目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーションシルバー

 ―――ヒワダジムは完全な蹂躙となった。最終的な成績は4:0で、意地でアッシュをエースのハッサムが落とし、決着された。これによってジムバッジは七個目を取得、いよいよポケモンリーグ参加までに必要なジムバッジは残り一個となった。後半、というか試合が終わった後、ツクシが半泣きだった気がするが、想像以上に”火の海”が成功してしまったのが悪い。あと全ては天賦の才でVジェネレートを習得できてしまったアッシュが悪い。そんな言い訳をしながら、ヒワダジム攻略から一日が経過していた。

 

 本来であればこのまま即座にフスベシティへ行き、フスベジムをフライゴンさん無双で一気に終わらせる予定ではあったが、シルバーを拾ってしまった為、予定が大幅に狂う。まずシルバーを見ていない状態で外を出歩くのを止める必要がある。何せ2歳の時にシルバーは誘拐され、今まで行方不明だったのだから。そういう訳でヒワダタウンでジム戦が終わったらジュンサーにバレる前にヒワダタウンを唯一神を使ってシルバーと共に脱出し、拠点であるエンジュシティの旅館へと戻ってくる。

 

 一人分代金を追加すればそれで済む話なので、部屋にまた一つ布団が増えた。

 

 

 

 

 そんな訳でヒワダタウンから戻って来て一日が経過した。ジム戦のアレコレや勢いのアレコレ、それが全て抜けて、一旦スッキリしてリセットされた状態に一日もあれば、なる。シルバーに手持ちのポケモン達を全て連れさせ、そしてエンジュシティの公園へとやってきた。既にキョウ、そしてボスにはメールで連絡を入れてある。あと数日すればキョウの子飼いの忍者がコッソリト護衛につくだろう。残念ながらボスに関しては現在”シコク地方”なる未知の領域で武者修行しているらしく、ジョウトに戻ってくるまでは数か月かかるらしい。それまで自分とキョウでしっかりとシルバーを守らなくてはならないだろう。

 

 まぁ、マチスが高速船アクア号で迎えに行ったのだから、これでもまだ早い方なのだが。とりあえずジョウト騒動から自動的にマチスは脱落。ボスを連れてくるという大役があるからそれはそれで非常に助かるのだが。だけどクチバジムは数か月放置でいいのだろうか。今、思いっきりポケモンリーグシーズンなのだが。

 

 ともあれ、そんな事で”本当”のロケット団でボスの目的を知っている人物達は行動を開始している。ナツメもナツメで警戒の仕事やこれ以上末端の流出が起きない様に監視する必要があったりと、重要な事に手を出している。ともあれ、そんな事で他が整うまで、自分の仕事はシルバーを見守る事であり、逃がさないことであり、そして鍛える事だ。個人的に何故この少年が逃げようとしない事に疑問があるのだが、

 

 こうやって残っているのであればしょうがない。

 

 全力を尽くそう。

 

「というわけで、手持ちを全員連れてきたな?」

 

「あぁ」

 

 シルバーはそう短く返答し、ボールから手持ちのポケモンを全て出現させる。アリゲイツ、ニューラ、ヤミカラス、そしてリングマだ。アリゲイツは御三家枠だから非常に優秀だし、ヤミカラスは進化させればドンカラスに、ニューラはマニューラ、リングマはそのままだが、かなりの良個体に見える。まぁ、悪くはないパーティーだと思う。とりあえずシルバーに真っ先に言う。

 

「俺が教えるってのはポケモンの育て方、そしてトレーナーとして知っておくべき事、って奴だ。今のままだとトレーナーとしては強いけど、”エリートトレーナー”の領域にはどう足掻いても入れねぇ、パワープレイしか出来てないお前を、もっと賢く戦える様にする。猿でもわかる強くなる方法を伝授してやろう!!」

 

「……」

 

「いや、そこはノリに乗れよ。”なんだこいつ……”って視線を向けてクールにやってるけどお前、その時点で大分減点されてるからな」

 

「!?」

 

 あ、驚いているな、なんて事を思いながらアリゲイツに近づき、その姿を確かめる。ワニの様なその姿の体を軽く触り、個体値と種族値を感覚的に調べつつ、コンディションや意識に関する事を調べて行く。ここら辺、ポケモンに関する事を正確に調べられるのはやはり、育成タイプのポケモントレーナーの特権という奴だろう。ともあれ、そうやってアリゲイツから始まり、シルバーの手持ちのポケモンを全員確かめ、そして断言する。

 

「駄目だな。全然駄目だ。話にならねぇ」

 

「どういう事だ?」

 

「んー……」

 

 どうしようかなぁ、と思う。ぶっちゃけた話、ここで自分が説明しなくても、シルバーなら”勝手に悟る”時が来ると思う。その時、自分が言葉を挟んでしまった場合、それが引っかかって邪魔になってしまうかもしれない。ボスとは違って指示するのも教えるのもそこまで凄いというわけではない。だからここでシルバーのポケモンに対する接し方を指示しても良いのだが、あまり良い方向には転がらない気がする。ポケモンへの信頼云々に関してはどうせ目覚めるだろうから、放置しておくとして、

 

「まずポケモンの手入れがされてねぇ。バトルするなら最低限コンディション整えとくのは常識だ。ちゃんと美味いメシ食わせてるか? ポケモンフーズは確かに栄養満点だけど、好みもあるし、何より食いでがない。ずっときのみやポケモンフーズばかりだと飽きて逆に体調を崩すぞ。あと最低限のメンタル的なフォローも入れろ。バトルで負けた場合、何を反省すべきかを話し合えばそれだけで次回への対策がポケモン側でも心構えとして用意できる」

 

 それ以外にもなんというか、

 

「ちゃんとバトル以外でポケモン育ててるか? ポケモンはただ戦わせればそれでいいって訳じゃねぇぞ。技をしっかり覚えさせたいなら反復練習させる必要はあるし、同じみずでっぽうでも初めて使った奴と、百回使った事のあるやつじゃあまるで威力も練度も違うからな? お前の手持ちにはそういう風に反復練習や訓練を行った形跡が全くない! 見ろ、ウチの連中を!!」

 

 視線を回し、指差しながらトラックコースへと向けると、背中に蛮とトロピウスを乗せたサザラがマラソンをしていた。

 

「ごめん、アレじゃないわ。あっち、あっち」

 

 サザラじゃなくて別の方向へと視線を向け、指差せば、そちらではナイトがイーブイをナンパしてたが、通りすがりの唯一神のフレアドライブに焼かれる光景からも視線を外し、軽くまともに訓練している姿を求めると、災花がひたすら残像を残す様な動きで月光と組み手をしているのが見える。あぁ、あれだあれだ、と災花と月光を指差す。

 

「いいか、アレが見えるだろう?」

 

「悪い、早すぎて見えない」

 

「じゃあ黒い線が見えるだろう? あれはウチのポケモンがお互いに”ふいうち”を放ちあって先制の取り合いをしているんだ。まぁ、ひたすらそれでお互いの背後を取ろうとする遊びを兼ねた訓練なんだけどな。あんな風に技は何度も何度も繰り返して、反射的に出せるように訓練しておくんだよ。育成は実戦のみに非ず。戦いはただの”仕上げ”でしかない。お前はそれを全く理解してなぁーい!」

 

「……」

 

 シルバーは真剣に、黙ってそれを聞いている。そしてその姿を見て、あぁ、成程、という風に理解した。

 

 この少年はきっと、余裕がないだけなのだ。

 

 シルバーという少年が今までどういう人生を送って来たかに関しては、自分は一切解らない。聞きだす事は現段階では出来ないし、それを知る権利があるのはボスだけだ。だから聞きだそうとも思えない。だけど、彼の態度から解るのは、この少年が力という事に対しては非常に貪欲であり、その力で何かを成したい、という意思が明確にある事だ。俺はその力を見せる事ができた。だからシルバーは黙ってついてくる。そこに強さがあるのだから。

 

「……とりあえず、シルバー君、何か質問ある? 答えられる範囲でなら何でも答えるよ? ちなみに俺、未婚で恋人もいないよ」

 

「いや、そんな事はどうでもいいんだが。そんな事よりも俺は本当に強くなれるのか?」

 

 シルバーのその言葉に対して迷う事無く頷く。

 

「なれるよ。”ならない理由がない”からな。今は戦い方が雑でポケモンの力を全く引き出せていないけど、ちゃんとした戦い方を覚えれば間違いなく輝く素質を持っているよ。もう既にポケモントレーナーなら誰もが熱望する様な天運を持っている様だしね」

 

「……天運?」

 

「純粋な運だよ。混乱したときに自分を攻撃せずに真っ直ぐ指示に従うとか、戦闘中、最高のタイミングで進化するとか、或いはピンチの時に眠りから目覚められるとか、自分に必要なポケモンに運命的な出会いを果たせるとか。ポケモントレーナーに必要な要素の一つ、運。ポケモンに出会う事にも、バトルにも少なからず運が絡んでくる。その要素を支配しているかの様にツイている奴を天運の持ち主って言うんだよ」

 

 たとえば赤帽子とか。赤帽子には匹敵しないが、シルバーにもかなりの天運がある。その上でボスの息子としての指示の才能を持っているのも見える。流石、というべきなのだろうか。

 

「正直俺の数年の努力を数か月で追い越されそうな気がしてちょっと怖いな。まぁ、だからって自惚れても困るんだけどな。今はまだまだただの雑魚助だよ、お前は。このまま磨かれていない原石を見過ごすのも寝覚めが悪いからね、正しいポケモンバトルの仕方―――つまりは戦術の組み立て方と―――」

 

 自分の胸を張る様に叩く。

 

「そしてこのオニキス様の超一流育成術を見せてやろう。言っておくけど、あのファッキン緑色がカントーにいる今、ジョウト最強の育成力を持った人間は俺だからな、お前の魂に正しいポケモンの育て方というものをひたすら刻み込んでやる……!」

 

「それで強くなれるというのなら遠慮する必要はない。俺は何でもやる」

 

 そうかそうか、良い心がけだ。シルバーの言葉に頷きながら納得し、そして口を開く。

 

「トレーナーはポケモンと共にあるべきである、とどっかのタンバジムのジムリーダーが言ってた」

 

 手を真横へと突き出すと、瞬間移動するかのように出現した月光が此方の手にライフルを握らせて来る。それを握り、中にゴム弾を詰め込みながら、構え、確認し、そしてシルバーへと向ける。

 

「じゃあ、はじめよっか」

 

「は?」

 

 は? じゃねぇよ。は、じゃ。たった今言ったばかりではないか。

 

「”トレーナーはポケモンと共にあるべきである”って言っただろ。あ、これシジマさんの言葉なんだけどね? ポケモンを鍛えるならトレーナーも一緒に、って事なんだよ。まぁ、これ、あながち間違いでも何でもないんだよ。トレーナーが参加する事はポケモンのモチベーション向上にもつながるし。まぁ、本格的な育成施設とかがあれば話は別なんだけど、でもここ、仮拠点だし、そういう施設ないし、シジマ式でやるぞー、フルマラソン。いいよね、体力測定って言葉」

 

「お、おい―――」

 

 シルバーの頬を掠める様にライフルを放つ。それで一気に動きをシルバーが固まらせ、その姿を浚う様にシルバーのポケモン達が掴み、そしてトラックへと向かって走り出して行く。なんだ、ちゃんとポケモン達に愛されているじゃないか、

 

 そんな事を思いながら、唯一神を呼び寄せる。原生種の姿へと変え、その背に乗って、走り出したシルバーたちを追いかける。

 

「よーし! 最低三人? 三匹? 三体倒れるまでマラソンは終わらないからなー! なお倒れた奴から順にフレアドライブ叩き込むし、遅れそうな奴は容赦なくこれ、ぶっ放すからなー」

 

「―――マジか」

 

「マジだよぉ―――!」

 

 とりあえずもう一度ライフルを構えると、全員が必死な表情で走り始める。良し良し、その調子だ、と胸中で呟きつつ、

 

 ―――キョウが来たら悪ノリしそうだなぁ……。

 

 そんな事を思いつつ、少しずつシルバーとのコミュニケーションを進める事にした。




 シルバーくんと仲良くなるために銃をぶっ放す。何かおかしい。

 なおオニキス君はボスの乗ったギャラドスに追いかけられたそうです。

 この師にして弟子あり。

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