目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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タンバシティ

 エンジュシティを出たところで、唯一神をボールから出そうとすると、ギラ子に腕を引っ張られ、止められる。軽く非難する様な視線をギラ子へと向けるが、それに気にする事なくギラ子は言葉を此方へと投げてくる。

 

「ねぇねぇ、そのエンテイを鍛えるつもりなんだよね。伝説種も普通に育てられるの?」

 

 ギラ子の言葉にそうだなぁ、と言葉を置く。

 

「まぁ、ロケット団活動期に伝説の三鳥をちょこっと育てもしたよ。基本的なスペックが高すぎてちょっと難しいけど、コツを掴めば簡単だよ。普通のポケモンよりも強烈だからその分ちょっとハードにすりゃあいいし。レベリングは緑色のに負けるけど、技の調整や資質の開花とかに関しては負けない自信はある」

 

「へー。じゃあ私の事も鍛えられるんだ」

 

 そう言ったギラ子へと視線を向ける。まぁ、育成プランがないと言えばウソになる。実際、伝説種という存在を育てること自体には興味がある。アナザーフォルムで耐久型に、オリジンフォルムで攻撃型に。これを自由に切り替えながら戦闘中、敵に対応する事ができれば恐ろしく強いポケモンを生み出す事が出来るだろう。そういう育成を施すのが自分の特技だ。

 

「レベルリセットして、つきっきりで面倒見れば、まぁ、今よりも強くなるんじゃないか。公式戦では絶対に使う事ができないけど。それでも、まぁ、一応構想はあるぞ。……だけどお前、レベルリセットは絶対に受け入れないだろ?」

 

「うん。こうやって好き勝手やっているのが一番楽しいしね。これ以上強くなってもしょうがないからね!」

 

 まぁ、それも事実だろう。伝説種を育ててみたいという気持ちはあるが、今よりも強くしたところで制御不能な独裁者に核ミサイルを与えているようなものだ。これが暴れ出したら本当にどうしようもない事になる。まぁ、対伝説のカウンターだ、と心の中で言い訳しておく。今はもっと重要な事があるんだから、そちらを優先させてもらおう。

 

「さて、ここら辺でいっか」

 

 足を止める。背後へと視線を向ければ、三キロ程離れた所にエンジュシティの姿が見える。これだけ離れていれば、必要以上に唯一神の姿が見られる事もないだろう、そう判断してボールから唯一神を出現させる。亜人種としての姿で出現した唯一神は、出現と同時に困ったような、恐れるような表情を浮かべる。恐る恐る、といった様子で唯一神が口を開く。

 

「―――本当に、泳がなきゃいけないのか?」

 

「三秒以内に原生種の姿になって背中に乗せてくれなかったら、ホウエンダイビングツアーに参加させる」

 

 一瞬で原生種の姿へと変態し、乗りやすいように体を下げた唯一神の姿がそこにはあった。そこまで泳ぐのが嫌か。これは念入りに水対策、或いは水への耐性を持たせる必要があるなぁ、と思う。やっぱり、トレーナーとしてポケモンをどうやって育てるかを考えるのは実に楽しい。現状は手持ちの六体を育てる事が一番の楽しみだが。こいつらが赤帽子に勝利できる、その領域へとどうにか持って行くのだ。

 

 唯一神の背の上に乗り、その毛を掴む様に体を固定すると、そのまま唯一神の横っ腹を軽く足で押す。それを合図に、唯一神が一瞬で跳躍と移動を開始する。一歩で一キロ程の距離を進み、二歩目で三キロ進み、跳躍する様に走りながらジョウトの大地を風となって駆け抜けて行く。

 

 その素早さ、快適さ、それは凄まじいもので、音速を突っ切っている様に見えるのに、体に一切の負荷がやってこない。走る事で発生するありとあらゆる衝撃、負荷、それが魔法の様に唯一神によって消去されている。明らかにポケモンを使って飛行するよりも快適で、そして早い移動手段だ。あっという間にモーモー牧場へと到着し、そこからアサギシティへと到着し、

 

 そのまま海へと出る。

 

 アサギシティの先にある40番水道、そこには多くの小島が点在している。それを足場に大跳躍しながら移動し、時折水の上を沈むことなく走って切り抜けて行く。移動という部分に凄まじいポテンシャルを発揮しながら、そのままうずまきじまの上へと着地し、そっから跳躍で41番水道へと入り、

 

 そして数日はかかるであろうエンジュからタンバシティへの移動をあっさりと完了させる。

 

 タンバシティの浜辺に着地するとそこで唯一神の足を止め、その背中から降りる。

 

「お疲れ様、お前本当に凄いわ。ゲットして良かったよ」

 

 そう言って唯一神の頭を軽く撫で、今度絶対にブラッシングしてあげよう。そう誓いながらモンスターボールの中へと戻す。そして別のモンスターボールを手に取り、その中のポケモンを海の方へと向かって出す。一瞬で浜辺の向こう側の41番水道に、巨大なポケモン―――20mを超える鯨が、ホエルオー原生種の姿が出現する。ホエルオー、ニックネームは”モビー・ディック”の彼は海の上で盛大に潮を吹き、

 

「――――――」

 

「モビー、しばらく海で遊んでていいぞー。後で迎えに来るからー!」

 

「――――――!」

 

 楽しそうに咆哮を響かせながら41番水道へと沈んで行く。モビー・ディックが完全に潜ったのを見届け、うし、と息を吐いて振り返った瞬間、

 

 目の前にギラ子の顔があった。

 

「うぉぉぁわ!? ビビった! 何やってんだよ!!」

 

「ドッキリ!」

 

「こいつぅ!」

 

 まぁ、時空間を操るギラティナなのだから先回りしているよなぁ、なんて事を思いつつタンバシティの浜辺から、タンバシティへと向かう。

 

 栄えているアサギシティとは違い、タンバシティはジョウトの最果て、端っこもいいところ、田舎という言葉が正しい。タンバシティは目立った産業が存在しない為、割とのどかな場所になっている。それでも最近はタンバシティの近くにサファリゾーンができたからマシになっているとも言えるのだが。それでもやはり、アサギシティと比べると田舎という言葉が似合うのがここ、タンバシティだ。

 

「ねぇねぇ、オニキスちゃん。ここは何か美味しいものあるの?」

 

「あー……タンバは確か漢方薬で有名だったな。あとは魚介類が美味しいって話だけどアサギの方が色々とバリエ多いし、食べるならアサギの方がいいかもしれないか……? いや、まぁ、今日はエンジュに続いてタンバジム攻略予定だから終わったらエンジュに帰るぞ」

 

「えー。つまんなーい」

 

 面白いとかつまらないとか、そういう問題じゃないと思うんだが。ともあれ、既にエンジュジムの回復装置で手持ちの体力は回復してあるため、ポケモンセンターに寄る事無くタンバジムへと向かう事ができる。帰りまではホエルオーを41番水道で遊ばせておく事を決めつつ、ギラ子を置いて行く様に足をタンバシティへと向けて歩き出す。待ってよ、とか言いながら走り寄ってくる姿を無視して、タンバシティへと視線を向ける。

 

 タンバシティはアサギシティの様に整備された道路がなく、昔ながらの土の道路などの多い、田舎の漁村という言葉がぴったりの姿だ。ビルなんて一つもなく、桟橋に複数の漁船が見える。釣り人の姿もそこそこ見えるあたり、釣りも結構人気なのかもしれない。まぁ、自分はそこまで釣りに興味はないので別にいいのだが、ちょっとだけ手を出すのは悪くはないかもしれない。あくまでも経験としての話だが。

 

 タンバシティの人口、少なそうだなぁ、と思いつつ視線を巡らせれば、タンバジムを簡単に見つける事ができた。早速ジム戦に挑戦しようか。そう思ってタンバジムへと進み、中に入る。しかし中に入ったところで、奥の扉が閉まっている。アレ、と思ってジムのロビーに視線を巡らせるが、そこにはアドバイザーの姿もない。あのおーっす、未来のチャンピオン! という声を聞けないのは地味に寂しいのだが。

 

 奥へと進もうとするが、やはり鍵がかかっている。

 

 どうやらジムは今、開いていないらしい。

 

「なんだよ、今日一日でジム二連抜きを計画してたのに」

 

『また別の時間に開いているかどうかを聞ければよいのでしょうが、どうやら人の気配そのものがない様子。関係者全員が出払っている様ですね』

 

 黒尾の言葉に、更にがっくりとしながら、溜息を吐いてジムから出る。割とやる気だっただけに落胆が酷い。テンションとコンディションが良い内にジム戦はするべきだと思っていたが、帰ってくるまで適当に時間を潰すか、或いは別の日にするべきか、悩みどころだ。

 

「ちなみに、タンバジムってどーゆーのか解ってるの?」

 

 ギラ子の問いに、おう、と答える。タンバジムはまさしく此方のパーティーの”弱点”とも、或いは”天敵”とも言えるジムなのだ。

 

「タンバジムはな、かくとうタイプに”こころのめ”という組み合わせなんだ」

 

「……ぜったいれいどかつのドリル?」

 

 その組み合わせは絶対に許されない。いや、環境的にまもるやみきりが出てきたおかげで受け流す事もできるのだが、それでも割と許されない組み合わせだ。いや、そういう事ではないのだ。

 

「タンバジムのジムリーダー、シジマ? だったっけ? は自分の肉体とポケモンを一緒に鍛え上げる、四天王のシバやキョウとかと同じタイプのトレーナーなんだよ。一緒に鍛える事で疑似的にポケモンの能力をその身に宿すというか、覚えるというか……まぁ、つまりは片足人間やめている様な連中の一人なんだな、これが」

 

「なるほど。すりすり。んで?」

 

「そこですりすりする必要はあったのかなぁ……いや、まぁ、このジムリーダーのシジマさんだけど、ポケモンじゃなくてジムリーダー自身が”こころのめ”でロックオンした状態に持って行けるからな、ばくれつパンチとかの高威力で命中率に難のある技をノータイムで放ってくる事が出来るんだ。その他にも、きあいパンチをチャージなしで放って来たり、物理系列の技の優先度を高めて、先制攻撃化させる事をポケモンに教えているらしい。つまり先制きあいパンチが飛んでくる」

 

「あぁ、成程。オニキスちゃん得意の夜空濃霧が通じない相手なんだ」

 

 そう、それなのだ。シジマがオートこころのめとかいう壊れ技能持ちなので、そのせいで夜を展開して、濃霧を発生させても確実に攻撃を通してくるのだ。しかも物理系統の技に関しては凄まじく修練されているから、単純に強い。優先度を上げて確実に殴りに来る。それがシジマのスタイルだ。正面から殴り、殴られ、相手よりも先に強く、そして確実に攻撃を叩き込めば勝てる。本当にシンプルな話なのだが、あくタイプが多い此方のパーティー構成からすると、悪夢のような話だ。

 

 簡単に説明するとガンメタされてる。

 

「この場合一番有効なのはマツバみたいな搦め手で戦う事なんだけどな。ウチのそれ担当、ナイト(ブラッキー)だから環境構築が終わる前に先制ノーチャきあパンで開幕フィニッシュ取られる可能性が高い。災花と黒尾だと紙装甲おそらくきあパン二発も喰らったら確実に沈む。月光も基本的に回避型だからこころのめで完全にメタられてるんだよなぁ……」

 

「オニキスちゃんの涙目にちょっとそそられる」

 

 丁寧に説明してるんだから少し黙ってろ。

 

「……と言うわけでタンバジムは厄介なんだ。優先度だけは相当工夫か、技術的に尖らせないとキャンセルして速度勝負に持ち込めないからな。基本的には蛮ちゃんとサザラをメインにするっていうか、この二人以外では全く戦えない相手だと思っているわ。だからバッジ戦でなるべく早く戦いたい相手なんだわ」

 

「なるほどねー」

 

 納得したようにほむほむ、と言いながらギラ子は頷き、

 

「まぁ、オニキスちゃんがそんな雑魚に負けるとは思わないけどね。それよりもどうするのー? 暇だったらどっか食べに行きたーい!」

 

「こいつはまた……!」

 

 人が真剣に悩んでいるのに、その一言で済ませられると色々と寂しい。いや、それが彼女流の信頼であるという事は解っている。自分を捕まえたのだから、そこらへんの有象無象に負ける筈がないと、おそらくはそう思っているのだと思う。この伝説種、変な所で傲慢で、変な所で信頼していて、それで本質が一切変わってないのだからめんどくさい。

 

 早くボックスの中に帰って欲しい。

 

「ふぅ、何時頃戻ってきそうかポケセンで聞こうかなぁ―――」

 

 そんな事を考え、歩き出そうとした瞬間、視界の端に黒い服装の姿が過る。

 

「ッ!?」

 

 振り返りながら視線をタンバシティから47番道路へと続く方へと向ければ、そちらへと向かって黒尽くめの姿が走って行くのが見える。その服装は、自分が良く知っている組織のものだ。ジョウトでは全く見る事のない、本来は存在しないその服装は、

 

 ロケット団下っ端の服装だ。

 

 それを見て、溜息を吐き、

 

「……運が良いのやら、悪いのやら……」

 

 小さく呟きながらその姿を追い始める。




 というわけで悪夢のノーチャ先制必中きあパンのタンバジム。悪パとしては絶対に相手をしたくない地獄でもある。

 全てはジムリが自重するか否かで決まる……!

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