目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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現代のバトル

「エリートトレーナー―――つまりはポケモンリーグ参加級のトレーナーに必要な能力を説明するとなると、色々ある。コンディションとかいろいろあるからそれを省き、バトルの事にだけ関して言うと、大きく複数に分けられる。一つがトレーナーの身体能力。どれだけポケモンが強くても、それを使役するトレーナーが貧弱だとそもそもバトルについて行けない。昨今のバトル事情だと攻撃の余波がフィールド外に伝わるなんて当たり前の事だ。それにポケモンの攻撃に反応できる反射神経と動体視力が必須だ。こいつはポケモンと共に体を鍛えれば自然と身について行く。一緒に鍛える事でポケモンのリズムを体に刻むんだ」

 

「……」

 

 話している内容をシルバーは無言でノートに書き込む。

 

「で、次に必要とするのは指示能力だ。これは簡単なように見えて奥が深い。ポケモンは技を命令すればそれで攻撃してくれるが、トレーナーが急所の場所や、当て方を知っていれば”あたれ”、”ねらえ”、”そこだ”程度の言葉でも意思をくみ取り、攻撃を通してくれる。だからトレーナーがポケモン自体を知る必要がある。お前のポケモンの限界稼働領域はどうなってる? どれだけ鋭く攻撃を放てる? 相手のポケモンの特性は? 能力は? どういうスタイルだ? ポケモンはただ攻撃させりゃあ良い訳じゃねぇ、ちゃんとどうやって攻撃するかを意識し、そして繰り出させなきゃいけない。相手を倒す事じゃなくて、攻撃を次へと繋げる事を意識して戦え。それがポケモンに指示を出す、って事だ。お前の今の状況はポケモンに指示せずに命令しているだけだ」

 

 シルバーのノートに書き込まれる内容が増える。

 

「んで次はポケモンの育成だ。これはポケモンバトルの胆だって言っても良い。良いポケモンを見抜く能力、ポケモンを自分の理想通りに育てる能力、これは強くなるうえでは必須の事だ。優秀なブリーダーがポケモンを育成する事によってポケモンはレベル以上の強さを手にする。強い能力と高いレベル―――これだけで勝てる時代は終わった。ポケモンの育成がバトル環境を大幅に変えたと言っていい。グリーンってポケモントレーナーがタマムシ大学で発表したポケモンの育成論が存在する。これが今までのポケモンの育成を大きく塗り替えた。あと俺も一応タマムシで技や特性開発に関する論文を提出してあるから、時間があるなら絶対に読め。ポケモンは育て方によって他と強さが大きく変わってくる」

 

 何せ、おそらくトレーナーが使うポケモンで、一番強く育てられているのは俺だ、と思っている。純粋なポケモンの強さで言えば自分の手持ちは既にボスの手持ちよりも強くなっている。それでもボスに勝てないのは、ボスが此方の連携、交代パターンを怪物染みた読みで把握し、それをズタズタに破壊しながら逆に利用して来る、恐ろしい程の経験と戦闘勘を保有しているからだ。だから指示で勝てないのであれば、それを覆す程にポケモンを育てて、圧倒的能力で蹂躙するしか勝ち筋がない。

 

 ボスとの戦いはサイクルを読み切られて破壊されて蹂躙されるか、

 

 こっちが押し切って相手を蹂躙するか、という点に尽きる。

 

「シルバー君はパワープレイが好きみたいだからあのVジェネレートみたいな事やってみたい、って感じはあるだろう? となると更に育成に力を入れた方が良い。今の時代、ポケモンを育成する能力でトレーナーとしての格が見えてくる。強いトレーナー程育成が上手い、って風にな。実際チャンピオンもポケマスも四天王もそういう連中ばかりだからな。どれか、一分野に特化して非常に育てる事が上手い連中だよ。……ま、育て方にも人それぞれ、ってのがある。シルバー君には追々探そう」

 

 カリカリ、とノートに文字を書き込む音が響く。

 

「そして……やはり戦術だ。ポケモンバトルにおいて戦術はどうしても避けられない要素になる。お前がリングマできりさくを放とうとしたとき、俺はポケモンを入れ替えてメタグロスへと変えれば良い。鋼とノーマル技、その相性と効果を考える必要はないだろう? こういう風にタイプ的に有利なポケモンを予め防御能力高めに育て、運用する事を”受け”って言うんだわ。ポケモンリーグクラスに行けば高耐久の受け要員はバトンと積み起点を考えて最低二体は存在している。タイプ補完の事を考えなきゃいけないからな、今の時代技幅がブリーダーの腕前次第で非常に広くなるから、サブウェポンも警戒しなきゃいけない。だからこそ受け二体って感じになるんだけどな」

 

 そこでシルバーが静かに手を上げる。

 

「おう、なんだ」

 

「オニキス、バトンと積み起点とはなんだ」

 

 ライフルを射撃してシルバーの頬を掠らせる。完全に動きを停止させたシルバーに答える。

 

「俺は育成に関してはポケモンであろうと人間であろうと一切の妥協は行わない”絶対育成するマン”だからな。今回は警告で済ませたけど次回からはオニキス先生な、俺、24でお前10歳。敬語は必要ないけど最低限の敬意は抱け。オーケイ?」

 

 こくこく、と椅子の上に座って頷くシルバーの姿を確認し、そして良し、という。

 

「バトンと積み起点ってのはそう珍しいものじゃねぇ―――いや、バトンタッチ自体がジョウトでは珍しいかもしれねぇけど、ジムリーダーが使い始めているから、後一年もすれば完全にジョウトにも浸透するだろう。バトンタッチってポケモンの技があって、こいつはポケモンに上昇した能力や下降した能力を手持ちの別のポケモンに受け継がせて、そいつを場に出すって技だ―――これの使い道、解るな?」

 

 シルバーが頷く。

 

「受けのポケモンで攻撃を受けながら剣の舞やわるだくみを使い、バトンタッチで攻撃の出来るポケモンに切り替え、そいつで倒す事だな……オニキス先生」

 

「100点満点だ。この積みからバトンで強化したポケモンへ渡し、強化されたポケモンで敵を抜いて行くスタイルを”居座り型”と言う。アタッカーがきのみや積み技、特性で自己強化しながら居座り、敵を蹂躙するタイプは”全抜き型”って言われる。後者の全抜き型に関しては育成型のトレーナーでも相当ハイレベルな奴が育成したポケモンじゃねぇと、二体目か三体目で潰されるから、聞きかじった知識だけで真似しようと思うなよ」

 

「あぁ、解った」

 

 シルバーが頷きながらノートに更に情報を書き込んで行く。その間に周りへと視線を向けると、割と此方へと視線を向け、そしてシルバーへの話へと耳を傾けている人達の姿が多い。まぁ、かなり最先端のポケモンバトルセオリーを話している上に、割と解りやすく説明している。この話を聞くだけでも結構ポケモンバトルが上達できるって内容だ。何せ、バトルに必要な要素を懇切丁寧に説明しているのだから。

 

 それに、ポケモンセンターのロビーで話していればそうもなる。

 

「んじゃ、更に戦術について話を進めよう。ポケモントレーナーは大きく分けて三つの等級に分ける事ができる。ポケモンを捕まえて、バトルする事を覚えた”駆け出しトレーナー”と、ポケモンを育成し、そして勝つ方法を考え始めた”普通のトレーナー”、明確に勝利へのビジョンと戦術を組み、スケジューリングやタスクをちゃんと用意できている、本気で戦おうとしている”エリートトレーナー”だ。ほとんどのトレーナーがこの前者二つにカテゴライズされ、んでポケモンリーグに出場する連中が世間一般ではエリートトレーナー級って呼ばれているな―――俺とか。一応そういう括りで話をするとジムリーダーもエリートトレーナー級に入る。まぁ、この普通のトレーナーと何がエリートトレーナーを分けるかというと」

 

 内容を書き込めるように、追いつけるように一拍間を開ける。

 

「―――ちゃんとしたパーティーでの戦術を考えてるかどうか、って所に尽きる。お前のパーティーはどうやって運用する事を考えているんだ? どの技がメインなんだ? 一体どういうコンセプトを持ってその編成にしてあるんだ? ポケモン達はコンセプトを満たす様に育成されているか? 必要な能力は足りているか? エリートトレーナーはポケモンを育てる時はそういうことを意識し、考えている。そしてそうやって戦術を考える上で、ポケモンバトルの戦術は二種類に分けられる」

 

 それは、

 

「居座り型の戦術と、そして交代型の戦術だ。居座り型の戦術は非常に解りやすい。ポケモンを強化し、それで強化を維持しながら敵を叩き続けるスタイルだ。攻撃の通じない相手が出てきたら能力で多少強引でも潰して行くスタイルだ。これが今のジョウトで一番有名で、そして一般的なポケモンバトルの考えだろう。環境的にはタスキかオボンを持たせて積んでからの攻撃ってのが割とトレーナーレベルじゃあ多い。昔ながらのバトルスタイルって奴だな」

 

 そしてそれに対をなすのが、

 

「交代型の戦術だな。こいつは今までのジョウトの環境だとめちゃくちゃ難しい。なんつったって積み技を重ねても一部の異能者トレーナーじゃなきゃ別のポケモンに能力を受け継がせる事ができなかったからな。だけどバトンタッチのおかげで戦術は大きく変わってくる。ポケモンに能力を受け継がせて交代できるバトンタッチ、このバトン先にテッカニンの様な”かそく”を覚えているポケモンや、相手の炎技を読み切って”もらいび”の手持ちと交代、交換させれば此方の能力を受け継いだまま上昇し、更にパーティーを強力に強化していく事が出来るんだ」

 

 おぉ、という感じの声が周りから上がる。バトンタッチの初出は第二世代―――つまりはジョウト地方の筈なのだが、ジョウトのバトル環境はちょっとだけ、他と遅れている感じがある。バトンタッチの広がり方が若干遅い感じがする―――やっぱりダブルバトルの文化が薄いからだろうと思う。ポケモンを交代する戦術の浸透が悪い。

 

「ちなみにこのバトンを使った交代戦術、ポケモンを訓練させる事で”攻撃後に自動発動”って感じに習得させる事ができる。この場合、トリガーを設定しなきゃいけないんだが、メジャーなのは”攻撃成功時”か、或いは”出現したターンのみ”とか、或いは俺の場合は天候をトリガーにしているよ。条件を付ける必要はあるんだが、攻撃後に自動でポケモンを素早く入れ替え、受け継ぎながらサイクルしていく事で常にアドバンテージをキープし、ポケモンへのダメージを最小限に止める事の出来るスタイルだ。その代わりポケモンが落とされれば落とされるほどポケモンのサイクルは壊れて行くんだから、”終盤に弱い”って弱点が存在する」

 

 あとは吠える、ステルスロック、まきびし、ふきとばし。ここら辺は本当に対処が辛いし面倒だ。

 

「交代使いとバトったらとりあえずまきびしとステロ撒いとけ。相手が除去手段を用意していない限りはこっちが居座って吠えたりふきとばししたりするだけでドンドン涙目になって行くからな。それに対してメタ張っておくのも育成段階では忘れずにな……ふぅー……」

 

 結構長く喋っていたな、とポケモンセンターの壁掛け時計を確認しながら理解し、軽く首を回し肩をほぐしながらノートを取り終わったシルバーへと視線を向ける。

 

「とりあえず強くなりたかったらまずは”レベルを上げるだけじゃ駄目”、”強いポケモンを用意するだけじゃ駄目”ってのを理解しなきゃならん。それを理解したら”どういう強いポケモンを用意するか”、ってのと”どういう風にポケモンを使うか”ってのを良く考えるんだ。育成が苦手なら専門ブリーダーを雇って、ポケモンの能力や特性を育成させて、調整するって手段もあるから、全部自分自身でやる必要もないって事は忘れるなよ……んじゃ、そろそろ実演すっか」

 

 軽く腕を回したりしながらポケモンセンターから出ると、そのまま視線をポケモンセンターの向こう側へと、

 

 そこに聳える、ジョウト地方で最も大きく、最も凶悪なジムへと視線を向ける。

 

 腰からボールを一つ取り、それを手に転がしながらギャラリーとシルバーへと視線を向ける。

 

「―――対ドラゴンに対する最強の全抜き型の力を見せてやる。これがポケモンを戦わせる事じゃなくて、ポケモンを育て、開発する事から来る圧倒的な暴力だ」

 

 そう言って、ジョウト地方最後のジム、

 

 ―――フスベジムへと向けて足を進めた。

 

 興味津々なギャラリーと共に。

 

「俺のポケモンバトル(蹂躙)を見せてやる」

 

『竜殺……竜……殺……滅……竜……滅……滅……滅……』

 

 さあ、貴様のジムにいるドラゴンを数えろ。




 フライゴンさん出勤開始。

 なお被害がサザラとアッシュに及ぶ可能性があるのでドラポケは全てボックスへ。

 次回、子供に見せても解る地獄開幕

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