目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ヒワダジム

「とりあえず俺の名前はオニキスだ。お前の名前は?」

 

「シルバー」

 

「オッケイ、シルバー少年。まぁ、早速オニキス大先輩のポケモンバトル講座と行きたい所だが、俺は本来ヒワダジムに挑戦するつもりで来てるから、とりあえずそっち始める前にジム行くぞ。丁度ガンテツもいないしジュンサーも来てないし、パパっとジムを終わらせたら拠点へ行く。そっちの方でお前には足りない技術をみっちりと教えてやる……オーケイ?」

 

「解った」

 

 素直に従ってくれるのは此方の実力を理解しているからだろうか? まぁ、シルバーは逃げる様子を見せない。それは良い事だと思う、逃げられた場合は追いかけるのが面倒だし。適当な所でシルバーに発信器を仕込んでおこう、そう思った。丁度ガンテツもジュンサーもいないので、この隙にジム戦を終わらせる。そういう魂胆の下、サザラを使って一瞬で井戸から脱出し、ボールに戻しながらシルバーと共にポケモンジムへと向かう。

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

「……ポケモンリーグを狙ってるのか?」

 

「おうよ。お前の年頃なら誰だってポケモンリーグを夢見るもんだろうけどな。まぁ、俺が求めてるのはポケモンリーグじゃなくてその向こう側、ポケモンマスターの称号を得て、シロガネ山へと向かう事なんだよ。あそこは浅いエリアだったら50から60レベルのポケモンしかいねぇけど、奥へと進めば進むほど凶暴化されて、最終的には100レベルのポケモンが野生に存在しているからな。ポケモンマスタークラスじゃねぇと安心して侵入を許せないって場所なんだよ」

 

 シルバーはそこで軽く驚く様な表情を向けるが、それを見て軽く笑う。

 

「男ってのは常に何かに飢えているもんよ。俺も、お前もな。俺は野心とか否定しないぜ。俺から盗めるだけ技術を盗んだら好きなだけ暴れればいいさ。俺も経歴まっさらって訳じゃねぇしな……っとポケモンジムに着いたな」

 

 そうこう話している間にポケモンジムに到着してしまった。ジムの中に入ると、アドバイザーが此方の事を迎えてくれる。

 

「おーっす、未来のチャンピオン! バッジ六個ってすげぇなぁ! しかもその様子だとフスベラストとかホント勇気があるよな! とりあえずタイプ相性の話をする必要はないな? ここ、ヒワダジムのジムリーダーツクシは男の娘属性をもった奴だ! 偶に尻にムラっと来る時があるからこのジムはやべぇ! だがもっとやべぇのは七個目のバッジを求めたバトルでは固有戦術や決戦フィールドの使用許可が出てるって事だぁ! ツクシの決戦フィールドはそのまんま、虫ポケモンを自由に動かせる森そのものだ! そんじゃ、きばってこーい!」

 

「おい、変態がいるぞ」

 

「世の中そんなもんだよ。そんじゃ観客席から見ていてくれ、サクっと試合を終わらせるから」

 

「……解った」

 

「……ふむ」

 

 横の扉を抜けて観客席の方へと歩いて行くシルバーの背中姿を見送ってから、自分もジムの方へと向かう。シルバーが妙に大人しい、というか此方に従っている事が驚きだ。個人的にはもっと反逆心の強い跳ねっ返りというイメージがあったものだが、ちょっと不気味に感じる、あのおとなしさは。まぁ、それに関しては後で追及するとして、

 

 今はジム戦だ。

 

 バトルフィールドへと通じる扉を抜けて広がっているのは文字通り、森だった。草木が生い茂り、ジム戦を行うはずの場所は反対側を見る事がない、森へと変貌していた。その前にはジムリーダーである快活な格好の少年のツクシの姿が見える。あぁ、確かにこれはアドバイザーの人が道を誤りそうになるなぁ、なんて感想を抱きつつ、視線をツクシへと向けると、

 

「トキワの森のオニキスさんですね。話は他のジムリーダーから聞いています。恐ろしく強いトレーナーが素早くジム戦を突破し、バッジを集めていると。おそらく今シーズンの最速記録となっていると思います。全力で勝負する為の準備は完了しています。公式戦ルールでレベル無制限、6vs6……宜しいですね?」

 

「宜しくお願いします」

 

 頷きながらツクシに軽く頭を下げると、ツクシがフィールドの中へと入って行き、駆けるように反対側へと消えて行く。その間にゴーグルを再び下ろし、黒尾の入っているボールを手に取り、転がしながら口を開く。

 

「いいか、お前ら。あそこにいるのが俺らの若様だ。ボスの息子だ。お前らボスが若様を探す為にどれだけ血を吐く様な思いをしてきたのかは知っているよな? ……無様な姿は見せない。技、特性、素質、技術、制限は一切付けない。正面から一気に蹂躙して潰す」

 

 ボールの中から返答の咆哮が響いてくる。良い返事だ。やる気と殺気に満ちて行く。幸い、ツクシは駆け引きが必要な相手ではない。決戦フィールドを合わせ、蹂躙、或いは圧殺が可能な相手だ。一切の遠慮をする事無く、踏み潰す準備は完了している。

 

 ピ、と音が聞こえる。お互いが見えない為のポケモンバトルのカウントダウン音だ。

 

 再びピ、と鳴った事で無駄な思考を全て頭から排除し、

 

 三度目のブザーが鳴り響いた所でモンスターボールから素早く黒尾をフィールドへと向けて出した。

 

「見せつけてやるぞ、黒尾」

 

「お任せください主。この魂に誓って主のねがいは絶対に果たします。さあ、行きますよ有象無象。環境支配パーティーに決戦”フィールド”を持ち込んできたことを後悔させてあげます―――」

 

 ボールの炸裂音が森の反対側から聞こえる。相手もポケモンを出したらしい。ならもう動いても良いのだろうか。天井を見上げ、黒尾の特性によって夜空が浮かび上がっているのを確認し、そして再び視線をジムの中央、森の中へと向ける。虫ポケモンの実力を最大限発揮できるステージ、それは森だ。複雑なその環境が虫ポケモンを隠し、守り、そして相手を攻めるのに利用できる。故にそれが邪魔だ。黒尾を突撃させ、そして命令する。

 

「とっておきだ」

 

「―――Vジェネレート―――」

 

 瞬間、炎が大爆発するように発生する。夜の闇が発生した炎の熱量と勢いに一気に吹き上がり、天井へと叩きつけながら横へと広がり、一瞬で火砕流となって森を蹂躙し、焼き尽くす。本当の森でやれば間違いなく地獄絵図確定である光景、それをVジェネレートという、究極技を超える絶対破壊の炎タイプ最終奥義、それで成し遂げる。一瞬でツクシがジム戦の為に用意した決戦フィールドが半壊し、火の海が生み出される。その中で倒れているヘラクロスを目撃する。Vジェネレートを避けきれなかったのだろうか。まぁいい。

 

 相手がポケモンを交代するのに合わせ、闇夜に溶けるように黒尾がボールの中へと戻ってくる。能力変化―――つまりはVジェネレートによる下降効果を引継ぎながら、バトンを今度は次のポケモンへと回す。

 

「行け、アッシュ」

 

「ツボツボ! この相手は予想以上にヤバイ、止めるんだ!」

 

 アッシュが場に出た瞬間、夜空を星々の輝きが覆い、眼下の火の海を更に燃え上がらせながら、アッシュの炎の力を引き出し始める。いのちのたまを片手に握ったアッシュに対して、即座に命令を下す。

 

「Vジェネレート」

 

「守るんだツボツボ!!」

 

 咆哮と共にVの字に炎が描かれ、そして即座に爆発して火砕流となってフィールドを覆った。その熱と破壊の反動に若干体を後方へと押されつつも、ツボツボがまだ健在であるのを確認し、更にVジェネレートをアッシュへと放たせる。最強の炎技が再びツボツボに対して叩きつけられ、それと共にフィールドが完全に火の海に染まる。ツボツボを完全に戦闘不能に追い込みつつ、完成した。

 

「―――フィールドが……!」

 

「これが環境支配だ」

 

 草案はヤナギの氷のフィールドを見て思いついた。ポケモンの特性や技で天候を支配できるなら、地上の状況も、環境も支配出来る筈だ。そうすれば天だけじゃなく、地も支配し、戦う場全てを此方の意識で操作できるという事になる。相手がツクシという虫ポケモンの使い手で、そして此方の先鋒が黒尾で良かった。Vジェネレートを重ねる事でフィールドを名付ければ”ひのうみ”に変化させたのだ。

 

「6:4、こっちがリードだ、回していくぞ―――黒尾!」

 

 燃え盛る炎の海を泳ぐように、星天に導かれてアッシュがボールの中へと戻って行く。再び、素早く黒尾をフィールドへと出せば、相手側にはヌケニンの姿が見えている。次の瞬間に何が来るのかは理解している。その為、黒尾が命令するまでもなくきつねびで更にひのうみっぷりを加速させ、ヌケニンが、

 

 みちづれを望んだ。

 

 火の海によって燃やされ、体力の削れたヌケニンが戦闘不能になり、その怨念が黒尾をみちづれに沈めた。黒尾をボールの中へと戻し、Vジェネレートによる低下の引継ぎをここでリセットする、よくやった、と胸中で黒尾を褒め、そして次に出すポケモンは―――蛮だ。

 

「さあ、環境をドンドン壊して行くぞ蛮ちゃん、お前の理不尽さを見せつけろ」

 

「ゴギャァァァァァォォォ―――!!」

 

 ジムそのものを揺らす様に出現した蛮が吠える。巻き起こった砂嵐がジムの環境を一変させる。星天は崩れ去り、そして暴君の登場で一瞬で全てが荒廃し始める。火の海は完全に消え去り、そしてその代わりに生まれるのは砂漠と荒野。荒れ果てた大地に巻き起こる砂嵐が足を取り、そして体勢を崩す。出現したカイロスは足場に溜まりつつある砂に足を取られ、その体勢が崩れる。その瞬間に接近した蛮が一気にカイロスを殴り上げ、殴り上がった姿を掴み、大地に叩きつけ、

 

 そして踏みつけるように地震を放った。

 

 そうやってカイロスを屠り、高揚したように咆哮を轟かせる。

 

ギャァァーオ(死にたい奴から来い)!!」

 

 蹂躙。圧倒的蹂躙。それが今、ジムリーダーであるツクシ、そして挑戦者である自分の前で繰り広げられていた。フィールドの破壊、環境の裏返し、そして主力四体の一気撃破。それがショックとして叩きつけられている上に、ツクシはジョウト地方のジムリーダー最年少である。故に、その経験は他のジムリーダーに比べるまでもなく、低い。ヤナギであれば、あの老人であれば、Vジェネレートの時点で対応してきたと確信する。おそらくジュゴンの熱い脂肪で乗り越えつつハイドロカノンかハイドロポンプでVジェネレートをある程度弱め、しかし同時に雨乞いで環境を整える程度には。

 

 それとも逆に炎で氷が解けるのを利用し、水中戦を挑んでくるかも知れない。

 

 だが”それ”は経験者の武器だ。俺がゲームシリーズでの戦術を理解し、多くのポケモンの特性や能力を把握しているのに対し、ツクシにはそういう”メタ”とも言える情報や知識が存在しない。俺の様にグラードンとカイオーガを参考に、天候変化からの環境支配なんて戦術を思いつけもしないだろう。

 

 決して馬鹿にしている訳じゃない。そもそもツクシの年齢でジムリーダーに就任出来ているのが異例というレベルを超えて、異常という領域に入るのだ。

 

 ただ一つ、付け加えるのであれば、運が悪かった。

 

 数年かかって黒尾に教える事に成功したVジェネレート、

 

 それをたったの1か月で習得してしまった、天賦の才を持つリザードン―――アッシュ。

 

 もし彼女が存在しなければ、バトンで交代し、回しながらVジェネレートを連続で放つ、何てことは出来なかった。

 

 つまり、今のこの状況を説明するとすれば、

 

 ―――相手と相性が悪かった。それに尽きる。

 

「さあ、恥ずかしい所を見せる事は出来ない。最後の瞬間まで油断も慢心もせずに圧殺するぞ」

 

「ゴギャァァァォォォォ―――!!」

 

 命令に対し、蛮が高揚する様に吠え、返答する。

 

 勝敗は見えている。いや、他のトレーナーとの戦いであろうとも、結果は最初から見えている。

 

 ―――自分はボスと赤帽子以外には絶対敗北しないと誓っているのだから。




 Vジェネレート及びptの本気戦術、切り札解禁。

 ボスの息子にカッコいい所を見せたいところ大人げない事をする24歳。書いている人は人間のヒロインがそういえばいねぇ、とか漸く気付き始めた。これも全部フーパって奴が悪い。

 ほんじつ4こうしんめ

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