目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ノーマルな戦い

「キッスエアスラァ!」

 

「割り込め、みがわりッ!」

 

 言葉の通りトゲキッスが空気の塊の斬撃、エアスラッシュを放つ直前に、割り込む様に黒尾がみがわりを生み出し、トゲキッスの攻撃を受ける。黒尾の生み出した幻影はエアスラッシュを受けて歪み―――そして耐える。黒尾の耐久力を多めに消費し、生み出されたみがわりは本来のそれよりも多少強度が高く出来ている。月光の自爆するみがわりと比べれば多少地味かもしれないが、

 

「特殊指示に一手稼がれてもうたか―――」

 

 そう、一手稼げることができた。そこからやる事はもう既に解っている。相手のトゲキッスと此方の黒尾、レベルはフィールドによってあわせられているが、場数と練度が違う。此方が命令をしなくても次の行動へと勝手に移行してくれる。故にみがわりが作成完了した時点で、既に黒尾は夜の闇にきつねびを放ち、火傷を相手に押し付ける準備を完了させていた。

 

「相当戦い慣れてんな、兄ちゃん!」

 

「まぁな、目にも声にも頼れないからな―――ほえろ」

 

「くぉ―――ん―――」

 

「げぇ」

 

 黒尾の咆哮が響き、トゲキッスが強制的にボールの中へと戻される。苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だけ浮かべるが、次の瞬間には二個目のボールを取り、

 

「出勤の時間やでケッキング!」

 

 アカネのボールから放たれたポケモンはホウエン地方で見る事の出来るポケモン―――ケッキングだ。本来であれば特性がなまける、行動不能になる特性の筈であり、それが表情に表れる筈なのだが、そんな事はなく、やる気にみなぎった表情をケッキングは見せている。これ、おそらくはブリーダーによってなまけるを排除されたケッキング、

 

 シュッキングとかいうアレだ。

 

 種族値グラードン級なのになまけるなしとか許されない。早急なデバッグを心の底から要求する。

 

「ジムリとしてその手持ちは許されない!!」

 

「エキシビジョン用なんやから当たり前やろ! バッジを渡す気なんて全然あらへんしな! アームハンマーや!」

 

 場に出た事で火傷を受けているケッキングがアームハンマーをみがわりへと叩き込み、砕く。瞬間、黒尾が横へとステップを取りながら手を回し、夜の闇を掻き混ぜる様に動きを取る。

 

 シャドーエッジ展開完了、っと。

 

 良く目を凝らせば闇の中に影で出来た刃が浮かんだり、足元から突き出ているのが見える。ステルスロックと同系統の場に出た時ダメージを発生させるギミックだ。相手がノーマルタイプである事を考慮し、悪タイプ技として調整されている。

 

「そこや、もう一度アームハンマー!」

 

「防御しろ! 今のお前なら―――!」

 

 ケッキングの正面からぶつかりに来るアームハンマーに対し、尻尾を前に持って、腕を交差させる事で黒尾が防御し、技にはない、技術としての、動きとしての防御を取る。まもるやみきりを使うのよりも遥かに効率は悪いが、シジマの所でちゃんと訓練を受けてきた結果、そしてやけどを付与した結果、

 

 瀕死寸前に行くこともなく耐える。

 

 黒尾の胸の谷間から赤いカードが抜け、そして落ちる。

 

「残業お疲れ様です」

 

「しゅ、シュッキン―――グ!」

 

 レッドカードの効果でケッキングが強制的にボールの中へと押し戻され、そして場にトゲキッスが出現して来る。そして出現するのと同時に、場に存在するきつねびとシャドーエッジがその体を傷つけ、動きを制限する。出てきた瞬間、トゲキッスがその痛みと体を抑え込む影の刃に怯み、軽い悲鳴が口から漏れる。その姿にいい気分になりつつ、

 

「はい、ほえる」

 

「くぉ―――ん―――!」

 

 トゲキッスが強制的にボールの中へと押し戻される。その様子をケッキングのボールを取り出しながらアカネは叫ぶ。

 

「ハメやん!」

 

「初回限定のなァ! 警戒してなきゃ絶対にハマる罠だよォ! どこからどう見てもめぐみキッスなのに誰がまともに正面から戦うって思ってんだ! オラぁ! 自己再生したらみがわり叩き込んで更にシャドーエッジバラまいて吠えるぞー」

 

「手段を選んでないでこいつ……!」

 

 そりゃぁ、勿論、シャドーダイブがメインウェポンなのに、それが通じない状況でどうやって戦えと言うのか。再びケッキングが場に出る。アカネが此方の自己再生の隙を突いて攻撃してこようとするが、アカネがケッキングを前に出し、近づいてくるのを逆に利用して黒尾がだいもんじを放つ。大の文字の形に放たれた炎は接近し、アームハンマーを放とうとしたケッキングの体を捉え、フィールドの反対側、シャドーエッジの中へと叩き込む。

 

「いやぁ、一言も言った通り行動するとは言っていないし」

 

「浅はかですねぇ」

 

「マジムカつくけどそれとは別にペース握られっぱなしやなこれ!」

 

 そういう戦術ですもの。

 

 加えて言うならアカネは若い。今までボスや格上ばかりとバトルを繰り広げ、そして繰り返してきた身としてはアカネはまだ、かなりやりやすい部類だとこうやって戦い、実感する。ボスが持っている、経験から来る攻撃の察知とかがまだアカネには的確には行えない。才能はあるし、ジムリーダーとしては十分だろうが、この程度であったら、バッジ8個目の試合でアカネを選んだとしても、正面から倒す自信がある。

 

 そう考えている内に火炎放射がケッキングを捉え、そして吹き飛ばし、瀕死に追い込んだ。自動的にシャドーエッジの数を増やしながら、バックステップで黒尾が距離を取る。アカネがトゲキッスを繰り出し、その姿がきつねびに焼かれ、そしてシャドーエッジに囚われる。傷つきながらもシャドーエッジの檻から出てきたトゲキッスを、

 

「ねっぷう」

 

「ド畜生がぁ―――!!」

 

「はい、ワンモアですよ」

 

 ねっぷうが放たれ、飛び出てきたトゲキッスを再び刃の地獄の中へと叩き込む。ねっぷう、火傷、シャドーエッジの積み重ねられたダメージがついにトゲキッスにさえも通じ、落とす。瀕死になって目を回すトゲキッスを確認したら、黒尾に夜空と設置技の解除をさせる。ふぅ、と軽く息を吐きながらゴーグルを頭の上へと戻し、集中状態を解除する。これでとりあえず手札その一を披露する事ができた。これでこの方向性で警戒してくれる人間が出るだろう。

 

 シャドーダイブは温存しておくとして、次はにほんばれを夜空に混ぜて、天候を融合させて勝負しよう。きっといい感じにハマってくれる筈だ。心の中はトゲキッスという畜生と、そして出勤を強制されるケッキングを一方的に滅ぼした事からか、物凄く晴れていた。もはやトゲキッスのトラウマは完全に乗り越えたのだ。敵ではないのだ。ジムリーダーの手持ちとは言え、一軍じゃなければこんなものなのだ。

 

 それはそれとして、二体の害悪っぷりは出禁にしてほしい。

 

「容赦あらへんなぁ、兄ちゃん。まぁ、約束は約束や。受け取りぃや」

 

 そう言って此方側まで近づいて来たアカネがジムバッジを渡してくる。夜の展開がなくなり、もう一度日差しを取り戻した事で、バッジの姿が良く見える。ジョウト地方で取得してきた他のバッジと合わせ、ミリタリージャケットの胸に飾る事にする。横まで戻って来た黒尾にかいふくのくすりを使用しつつ、アカネへと視線を向ける。

 

「受け取っちゃっていいのか?」

 

「レベルの高い戦術にレベルの高いポケモン、信頼関係があるし、色々判断させてもろうた結果、渡してもまったく問題ないわ。寧ろフルメンバーでジムに来た場合の方が恐ろしゅうてたまらんわ。このジムバッジを上げるから何もさせずにいたぶりながら倒すのはもうやめてーや」

 

「手持ち一体だとどうしても戦い方が限定されるんだよなぁ」

 

「全抜きをするには少々火力が足りない体ですからね。そこは愛と技術でカバーしていますが」

 

 なぁ、と黒尾と顔を合わせて頷く。夜の状態ならシャドーダイブで瀕死に追い込むだけの火力が出せるが、タイプ的な問題でノーマル相手には使えない手段だ。まぁ、それを移動手段に利用すれば、奇襲ゼロ距離だいもんじとかが解禁になるわけだが、これは一度でも人目のあるところでやればメタられる。流石にちょっとメタられるには早いかなぁ、と思う部分はあるのだ。というわけで、使うにしても決勝戦クラスで使いたいと思う。とりあえず、

 

「お疲れ様。ナイスファイト。たぶんエアスラ決まってたら負けてた」

 

「あ、やっぱりそう思う? ウチのキッス確定で怯ませられるように訓練してあるから」

 

 害悪というレベルを超えていた。初手でみがわり出して、徹底的に攻撃を喰らわない戦術を取って正しかった……!

 

「ま、残念な結果で終わってしまったやけど、反省できる部分もあったわな。ジム戦とは関係なく6vs6をやりたい時は……まぁ、えげつない戦術を取らない限りは歓迎するで。えげつのない戦術さえ取らなかったら。とりあえずメタ組む事から考えるわ」

 

「ヤメロォ!」

 

 そこで少しだけアカネと談笑し、分かれてフィールドを眺められる場所へと移動する。やはりジムリーダーであるアカネに勝利したせいか、周りからは視線が向けられている。とりあえず無駄な接触が来ない様に軽く黒尾が周りへと牽制する様に視線や気配を送っている為、近づいてくる人間はいない。そうでもしなければおそらく、質問漬けにでもされているかもしれない。まぁ、地味に面倒な所だ。大会が終わったらさっさと姿を隠すべきだよなぁ、と思いつつ、

 

「黒尾、楽しい?」

 

「はい、実に久しぶりですが、カントーの頃を思い出します。あの頃はまだ私もロコンでしたし、経験も何もない少女でしたが、楽しかったです。懐かしくありませんか? 訓練場でサイドンやニドキングに追いかけられたり、スピアーに殺されかけたり、ボールハンドリングの練習等を」

 

「あぁ、懐かしいなぁ……」

 

 カントー時代の話だ。今からおそらく6、7年ぐらい前の話になる。ある日、トキワの森で目覚め、スピアーに殺されそうになり、そしてスピアーを探しにトキワの森へ来ていたボスに助けられた。そうやってトキワジムのジムトレーナーになって、デルタ因子を持つロコンを拾って、ポケモントレーナーとなったのだ。ポケモンバトルをゲームとしてしか知らなかったため、最初から訓練はハードだった。ボールを素早く取る訓練、ポケモンを交換する訓練、ボールを投げる訓練、どんな環境でも旅ができる様に体を鍛えたり、

 

 人に襲われた場合の対処法、ポケモンなしで野生のポケモンに襲われた時用の銃の扱い方、あの頃は毎日何かをやって、何かを学んでいた。知っている事とは全く違う、新しい世界が目の前に広がっていて、発見ばかりの毎日だった。

 

「少々不謹慎かもしれませんが、私は偶に主と共にあの頃に戻りたい、と思う時があります。他の皆がいる前では恥ずかしくて言うことはできませんが、主の隣をずっと占領し、その視線を釘付けにするのも悪くありません。まぁ、カントーからの付き合いという事でナイトの事も許容しましょう、彼は彼で世話になりましたから」

 

「ナイトかぁ、アイツも地味にパーティーの古参なんだよなぁ」

 

 元々はイーブイだったが、イーブイ時代からどこか捻じ曲がっている、というか擦れている感じだった気がする。というよりはイーブイというポケモンの可愛さにチヤホヤされるのに飽きていたという言葉が正しいのかもしれない。イーブイだった頃のナイトを捕まえる頃には、既に黒尾はロコンからキュウコンに進化させていた。その時から悪パ、或いは夜パという構想は考えていた。だったらブラッキーに進化させるしかない、とも考えていた。

 

 それで夜、受けとサポートを意識した騎士というイメージからナイトという名前を付けた背景があるわけだ。

 

「……つーか夜パ。今の形へと持ってくるのに6年近くかけてるのか、時間かかってるなぁ……」

 

「おそらくはポケモンリーグまでには完成するでしょう、成長と進化の手ごたえは存在しますし」

 

 だとしたら頑張らなきゃいけないよなぁ、

 

 そんな事を思っていると、第一回戦が完全に終了し、60を超えていた参加者たちが一気に32人まで落とされた、という報告が出てきた。このまま半減していくと、

 

「16……8……4……2っと、まだ結構戦わなきゃ駄目だな」

 

「所詮は有象無象です。アンダー50も結構多い様なので、かえんほうしゃとだいもんじを放つだけでも結構サックリ倒せる相手が結構そこらに見えます。まだまだ固有技とかは出し渋っても問題ないかと」

 

「そっか、んじゃ行けるところまでやっちゃいますか」

 

 次の対戦の足を動かしながら、黒尾の言葉を聞く。

 

「はい、勝利を貴方に」

 

 珍しく主、とは呼ばれなかった事にちょっとだけ恥ずかしさを感じつつ、

 

 ポケモンバトル(蹂躙)を始める。




 最古参 黒尾 ナイト
  古参 蛮ちゃん
 準古参 アブソル
  新顔 月光 サザラ

 ボスと武者修行でジョウト・カントーを出る時は最初上の三匹しかいなかったとか。最近葉巻を咥えているブラッキーのイメージが脳内に浮かび上がる……。
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