 

俺は小猫ちゃんの方を少し観て先生に言う。

 

 

「大切な『友達』に背中押されたので」

 

 

それを聞き先生は小猫ちゃんを見て少し笑い、

 

 

「そういう事か。ふふふ、まぁ頑張ってね」

 

 

それから俺達は先生との話を済ませて教室に向かった。そしてそれぞれの席に着き、時間が来るの待った。そして、チャイムが鳴る。

俺の心臓がキューっと締め付けられる感覚にあい、少し息苦しくなる。手が震える。足が震える。体が震える。それはまるでこれからすることに拒絶反応を起こしているみたいだった。俺は自分の手を握り締める。そして小猫ちゃんの言葉を思い出す。

 

『一人にしません』

 

それを思い出し深呼吸をする。震えは最初よりかはだいぶマシになっていたが止まっていなかった。

そして扉を開く音が聞こえ、先生が入ってきた。

それを聞き心臓がドクンと跳ねる。

 

 

「みんな来てるね。それじゃぁHRをはじめる前に龍斗くんからみんなに話があるそうですよ」

 

 

俺はそれを聞き、俺は席を立ち教壇に上がる。

教壇に上がり周りを観るとクラス中がどこかヒソヒソと何かを話していた。その光景を観て本当に受け入れて貰えるのか心配になって来る。心臓はさっきから破裂するんじゃないかと思うぐらいドクンドクンと音を立てて動いている。そして小猫ちゃんのいる席を観てしまう。そしてもう一度あの言葉を思い出し、口を開く。

 

 

「え、え〜と、今日はみんなに話があって………」

 

 

そこで詰まってしまう。まだ引き返せる。まだ傷つかなくて済む。そんな感情が俺の頭を支配する。

クラスのみんなも急に黙った為ザワザワと騒がしくなる。

呼吸がしづらくなり、肩で息をしている。体も震えている。

 

(やっぱり駄目だ)

 

そう思ったその時、

 

 

「龍斗くん!」

 

 

俺の名前を呼ばれ、観てみると、小猫ちゃんが席を立ちこっちを向いていた。

 

 

「逃げちゃ駄目です!」

 

 

その言葉が胸に突き刺さる。

俺は昨日小猫ちゃんと約束までしていたのに土壇場になってやめようとしていた。なんて馬鹿なんだ!小猫ちゃんは俺の為にあんなことまで言ってくれたのに…ごめん小猫ちゃん。俺小猫ちゃんとの約束破るところだった。俺はもう逃げないよ!小猫ちゃんの為にも。

俺はもう一度深く深呼吸をし、クラスを観る。

 

 

「話というのは、俺は目が見えない事です」

 

 

それを聞きクラス中がざわつく。

 

 

「俺は目が見えません。昔これのせいでイジメられた事があります。だからみんなには隠していました。ごめんなさい!そしてみんなに気分を悪くするような態度をとってごめんなさい!…これからは皆と仲良くしていきたいんです。こんなどうしようもない俺ですが、仲良くして下さい!」

 

 

俺は言える事は全部言い頭を下げた。

クラスはシーンと静まり返っていた。

やっぱり駄目だったのかな?と思っていると、

 

 

「本当に目が見えないの?」

 

 

恐る恐るだが、声をかけられる。

 

 

「はい。俺はみんなの顔が認識できません」

 

 

それを聞きクラスがざわつく。そして、

 

 

「中島くん!」

 

 

俺の名前を呼ばれ向くとそれは桜井さんだった。

 

 

「私は最初は中島くんが怖くて仕方がありませんでした。……でも昨日不良に絡まれた時助けてくれて本当に感謝しています。だから………私で良かったら仲良くして下さい!」

 

 

その言葉は俺が期待してやまなかった言葉だった。

何年待ったんだろうこの言葉。本当に欲しかった言葉がやっと俺に来てくれた。

一気に胸から熱いものがこみ上げて来る。

そして桜井さんにつられてクラス中から、

 

「そんな事も知らずにあんなこと言ってごめんね。私も仲良くしてね」

「中島ごめん!俺とも仲良くしてくれ」

「俺も」

「私も」

 

クラスのみんなが俺を受け入れてくれた。

胸の奥から熱いものがこみ上げて来て、そして俺の頬を何かが流れる。

 

 

「中島泣くなよ!」

 

「え?」

 

 

俺はそれを触ってみる。手が濡れる。そこでやっと自分が泣いている事に気がつく。俺は涙を止めようとするが、止まるどころか奥からどんどん溢れて来る。

 

 

「み、みんな………ありがとう……うぅ…」

 

 

俺は嗚咽を漏らしながらもみんなにお礼を言った。

するとクラス全員が席を立ち俺の元に来る。そして、俺の背中を優しく撫でてくれる。

 

(もういいよね。俺もう傷つかなくていいんだよね)

 

そう思った途端、足の力が抜け地面にへたりこんでしまう。それから俺はひたすら泣き続けた。その間もみんなが俺を撫でたり、『もう泣くな』と声をかけてくれていた。俺は『ありがとう…ありがとう』と言う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

~小猫side~

 

 

みんなが龍斗くんの所へ行き、慰めています。

本当に良かった。受け入れられて。

 

「良かったね龍斗くん」

 

私も自分の事のように嬉しくなり泣きそうになっています。

あの時声をかけて本当に良かった。そう思います。

龍斗くんは優しいのでこれからはみんなと仲良くして行けるでしょう。

それでは私も龍斗くんを慰めに行きましょう。

 

 

 

 

 

~龍斗side~

 

 

授業が終わり、お昼に入る。

あの後俺はHRの時間を丸々使い泣いていた。そして休み時間には色々な話も出来た。これは夢では無いかと思うくらいに幸せだった。

 

俺はお弁当を持ち屋上へと上がって行った。

屋上の扉を開けると心地のいい風が吹く。そして俺はベンチに腰をかける。とても静かで落ち着く。

 

 

「龍斗くん」

 

 

声のする方を向くと、屋上の扉を開けた小猫ちゃんがいた。小猫ちゃんは俺の座っているベンチまで来ると隣に腰をおろす。

 

 

「良かったですね」

 

「小猫ちゃんのおかげだよ。げんに小猫ちゃんがあそこで声をかけてくれなかったら多分言わなかったと思うし」

 

「ふふ、そうかもしれませんね」

 

「だからありがとう」

 

「どう致しまして」

 

 

そこで俺はある事を思い出し、ポケットに入れていた袋を小猫ちゃんに渡す。

 

 

「これは?」

 

「中身見てみてよ」

 

 

それを聞き小猫ちゃんは袋を開け、中の物を取り出す。それはアクセサリーショップで貰ったネックレスだった。

 

 

「これ…」

 

「この前、渡そうと思ってたんだけどそれどころじゃなかったから」

 

「綺麗…」

 

「でしょ!」

 

「でもこれ高いんじゃ…」

 

「これあのアクセサリーショップの人に貰った物なんだ。ここで俺が買ったって言ったらかっこいいのにね」

 

「そんな……嬉しいです」

 

「良かった。それでねネックレスに付いてる指輪をみて」

 

 

それを聞き小猫ちゃんは指輪を見る。

 

 

「何か文字が彫ってありますね…」

 

「うん。『viel zusammen』ドイツ語でずっと一緒にって意味だよ」

 

「それって……」

 

「うん!小猫ちゃん!」

 

「は、はい!」

 

「俺は今回のお陰で俺はトラウマを克服出来たよ。本当に感謝しきれないよ。だから今度からは俺が助けるよ!だから良かったら……俺と……」

 

「ちょ、龍斗くん……まだ心の準備が………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと『友達』でいて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 

あれ?小猫ちゃんが急に黙ってしまった。

もしかして嫌だったのかな?やばい心が折れそう。

 

 

「もしかして嫌だった?」

 

「いえ、そういう訳ではありません」

 

 

何故か小猫ちゃんが不機嫌そうに言う。

 

 

「……そうですよね。龍斗くんって鈍感ですもんね…」ボソッ

 

 

小猫ちゃんが何か呟いたけど聞き取れなかった。

 

 

「まぁこれから頑張っていきます」

 

「え?それってどういう意味?」

 

「いえ、何でもありません。それでさっきの答えですが……」

 

 

俺は固唾を呑み、小猫ちゃんの次の言葉を待つ。

 

 

「私で良かったらずっと『友達』で居ます。」

 

 

それを聞き俺は嬉しくなり小猫ちゃんの手を握り、

 

 

「これからもよろしくね!」

 

 

俺は飛び切りの笑顔で言った。

これからは小猫ちゃんの助けになろう。それが俺に出来る小猫ちゃんへの恩返しだから。そう心に決めたのだった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか?


今回は龍斗くんのトラウマを克服させてクラスのみんなとも和解するお話でした。なんか無理矢理感が否めませんがそこは勘弁してください。

さて次回からフェニックス編が始まります。さてライザーをどうしてやりましょうか(ゲス顔)


それではおやすみなさい( ´ ▽ ` )ノ

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