目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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43番道路

「かなり面倒な相手だったわ……」

 

 溜息を吐きながらチョウジタウンから怒りの湖の方へと向かって歩いて行く。ジム戦で見事バッジと技マシンを取得し、アッシュにも”後はない”というパーティーのアタッカーが経験すべき貴重な経験を与える事ができた。後がなく、引けば敗北する。そんな状況で確実に怯むことなく前進し、攻撃する事ができた。土壇場で確実に勝利をもぎ取る力、それがパーティーのメインアタッカーとして必要される能力だ。アッシュは今日、それを持っていると証明する事ができたのだ。あとで時間を作ってたっぷり褒めておきたい所だ。

 

 それはそれとして、現在怒りの湖へと向かっている。コイキングが大量に生息している事で有名な怒りの湖だが、ここは正しければその内色違いのギャラドスが出現する。それに対して自分がどうこう干渉する様な事はしない。色違い個体は普通のポケモンと比べると個体値がかなり高いが、それでもギャラドスはパーティーコンセプトに合わないし、他に必要とするトレーナーがそのうちでてくる。デルタ因子を与えたとしても生まれてくるのは炎タイプのギャラドス、アッシュとポジションが被るのでなおのこと必要はない。

 

 色違いだったらドーブルがいるし。

 

 まぁ、そんな訳で怒りの湖へと向かっている。チョウジタウンと言ったら怒りの湖だ。一回は観光しないと罰当たりというものだ。あの限界集落の収入源に多少は金持ちとして貢献する義務があるし。そんな訳で怒りの湖へと繋がる関所で入場料を支払い、怒りの湖とチョウジタウンを繋ぐ林道を歩いている。

 

 と、野生のポケモンが出現するのを忘れていた。

 

 林道脇の森の中からヘルガーが飛び出してくる。それに反応する様に素早く袖の中に忍ばせていたハンドガンを取り出し、ヘルガーの額に射撃しながら逆の手でモンスターボールを取り、スナップさせつつ中にいるポケモンを出現させる。額に弾丸を受けたヘルガーはショックバレットに一瞬だけ痺れ、回復した頃には桁の違う強さの黒尾に恐怖し、そのまま森の中へと戻って行く。

 

「あぶねぇ、あぶねぇ。そういやぁここもポケモン出るんだったな。最近唯一神に乗ってばかりだからすっかり忘れてたわ」

 

「あの、主? 少々不用心なのでは、それは」

 

「いや、唯一神を怒りの湖に沈めるかどうかを悩んでたんだ……」

 

『!?』

 

「ごめん嘘、アッシュが実はノーパンかどうかを悩んでいただけなんだ」

 

『ノーパンって何?』

 

『!?』

 

『何だと……!?』

 

 これは緊急会議モノかもしれない。というか雌ポケ陣、お前ら早目にそこらへん気付いて何かパンツ買っておいてやれよ、エンジュシティで大分自由行動許しているだろうが。後ついでにお小遣いとか色々出しているのだから買い物しておけよ。まぁ、しばらくは他の連中のを使わせるとして、黒尾を横に連れて怒りの湖への道を歩いて行く。

 

 咄嗟の事だが、射撃の腕は鈍っていないらしい。

 

 世の中、ポケモンを連れて歩いているだけでは駄目だ。

 

 ポケモンで戦わせるのが一番安全である事は確かだ。だけど、常にポケモンを場に出す事ができる訳じゃない。ポケモンが全滅していたり、開閉ボタンを破壊されてたり、ポケモンと分断されてソロになってしまった場合等、いろんな状況がある。それに合わせてトレーナー自身がある程度ポケモンと戦う事の出来る戦闘能力を持っている事が望ましい。特にロケット団の関係者である自分とかは、そこらへんかなり気を使っている。ポケモンを余分に二、三体持ち歩くのは当たり前だし、射撃訓練も、格闘訓練も受けている。その上で銃や爆薬の類の武装も保有している。勿論、非合法改造を受けてある銃とかもこっそり所有している。

 

 ポケモンを殺せる火力の武器を携帯していても安心できないのはボスといる間に十分理解した。

 

 ただまぁ、無駄に殺す必要もない為、基本的にはショックバレットとかをロードしており、それで痺れさせて怯ませたり行動不能に追い込んでいたりする。その間にポケモンを出すか逃げるかすればいいのだ。メタちーに関してはボールを内側から開けられるように細工してあるため、開閉スイッチを破壊しても外に出られるようにしてあるのだ。

 

「しかし怒りの湖かぁ……楽しみだなあ……」

 

『怒りの湖はジョウト地方有数の観光地の一つね。新人、貴女はまだ産まれて間もないから良く解らないけど、美しい場所を巡り、見るのは心を豊かにするわ。貴女もしっかり世界を見て、その美しさを胸に刻みなさい』

 

『はい、先輩!』

 

ガオーンガオー(なんか先輩後輩してる)

 

なうーん(羨ましそうだなお前)

 

 パーティー間での親交というものを自分は結構重視している。連携するにも、バトンするにも、共通した闘志を抱くにも、やっぱりポケモン同士で仲の良い方が遥かに効率が良いし、何より楽しい。そういう関係があった方がお互いに喜びを分かち合う事も出来る。だから個人的にはもっと、ポケモン同士で交流して欲しい、なんて思っている。

 

 まぁ、楽しくやれているのは良い事だ。楽しくないよりも遥かに良い事だ。

 

 少なくとも精神が健全だ。

 

 黒尾をボールから出しているおかげで野生のポケモンは寄ってこない。そういう時間帯なのか、トレーナーの姿も一切見ない。ただ森の奥には野生のポケモンの姿が幾つか見える。さっき襲ってきたヘルガーらしき姿があれば、その奥で隠れる様に走り回っているデルビルの姿も見える。木の上ではホーホーが夜に備えて眠っていたり、アリアドスが巣作りに勤しんでいる姿も見える。

 

 基本的に、亜人種は人との生活に近づいた結果生まれるポケモンの姿だ。野生のポケモンは基本的に原生種が多く、トレーナーの持つ卵から生まれたポケモンには亜人種が多い。基本的にそういう風に原生種と亜人種が分かれている。どちらの方が強いというには、個体値以外ではほとんど関係ない話だ。まぁ、だからというか、野生のポケモンは精神的に優しい事に原生種ばかりだ、女の子の姿をした存在がなにかやっている、という光景にエンカウントする事は滅多にない。

 

 滅多に。

 

 くだらない事を考えながら怒りの湖へと向かって歩く。実際にしょーもない事なんだが、割とこの世界に関する事を考えるのは楽しい。まだ世界全てを回った訳じゃないし、知らない事は多くあるのだ。だからそれら一つ一つ、自分の目で確認して、そして胸に刻んで行くのはこの世界で生きているという実感を与える作業なのだ。

 

「っと、まぁ、浸っていた訳なんだが―――誰だアンタ」

 

「……」

 

 怒りの湖へと通じる道を、一つの姿が塞いでいる。

 

 それは長い白髪を伸ばす仮面の姿だった。全身を黒いローブで包み、そして体から僅かな冷気を零しているのが感じられる。見た事のない奇妙な相手だと思う。無言でゴーグルを装着しつつ、黒尾と軽く、集中から意識のシンクロを行う。ポケモントレーナーとして求められる最上級の技能の一つ、シンクロ。それはトレーナーからポケモンに対して送る指示のラグを極限に減らす為の技能。一種の意識の共有とも取れるものだが―――互いに相当信用、信頼し合っていないと拒絶される。それが無言で、自然に出来るぐらいには黒尾とは絆を結んである。

 

 そうやって即座に指示を飛ばせる状態にしておきつつ、相手を睨む。

 

「で、誰だアンタ」

 

「―――ロケット団、オニキスだな」

 

「正確に言えばトキワジム、ジムトレーナー……って感じだけどな。んで、おたくは何もんよ」

 

「―――仮面の男(マスク・オブ・アイス)

 

 名前を聞いた瞬間、命令した。

 

「殺せ黒尾」

 

 即座に黒尾が動き、殺す為にだいもんじを放つ。それに反応する様に正面に氷壁を仮面の男は生み出し、正面からだいもんじをそれで防ぎ切った。それに合わせる様に横へと体を飛ばし、ベルトからボールを見えない様に落とし、それを蹴り転がしつつも右手で抜いたハンドガンを横から仮面の男に打ち込み、その体に弾丸を当てる。しかしそれを一切痛そうにする事なく、ショックを受けながらも後ろへと仮面の男は跳躍し、大きく距離を稼いでから着地し、氷壁を展開している。

 

 その姿にチ、と舌打ちしつつ銃を降ろす事無く、仮面の男へと向けたままにする。

 

「えーと……で、なんだっけ?」

 

「貴様……」

 

「敵のクセに前に出てくるのが悪い」

 

 黒尾の炎で氷壁が破壊出来なかったのが予想外だ。となると更に火力を上昇させるか、もしくは更に高い攻撃力を持っているポケモンに入れ替えるべきなのだろうが、相手が何もしてこないのが若干怖い。とはいえ、ボールを一つ、転がして忍ばせてある。隙を見せた瞬間懐から一気に殺す準備は出来ている。それで油断も慢心もしないが、それでも手札は一つ整っていると認識する。

 

「……多くは言わん。貴様もロケット団なら此方へ来い。私がロケット団を再生させ、そして征服の野望を叶えよう」

 

 開いている片手で中指を立て、そして明確に拒絶の意思を見せる。

 

「ファック・ユー」

 

「成程、残念だ。死んでもらおう」

 

「死ぬのはテメェだカスが。俺に命令できるのはボス一人だけだって理解したらこの世から失せろ」

 

 弾丸を放ち、氷壁にヒットさせる。一瞬で氷壁がスパークし、視界が閃光に包まれ、同時に夜の闇が発生した事によってスパークした氷壁の光量が増す様に見え、全ての視界を奪う。それを元々予想していた自分がフラッシュグレネードの様な現象を一瞬だけ目を瞑る事で回避し、そして黒尾がシャドーダイブで回避しながら仮面の男の真下へと出現する。それを跳躍しながら回避した仮面の男は氷の槍を生み出し、それを此方へと向けて投擲する。黒尾に追撃指示を出しながら横へ転がる様に回避した瞬間、

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 迷う事無く背後にナイトを出した瞬間、衝撃が背中越しに伝わってくる。磨かれた銃の表面を確認すれば、背後にはデリバードが存在しているのが見える。最初から戦闘を見越して伏兵を仕込んでいたな、と認識した直後、デリバードがふぶきを放ってくる。横へと手を伸ばし倒れようとすれば、それにナイトが噛みついて此方の体を大きく跳躍しながらふぶきの範囲外へとのがれる。

 

 空に上がったところでナイトに解放してもらいつつ、黒尾とナイトをボールの中へと戻し、一秒以内に出現ポケモンをサザラと唯一神へと切り替える。唯一神を仮面の男へ、サザラをデリバードと、そして何時の間にか出現していたユキノオーへと向ける。空中から受け身を取りながら着地しつつ、二人に継続戦闘を指示し、視線を仮面の男へと向ける。

 

 無機質な仮面からは感情の一切が伝わってこない。氷タイプのエキスパート―――ヤナギを思い出すが、ヤナギにしては動きが機敏すぎる。あの爺がここまで動けるとは信じたくはない。なぜなら唯一神の炎を正面から回避し、カウンターに氷でできた剣と槍を叩き返しているからだ。爺にそんな真似ができるとは到底思えない、やっぱり思いたくはない。

 

 まぁ、ポケモンが操作しているという可能性があるのだが。

 

「エンテイか……貴様は危険だな」

 

「唯一神! フレアドライブ! サザラ、蹂躙しろ!」

 

 待望の物理炎技を放つ唯一神が仮面の男の氷壁を破壊するが、即座に何重にも氷壁が生み出され、仮面の男が防戦に集中する。ポケモンを後一体投入すれば破れなくもないが、一度に三体のポケモンを指示すると細かい制御が効かなくなり、ミスが出てくる。その為、ダブルバトルまでが精密にポケモンを操作できる領域だと考えている。

 

 サザラを軽く盗み見すれば、霰によってダメージを喰らっているが、それでユキノオーとデリバードの攻撃を回避しつつ、キングシールドで受け流し、カウンターにはがねのつるぎを叩き込み、弱点ダメージを稼いでいる。パーティーのエースとも言えるサザラはあれで大丈夫だ。放置できる。故に完全に安心しない様に意識の一部を常にサザラへと向けつつ、唯一神に指示する。

 

「貫け、唯一神!」

 

 唯一神の纏う炎の熱量が一気に上昇し、仮面の男の氷壁を一気に蒸発させ、そのまま仮面の男の体を食い破る様に背後へと抜ける。その時のマントの下が見える。

 

 その体は完全に氷によって構成されていた。

 

「マスク・オブ・アイスじゃなくてマスク・アンド・アイスじゃねーか!」

 

「……」

 

 仮面の男の体が氷結し、即座に再生する。それを見て、一瞬で全てを蒸発させるのが最良か、そう判断した所で、

 

 ぐずり、と自分の体の中に走る感覚を覚え、”帰還”を理解する。

 

 もう指示は必要ない。大きくバックステップを取りながら唯一神とサザラをボールへと戻した瞬間、デリバード、ユキノオー、そして仮面の男の足元、その空間が砕け散る、反射的にデリバードとユキノオーが逃れるが、砕けた空間の向こう側―――破れた世界から伸びる影の触手が仮面の男を捉え、そして裏次元の世界へと引き込んだ。

 

 その世界の中にいる主、長い金髪に赤と黒のドレス、白いコート姿の”十八程に見える女”は両手を広げ、赤い瞳で仮面の男を捉え、そして引き寄せながら、

 

「―――誰の許可を得て妾のものに手を出した」

 

 そのまま圧縮し、手のひらサイズにまで握り潰し、消滅させた。

 

 そうやって仮面の男を始末し、その残骸を裏世界―――やぶれたせかいに放逐した存在は砕けた空間から外へ、此方側の世界へと戻ってくると、

 

 見慣れた子供の姿に、アナザーフォルムの姿へと戻っていた。

 

「いやーん! オニキスちゃんに恥ずかしい所見ーらーれーちゃったー! 視姦されちゃったしこれはもうお嫁にもらわれなきゃ駄目だー! というわけでオニキスちゃん、直ぐそこに限界集落があるんだけどラブホの一つか二つあるよね? 別にポケセンの共同部屋でもいいんだよ、私」

 

「お前の家はすぐそこだよ、早くお帰り」

 

 やだー、と叫んで抱き着いてくるギラ子の姿を鬱陶しげに蹴り落としつつも、記憶する。

 

 先程の仮面の男、アレは危険だ。

 

 絶対に正体を見つけ出し、殺さなくてはならない。

 

 次は絶対に殺す、そう決めながらまだまだやる事はいっぱいある。ギラ子が勝手に人の影の中へと住処の様に潜り込んで行くのを無視しながら、最低限の目的を達成させる為に、怒りの湖へと向かう。




 野戦 - 基本的にはポケモン1~2体がベスト。3体になるとポケモンの指示が難しい上に指示で時間がかかってしまう為、逆に戦闘が難しくなってしまう。自分で考え、行動できる賢いポケモンなら話は別だが、基本は1~2体で素早く指示して戦う。なおルール無用である。

 ギラ子のオリジンフォルム初登場。ギラ子の家はあの世界と影の中にあるそうで。

 漸くポケスペっぽいバトルになった。

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