目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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39番道路

「蛮ちゃん、モーモー牧場が見えてきたな」

 

ガウ(そっすな)ギャァァオゥ(結局走りっぱだった)

 

 スクーターの速度を落としながら、夕陽がかかる地平線の向こう側に牧場特有のフェンスに仕切られた大地が見えてくる。まだまだ入口は先の話だが、それでも牧草地には原生種のミルタンクが草地に転がって休んだり、牧草を食べてゆっくりと時間を過ごしているのが見える。時折此方へと視線を向けては興味なさげに視線をそらす姿はどうも、トレーナーやポケモンという存在に慣れている様に見える。まぁ、モーモー牧場横の39番道路は多くのトレーナーがアサギシティやエンジュシティへと向かうために利用する道路だ、そりゃあ見慣れるだろう、という話だ。

 

 ここまでくればポケモンと戦う事を心配する必要もない。

 

「蛮ちゃん、お疲れ様」

 

ガーオー(お疲れーっす)

 

 スクーターを走らせたまま横の蛮へとモンスターボールを向け、中へと戻す。そのボールを再びボールベルトへと装着させたら真っ直ぐ、正面へと、モーモー牧場の横を入口目掛けて進む様にスクーターを走らせる。途中で一回、昼休みの為にスクーターを止めたが、それ以外はずっと走らせっぱなしだ。そろそろ自分のケツをスクーターのシートから解放したい頃合いでもある。地味に道路は舗装されておらず、おかげででこぼこしている所が多いのだ。

 

 アスファルトやらなにやらで整備されているのはそれぞれのシティやタウンの中のみ、それらを繋ぐ道路に関してはそこまで開発されていない。あるいはそれは、野生のポケモンの為なのかもしれない。だから高速道路とかが存在しないのだろうか。それはともあれ、段々と夕陽が暮れて夜へと近づくこの時間帯、遠くにモーモー牧場の入り口が見えてくる。モーモー牧場はポケモン協会と契約しており、旅のトレーナーに対して労働を対価に泊める所を、或いはキャンプする為の安全な土地を提供してくれている。

 

 その為、少し押してでもモーモー牧場には到着したかった。実際ポケモンが全く出現せず、安全に野営の出来る場所というのはかなり珍しい。野生のポケモンが出現する場所でキャンプするのであれば、必然的にポケモンを一人、或いは一匹を夜の間の見張りとして出しておかないとならない。勿論、そうすると昼間に疲れが残る為、昼間の間に眠らせなくてはならない。まぁ、そんな事でトレーナーとしては安全なキャンプ地を確保する知識も重要なのだ。

 

 そういう事もあって、モーモー牧場に到着する頃には思わず笑顔が零れた。スクーターから軽く跳ねるように降りて、スクーターをモーモー牧場の駐車場に置き、軽く体を動かす。やはり何時間もスクーターに乗りっぱなしは体に辛い部分がある。まぁ、こちらに来てからポケモンの相手をする為に大分身体能力は上がったのだが。

 

『主、主。モーモーミルクをお忘れなき様に。モーモーミルクは栄養たっぷりで飲みやすく、それでいてポロックやポフィンの材料として使うと極上の味になると言われていますから。ね、主。絶対買ってくださいよ』

 

『お前今絶対尻尾ぶんぶん振り回しているだろ』

 

 黒尾が九本の尻尾全てを振っている姿を想像し、軽く笑う。黒尾とはパーティーメンバーの中では一番長い付き合いをしている。トキワシティで一番最初に仲間にしたポケモンであり、ここまでずっと一緒にやって来た相棒なのだから。だから割と黒尾の事は良く解っているつもりだ。説教臭い癖に心配性だとか、面倒見が良いのは実は寂しがりやな部分を隠そうとしている所だとか。ちなみにパーティーメンバーの中で意外性を求めるなら、サザラがあの極悪な性能と、物凄いエロい体つきと恰好のクセにして可愛い物好きとかいう属性を持っていたりする。

 

 あと自分より強い奴を絶望させるのが大好きとかいう魔王性も持っていたりする。

 

 サザンガルドが公式戦から出禁を喰らう未来はきっと近い。その前に一部の害悪ポケの出禁を頼みたい所だが。

 

「えーと……こっちかな?」

 

 事務所っぽい所を探し見つける。扉を抜ければ小さな受付の姿が見える。その向こう側には麦わら帽子を被った男の姿が見える。軽く頭を下げ、近づく。

 

「すいません、旅のトレーナーなんですけどキャンプスペースをお借りしたいんですが」

 

「あー、はいはい。ここにお名前と滞在日数の記入をお願いね。あまり長く居座られると困るから、最大三日までだよ」

 

「明日の朝にはエンジュに向けて出るので大丈夫ですよ」

 

 サクサクっと記入を終わらせ、キャンプスペースが何処にあるのかを教えて貰う。ついでにモーモー牧場の販売店の場所も教えてもらい、後で購入しに行こうと決める。それよりもまずはキャンプスペースに許可を貰ったからそちらの方にテントを張ってしまおう。事務所から出てモーモー牧場の事務所や販売店、宿舎のある建造エリアの裏手、牧草地の反対側へと向かえば、そこには広い草地のスペースが広がっている。複数のテントが点在するこのスペースこそがキャンプスペースだ。

 

 トロピウスとバンギラスという大型カテゴリーに入る二匹がいる事を考え、他のテントから少々距離を開ける事にする。ショルダーバッグの中からシルフカンパニー製、圧縮テントキットを取り出す。三十センチ程の箱にモンスターボールと同じ様な技術で圧縮されたテント、それをショルダーバッグから取り出して、草地の上に置く。それが終わったら腰のモンスターボール二つに触れ、手に取ってスナップさせるように素早く開閉させる。

 

「月光、黒尾、組み立て頼む」

 

「あいあい、任されたで御座る」

 

「めんどくさがらずに自分でやった方が良いですよ、全く」

 

 文句を言いながらも黒尾、そして月光がテントの組み立てを始める。この二匹ももう慣れたもので、てきぱきと慣れた様子でテントの組み立てを行う。そうやって彼女たちを働かせている間に、視線を他のテントの方へと向ける。テントは全部で五つ程あった。黒尾と月光が組み立てているテントを含めれば全部で六つ、予想よりもテントの数が多い。いや、今がポケモンリーグのシーズンなのだ。今年はセキエイ高原でポケモンリーグが開催されるのだから、トレーナーが多くて当たり前か、と思う。

 

 何せ、エンジュからアサギへと向かう為の陸路はこの39番道路しか存在しないのだから。それなりにリサーチを行っているトレーナーであれば此処を利用しているだろう、距離的にアサギへと一日で行ける距離だし。自分の様にスクーター、或いは自転車やポニータやギャロップ、ジョウト地方ならドンファン辺りかもしれない、そうやって素早く地上を移動できる手段があれば、割とジョウト地方を回るのは難しくはない。

 

 まぁ、めんどくさいのはタンバジムぐらいだ。

 

「……一番相手をしたくないのはバッジが6、7個集まった状態のコガネとタンバジムだな……」

 

「基本的に格闘は相性が悪いですからね。私達が全体的に悪タイプに傾倒しているのが一つですし、タンバジムのジムリーダーであればジムリーダーとポケモンの両方が”こころのめ”を習得しているか、指示する事が出来るでしょう。こうなってくると闇や濃霧を利用しても面倒な事になりますし、月光辺りでゴリ押す必要が出てくるでしょう」

 

「もしくはひたすら積みまくってサザラ殿にバトンで御座るな。頭の悪いサザンガルドの耐性と才能(6V個体値)であらば、正面から殴り合って負ける事はないかと思われるで御座る。しかし、それでも格闘タイプが怖いで御座るな。まぁ、場合によっては拙者がゴーストタイプ化してハメるという手が一応あるので御座るが、サブウェポンを用意しないジムリーダーとかありえんで御座るしな!」

 

『コガネはノーマルタイプのジムだったっけ? まぁ、格闘程酷くはねぇんだろうし、ギルガルドで弾いてりゃあ相性的にゃあそこまで問題ねぇけど、苦労して覚えたシャドーダイブとかが使えなくなるのは戦術的に痛いよな』

 

 そうだなぁ、とポケモン達に答える。現状、コガネジムとタンバジムが一番怖い。この二つだけは絶対最後にまで残したくはないと思っている。モンスターボールからメタモンを出すと、メタモンが椅子へと姿を変えてくれる。その上に座り、足を組みながらポケギアの情報機能をオンにし、そこからジムリーダーのリストを出現させる。

 

「現状の予定だとアサギから始まってエンジュ、タンバ、コガネ、って空を飛べるようになったら即行で面倒なジムから終わらせるつもりなんだよな。残ったキキョウ、ヒワダ、チョウジ、フスベジムに関しては相性はそう悪くはない。ただ月光メインの夜空濃霧で攻める形で行くならキキョウジムが面倒になってくる。おそらくは高い確率できりばらいを用意しているだろうと思う」

 

「……別に拙者メインで戦う必要はないので御座るよ?」

 

 振り返る月光に対してまぁ、そうなんだけど、と言葉を置き、

 

「まぁ、夜空濃霧は”魅せ札”だからな、ある程度これを使い続けて、イメージをポケモンリーグ前に植え付けておきたいんだよな。ジム戦は見学自由だからな、ある程度バッジを取得して来ると情報収集の為に見学し始めるやつが出てくる。だから魅せ札で名前を通しておけば、利用された場合にリズムが崩せるからな。それにこれで通じる間は手持ち三人だけで完封できるしな。となると蛮ちゃん、ナイト(ブラッキー)にサザラの情報を秘匿できるしな」

 

「まぁ、バッジ五つ目か六つ目辺りで蛮やナイトを出す必要は出てきそうですけどね。おそらくそこらへんからはジムリーダーも手持ちに育成済みの本気面子を何人か混ぜてくるでしょうし」

 

 ジム戦はそこから、ジムリーダーがスタメンを使用して来る辺りからが本番だ。幼少の頃から一緒に育ったポケモン、徹底したトレーニングを受けたポケモン、或いは変種、固有種、特異個体種、そういう特別なポケモンをバッジが6個目や7個目の状態になってくると使用して来る。ここら辺になってくると普通に戦うだけじゃ勝てない、ちゃんとした戦術を考えて、ハメて行く事を考えなくてはならない。

 

 ポケモンリーグ出場の壁は本当に高い。

 

「個人的に最後に残したいのはフスベなんだよな。ドラゴンジムに関してはガチでゴンさん無双ゲーが開始されるから、心配もクソもないんだよな。ヒワダも少々戦術的にめんどくさい事もあるってのは解ってるけど、何よりもチョウジを7個目のバッジに回すよりは断然マシか。チョウジジムのジムリーダーヤナギは爺の分、ポケモンに関する経験がヤバイし」

 

 そういう意味ではボスもかなりヤバイ。知識ではどうにもならない戦闘経験、直感、そういったものが何百何千と繰り返されたポケモンバトルを通して磨かれている。それはこの三年間、ボスの背中を追いかけるように頑張って来た自分であっても、どう足掻いても届かない領域だった。経験と戦闘から来る直感。それだけはやはり、数をこなす以外に埋める方法はない。だから、ヤナギは厄介なのだ。タイプや相性等は別として、このジョウト地方で一番戦いたくないジムリーダーのトップに入ると思う。

 

 ただジム終盤に入っていなければ、まだやりようはある。

 

 このジムの攻略の順番もまた、トレーナーとしての頭脳、そして実力が問われる話だ。

 

「設営完了で御座る」

 

「終わりました」

 

「ういうい、お疲れさん。売店の場所はさっきの話聞いてて解ってただろ? ほれ」

 

 サイフの中から三千円ほど取り出し、それを黒尾に渡す。それを受け取った黒尾が大きく尻尾を振り回しながら、売店へと向かって行く。その姿を月光は苦笑し、闇の中に溶ける様に追いかけて行く。あの黒尾の上機嫌さを考えれば、今夜は寝袋の代わりに黒尾のもふもふな尻尾をベッド代わりに眠れそうな気がする。キュウコンの尻尾は数多くあるポケモンの素材を通して、最高級に入る素材の一つだ。その中でもデルタ変種である黒キュウコンの黒尾の事は言わずもがな、一度触れただけで魅了されてしまう素晴らしさがある。

 

 今夜はいい夢が見れそうだ。

 

『あら、誰か此方へと近づいてくるわよ』

 

 災花の声に視線をテントから外して背後へと向ければ、此方へと向かって歩いてくるトレーナーの姿が見える。高機能ジャケットと動きやすいブーツにロングパンツ姿のトレーナーは、片手を上げながら挨拶をする。

 

「ごめん、聞き耳をする形で話を聞いちゃったかもしれないんだけど……君もポケモンリーグ目指しているんだって? いきなりで悪いんだけどちょっと対戦相手を探していたんだ、相手をしてくれないかな?」

 

 近づいて来たトレーナーの突然のバトルの申し込み。

 

 驚く―――事なんてない。トレーナーたるもの、視線を合わせたら即バトル。

 

 これ、ガチの現実である。こうやって勝負を挑んでくるのはポケモントレーナーとしては珍しい事ではない為、バトルをする事に否定はないのだが、それとは別の問題がある。

 

「あー……さっき売店に向かったのを見れば解ると思うけど、俺の手持ちって結構高レベルだけどいいか? 大体で言うとオーバー80だけど」

 

 そう、レベルだ。前の地方で一度レベルリセットしているとはいえ、ジョウトではそれを行っていない、というかジョウトで出来るかはわからない。その為、単純に個体としての能力が高い、レベルが高いのだ。オーバー80、つまりレベル80より上というジム戦最終クラスからポケモンリーグでの最低限の戦闘力のラインだ。

 

「あ、一応こっちの手持ちはオーバー50だからそれに合わせて人数を減らしてくれると助かるかな、流石に同数だと絶望的だし。此方から対戦申し込んでいる形で悪いんだけど―――」

 

「あぁ、いやいや、ポケモントレーナーたるもの、バトルしてナンボだからね。んじゃあルールは2vs6のシングルレベル無制限、同名の装備禁止の道具使用禁止で良いか? 賞金ルールに関してはそのままで」

 

「オッケオッケ、問題なし。明日からアサギ、タンバって予定だからジム戦前に戦術とかを確認したかったんだ。付き合ってくれて助かるよ。バトルは一旦モーモー牧場から出てやろうか」

 

 そう言ってトレーナーが外を指さし、それに同意する。黒尾と月光が売店へと向かってまだ戻ってきていないが、まだ他の四人のボールがここにはある。ちょくちょくサザラとかを運動させないと不満が溜まるだろうし、というか先程からバトルの話に入ってからずっとサザラの入ったモンスターボールが揺れまくっている。バトルさせろと激しく自己主張してきている。

 

 まぁ、オーバー50なら5タテぐらいしたところで沈むかなぁ、と予想しておく。

 

 ステルスロック、どくどく、ふきとばしかほえるで強制的に吹き飛ばせばそれで削れるし、手持ち二体制限だったらそこそこ有効な戦術もある。まぁ、都市部みたいにレベル制限が行える施設がなければ、野良の勝負なんてものはこんなもんだ。

 

 とりあえず、

 

 もうすぐ夜になるこの時間、久々にサザラを大暴れさせよう。




 かなり捏造設定とか妄想成分多分ですよ。

 ゲーム的なシステムをかなり無視しているので、訓練すれば本来は覚えない筈の技(シャドーダイブ)等を覚えられるとか、サザンドラがギルガルドを装備してサザンガルドに進化する等、割と滅茶苦茶な事をします。当然似た様な事をジッムリーダーは笑顔でやってきます。

 最終バッジ戦フスベジムだと無反動必中りゅうせいぐん連射とか。

 気合と愛と根性とカオス理論で突き進むポケモンのお話がこれです

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