目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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育成と戦術

「戻れ黒尾、かわれナイト!」

 

 黒尾をボールの中に戻しながらナイトを場に出す。その瞬間、相手のオクタンのオクタン砲がナイトに直撃する。だがそれを涼しい顔で受けたナイトは受けた攻撃に闘争心を燃やしながら、現在が夜であるという環境に適応し、攻撃終わりの瞬間に自動的にバトンタッチを発動させ、ボールの中へと戻って行きながら同時に違うボールを手に取り、赤い光を交差させるように素早いスナップで交換しつつ、バトンによって導かれる次のポケモンを場に出現させる。

 

「チェンジ、アッシュ!」

 

 ナイトの上昇効果を受け継ぎながらアッシュがフィールドに出る。オクタンという炎タイプに対しては有効な攻撃手段を多く持つポケモンに対して、正面からアッシュは浮かびながら応対する。戦闘中は常に地面に触れる事無く、翼で飛翔しろという意識改革、訓練はちゃんとアッシュの今の行動で見えている。飛行タイプは未だに存在しないし、浮遊もない。だけどちょっとした工夫を行うだけで地面技は封殺できる。

 

 夜空の星々が輝き始める。闇夜から星天へと天候が移り変わる。

 

「オクタン! オクタン砲!」

 

「かわせ、狙え、貫けアッシュ!」

 

 指示通りにアッシュが横へと羽ばたいて回避し、横に回転する様な動きで成功した直後、一瞬でオクタンへと加速する様に接近し、口から青い炎を吐き、至近距離から叩きつける。吹き飛ばされるオクタンの姿を追いかけず、アッシュが星天を収束させて解除する。天の星々の光が一点、オクタンへと集って上から閃光が落ちてくる。

 

「交代しまーす! 次どうぞ先輩!」

 

 ”りゅうせい”が衝突し、星天も闇夜も解除され、オクタンが沈む、能力の上昇を引き継いだままボールをスナップさせ、バトン効果でポケモンをサイクルさせる。相手がポケモンを出す前に、ボールを入れ替え、スナップさせながら高速で次のポケモンを、3vs3であるために再び黒尾をフィールドに出す。出現と同時に特性の夜空が発動し、闇夜が再びフィールドを覆う。

 

 相手が絶望した様な表情を浮かべている。

 

「ぐっ、ハガネール、ステルスロック!」

 

「主、アッシュも経験を付けているせいか、動きは悪くない感じです。おそらくナイトに回す事もなく圧殺できるかと思われます」

 

「んじゃ、ぶち抜くか! スイッチ、アッシュ!」

 

 わるだくみを積ませてからバトン効果を発動させ、黒尾からアッシュへとポケモンを入れ替える。場に出るのと同時発生するステルスロックがアッシュの肌を切る。少しだけ涙目になりながら痛い、と叫ぶが、

 

「フライゴンさんよりは怖くない!」

 

 まぁ、アレはトラウマになるのは理解できる。

 

 しかしいい感じだ。ちゃんとバトン効果を発揮できている。ポケモンバトルにおいて”交代”とはかなり重要な戦術だ。トップレベルの環境ともなって来れば、攻撃後にポケモンが自動交代されるのは最低2、3体程が習得している技術だ。そうやってポケモンのサイクルを回し、特性を再発動させたり、能力上昇を引きずって与えたり、何度も場に出る事でいかくの効果を相手に押し付けたり等、制圧する事を覚える。自分が今やっている事もその戦術の一つでしかない。複合天候パで良くある”天候回し”という戦術だ。天候起点のポケモンを何度も入れ替える事で天候を掻き乱し、相手に対応させない様に自分が常にイニシアティブを握る。交代で出すポケモンに天候適応効果があれば、更に有利になる。

 

 それにポケモンバトルは上位になればなるほど、一体で居座るという事が少なくなってくる。ポケモンは鍛えれば鍛えるほど”尖る”様に性能が変化して行く。その為、物理と特殊両方を同時に対応できる訳ではないし、攻撃と防御を同時に維持するのも難しくなってくる。”両方高い”ならできるが、”馬鹿みたいに高い”というレベルになってくると一流のブリーダーでも難しい風になってくる。だからポケモンにバトン効果、或いは特殊な条件下で場に出現するという技術を、特性をポケモンに仕込む。そうする事でポケモンを入れ替え、攻撃と防御のスイッチを能動的に、行動を潰さずに行うのだ。

 

 ポケモンを出したまま、ずっと戦うと簡単にタイプ差で突破されてしまう。

 

「アッシュ、蒼き炎!」

 

 ステルスロックを突破しながら接近したアッシュが相手を上回る速度で炎を叩きつける。それに苦しんだハガネールが反撃とばかりにその巨体をアッシュへと叩きつけてくる。体に叩きつけられる岩石に揺らめきながらも、口の端から青い炎を漏らし、堪え切り、やり返す様に至近距離からハガネールの顔面に炎を叩きつけてフィールドの外へと弾き飛ばし、戦闘不能にする。

 

「っしゃぁぁ―――!!」

 

 敵を撃破した事に高揚し、アッシュの尾の炎が更に燃え上がる。かなり闘争心と戦闘本能が強い個体である為、敵を撃破した事に炎を激化させる。星天に広がる星々の光の力を受け、その身の炎の力を強化しつつ、アッシュと共に前方のトレーナーへと視線を向ける。相手は半分、諦めた様な表情を浮かべている。

 

「良い経験だと思って最後まで貫かせてもらう! いけ、マリルリ!」

 

「ひっ……あ、ちげえ、マリルリさんじゃない。セーフセーフ」

 

 出現した普通の姿のマリルリに誰にも聞こえない様に呟きながら安堵の息を吐く。全身ゴリマッチョで愛嬌のある顔のフェアリータイプのマリルリさんはこのジョウトには存在しないのだ。フライゴンさんとはある意味永遠のライバルであるマリルリさんではないのなら、相手は水タイプ、少々面倒な相手だが、やれない事はない。そのままアッシュを居座らせつつ、素早く指示を出す。

 

 マリルリのハイドロポンプを正面から翼でガードしつつ、それを弾き飛ばしながら青いブラストバーンがマリルリに叩きつけられ、吹き飛び、反動に入るのと同時に星天が砕け散り、一筋の流星が天から地に落ち、マリルリへと衝突する。鳴き声を響かせながら圧殺されたマリルリはフィールドにその姿をころがし、目を回す。

 

「お疲れアッシュ、動きは大分良くなってきた。お前に覚えさせたい能力は大体出来ているから、後はメガシンカと経験と反復練習だ。良く頑張った」

 

 アッシュをボールの中へと戻しながら、エンジュシティでの月一大会、その決勝戦で勝利した。

 

 

 

 

「や、試合お疲れ様。見ていたけど大分いい感じに仕上がって来たみたいだね、リザードン」

 

「あ、マツバさん」

 

 大会が終わって会場を後にすると、エンジュジムのジムリーダー、マツバが片手を上げて挨拶しに来てくれた、というよりは試合を見ていたからそのまま話に来た、という感じだろう。アッシュの育成をエンジュシティで始めてから、

 

 既に一ヶ月が経過している。

 

 新しい手持ちであり、そしてパーティー全体をポケモンリーグに向けて調整しなきゃいけないという事もあって、一ヶ月も時間をかけてしまった。いや、本来は二か月ぐらいかかる筈だったのだが、わざマシンをあげた繋がりからか、マツバが育成を手伝ってくれると申し出てくれたのだ。マツバは基本的にはナツメの様な能力型の人間、”千里眼”を保有している。夜の闇の中でも、意識さえしていればその両目でポケモンの居場所を見る事ができるらしく―――”よるのとばり”でフィールドを夜にする事と物凄く相性が良いとか。

 

 まさか開発者よりも相性の良いトレーナーがいるなんて思わなかった。

 

 そのせいか、マツバの戦術のえげつなさも更に上昇したらしい。

 

 そういう訳で軽い恩を感じているらしく、ジムリーダーらしく全体的な能力が高くまとまっている為、育成を手伝ってもらうのは助かった。何せ、マツバは育成型としてはシジマと同じ、技術指導型だからだ。というよりも、”能力”の高いトレーナーのレベリング能力は低く、開発や指導能力が高い傾向にある。その為、専門のレベリングブリーダーがジムにはいたりする。

 

 ドラゴン使いのワタル、そしてフスベジムのジムリーダーはドラゴンにだけに関しては最高相性を発揮する為、育成からバトルまで誰の力も借りずにこなせる、という例外も世の中には存在しなくもない。自分はそこらへん、結構器用にこなせるタイプだ―――ただロケット・コンツェルン本社で書類を睨み続けてポケモンの生態をひたすら頭に叩き込むという下積み時代があったからなのだが。

 

 とりあえず、マツバに手を上げて挨拶を返す。

 

「ありがとうございます。まぁ、見た通り結構いい感じに仕上がってきましたよ。他の連中と比べると若干レスポンスが遅いのが不安ですけど、そこはやっぱりこの先反復練習とコミュニケーション取って、互いの呼吸を刷り込まなきゃどうにもならないことなんで」

 

「あぁ、交代戦術とか君のやっている夜パーティーだと特にそういうの大事だよね。僕は夜の中でも見えるから全く問題ないけど」

 

 その千里眼が羨ましい。まぁ、シルフスコープか、或いはサーモ機能のあるゴーグルを使えばいいだけの話なのだが、視線からポケモンのいる位置をバレさせない為に自分の視界も封じているのだ。呼吸、体の動き、気配の揺らぎから完璧にアッシュ以外の六人には指示を出す事ができる。だから後はアッシュにそれを一つずつ教えて行くことが大事なのだが、まだまだ先は長そうだ。ただ出現と同時にひでりが発動し、星天化する事を考えると、そこまで警戒する必要ないかもしれない。

 

 ―――そうだ、特性消去や特性変化を喰らった場合、一気にキツくなるからやはり覚えさせないと駄目だ。

 

「とりあえずサザラ並の潜在能力があるんですけど、”引いたら後がない”って経験をこう、上手く積ませられないというか、若干難しい部分もありますけど、まぁ、そういう所を抜いたら結構いい感じに回せてるって自信はありますね。良い子ですよ、この子」

 

『こらそこ、ドヤ顔しない』

 

『お前、タイプ的にポジション争ってんの私とだかんな、解ってるよな』

 

『あら、アタッカーだし私とも競ってるわね』

 

ガオガオ(天候特性だし)ガーオ(俺だろ)

 

『少し位調子に乗ってもいいじゃないですか褒められてるんだからぁ―――!』

 

 ボールの中でわいわいがやがやと新人イジメが発生している。その内新人を入手する様な事があれば、お前がやる側に回るだろうからその時まで強く生きろ。心の中でそう呟きながら、首を傾げ、そして決める。

 

「この一か月間、育成の為に時間を全部ぶっ込みましたけど、そろそろバッジ集めに戻ろうかなぁ、って思っています」

 

「君の相性から考えると、次はチョウジジムのヤナギさんか」

 

「えぇ、チョウジ、キキョウ、ヒワダ、フスベってルートで回ろうかと。チョウジの氷タイプはそこまで困らないし、キキョウの飛行タイプはストーンエッジで狩れる。ヒワダは相性的に一番楽ですし、フスベに関しては決戦兵器が用意してあるので、ドラゴンの屍を見るだけで終わりそうです。パシリいるから移動は楽だし」

 

『!?』

 

 唯一神を苛める芸も結構板について来たなぁ、何てことを想っていると、勿体ないなぁ、とマツバが呟く。

 

「トレーナーじゃなくてジムトレーナーになってくれたら安泰なんだけどなぁ……」

 

「ポケモンマスター目指しているんで」

 

「ジムリーダー枠があるよ?」

 

 それって他のジムリーダーを倒して取得するやつだという事は良く知っている。本気のジムリーダーとか全然相手をしたくない。やっぱりバッジ集めて普通にポケモンリーグに出場したい。心の底からそう思う。

 

「まぁ、その表情を見ていれば何を思ったかはよくわかるよ……しかし、そうか、もうそんなに時間が経過してたのか。相変わらずシーズン中は時間が過ぎるのが早く感じられるなぁ。なんか勿体ない気がするよ」

 

「あぁ、それは何となく解りますねー」

 

 こればかりはポケモンに願っても仕方がない。いや、ディアルガやギラ子、セレビィ辺りであればどうにかしてしまうかもしれない。だけど、それはきっと間違っているんだと思う。過ぎ去った時を追いかけてはいけない。振り返ってもそれに囚われてはいけない。

 

 現在を生きている現実として受け入れて、生きて行くしかない。

 

 そう、もう帰れないという現実を。

 

「でも、ま、それもそれで楽しめるもんですよ。そんじゃ、旅支度をしますんで」

 

「あぁ、改めて優勝お疲れ様。ジムトレーナー枠なら何時でも空いているよ」

 

 はいはい、とマツバに返答しながら旅館へと向かう。特に用意とかをする必要はないのだが、マツバの普通の好意に対して慣れていない自分がある。アレだ、きっとロケット団に染まりすぎたのだ。悪意とか、超悪意とか、超超悪意とか。

 

 あとボスの殺気。

 

 さて、と息を吐く。

 

 ―――明日からは再びジム巡り、まずはチョウジジムだ。




 交代戦術 - 条件を付けてバトンを発動させる事によってポケモンを回す戦術。割とメジャー、というか居座り型は狩られやすいので上位となると2~3匹の間で交代させながら運用する動きが良く見られる。ポケを無傷で降臨できるのが強み。

 居座り戦術 - 積んだポケを交代させる事なく連続で撃破しながら居座る。”かたやぶり”とかを持っているポケモン、或いはジムリーダーのナメプで良く見る。パーティーに1、2体は居座りが出来るのがバランスが良いらしい。

 交代前提が黒尾、ナイト、月光、
 居座り前提がサザラ、災花、蛮ちゃん、アッシュ

 っつーわけで次回からマスク・オブ・アイスとか可哀想な名前を名乗るお爺ちゃんの所へ

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