目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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キキョウジム

 ―――仮面の男(マスク・オブ・アイス)等という正気を疑う襲撃者に襲われてから一日、その日の夜は奇襲に備えて見晴らしの良い場所でポケモンを常に二体夜番に立たせた状態で街から離れて過ごした。エンジュシティやチョウジタウンに戻らず夜を過ごしたのには理由がある。まず第一に、本気を出す為だ。本気で野戦を行う場合、周囲への被害を顧みる事ができなくなる。この場合、野戦最強の月光と蛮をフィールドに出す事になる、この二人が組む事で土砂流れやマッドストームを引き起こす事ができる。これが割と無差別であり、周辺に存在するものを容赦なく破壊して行く。その為、人のいる環境、空間では絶対に使えない禁じ手とも言える手段であり、”対伝説”に考えた野戦戦術の一つだ。星天解除の”りゅうせい”も基本的には野戦向けに考案したのを試合で使える様に調整したのが原点だ。

 

 個人的にあの仮面の男に関してはボスレベルを想定するべきだと判断した。赤帽子レベルには届かないが、それでもボスレベルに”手段を選ばない”狡猾さを感じた。故に所謂”戦争布陣”という、絶対に殺すという意思での布陣を敷いて戦闘の準備に取り掛かり、用意していた。その為に銃火器や公式戦では使用できない殺傷力の高い技や戦闘手段をポケモンに仕込んでいるのだから。そうやって警戒し、一晩が明け、

 

 仮面の男が来なかった為、相手に追撃する意思はないと受け取り、

 

 怒りの湖に行くことなくチョウジタウンを去った。

 

 

 

 

「―――うっひょー、これがキキョウシティかぁ……マダツボミの塔以外は特徴ねぇな」

 

 キキョウシティの中へと唯一神から降りて入る。チョウジタウンのまさに限界集落、というレベルよりは栄えているが、それでもやはりエンジュやコガネと比べると人口密度も建造物もレベルが低いと言わざるを得ない。目立つのはキキョウシティ奥にそびえるマダツボミの塔だが―――これはポケモンよりもトレーナーを鍛える事に主眼を置いた場所だ。ボスとの修行の結果、レベル30までだったら銃殺出来る様になったこの肉体には関係のない話だ。

 

 急所を狙って狙い撃つ。急所を狙って狙い撃つ。急所を狙って狙い撃つ。

 

「イワヤマトンネルでやったサバイバルを思い出してきた……!」

 

『アレは酷かったですねー』

 

なうー(手持ちなしだったか)

 

「そんな面白そうな事をやっていたんだ」

 

 影から出てきたギラ子が楽しそうにそんな事を言う。

 

 お前、楽しそうだがあの時は地獄だったぞ、と言っておく。

 

 手持ちなし、所持している武器は銃器やナイフでイワヤマトンネル、サバイバル生活。時々ボスが本当に恐ろしいものに見える気がするが、死神に見えたのはその時が初めてだった。まぁ、結局は生存して野生のポケモンに対して生身で生き抜く方法を身に着ける事に成功したのだから良かったのだが。それでもワンリキーのからてチョップを生身で受けたいとはもう二度と思いたくない。とりあえず乗り越えた話だ、もう思い出さなくていい話だ。

 

 忘れたい。割と切実に。あと話を聞いて爆笑しているギラ子は全力で蹴り飛ばす。

 

『あ、あの……ジム……行っちゃうの? 旅館に戻らないの?』

 

 控えめにアッシュがそう言って来る。まぁ、その気持ちは解る。一度旅館に戻って対策を考えた方がいいんじゃないか、というのは。でもそんな事はする必要がない。あの仮面の男は、

 

「アレは慎重な奴だよ。こっちと話しかける時デリバードをこっそり忍ばせてから奇襲させたし、殺し損ねたら即座に追撃するタイプじゃなくて、戦略を練って時間を置き、警戒が薄れたころに殺しに来るタイプだわ。とりあえず1、2か月は間違いなくアクションをしてこないと思っていいわ。あー……でも思い出して来たらムカムカしてきた。クレイモアまで仕掛けたのにこねぇとか」

 

『何時も思いますが、ロケット団の中でも主って特に手段をえらびませんよね』

 

 ボスが悪い。殺す時はたとえ年下の子供であろうと絶対に逃げられない様に両足を切り落としてから頭と心臓を潰せ、と言ってくるぐらいにはガチなのだ。ポケモンも、戦術も、戦略も、鍛錬も、全て教えてくれた事は本気だった。それを学んでしまったから自分もこう、ガチ武闘派ガチトレーナーな感じになってしまった。今ならトキワの森ぐらいならポケモンなしでもいくらでも生きていける気がする。

 

 ま、とギラ子が言う。

 

「なんだっていいよ。私のオニキスちゃんを狙うなんて事をするからカっとなって空間圧縮しちゃったけど、良く考えたらオニキスちゃんが私に勝てたのにあんな雑魚に殺されるわけないもんね! 久しぶりに逢えてちょっと興奮し過ぎちゃったかも」

 

 テヘ、とか言っているがお前の凶暴性は変わらない。早くやぶれたせかいに帰ってくれ。

 

 ショルダーバッグの中からアロマハーブを取り出し、それを葉で包み、煙草の様に軽くライターで火を点け、そして煙を吸う。流石に修行、訓練を受けたとはいえ、元がパンピーなのだ。暗殺されそうだったという事実にストレスを感じない訳じゃない。まぁ、もう二十三、二十四歳にもなって何を言っているのか、という話でもあるのだが。というか考えればもう二十も中盤という年頃になってしまった。十歳になって街から飛び出す新人トレーナー達の姿が、その若さが羨ましい。

 

 こっちに来る前はまだ十代だったのに、自分も大分歳を取ったものだ。

 

 アロマを吸っているせいか、大分落ち着いて来た。口にくわえたままそのままどこかにやる事もなく、真っ直ぐとキキョウジムへと向かう。悪いがマダツボミの塔に関しては一切利益を感じないし、キキョウで有名なグルメとかは特にない。いや、まぁ、探せばB級グルメぐらいはあるのかもしれないが、それでも今は特にいいかなぁ、という気分だった。

 

 それよりもジム戦だジム戦、さっさとバッジを奪って帰ろう。

 

 本来は街から街への間を数日かけて移動し、街に数週間ぐらい滞在しながらポケモンを育てて回るポケモンリーグのシーズン、ほとんど育成が終わっている自分はぶっちゃけ、移動の時間しか必要がないからバッジ回収が非常に楽に進む。もしジョウトで全ての目的を達成したら、次はホウエンにでも行こう。

 

 その時は皆のレベルをリセットして、新たな戦術を考えながらまた鍛えて、頑張ろう。

 

 そんな事を考えている内にジムへ到着。特徴のない街は早くジムへと到着しちゃうから楽だなぁ、と思う。フスベ同様、ポケモンの事を考えて広く、そして大きく出来ているキキョウジムの扉を抜けて、中に入る。何時も通り石造のあるエントランスにはアドバイザーの姿がある。

 

「おーっす、未来のチャンピオン! ここ、キキョウジムのジムリーダーハヤトは飛行タイプの使い手だ! 早い! とにかく早い! バッジ5個って事は6個目のジム戦だ、となるとハヤトも大分本気を出してくるのはもう解っているな!? ここ、キキョウジムでバッジ取得数が5個以上になるとハヤト側が常時”おいかぜ”状態で動いてくるぞ! ただでさえ速く鍛え上げられたハヤトのポケモン達、それが更に速く、そして力強く襲い掛かってくるぞ! あとついでに言えばノーチャージゴッドバードも撃ってくる! もうここまで来たらタイプ相性の話はする必要はないな? ポケモンとの絆を見せて、きばってこーい!」

 

 おいかぜ、はやてのつばさ、ファイアロー。

 

 悪夢が俺を待っている。

 

 いや、ファイアローはジョウトに存在していない。ハヤトが輸入さえしていなければ。だがタンバのシジマはローブシン持っていたではないか。いやいや、まさかファイアローを持っているなんてことはないだろう。それを抜きにしてもはやてのつばさ持ちの鳥ポケ集団とか軽く悪夢でしかないのが。

 

 ノーチャージはやてのつばさ常時追い風ゴッドバードとかふざけんじゃねーよ!

 

 やってられっかよ!!

 

 そんな事を思いながらジムの奥へと向かえば、扉を抜けた先に大きなバトルフィールドが設置されてある。最近、仕掛けなしのジムにばっかり当たっている気がする。きっと、ヒワダジムとフスベジムは楽しいギミックを用意してくれているに違いない。フスベジムに関しては悲鳴しか期待していないので実際はどうでもいいのだが、フライゴンさんがジムトレーナー皆殺しにしそうで怖いと思う部分もある。

 

 ともあれ、

 

 キキョウジムのバトルフィールドは非常に広い。ヤナギジムの二倍の広さだと思う。飛行ポケモンを最大限に運用するには広大なフィールドが必要となる。その為、ギラ子の本来の姿クラスの大きさじゃなければ、十分に暴れ回れるような、そんなレベルの広さがジムにはある。ギラ子も珍しそうにへぇ、と言葉を漏らして周りへと視線を向けている。そんなギラ子の姿を無視し、視線をジムの奥へと向ければ、袴姿の青年が見える。片目を髪で覆い隠す彼こそがキキョウジムのジムリーダー、ハヤトだ。

 

「ようこそキキョウジムへ、俺がキキョウジムのジムリーダー、ハヤトです。貴方の噂に関しては他のジムリーダーから良く聞かされています! 一切の手加減が不要な強力なトレーナーであると! 俺自身、まだジムリーダーに就任したばかりで、そこまで実力があるわけではありません。故に、6vs6、レベル無制限、持ち物重複なし―――”ポケモンリーグと同様のルール”でジム戦を行います! 宜しいでしょうか?」

 

「何がなんでこうなったかよく解らんがとにかく良し! 受けて立とう!」

 

「オニキスちゃんがまるで挑戦される側みたい」

 

 まぁ、どこからどう見てもハヤトの方が年下だから仕方がない―――そしてその年齢でジムリーダーを任せられる才能と能力を持っている、という事でもある。楽観は出来ない。ジムリーダーの手持ちだ、恐ろしいレベルに鍛えられている筈だ。油断も慢心もする事なく、持てる力で圧殺して行くしかない。今回のバトルの鍵は蛮とナイトだ。この二人を上手く運用する事がこのバトルで、此方のペースを握るキーになる筈だ。

 

 キキョウジムに来る前に手持ちのポケモンの持ち物は調整してきた。

 

 一番有効なのは蛮のストーンエッジを叩き込む事だが、当然飛行タイプのエキスパートとしてそれを警戒して来るだろう。だから交代戦術、そして天候パーティー使いとして、どうやってその考えの裏をかけるかを理解しなくてはならない。

 

 6vs6、パーティーのスタミナ配分を考えなくちゃいけない。

 

 ―――チョウジジム戦で天候の”先”が僅かに見れた。少しずつ、少しずつ前へと向かって行くのだ。

 

「―――行け、プテラ!」

 

「―――染めろ、黒尾!」

 

 ハヤトがプテラを場に出すのと同時に場に黒尾の姿を出す。夜の闇が広いジム内を包むのを確認しつつ、ゴーグルを降ろし、そして聞こえない様に呟く。

 

「バトル・スタート」




 サクサクとキキョウジム戦を開始。ついにレベル無制限でのバトル。今迄は50制限だけどバッジ5個取得して来るとポケモンリーグが見えてくる頃、出場する資格があるかどうか、本気で調べてくる辺りになってきます。なお7個と8個になるとそんな事よりも貴様は殺すレベルになってきます。

 じむぎみっく
エンジュ - 常時夜(最近導入)
アサギ - 砂嵐状態
チョウジ - 氷のフィールド
コガネ - 状態異常にかからない(ジム側
タンバ - シジマが殴りかかってくる

 攻略済み勢はきっとこんな感じ。約一か所がおかしいような気もするけど、きっと気にしてはいけないのです。

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