目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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そして冒険へ

「やっぱまともな所で喰う朝ごはんは美味いなぁ」

 

 ポケモンセンターの裏手には大きな庭が存在する。そこにテーブルやら椅子が置かれており、そこでオープンカフェの様に食事をとる事ができる。勿論一般開放されているポケモンセンターのレストランだが、トレーナーカードを持っているポケモントレーナーであれば、施設の無料化や割引などの恩恵を受ける事ができる。この恩恵はジムバッジが増えれば増えるもので、ジムバッジを多く持っているトレーナーは”有望トレーナー”という事で、色々と優遇されるのだ。そんな訳で、ポケモンセンターにはトレーナーをサポートする施設がいくつかある。

 

 宿泊施設、レストランは勿論―――ポケモン向けの食事もここではちゃんと出している。自分がシンプルな朝食を食べている同じテーブルで、一緒に食事を取っている亜人種のポケモンが何人かいる。デルタ因子を持っている黒いキュウコンの黒尾、アブソルの災花、ゲッコウガの月光だ。視線を三人から外して横の草地へと向ければ、原生種の姿を見つける事ができる。黒い体躯に犬の様な姿のポケモン、原生種のブラッキーはポケモンフードを食べており、

 

 そのすぐ横で緑色で屈強な体躯を持つポケモン、バンギラスが骨付き肉にかぶりつく様に食べている。秘伝要員として連れ歩いているトロピウス、メタモンは基本的にボールから戦闘では出さない為、今はもう一体、というかスタメンであるもう一人はその装備品扱いの原生種と共に散歩に出かけている為、ここにはこの面子しか残っていない。

 

 いや、後一体、控えにホエルオーの原生種が存在するのだが、流石に陸地で出す事は出来ない。ホエルオーにはしばらく窮屈な時を過ごしてもらう―――と思ったが、モンスターボールの中の環境は別に狭苦しいというわけじゃなく、ポケモンたちが快適に暮らせる環境ができているらしい。やはりここも謎技術。

 

 ともあれ、ポケモン達とアサギシティを出る前に朝のゆっくりとした時間を過ごしている。現状、焦って旅に出る理由はないのだから。だから自分の朝食であるパンケーキセットをコーヒーと共に飲みつつ、視線をバンギラスやブラッキーへと向ける。ブラッキーは”受け”とサポートを意識した育成を施してある為、本来のブラッキーよりも毛並みが黒く、そしてブラッキー特有の黄色い文様が薄い。より暗闇の中に適応するようになっており、その体躯も少々大きい。通常のブラッキーが大きさ的に大体一メートル程しかないが、このブラッキーはそれよりも少々体が大きい。逆にその横で肉にかじりついているバンギラスは小さい。本来のバンギラスは二メートル以上の体躯を保有しているが、自分のバンギラスは精々一.七、八メートル程度の大きさしかない。バンギラスという種族全体で見るのであれば、かなり小さい部類に入る。

 

 自分のバンギラスは精々一.七、八メートル程度の大きさしかない。バンギラスという種族全体で見るのであれば、かなり小さい部類に入る。

 

 まぁ、バンギラスやブラッキーにしても努力値だけではなく、色々とトレーニングを重ねた結果、戦術と運用思想に合わせて適応した、とも言える変化なのだが。おかげでバンギラスもブラッキーにも非常にお世話になっている。とはいえ、本格的な受け等の役割が絡んでくる二匹の役割はジム戦ではまだまだ先の話だ。今の所、”魅せ札”と本命両方を合わせた亜人種の三人がジム戦をメインで攻略してくれるだろう。

 

 まぁ、それで満足しないだろうから、今日の道中はバンギラスを出したまま移動するのも悪くないかもしれない。バンギラスにはちょっとマラソンさせるハメになるだろうが、それにこいつらは無駄な運動が大好きだ。喜んで並走するに違いないだろう。

 

「とりあえず今日は移動で安定かな。あんまし野生のポケモンを苛めるのも良くないし、出しておくのは常に一人、ローテーションをかけながら疲れを残さない様に進めていくか。とりあえず先発は蛮ちゃんでいくけど……いいよな?」

 

 視線をバンギラスの蛮へと向けると、かじりついていた肉から視線を持ち上げ、蛮がサムズアップを向けてくる。肉食系の蛮ではあるが、実は肉よりもオボンのみの方が遥かに好みな草食系怪獣だったりする。それでもこうやって肉を食べさせているのはバンギラスというポケモンが基本的に肉食である事と、体格作りに肉を大量に摂取する必要があるからだ。そこらへん、調整を終わらせた連中はポケモンフードだったり、好きなものを食べているので非常に楽だ。

 

 財布的に。まぁ、オボンのみは対戦でも腐るほどお世話になっているから沢山持っている。一回ぐらい食べさせても問題はない。

 

 何だかんだで終盤戦ではオボンよりもラムのみを持たせる回数の方が圧倒的に増えているような気もするが。

 

「まあ、我々全員レベル80突破していますからね、余程自信過剰な馬鹿か、自殺志願のポケモンか、或いはヌシクラスでもなければ我々のどれかを出しているだけでゴールドスプレーいらずなんですけどね」

 

「強くなるとそれがつまらないのよね。レベルリセットかけて旅を始めると普通にエンカウントするけど、そういうのを相手につじぎりを一方的に決めて行くのが楽しいのに」

 

「災花殿、邪悪っぽいのが漏れてるで御座るよ」

 

 交流するポケモン達を眺めながら軽く溜息を吐く。街から街への移動の間、野生のポケモンとの対戦は基本的に”野戦”というグループに入る。トレーナーの実力次第だが、基本的には奇襲に備えてポケモンを二体ほど常に出しておくのがセオリーだ。一人は奇襲警戒と警護用に、もう一人は攻撃用に。野生のポケモンは基本的に群れで生活している為、ソロで襲い掛かってくるのは少々珍しい。その為、複数をボールから出して一緒に移動する事が基本だ。或いは他のトレーナーと組んで、ポケモンを一体ずつ出したタッグ状態での移動も割と良くある事だ。

 

 ただ、まぁ、問題なのはレベルの高いポケモンをトレーナーは判別できるし、野生のポケモンも察知できるという事だ。あからさまに強いポケモンを出して移動していればトレーナーはバトルを吹っ掛けてこないし、野生のポケモンも襲ってこない。こうなるとバトルで賞金を得る事ができないし、野生のポケモンから金策に使えそうなアイテムも採取できない。金策の事を考えるならある程度道から逸れて採取活動でもしなきゃいけなくなる。

 

 今はまだ良い、お金は船の中でそれなりにカモってきたからだ。ただ陸に上がると世間知らずのトレーナーは減ってくる。同じように旅をしているトレーナーであれば目標はポケモンリーグ、ジョウトならセキエイ高原だ。正しくそれを狙うレベルになってくると、無駄な勝負は挑まなくなってくる。まぁ、トレーナーズハウスで同じレベル帯のトレーナーでも募集すればまた話は別なのかもしれないが。

 

 まぁ、ジョウトやカントーには知り合いが多い、ポケモンリーグ向けにレベル調整をしたい場合はボックスの二軍や知人を利用すれば良いだろう。それまではあまり無駄遣いができない。

 

 まぁ、金策に関しては追々、折角ジョウトに来たのだから、観光をしたいという気持ちがある。

 

「とりあえず、食べ終わって馬鹿を探したら移動を開始すっか。ジョウト地方は怒り饅頭とかモーモーミルクが美味しいって話だし、今日頑張って進めばモーモーミルクの方はお目見え出来るかもな」

 

「んー、新しい地方へ行って、そこだけの食文化に触れるのはやはり良いですね。ジョウトグルメと言えばやはりモーモー牧場のモーモーミルク、チョウジタウンの怒り饅頭が一番有名ですよね、でも個人的にはエンジュシティの鈴羊羹やフスベシティのドラゴンステーキも期待している所なんですよね。ですが、やはりヤドンの井戸が存在する為、少量取れると言われるヤドンの尻尾、これはまさに珍味と呼ばれるものですから一度は食べてみたいですね」

 

「でたよグルメ好き」

 

 そんな馬鹿な事を話している内に、奥から三メートル級のトロピウス原生種の姿が此方へと向かって歩いてくるのが見える。その背中には黒い人影が横にギルガルドを浮かべて近づいてくる。頭の上にメタモンを乗せているトロピウスが近づいてくると、黒い人影はトロピウスの背中から飛び降り、着地を決める。かなり肌を露出している服装をしている。中央と背中を大きく開けた青黒いハイレグの様な服装に、膝まで届きそうなニーハイブーツ、両手は二の腕から手の先を覆い隠す様な黒いだぼだぼのカフスを装着しており、背後から爬虫類の様な尻尾と、鳥類の黒い翼を生やしている。大量の青い髪をポニーテールで纏め、頭には耳の様な形になる様に赤と黒のリボンを装着している。

 

 我がパーティー最強の暴君、

 

 サザンドラwithギルガルド装備、通称サザンガルドになる。

 

 なんと、固有種である。つまりはオンリーワン、デルタ種キュウコンの黒尾に引き続きレアな存在である。

 

 その経歴は軽く頭がおかしくなりそうで、フェアリータイプ相手に完全にメタられて敗北したサザンドラがその灰色の脳味噌を最大限に働かせた結果、予想しない方向へとその発想をワープさせてしまったのだ。即ち、

 

 タイプ相性が悪ければ補完すればいいじゃない―――ギルガルドを装備して。

 

 そう言って野生のヒトツキをモンスターボールを使用せずに屈服させ、ヤドランのシェルダーの如く、装備品として鍛え始める姿には流石のボスでさえ黙った。今は別行動中であるために知人に貸しているもう一体と含め、

 

 このサザンドラ、或いはサザンガルドと呼べる固有種、ニックネーム”サザラ”の力技すぎる弱点への対応方法はある意味、頭が悪いと言える。だけど、それでこのサザンドラは見事に弱点を克服したのだ。おそらくは6Vという名の才能のごり押しを通して。いや、それ以外に言葉が本当に見つからないのだ、進化条件もクソもないので、ボスと並んで笑うしかなかったのだ。

 

 そんなエースのサザラではあるが、

 

 このサザンガルド状態をポケモン一体としてカウントするか、或いは二体としてカウントするか、物凄い判断のラインが微妙なのだ。ヤドランみたいにシェルダーが完全に一体化している訳ではないのに、ちゃんとサザラの意思でギルガルド側の力を引き出せてたりするので、本当に生態が謎なのだ。結局そのせいで公式戦にはあまり出せていない。まぁ、それでも才能(6V)のおかげでパーティー最強の座にずっと降臨しているのだが。

 

 やっぱり、自分のパーティーはどう考えても公式戦向きではない。

 

 どっちかというと野戦、乱戦、暗殺、ダブルバトル向けだと思う。

 

 というわけで、

 

「ただいまー! 路地裏歩いてたら襲われたからボコってカツアゲしてきたぞー!」

 

 褒めて褒めてー、なオーラを溢れんばかりに輝かせながらサザラが走ってくる。この脳筋愛おしいんだけど教育的指導かなぁ、と思っていると黒尾からの蹴りがサザラを蹴り飛ばし、そこから追撃の説教コンボが始まる。もう完全に慣れている仲間達はそれを無視して朝食の続きに入り、メタモンを頭に乗せたトロピウスが近くに寄ってくる。

 

「よしよし、暴君の子守りお疲れ様。バナナ貰うよ」

 

ばふ(うっす)ばうん(どうぞどうぞ)

 

 頭を伸ばしてきたトロピウスからメタモンを回収し、ついでにトロピウスの顎の下に生えているバナナを一本手に取り、朝食のデザート代わりに食べる。トロピウスの顎下に生えるバナナ、というか果物は大体一日経過すれば再び生えている。その為、取り過ぎを気にする必要はないし、非常食になるから洞窟や山を探検する時はある程度食料の節約ができて便利だったりする。

 

 ゲームの内容と違って、本当に冒険するので殺意が圧倒的に高い。それはもうずっと前にボスに連れまわされて覚えた事だ。

 

「この脳筋暴君はもうほんっと、どうしようもありませんね」

 

「暴君がどうにかなってたまるかよ!!」

 

「開き直ったで御座る」

 

「はいはーい、一通り漫才をやったところでそろそろ朝食を切り上げて移動を始めますよー」

 

 パンパン、と手を叩くとそれに反応してポケモン達が返答しつつ、移動を始める。旅慣れている事もあって、こうなると巻きに入るのが早い。自分もモンスターボールを取り出し、蛮以外をボールの中へと戻して行く。

 

 ちなみにサザラ―――サザンドラとギルガルドはいっしょのボールに入る。やっぱり二つ合わせて一体、という認識で良いっぽい。

 

「蛮ちゃんジョギングの準備できてっか?」

 

ガオ(うす)

 

「うし、んじゃボチボチ行くか……あ、会計お願いしまーす」

 

 店員に頼んで支払いを済ませる。

 

 

 

 

 出発の準備ができればアサギシティの入り口からスクーターに乗り、ゴーグルを装着した状態で低速で移動を開始する。直ぐ横では蛮が音を立てない様に軽いステップで、重さを乗せない様に並走している。夜パ―――つまりは奇襲をメインとしているパーティーであるため、基本的に体が大きすぎたり、音を立てる様な事は遠慮願いたい為、卵から、ヨーギラスから育て上げたこのバンギラスは、徹底的にパーティーのスタイルに合う様に調整されている。足音を起こさないこの走りも訓練して身につけたものだし、その状態で走らせるのもトレーニングの一つだ。

 

 おそらく、ここまで技とは関係ない技術を徹底して覚えさせているのは自分と、後はボスぐらいのものだと思う。

 

 ともあれ、道中は暇になる。おそらくは目的のキャンプ地であるモーモー牧場までは特にバトルする事もないだろう。故にポケギアのラジオチャンネルを合わせ、それをつけっぱなしにしながらスクーターで移動する。

 

『―――ポケモン捜索隊! 今回の我々はウバメの森へとやってきています!』

 

「あぁ、セレビィか」

 

 個人的には自分が此方へと来る原因となった存在だと思っているポケモン。時間だけを歪めるように思われるが、実はセレビィには空間さえも捻じ曲げる力を持っている。結局ギラティナをボコったり、”やぶれたせかい”や”はんてんせかい”に突入しても手がかりがなかった辺り、セレビィか創造神辺りをボコりに行かなければいかない様な気もする。まぁ、その時はその時でガチメタ張ってボコりに行くだけなのだが、セレビィとかの情報は一般的じゃなかったな、と思い出す。

 

『ここ、ウバメの森には遥か昔より伝説のポケモンが存在していると言われている! 我々、ポケモン捜索隊はその証拠を探す為にここへやって来た……! クチハ隊員が野生のコダックに捕まったぞ!!』

 

『助けろ! 助けるんだ! いや、待て、亜人種コダックだ! これは絵的に美味しいんじゃないか!?』

 

『助けろやお前らァ―――!!』

 

 ジョウトでも結構楽しいチャンネルやってるなぁ、なんて事を思いながら横で並走している蛮の姿を確認し、視線を前に戻す。今進んでいる三十九番道路は基本的には坂道になる。今日、一日中移動に時間を費やせば夕方にはモーモー牧場に到着する計算だ。このスクーターの電池が切れたり、途中でバトルをしたり、そういう事を計算に入れれば無理なのだろうが、蛮を出している間はバトルを仕掛ける人間はいないだろうし、野生のポケモンも出ない。ソーラーバッテリーである為、明るい内は電池切れの事を心配する必要もない。

 

『コダックがゴルダックへ進化したぞ!』

 

『まて、イトマルから白くてネバネバした糸が……!』

 

『番組の趣旨が変わる前にとっとと助けろよこのダボ共ォ! てめぇらさっきから全く動いてねぇじゃねぇか! この捜索隊はこの私自らが滅ぼしてくれるわぁ!』

 

 何故かラジオがおかしな方向に突入していた。ウバメの森と言ったらセレビィ、だからセレビィに関する伝説の話や、あるいはウバメの森に関する情報が出てくるかと思ったらなんか深夜番組のノリに突入している。一体俺にどうしろというのだ。コガネのラジオタワーも今度、見に行った方がいいのかもしれない。きっと楽しい事になっているに違いない。

 

 まぁ、とりあえずは、

 

 このジョウトの大地を楽しみますか。

 

 そう思いつつ見上げた空を原生種のカモネギの群れが飛んで行くのが見える。久しぶりに見るポケモンの姿に少しだけ心を弾ませつつ、

 

 まずは第一キャンプ地へと向かって移動する。




 野生のポケモンは基本的には原生種がメイン、亜人種が存在しない訳ではないけど、亜人種は人の生活と関わる事で人に近づこうとした進化の結果なので野生なのは原生種の方が多いのです。

 あと瀕死状態というのは死んでいるのじゃなくて、仮死状態になって傷を癒しているような状況です。

 割と色々捏造設定したりしているよ! 環境のガチ化とかね!

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