目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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育成型の育成

 ―――エンジュシティに戻って来てから一週間が経過する。

 

 毎日卵に活力をあげる為にマラソンをしたり、常に傍に卵を置く様な生活を続け、更には卵の状態のヒトカゲにポケルスを投与したり、黒尾から抽出した悪タイプのデルタ因子を投与したり、卵の段階から育成を進めた結果、見事ヒトカゲが生まれてきた。生まれる瞬間は全員で立ち会い、そして卵を突き破り、光と共に出現したヒトカゲの姿をみんなで目撃した。

 

 卵から生まれてきたヒトカゲは原生種ではなく、亜人種の姿だった。

 

 大きさや姿は7~8歳ぐらいの幼い子供の姿、オレンジ色のTシャツに、赤味の強いオレンジ色のミニスカート姿、その下からは尻尾を伸ばしている。赤く短い髪を持っている姿は一般的なヒトカゲの姿だが、唯一違うのはその尻尾の先に灯っている炎は見慣れた赤色ではなく、青色である事だ。

 

 卵時代に入れておいたモンスターボールを取り出し、そこに表示されているヒトカゲのデータを確認する。種族値が高く、そしてタイプが炎単色になっているが、ドラゴンのデルタ因子を保有している。つまり、このヒトカゲはドラゴン炎というタイプのポケモンになっているのだ。デルタ因子によるタイプ追加である事を考えると、あと一種類タイプを追加できそうな、そんな気もする。それにメガリザードンYが確か飛行炎というタイプ構成だった筈だ。

 

 ドラゴン炎は、確かメガリザードンXのタイプ構成だ。上手くそこらへんを調整しよう。

 

 ともあれ、生まれたてで周りをキョロキョロしているヒトカゲが生まれた。視線を向ければ此方へとじっと視線を返し、首を傾げてくる。可愛らしい姿だが、このヒトカゲは既に”戦える”ポケモンなのだ。モンスターボールで確認している感じ、どうやら秀才(5V)あるいは天賦の才(6V)はありそうな気配がする。実際に育成を始めれば解ってくるところだろう。ただ、既に戦えるし、ある程度の知識を持って生まれてきている以上、直ぐにでも育成を開始できる。

 

「なにこれかわいい」

 

「生まれたてだからなぁ……ほらー、俺が君の”おや”だよー。まぁ、人間の赤子と違ってポケモンは卵から孵る時には既に戦えるレベルには体が出来上がっているのが便利だよね。これも自然の中で生まれた直後殺されない様にする為の適応進化なのかなぁ」

 

「おや……」

 

 繰り返す様に呟いたヒトカゲは此方へと視線を向けると、手を伸ばしてくる。それに応える様に手を伸ばせば、ヒトカゲが両手で此方の手を掴む。うむ、愛い愛い、とその姿を見ながら呟く。実験は成功だ。ポケルス、隕石、そしてデルタ因子を利用する事で人工的にメガシンカ個体、或いは天賦個体を生み出す事ができる。ただポケルス自体が隕石以上に貴重な事、隕石が貴重な物であり、そしてデルタ因子の投与方法なんて理解しているのはおそらくこの世で自分とロケット団ぐらいだろう。

 

「本来のリザードンのデルタ因子だと鋼電気タイプだっけ? となるとポケルスと隕石で誘導したのが正解って訳か。あ、俺の手は食べ物じゃないから噛んでもおいしくないぞー」

 

 此方の手にかじりついたヒトカゲが歯を突き立て、それが手に刺さって血が流れる。血が流れる程強くヒトカゲが噛んでいる訳ではなく、そこらへんの力加減がヒトカゲにはまだ分からないだけなのだ。ポケモンは生まれた時からある程度の知識を持っている。どうやったら生きられるとか、何ができるとか、軽い常識とか。卵の元となったポケモンのDNAを通して情報を得ているのではないか、というのがオーキド博士の公式見解である。

 

 ミュウツーやデオキシス辺りを見ていればポケモンのDNAに何かがあるのではないか、とは良く思える。

 

 ただ知らない事だってある。たとえばこんな風に力加減とか。野生のポケモンがトレーナーを殺してしまうのがこれが原因だったりする。ポケモンに対応する様にトレーナーに対応してしまう。だから事故やけがが生まれるのだ。純粋にトレーナーを殺そうと、排除しようとするポケモンもいるが、人間の隣人であるポケモン全てがそんな排他的ではないのだ。このヒトカゲはまだ、世界を知らないだけ。

 

 ヒトカゲは甘噛み、親愛のつもりで噛んでいるのだろうが、それが人間には強すぎるだけ、それだけ。教えなきゃいけない事は多くある。構えていない方の手で軽くヒトカゲの頭を撫で、その髪色と服の色を良く確認する。

 

「……普通のヒトカゲよりも若干灰色にくすんでいるな。進化すればもっとはっきりと灰色に見えるかもしれねぇな。うーん……デルタ因子で本来発現するはずだった鋼タイプが発現せず、ドラゴンへと隕石を通して調整されたから、身体的特徴として発露したのか? 興味深いもんだけど、どうしようもねぇな。とりあえずニックネームは決めた」

 

 こいつの名前は将来の変化の事を考え、

 

「アッシュ、お前のニックネームはアッシュだ。宜しくな」

 

「うん、宜しく!」

 

 噛んでいた手を解放したアッシュが頷きながら返答する。元気の良い姿にほっとする。何だかんだで卵の間に色々と干渉していたのだ、これでなにか、障害でも発生していたら心臓に悪すぎる。アッシュの頭を軽く撫で、ヒトカゲの姿を記憶し、

 

「―――まぁ、ヒトカゲ、リザードである時期なんて三日か四日程度なんだけどな……」

 

「えー! 勿体ない!」

 

「後輩は可愛くあるべきで御座る!」

 

なーうん(諦めろ)

 

ガオギャーオ(俺も二週間とかだった)

 

「そういえば私もモノズからサザンドラに進化するまでは一瞬だったなぁ。進化つってもそんなもんか」

 

「貴女の場合はギルガルドまで拾って来るのがワンセットですけどね」

 

「……??」

 

 アッシュが話を理解できずに首をかしげているが、今は心配する事はない、と軽く頭を撫でる。これからレギュラー争いにこの子は巻き込まれるのだろうが、本当の意味でレギュラーになるのは、まだまだ早い。自分の育成力であれば三日でリザードンに進化させるのは当たり前の事だ。そこから先、新しくメガリザードンに進化するのは経験がないため、自分にはどうなるかはわからない。だけど、他の面子よりも種族として、ポケモンとして能力が上でも、

 

 戦闘経験が足りない。

 

 だから本当の意味でレギュラーを飾る事は出来ない。

 

 しばらくはアッシュを使いながらジム後半戦、という所だろうか。こいつをメインに使ってある程度戦闘経験値を溜めさせたいという気持ちがある。他の皆に関してはポケモンリーグ、及びチャンピオン戦経験済みだ、抜かりはない。

 

 まぁ、強くなって来たらドラゴンタイプ入っているしフライゴンぶつければ調子に乗る事もないだろう。

 

 サザラがボスがいなくて調子に乗った時、その鼻っ面を叩き折ったのがフライゴンだ。

 

 ドラゴン絶対殺すマン、フライゴン。フスベまで彼女の出番がない事を祈りたい。おそらくフスベジムはあの存在に泣く。あとワタルも泣くと思う。タイプメタという概念を極限まで煮詰めた結果、ポケモンの歴史に残したくない生物が出来上がってしまったのだから。

 

 とりあえず、違う事を考えるのは止めて、アッシュの育成プランに関して考えよう。天候パに組み込む以上、”ひでり”が欲しいし、補助用にサンパワーをどうにかして取り込みたい。幸い、生まれたばかりだし、技を全く覚えていない状態だ。本来技を覚えるべき場所に、とくせいを詰め込めば不可能じゃないだろう、ここら辺の考えは。後は天候適応、条件達成でのオートバトン、これは確実に覚えさせておきたい。

 

「とりあえず―――」

 

 アッシュの脇の下に手を通し、その姿を持ち上げる。

 

「―――成長記録を取るぞ!!」

 

「主、主。その前に包帯を巻きましょう。舐めて消毒しますので早く手を此方へ」

 

「皆、欲望全開で御座るなこれ」

 

 

 

 

 そして熱い育成の日々が始まる。

 

 ポケモンリーグのシーズンは始まったばかり、まだ開始して一ヶ月目でバッジ四個というペースはありえない程に早いペースだ。唯一神を足に使っているから当たり前と言ってしまえば当たり前だ。だけど早くバッジを集め終わっても何かボーナスを得ることができる訳でもない。となると、この四回のジム戦で見えてきた修正点をゆっくりと、見つめ直しながら修正、育成して来る時間に入ってくる。

 

 ポケモンリーグのシーズンは最長で六か月、短くて三カ月。この間にバッジを取得しなくてはならない。そのポケモンリーグシーズンのまだ一ヶ月目、ここでバッジを四個取得したのは所謂”ロケットスタート”と呼べるものだ―――ロケット団なだけに。

 

 ともあれ、アッシュの育成と他の面子の強化プランを進めたい。バッジ五つ目からはジムリーダーも恐ろしくなってくる。それに備えてボックスの中のポケモンも出し、鍛えたり整えたり、コミュニケーションを取りたいと思う。

 

 とりあえず、まずはヒトカゲからリザード、リザードンへ。

 

 これを三日で終わらせる。

 

 

 

 

「ふぅ、いい仕事をした」

 

「あぁ勿体ないで御座る……」

 

「折角可愛かったのに……」

 

なーう(残酷だが)

 

ガオーウ(ポケモンだしな)

 

「先輩方は慣れているで御座るなぁ……拙者ちょっとショックで御座る」

 

「まぁ、育成型のトレーナーですとポケモンを多く育てますし、素早く進化させますしね。割と見慣れた光景なんですよね。可愛かったあの子が……! というのは。なお人生で一番驚いたのはヒンバスとミロカロスですね。アレは見なきゃ信じられません」

 

 エンジュシティ、スズの塔が良く見える公園の広場で、進化を終えたばかりの元ヒトカゲ、現リザードンのアッシュの姿がある。

 

 まずヒトカゲ時代はそうだった幼い姿はそこにはもうない。完全に十七、十八ぐらいの女の背丈にまで成長している。髪の毛はセミロングで、頂点が燃え上がる様に赤く、そして下へと下がって行くごとにグラデーションがかかる様に灰色に染まって行く。服装も大人の体となった事でそれに合わさる様に変化し、下半身は”前垂れ”と”後ろ垂れ”と呼ばれる完全に足を、太ももを晒したベルトの部分までスリットが入ったロングスカートの様なものを着ており、胴体周りは何も着用せず、完全にセパレートのパーツとして胸から首をまでを黒いノースリーブのインナーが覆って、その上から胸の上部を開ける様な、下から胸を支える様な服装をしている。

 

 服装は上下ともに灰色だ。背中の翼と尻尾は灰色で、翼膜部分と尻尾の先の炎がメガリザードンXを思わせる様な濃い青色をしている。

 

 もう完全に大人の姿をしていた。

 

 育成型のトレーナーに数年かけて進化させるとか、

 

 ピンチの時に進化するとか、愛を込めたら進化したとか、そんなイベントはない。

 

 進化とは強くなるためのプロセスであり、手段である。育てるならまず進化させた方がその体に慣らしやすい為、育成するには”まず最初に進化させる”というのが当たり前なのだ。自分は三日もかけてしまったが、おそらく緑色のであれば一日でリザードンにまで進化させられただろう。レベリングという領域であの”育てる者”に勝てる存在はない。だから別ジャンルで頑張っているのだが。

 

「とりあえず、これでアッシュは進化完了、っと。ここからが育成の本番で技とか特性とか、色々技術を叩き込んで行かなきゃいけないんだけど……まぁ、どっかで技術型トレーナーを雇って仕事を分担させるっきゃないか」

 

 おいでおいで、と目の前で進化したばかりの自分の体を確かめていたアッシュを呼び寄せる。進化に合わせてポケモンの精神というのはそれに合ったレベルへと成長する。その為、幼児からいっぱしの女へと内面的にはある程度成長している筈だ。まぁ、それでも色々と教えなきゃいけないのだが。

 

 チェックしたい事があるので、そう考えつつアッシュを呼び寄せると、

 

「ふふ、本当はオニキス程度のトレーナーに従えられる筈のポケモンじゃないけど、貴方にはここまで育ててもらった恩と実績があるわ。だから従ってあげるわ。で、私に何をしてほしいのかしら? 間違いなく先輩達より強くなるから期待していいわよ」

 

 ―――あ、これ早く進化出来て調子に乗ってますわ。

 

 しかもサザラと同系統の天賦(5V6V)である事がそれを加速させている。

 

 思ったよりもフライゴンさんの出番は近かった。

 

 きっと、というかほぼ確実にアッシュの未来は絶望で明るい。




 アッシュ(竜/炎) - 三日で最終形態になれてかなり調子に乗ってる

 萌えもん系統の精神性は姿によって引きずられると考えてたり。幼女なら幼女らしく、大人になれば大人らしくなります。ただ記憶や知識はそのまんまなんだから、まぁ、そうだよね、と。

 結構時間飛ばすかも。まだ原作数か月前だし。

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