目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ジョウトの一歩目

「―――ハッ、ハッ、ハッ」

 

 全力で走っている。

 

 もう既に息が切れそうなほどに走っているが、それでも全力で走り続けている。いや、それしか選択肢が存在しない。足を止めてしまえばその瞬間、絶望的な展開に突入してしまう。それを自覚しているから足を止める事ができない。だから息を荒く吐きながらも、片手でハンチング帽を抑え、全力疾走を続ける。体育の時間でマラソンをしたとき、足が棒の様に感じる事があった。その度に走る事を止めていたが、そうなっても無茶をすれば走り続けられるなんて考えもしなかった。そんな事を考えている余裕は勿論ない。だけどそんな事を考えたくなるぐらいには追い詰められていた。

 

「―――うぉっ」

 

 足元が見えてなかった。木の根に転びそうになりながら、体勢が崩れ、だけどなんとか下半身に力を入れて持ち直しながら更に力を込めて走る。もはや体力の限界が来ている事は明白だった。それでも命の為に走っているのだ。諦める事は出来なかった。それでもすぐ後ろから恐怖の象徴がやってきているのは見えている。息を荒く吐き出しながら目の前にある木を避ける為に横へとずれようとするが、その動きに体がついて来れず、

 

 足が縺れる様に転ぶ。

 

「く、そ―――」

 

 そう言葉を吐きだしながらドス、と木に突き刺さる姿が見える。

 

 簡単に言ってしまえば―――それは蜂だった。それもただの蜂ではなく、直径一メートル程の巨大な黄色と黒の蜂であり、尻に針があるだけではなく、両腕を持ち、そこに針を持っている。赤く丸い複眼が木に突き刺さった針を抜こうとしながらも、此方に狙いを定めている。その姿を見てひっ、と口から声が漏れる。勿論、恐怖の声だ。こんな怪物を見て恐怖しない人間が存在しない訳がない。だが相手は深々と木に突き刺さり、抜け出すのに苦労している。

 

 その隙に立ち上がり、縺れながらも必死に走って逃げだす。逃げなくては、逃げなくてはいけない。木を簡単に貫く様な針、あんなものに触れてしまえば即死するに決まっている。自分の体が耐えられる訳がない。喰らった場合の事を想像して、更に顔を青ざめながら走り出す。走る、走り、走り続ける。もう背後を見る、振り返る余裕さえもない。

 

 ただ走って、逃げるしかない。

 

 そうやって走り続け、転びそうになりながらもなんとか体勢を整え直し、隠れられそうな窪みを見つける。木の根と草によって僅かにのみ見えるその窪みへとスライドしながら入り込み、急いで入口を塞ぐように草を立てる。入る時に少々折れてしまったが、それでも立てかける様に乗せれば入口は隠れられる。それが終わったら窪みの出来るだけ奥へと体を押し込み、丸くなって震える体を抑え込む様に小さくなり、そして黙る。

 

 やがて、数秒後、羽音が聞こえてくる。虫特有のイラつくような羽音も、今では恐怖の象徴でしかなかった。震える体を力強く押さえつけながらなんとか音を殺そうと頑張っている。しかし、それでも、

 

 運命は無常だった。

 

 突如、目の前が開ける。

 

 そこには怪物が―――スピアーがいた。その針は持ち上げられており、此方へと向けられている。窪みの中に逃げる場所はない。死んだ。恐怖と共に体の動きが止まる。言葉が出てこない。こんな所に迷い込んで、わけもわからなく、あっけもなく、終わってしまう。

 

 そう思った直後、

 

「―――やれ、ニドキング」

 

 次の瞬間、スピアーが紫色の影によって横へと高速に吹き飛ばされ、その姿と入れ替わるように一つの姿が出現した。

 

 

 

 

 ―――汽笛の音に意識が覚める。

 

「ん、ぁ……」

 

 軽く欠伸を漏らしながら両手を持ち上げ、伸ばす。パラソルの影が顔にかかっているおかげで眩しさは感じない。

 

『間もなくアサギ―――アサギシティに到着します』

 

「もうそんな時間だったか」

 

 目を擦りながら眠るのに使っていたデッキのビーチチェアから上半身を持ち上げる。プール付きのデッキからは視線を前方へと向ければ、水平線の向こう側に灯台が少しずつだが見えてきている。もう一時間もすればアサギシティに到着という所だろうか、陸が近くなってきたからかキャモメが鳴き声を響かせながら船の周りを飛んでいる。一旦部屋に戻って荷物を取って来た方がいいのだろうが、深く椅子に沈み込むと、色々と面倒になってくる。そこらへんはポケモンに任せれば良いか、そんな事を思いつつ、もう一度だけ欠伸を漏らす。

 

「しっかし懐かしい夢を見たなぁ……」

 

 まだ寝足りないのかもしれない。まぁ、基本に手持ちは”夜と闇”に適応したパーティーだから夜になってから活発になりだす。だからバトルとかも基本夜、そりゃあ眠い訳だ。もう一眠り―――と、行きたい所だが、陸が見えて来ている手前、そうもいかない。ここしばらくの船旅は非常に快適だった。特に費用に関しては自分の懐から出てないのに施設使い放題、食べ放題、飲み放題、その上にお金をたくさん持っているトレーナーでいっぱい。

 

 稼ぎには困らない、素敵な船旅だった。それだけに船を降りるのが辛い。

 

「現実と戦わなきゃ……!」

 

「何を馬鹿な事を言っているんですか……」

 

 視線を横へと向ければ、黒い人影が立っているのが見える。ショートカットの黒髪にミニスカ風の黒い着物姿、頭には黒い狐のお面がかかっており、何処を見ても黒一色の人間に見える。が、その視線を下へと持って行けば、下半身から九つの黒い尾が伸びているのが見える上に、頭にも二つの獣の耳が存在する。まるで狐の要素を人間に与えた様な、存在だ。両腕を組んで立つ彼女の手の中にはゴーグルが握られており、そのすぐ横にはキャリーケースが置いてある。客室からここまで運んで来てくれたのだろう。

 

「サンキュ黒尾」

 

「貴方のポケモンとして当然です―――と言いたい所ですが、もう少ししっかりしてくれないと―――」

 

 説教が始まりそうなので腰から彼女のボールを取り、無言でモンスターボールのレーザーを当て、ボールの中へと戻す。そう、彼女は人間ではない。限りなく人間に近いような姿をしているが、厳密に言えば人間ではない生物―――ポケモン、それも人型に近い”亜人種”と呼ばれるタイプに分類される。船の周りを飛んでいる”原生種”とは違い、人に近づく進化を選んだポケモン。それが彼女、キュウコンの黒尾となる。

 

『話の途中で勝手に戻すのは酷いと思うのですが』

 

『煩いからしゃーねぇーな』

 

『主は私生活ズボラなんですから一々口に出して言わないと駄目なんですよ』

 

『いや、お前がそう言いながら何でもかんでもやって甘やかすのが原因だろう……』

 

「今日もボールの中で皆楽しそうだなぁ」

 

 ボールの中から投げかけられる手持ちや控えの声を無視しつつ、黒尾をボールに戻した事でビーチチェアの横に落ちたゴーグルを拾い、それを軽く振って、叩き、埃を落としてから頭に装着する。”此方”へとやって来る前に購入した、というか愛用しているゴーグルなだけに、もはや自分のトレードマークの様なものだ。こればかりは失くす事も忘れる事も出来ないな、と思いつつ立ち上がり、軽く体を伸ばす。

 

 ―――しかし最初は発狂するかと思ったなぁ。

 

「さて、陸に到着するまでまだあと五十五分ぐらいあるよな? となるとバトルルームで軽くバトルを繰り返せばお小遣い稼ぎになるか? 見せ札だけで戦うのが地味に面倒だから止めるか」

 

 右腕を確認すれば、そこには最新式のポケギアが装着されている。ソーラーバッテリーとポケモンの電気技によって充電の行える優れものであるポケギアには通話やメモ、地図やアプリによる拡張機能が存在している。その中でも個人的なお気に入りはラジオ機能だ。地域や場所によってはラジオで聞こえてくる内容が大きく変わってくる。ここ数日はジョウト地方の電波が届いているのか、コガネシティのラジオが入ってきている。電源を入れたポケギアの機能をラジオへと変更させ、そしてそのチャンネルを弄る。

 

『はーい、クルミでーす! 今日も始まりました、DJクルミとオーキド博士のポケモン講座! 本日も皆さんの憧れ、オーキド・ユキナリ博士にお越しいただいておりまーす!』

 

『こんにちわ。最初の頃は戸惑っておったが、儂も大分慣れてきたものだと感じるわい』

 

 ラジオから若い女性の声と、少々年の入った男の声がする。ラジオを通して聞こえてくるのは基本的なポケモンに関する情報、トレーナーズスクールやアカデミー、もしくはそれなりに勉強したのであれば知っているような内容ばかりだ。だけど勿論、そんな情報を求めている訳ではない。このコーナーの目玉は何と言ってもポケモンの研究の第一人者、オーキド・ユキナリが解説しているという事にある。情報は解りやすく説明され、教材にこの番組を聞かせた方が良い、と言われるぐらいには為になる。

 

『という事で、今日は原生種と亜人種に関する違いを話そうかと思っておる』

 

『あ、私知ってますよ! 亜人種って人間っぽい姿をしている方で、原生種がポケモン本来の姿って言われている奴ですよね?』

 

『簡単に言ってしまえばそうじゃのう。基本的に亜人種が人に憧れた結果、人の姿を真似る進化を得たポケモン、とも言われておるのう。こりゃまた面白い話なのじゃが、原生種と亜人種の間でほとんど能力の差はないんじゃよ。原生種のポッポ、そして亜人種のポッポ、姿は違っていても、その能力はほとんど変わらないという事じゃな!』

 

「今日は原生種と亜人種の違いについてか」

 

 ポケギアからイヤホンを繋げ、それで片耳だけを塞ぐようにしながら再びビーチチェアに座り直す。まぁ、ラジオが終わるころにはちょうど良い時間になっているだろう、なんて事を思いながらラジオに耳を傾ける。原生種と亜人種。この二つに関してはかなり重要―――というか知らなくてはならない事だ。自分も最初はポケモンは今で言う原生種しか知らず、それしか見た事がなかった。というか、それが普通だ。

 

 それが原作で言うポケモンなのだから。

 

 一体何が狂って擬人化がデフォになっているのだろうか、と。

 

 見た目幼女のポケモンに何の躊躇もする事なく火炎放射してボールを投げつける事に疑問を抱かない世界。

 

 それも、数年は過ごせば染まる、というか慣れる。最初は泣きわめいていた自分も今では立派なポケモントレーナー―――になってしまった。

 

『原生種と亜人種は見た目は大きく異なっておる。だが実際はそう変わったものではないんじゃ。実際、変種や原生種と亜人種の間にタマゴがちゃんと産まれる事は周知の事実じゃからのう』

 

『そう言えばこの前私のプリンがタマゴを産んでいました!』

 

『うむうむ、タマゴはポケモンの愛の印じゃ、親の為にも大事に育てる事じゃ』

 

『はーい! と、もう終わりの時間ですね! DJクルミとオーキド博士のポケモン講座でした!』

 

『ほっほ、次回は”変種”と”特異進化個体”について語る予定だぞ』

 

『これはまたトレーナーの方々必見の情報ですね! それではまた次回!』

 

 ポケモン講座が終了するのに合わせ、イヤホンを外してポケギアのラジオ機能を切る。ラジオを聞いている間に大分、眠気は抜けてきた。イヤホンをしまいながら近くを通りかかった原生種のクラブを見つける。ハサミの手首に巻かれたリボンから、そのクラブが船で働いているポケモンだと察し、軽く水のペットボトルを頼む。元気よくハサミを動かして走り出したクラブを見送りながら、キャリーケースを寄せ、そしてポケギアのメール機能を確認する。新着のメールがないのは知っている。だから前に貰ったメールを確認し、

 

 そして最後に一回、視線をポケギアから持ち上げて見えてきたアサギシティの方向へと向ける。

 

「アサギシティ……ジョウト地方かぁ」

 

『とりあえずは移動が不便ですから、さっさとジムに挑戦してバッジを得るか、或いはポケモンセンターでそらをとぶの使用申請をしなくてはいけませんね』

 

『えー、面倒だからんなもん無視して飛ぼうぜ』

 

グルルゥ(ジュンサーさんに)ガァオ(眼を付けられると)ギャァオ(面倒だぞおい)

 

『闇に葬れば問題ない』

 

『騒ぎを起こす方向で考えるの止めなさいよ貴女……』

 

 ボールの中で愉快な仲間達の話に耳を傾けつつ、クラブが運んできたペットボトルに対してチップと支払いを行い、喉を潤しながらキャリーケースを握って移動を始める。新しい地方に来るとバッジか申請書で許可を取らないと空を飛ぶ事が出来ないのが面倒な話だ。まぁ、そこらへんが緩い地域も存在するが、そういう所はやはり治安が少々悪い。それに元々ポケモンリーグに挑戦するつもりはあるのだ、だったらバッジを取るついでにやってしまえば問題なかろう。

 

 

 

 

「あーあ……これで至福の時も終わりかぁ……悲しいなぁ……」

 

 溜息を吐きながら豪華客船ウェーブ号から降りる。カモになるトレーナーが多くて懐が温まる上に環境も素晴らしい。そんな所から抜けるのは勿論嫌だったのだが、目的地はここ、ジョウト、そしてカントーポケモンリーグだ。目的の事もあるし、なるべく速やかにジムは回っておきたいという気持ちがある。となると一番最初にやるべきなのは秘伝技、”そらをとぶ”の解禁になる。いや、そもそも手持ちの中に”そらをとぶ”が使える面子は存在するのだが、そらをとぶの秘伝許可はタンバジムのジムバッジを取得した場合に出る。

 

 タンバジムはアサギシティから秘伝技”なみのり”で渡った海の向こう側にあるタンバシティに存在する。ここは勿論船に乗って海を渡るという手段も存在するが、ポケモントレーナーとしてはそれをやると何か負けた気がする。それに”秘伝要員”として育ててあるホエルオーとメタモンを常に”控え”として持ち歩いているのだ。この二体をそのまま腐らせるというのも忍びない。

 

『そう考えるとルート的にはアサギジム、キキョウジム、タンバジムですね。進んだら戻るという感じで若干面倒ですが、やはり飛行の解禁は色々と移動を楽にしますし、バッジ集めもそうなると一気に捗りますからね』

 

 ポケギアでタウンマップを確認すればどの街が何処にあるかは解る。それを利用すればそらをとぶで簡単に移動できる。別に、一回行った事のある街じゃないと移動できないなんて無駄な縛りは存在しないのだ。だから足を確保する意味で秘伝技を解禁させたい。まぁ、久しぶりのジョウト地方だ。そこまで焦る必要もないとは思うのだが。

 

「とりあえずはポケセンだな」

 

 桟橋からアサギシティ全体を眺め、歩き出す。此方へと来る前にパソコンからアサギシティのマップをダウンロードしておいたため、そこまで問題はない。ポケギアのマップを確認しながら歩けば、即座に特徴的なポケモンセンターの屋根が見つかる。自動ドアを抜けると奥のカウンターで回復装置を弄るジョーイ、そしてピンク色の髪の亜人種のラッキーが見える。軽く頭を下げる様に挨拶しつつ、目的のパソコンへとアクセスする為にもポケモンセンターの端へと移動する。

 

「道具預かりシステム、っと……」

 

 乗船する為に持ち込むことができなかった一部装備、サバイバルナイフや銃、それをボックスから引き出しつつ前の地方では空を飛ぶ様になって使わなくなったスクーターも引き出す。電子転送されるアイテムの類を装備、ショルダーバッグに収納しながら、取り出したスクーターをパソコンの前から一歩離れ、目の前に転送させる。ついでにジム戦が終わるまではキャリーバッグもここに預けて、終わったら回復ついでに回収しよう、そう決めてキャリーバッグを転送し、スクーターのハンドルを握り、もう一度ジョーイさんに頭を下げてからポケモンセンターを出る。

 

「こいつを持ち出すのも久しぶりだなあ」

 

 スクーターを引きずりながらそう呟く。真っ白なスクーターは空を飛ぶ事ができない時、或いは景色を楽しみながら移動する為に利用している乗り物だ。長距離となってくると流石にポケモンを使用するのだが、それでもこのスクーターも結構気合と思い入れのあるものだ。何せ、山道や雪原でも使える様にチューンされているのだ。

 

 謎の科学力、という奴だ。

 

 軽く乗ろうとして、バッテリーが空になっているのに気付く。ソーラーバッテリーなので、ポケモンを使わずともしばらく放置しておけば勝手に使える様になっているだろう。面倒だがジムの前まで引っ張ろう。そう判断して歩きながらスクーターを引っ張り、ジムへと向かう。アサギシティはジョウトの海側の玄関口だ。港町であるアサギシティはかなり広い街ではあるが、タウンマップで現在位置を確認しながら大通りを歩けば、ジムへと到着するのに時間はかからないし、迷う必要もない。

 

 

 

 

 スクーターをジム横の駐車スペースに置き、腰のベルトに装着してあるモンスターボールに軽く触れる。

 

 自分の恰好はジーンズにベルトとシャツにミリタリージャケットとゴーグルという格好になっている。この中で割と重要なのがミリタリージャケットだったりする。今の季節は夏の終わり、少しずつ涼しくなってきているが、それでもジャケットを着ているには少々暑すぎる季節。それでもこれを着ているのは、ミリタリージャケットが非常に機能性に溢れ、ボールを隠すのに適しているからだ。

 

 パソコンのボックスには送らない、送れないポケモンの入ったモンスタボールは基本此方に収納してある。と行っても、秘伝要員を七体目として連れまわしたりするのはそう珍しい話ではない。今回に限っては全く関係のない話だが、野戦を行う場合や、複数人の犯罪者と戦う場合等では、こういう風にモンスターボールを隠し持ち歩く事がちょくちょく大事になってくる。

 

 犯罪者が馬鹿正直にシングル戦ルールを守るわけがないのだから。

 

 最初から六匹出して一斉攻撃、野戦はホントこれで安定する。トレーナーじゃなければ。

 

「っと、いい加減頭を切り替えるか」

 

 スクーターを駐車し終え、アサギジムの自動ドアを抜けて中に入る。アサギジムは多くのジムが保有する”ギミック”を持たない。それは事前の調査で知っている―――というかこのネット時代で、ジムの仕掛けやジムリーダーの手持ちなんてものはトレーナー掲示板に行けば簡単に出てくる。メタを簡単に張る事の出来る時代だ。

 

 そんな露骨なメタ編成であろうと逆に蹂躙するのがジムリーダーという存在なのではあるが。

 

 ともあれ、アサギジムの中に入ると、ジムおなじみの彫像と、そしてトレーナーガイドが立っている。黒いスーツに黒いサングラス姿はかなり怪しいが、

 

「おーっす未来のチャンピオン! その様子を見るからにアサギジムに挑戦って感じだな? ん? 兄ちゃん、アドバイスなんかいるんじゃないかな?」

 

 こんな風に、かなり優しい。というのも、初心者トレーナーにタイプ相性の説明などを行う仕事がこの男にはあるのだ。やんわりと実力を測ったり、アドバイスしたり、緊張をほぐしたり、これからジムリーダーに挑戦するであろうトレーナーの味方という立場だ。

 

「アサギは”はがね”だったっけ」

 

「お、そうだ。ここ、アサギジムのジムリーダーミカンははがねタイプのジムリーダー! 基本的には硬く、そして打たれ強い! 何時も通りの感覚で戦おうとすれば粘り強く耐えられて反撃を喰らうぞぉ! はがねタイプに有効なのはかくとう、ほのお、あとはじめんタイプだ! 逆にはがねを気を付けなきゃいけないタイプが多い! ノーマル、くさ、こおり、ひこう、エスパー、いわ、ドラゴン、はがねタイプだ! 最近ではフェアリーなんてタイプが発見されているからそれも通らない事を注意しなきゃいけないが……ジョウトにフェアリータイプは存在しないから未来のチャンピオンには関係ないな!」

 

 そこでアドバイサーは軽く笑うと、

 

「毒タイプに関しては通じすらしないからそれを注意して、気張ってこぉーい!」

 

「うす、応援どうもですわ」

 

 軽く頭を下げて感謝しつつ、そのまま彫像の間を抜けてジムの奥へと進む。スライドドアを追い一つ抜けた先には広いバトルグラウンドが存在し、その奥にジムリーダーの姿が見える。白いワンピースに短いツインテール型の髪型が特徴的な少女は、此方を目撃すると奥のベンチから立ち上がり、軽くかけ足で近づいてくる。挑戦者という立場である自分もジムリーダーへと近づく。バトルグラウンド中央で合流し、相手が頭を下げてくる。

 

「ようこそ、アサギジムへ。あたしがアサギジムのミカンです。挑戦者のトレーナーでいいんですよね……?」

 

 首を傾げる動作が可愛いなぁ、この子、なんて事を思いながら答える。

 

「あ、はい、ジム戦希望です。アサギジムのルールは―――」

 

「基本的にはシングル戦、所持アイテムの重複禁止、戦闘中の道具使用禁止で統一しています。バッジ数と手持ちの平均レベルでルールは多少変動しているんですけど……えーと、聞いてもいいですか?」

 

「ジョウト地方でのバッジはないです」

 

「あ、なるほど、解りました」

 

 ジョウト地方での、という所でミカンが大体察してくれた。では、と彼女が言葉を置く。

 

「3vs3のシングル、アイテム重複禁止、道具使用禁止でレベルは50フラットで」

 

「ういっす、了解しました」

 

「では宜しくお願いします―――あ、すいませーん! 50フラットでやるので制限お願いしまーす!」

 

 下がり始める此方とは違う方向にミカンがそうやって声を投げる。それに反応するようにジムに組み込まれた”レベル制限”の機構が動き出す。勿論ジムリーダーであれば複数のポケモンを育てており、レベル帯別に保有しているのは基本だが、それとは別に自分の様にバッジは0なのにレベルは高い、という存在を相手する為にポケモン協会が生み出した機械だ。

 

 これのおかげで100レベルに到達していようと、50フラットで戦う事ができる。

 

 これでレベルが高すぎる挑戦者であろうと、ポケモンの強さだけではなくトレーナー本人の能力を見極める事が出来る。

 

 ほんと、色々と謎な科学力だ。そもそもどうやってポケモンのレベルを判定しているかというのも謎だ。

 

 腰に装着されているモンスターボールを取り、それを本来のサイズへと戻しながらポケギアを確認する。そこで確認できる自分の手持ちのレベルは全て50レベルに統一されている。ジムの制限機が働いている証だ。これでフェアな戦いが出来るな、なんて自分には到底似合わない言葉を零し、

 

 バトルグラウンドの端、トレーナーが指示を出すポジションまで移動する。頭に装着しているゴーグルを降ろし、装着する状態へと持って行く。反対側へと視線を向ければ、モンスターボールを握るミカンの姿が見える。ボールを握る彼女は此方へと軽く頭を下げる。

 

「アサギジム、ジムリーダーのミカンです。挑戦を認めます」

 

「トキワの森の、オニキス、スチールバッジを求めて勝負を挑みます」

 

 笑みを浮かべ、挑戦を宣言する。それに反応するように長方形のバトルフィールドへと向けて、ミカンがモンスターボールを投げる。投げられたモンスターボールは開き、そして赤い閃光と共にその中からポケモンの姿を出現させる。宙空で開いたモンスターボールはその中からポケモンを召喚すると、物理法則を無視してミカンの手の中に戻ってくる。

 

「クェァァァァァァ―――!!」

 

 アサギジムのバトルフィールドの中央、そこに出現するのは銀と赤色の翼を保有した、鋼鉄の鳥―――原生種エアームドの存在だった。平均的なサイズが1.7メートル前後であるのに対して、出現したのは2メートルを超える良く育てられた個体だった。一目見て、そのエアームドが他のエアームドとは違い、非常に体力に優れている個体だというのが解る。流石ジムリーダーの手持ち、といった所だろ。

 

「何時も通り進めるぞ黒尾!」

 

 モンスターボールを前方へと薙ぐように向け、素早くボールの開閉を行う。モンスターボールが開いた一瞬の内に赤いレーザーが射出され、グラウンドの上で人の姿を取る。黒い人影、黒いキュウコンである黒尾が出現する。

 

「色違いキュウコン……成程、ほのおタイプですか」

 

「だといいな」

 

 ミカンの言葉に対して、聞こえない様に答えながら―――ジムに変化が訪れる。

 

 窓から差し込んでいた陽の光が消えて行く。

 

 暗闇が天を覆い、時間帯が変動して行き、薄暗い、闇の時間帯へと突入する―――。

 

 そうやって、天候が、いや、時間帯が”夜空”へと変更された。薄暗い夜の帳がジムを包み、まるで黒尾の姿を包む様に黒い色が闇と馴染む。目を凝らさなければ探すのが難しいだろう中で、ミカンは軽く驚いたような声を響かせる。

 

「特異個体ですか! ですが、やる事は変わりません、エアームド!」

 

「回していくぞ黒尾!」

 

 指示を出すのは同時。エアームドが翼を広げ、浮かび上がるのと同時に黒尾が横へと跳躍しながら右手に光を発生させ、それをエアームドへと向けて放つ。それをエアームドは飛翔しながら回避するが、その眼から正気の色が消えるのが見える。その代わりに、フィールド全体に尖った岩が撒かれる。相手の初手はステルスロック―――おそらくは此方のタスキ潰しが目的なのだろう。

 

 まぁ、確かに初手にステルスロックは割と安定する部分がある。出来たらどくどくでも叩き込みたい所だが……残念ながら黒尾にははがね属性のタイプ耐性を貫通する手段がない。故にあやしいひかりでの妥協となるわけだが、

 

「黒尾、おにび!」

 

「振り払ってエアームド、つばめがえし!」

 

 エアームドがミカンの声で正気を取り戻しながら翼を光らせ、凄まじい速度で黒尾へと向かう。必中技であるつばめがえしを避ける速度が黒尾にはない。エアームドに轢かれる様な形で吹き飛ばされながら、黒尾が鬼火をエアームドへと当てる。空中で体勢を整え直し、落下する黒尾を追撃する様にエアームドが旋回する。その動きに合わせて腰からモンスターボールをスナップして取り出し、ボールを交差させる様に取り回す。

 

「戻れ! 行け、月光!」

 

 黒尾を戻し、そしてその同じ位置に新たなポケモンを素早く出す。ポケモンの交代は公式戦に置いては同じ位置へと出すのが原則となっており、交代で攻撃を避けるのは禁止されている。故に素早い交代で出現した姿、水色と白の忍び衣装にピンクマフラー姿の女は、エアームドの二撃目を喰らいそうになり、

 

「かわせ月光ォ!」

 

 瞬間移動するかのように急降下し、エアームドの攻撃を回避する。そうやって場にゲッコウガ亜人種の姿が出現し、着地するのと同時にえんまくが使用される。バトルグラウンドをえんまくが覆い、月光とエアームドの姿が紛れる。ここでほぼ確実にミカンはエアームドを出したまま、つばめがえしを使用して来るだろう。まだバッジは0、この状態では特殊や物理受けへの交代等の交代戦術を使ってこないだろう。それを見越しておにびで火傷を与えたのだ。

 

 つばめがえし程度であれば何発か耐えられる。

 

「のうむ!」

 

 えんまくによって白い煙が充満していたジムが、その空気中に湿気を含み始める。それはやがて別質の白へと変化し、水分と合わさる事によって重みのある霧へ、濃霧へと変化する。明るければまだ見る事が出来たかもしれない。だが今現在時間帯は夜、

 

 黒尾が用意した”よぞら”、そして月光の用意した”のうむ”。

 

 照明がついても、フィールドを見通す事の出来ない宵闇が生み出された。

 

 こんな状況になれば、トレーナーからはポケモンの姿を追う事ができないし、ポケモンもほとんど相手を捉える事ができない。たとえ必中技だと言われるつばめがえしであろうとも、この環境の中では全く関係がなくなってくる。

 

 本当は濃霧まで出す必要はないのだが、あまり戦術を見える形で残したくはない。

 

「良くやった! 仕上げだ行け、災花!」

 

 闇によって黒く染まった濃霧の中へとモンスターボールを向け、そしてまた別のモンスターボールを闇の中へと向ける。もはや肉眼でこの濃霧の中を確認する事は出来ないが、手元に帰って来たゲッコウガの代わりに、別のポケモンがフィールドに出ているだろう。ステルスロックの影響でノーダメージとはいかなかったが、

 

 ジムリーダーであってもこの特異戦術には対応できない。

 

 いや、正確に言えば”きりばらい”が存在せず、おにびを受けている上に特殊な攻撃を苦手とするエアームドでは打開する能力がない。そしてエアームドがミカンの手持ちにおける唯一の飛行タイプのポケモン。

 

 ここからは完封―――詰みだ。

 

「何時も通り着実に仕留めろ」

 

 言葉は返ってこない。ミカンの指示の声も聞こえる。羽ばたきと砕く様な音が濃霧の中から聞こえ―――そして銀色の姿が濃霧から叩き出される様にグラウンドに転がる。

 

「お疲れ様エアームド! アイアンテールで薙ぎ払ってハガネール!」

 

「お前の領域だ、狩れ」

 

 出現したハガネールがその巨体を伸ばし、濃霧からはみ出る様に体を伸ばしながらアイアンテールを放つ。かなりの巨体だが―――ハガネールの体は鈍重だ。その間につるぎのまいを積み終わっているだろう。故に濃霧の中で誰にも見えない様に動き、暗殺者、或いは狩人の様に一方的に、

 

 つじぎりが放たれる。

 

「あくタイプとはがねタイプは等倍だからやりやすいな」

 

 ハガネールが暴れる様にアイアンテール、ストーンエッジと放つ。しかしそれは何かに衝突する様な音を見せずに、そのまま空を切る様な音しか生み出さない。トレーナーがポケモンに対して当てろ、とその技量で補正しようとしても、

 

 トレーナーからポケモンの戦闘状態を確認できないこの状況、トレーナー側がポケモンにどう攻撃するかを指示する事は出来ない。

 

 予めこの状況で戦えるように訓練、或いは想定していない限り。

 

「良し、これで2タテだな」

 

 ハガネールが鈍い音を立てながらグラウンドに沈むのが聞こえる。その姿は倒れるのと同時に濃霧の中へと納まるが、それでも動きを止め、グラウンドに沈むその音がハガネールの瀕死状態を証明している。そのままポケモンを入れ替える事無く、ミカンがハガネールを戻して交代する姿を眺める。

 

「うぅ、固有戦術が解禁されていれば対処のしようもあるんですけど……」

 

「ジムリーダーの本気とか死ねるんでマジ勘弁してください。つか固有戦術で初見なのに突破できるとか言われた此方の身になって!」

 

 ―――固有戦術、それはトレーナーがポケモンと共に磨き上げる自分だけの戦い方。

 

 たとえば、ある人は対トレーナーを想定した結果、モンスターボールの開閉スイッチを破壊する事を覚えた。

 

 あるトレーナーは予めピカチュウを充電して場に出す事を考えた。

 

 あるトレーナーはポケモンを癒す事を覚えた。

 

 自分だけの戦術、戦闘方法、トレーナーがポケモンと力を合わせる事で生み出す固有の戦術、故に固有戦術。既存の発見されている技、それらを発展させたり組み合わせたりで生み出す事もあれば、全く新しい技を生み出すというケースもある。黒尾を主軸とした”夜闇パ”は黒尾自身が悪のデルタ因子を保有しているという事から生み出された突然変異、或いは特異個体だ。

 

 デルタ因子によってゆがめられたひでりロコン、それが彼女の、そしてこの戦術の始まり。

 

 夜という環境での奇襲、暗殺に特化したパーティーはこの環境が構築できている間は、ほぼ無敵に近い。故にこうやって思考を巡らせている間にもはがねタイプポケモン特有の重く、そしてずっしりとした金属の音がグラウンドに倒れるのが聞こえる。

 

 それと同時にバトルグラウンドを覆っていた濃霧が消えて行く。

 

 グラウンドの中央では倒れている水色の髪に、同じ水色と赤のフリルのドレスを着ているポケモン、自分の知識が正しければ、亜人種メタグロスの姿だ。その横で佇むのは白い影―――自分のポケモンだ。白いハーフスリーブジャケットに白いフレアスカート、薄い褐色に白髪を持つ姿をしている。だが一番特徴的なのは頭の横から生え、上へと弧を描きながら伸びる黒い角の存在だろう。彼女は、アブソルの亜人種は跳躍で倒れたメタグロスから離れ、此方へとやってくる。

 

「お疲れ様」

 

「マスターの為に尽くせればそれで本望よ」

 

 災花の言葉を聞きながらゴーグルを外し、ミカンの方へと視線を向ける。既にメタグロスはボールの中へとしまわれている。まぁ、まだバッジ0の状態であればレベル50フラットでもこの程度だろう、と思う。

 

 本当に問題なのはバッジ5個、或いは6個目からだ。

 

 バッジが5個、6個になるとジムリーダー側も本気になり始める。戦術や使うポケモンもガチに、相棒と呼べる、一番信頼している者まで投入して来る。そうなるとジムリーダーが個人で磨いている固有戦術とかも解禁されてくる。

 

 ―――どっかの赤帽子の先行充電は本当に勘弁してほしいのだが。

 

 ボスもボスでどうして乱戦中、濃霧の中で確実に狙えるのだろうか。トレーナーがこころのめを習得しているとしか思えないんだが。

 

 ともあれ、これでジョウト地方、初のジム戦は快勝だ。月光と黒尾のボールを確認すれば、エアームドとステルスロックからそこそこダメージを受けているが、半分以下に突入してはいない。まぁまぁ、といった感じだろう。流石にバッジ0のジム戦でポケモンが落ちる様な事があれば、鍛え直す必要があったかもしれない。

 

 まぁ、だっしゅつボタンを利用しない辺りこっちもこっちで大分手を抜いてるからそれでイーブンという事で。割と回転率が上がるのだ、とんぼ潰しも大事だし。

 

 ともあれ、3タテ成功した災花を褒める為にも頭を軽く撫でていると、向こう側からミカンが歩いてくるのが見える。災花の頭から手を離し、モンスターボールの中へと戻す。

 

「ジム戦お疲れ様でした。その実力を認めてアサギジムのジムバッジ、スチールバッジを進呈します。此方が賞金と、わざマシン23”アイアンテール”です。今回は手出しができなかったですけど、岩タイプ等を潰す為のサブウェポンに使えますから。あ、あと噂のフェアリータイプにも良く効くらしいので、フェアリータイプのいる地方へ行くなら是非是非使ってみてください」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 スチールバッジをジャケットの胸の部分につけ、賞金を財布の中へ、そしてわざマシンをショルダーバッグから取り出したわざマシンの保管ケースに収納する。ディスクの形を取ってあるわざマシンはCDの収納ケースに入れておく事ができるが、普通のCDよりも遥かに繊細であるため、専用のケースを使用する事が好まれている。だからしっかりとケースに収めたところでショルダーバッグにしまう。

 

「オニキスさん、でしたっけ。見た事のない戦術でしたけど、何処から来たんですか?」

 

 ミカンの質問に答えていいものか一瞬迷うが、

 

「ここに来る前にはちょっとホウエンの方へ。その前にはイッシュやカロス地方をボス……あぁ、えーと、師匠と回ってました。戦術磨くために新しい地方に到着しては手持ちのレベルをリセットする事を繰り返したりで……今回はちょっと本気でポケモンリーグに出たいからリセットなしで行くつもりですけど」

 

「イッシュやカロスとは凄いですね! 彼方の方はこっちとは全然違うポケモンや環境だって聞いてます」

 

「実際、かなり違いますからね。カントーやジョウトと同じノリでやろうとすると十中八九失敗します。ダブルバトルとか、色々新しいルールが向こうの方では広がっていましたし」

 

「ダブルバトルですか、ルール無用の野戦ならそれなりに理解がありますが、ダブルバトルはまだジョウトでは珍しい概念ですね……。挑戦、お疲れ様でした。もしジムバッジを集め終わったらまたアサギジムへどうぞ、その時は本気で相手をさせていただきます」

 

「あははは……まぁ、修行になりますから考えさせていただきます」

 

 どうやらこのジムリーダー、可愛い見た目に反して闘争心はそれなりにあるらしい。リベンジに燃えているのが解る。次に会う時にまで、おそらく夜空濃霧の対策はされているだろう。結局は他の地方から”きりばらい”を持ってくれば良いのだから。それかエアームド辺りにふきとばしの応用でも仕込めばよい。

 

 まぁ、ジムリーダーならそれぐらい出来るだろう。

 

 軽くミカンへと頭を下げ、何時か再戦する事を約束しながらジムを出る。アドバイサーの男がサムズアップを向けてくるので、それにサムズアップを返しながら横の駐車場へと向かう。そこからスクーターに乗り、ポケモンセンターへと移動する。

 

 ここからやる事はホント、何時も通りの事だ。

 

 駐車場にスクーター停めて、ポケモンの回復を頼み、キャリーバッグをパソコンから取り出し、そして部屋を借りる。ポケモンセンターにはトレーナー向けの宿泊施設がある。他のトレーナーと数人で利用できる部屋なのだが、此方は無料で使用できる。

 

 そういう事もあり、二段ベッドが二つ設置されている共同部屋に荷物を引きずりながら入る。確認した所、本日は自分が一番乗りらしい。適当な二段ベッドの一階部分に腰を掛けて座り、キャリーバッグをベッドの下に入れる。ショルダーバッグも外してベッドの上に投げ捨て、

 

 そのままベッドに倒れ込む。

 

「ふぅー……お疲れ皆、やっとジョウトに戻って来た、って感じだな」

 

 ジャケットを脱ぐこともなく、そのままベルトのボールへと語り掛ける。ボールの通信機能を通して、直接言葉が此方へとテレパシーの様に聞こえてくる。

 

『あの方と共にカントーを出て既に二年か三年は経過していますからね、カントーがすぐそこまで見えている事にはむず痒さを感じます』

 

『ま、うちらがいる今、カントーの時の様な敗北はしねぇーとおもうぜ』

 

『時間をかけて強くなるのは別に自分達だけじゃないのよね』

 

『悲観的になる必要はないで御座る。今、必殺の固有戦術が炸裂してきっと拙者らの圧勝でござるよ……!』

 

『何故フラグを立てるのかこの駄忍蛙は』

 

 わいわいがやがや、とモンスターボールが騒がしくなってくる。パーティーメンバーが仲良くやっているのは良い事だ、ポケモンセンターだと全員を出す事が出来ないのが難点だが、

 

 さて、

 

 カントーから始まって、遠回りする様にジョウトへとやって来たのだ。

 

 サクサクっとバッジを全部確保し、ポケモンリーグで勝ち抜いて、

 

 そして手に入れてしまおう―――シロガネ山の入山許可を。

 

 そしてリベンジするのだ、あの最強の赤帽子に。




 萌えもん=亜人種
 ポケモン=原生種

 つまりはそういう事。他にもポケスペだったり、デルタ種だったり、五世代六世代技が時折出現していますが、全部趣味です。えぇ、趣味なのです。

 普通にポケモン書くより美少女使役する方が興奮するじゃない。普通のポケモンも出るけど。

 という事で目指せ、萌えもんマスター。固有戦術やおかしな技術が溢れてるけどきっとポケモンなのです。

 たぶん二次創作か三次創作(震え声

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