目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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フライゴンさん

「おーっす未来のチャンピオン! そろそろ来る頃だと思っていたぜ! ってなんだこのギャラリーは!?」

 

 ワイワイガヤガヤと、ポケモンセンターで話を聞いていたギャラリーが全員、フスベジムの観客席へと向けて歩き始める。フスベジムは珍しくギミックのあるジムだ。そして同時に、最終バッジのジムでもある為、また一つ、他のジムとは違う特徴が存在している。それを思い出しつつ、ギャラリーとシルバーが観戦エリアへと向かったのを確認し、アドバイザーの言葉に耳を傾ける。

 

「あー、びっくりした。あ、でも今シーズン初の最終バッジ試合って思えばまぁ、これぐらいにもなるか。とりあえず未来のチャンピオン、フスベジムのイブキは天然ツンデレ系のファッションセンスが死滅している人物だ! はっきり言って姿はエロいのに残念系だ! その癖に無駄にプライドが高い! めんどくせぇドラゴン使いだ! もう俺のアドバイスはいらねぇよな? 圧倒的なドラゴンを華麗なるタクティクスで屈服させるんだ! きばってこーい!」

 

 アドバイザーの横を抜け、ジムの奥へと繋がる扉を抜ける。

 

 その先に広がっているのはマグマの上に吊るされた道だった。奥へは長く続く様に見え、途中にジムトレーナーと、そして天井から吊るされているバトルフィールドの姿が見える。

 

 もう、この時点でモンスターボールが震えている。

 

「存分に暴れさせてやるから俺の指示を待て」

 

 言葉を放てば、瞬間にボールの動きが止まる。本気を出せばフライゴンはちゃんと従えられる―――ただそうするのが面倒なだけだ。マグマのせいで若干暑さを感じつつ、バッグから美味しい水を取り出し、ゴーグルを装着しながらそれを頭にぶっかける。歩き始めるとすぐ先にジムトレーナーの姿が見えてくる。空っぽになった美味しい水のボトルを溶岩の中へと投げ捨て、そして腰のボールを手に取る。立ちはだかる姿―――ジムトレーナーは宣言する。

 

「ようこそチャレンジャー! 最後にフスベジムを選ぶとはとんだキチガイ野郎だ! だが俺達はそういうキチガイ野郎が大好きだ! 言葉はいらないな? 我らジムトレーナーを全員突破し、イブキ様にまでその刃を届けてみろ!」

 

「さあ、食事の時間だ―――フライゴンさん」

 

「行け、ガブリアス!!」

 

「あっ」

 

 此方がフライゴンを出したのに対して、相手はガブリアスを出してしまった。通路の上へと着地したフライゴンが、

 

「あ!? ガブリアスゥ!?」

 

「ひぃ」

 

 殺意という殺意を込めた視線でガブリアス相手にメンチを切り、掛けている赤いサングラスを握り砕き、溶岩の中へと投げ捨てながら一瞬で姿を消し、ガブリアスの背後へと出現、げきりんを放ちながら吹き飛ばした姿に追撃のげきりんを放ち、壁に叩きつけたガブリアスに三連続の音速のげきりんを叩きつけ、オーバーキルを超える領域でガブリアスを一瞬で沈める。そうやって一瞬でガブリアスを滅殺したフライゴンがメンチをトレーナーに切るが、ジムトレーナーはその場で死んだふりを始めた。

 

 賢い男だった。

 

「ドラゴン……ドラゴン……最強はただ一人……滅……滅する……滅……」

 

 死んだふりをしているジムトレーナーの横を抜け、更に奥へと進めば次のジムトレーナーが見え、そしてポケモンを繰り出してくる。出現するのはカイリュー。瞬間的にしんそくで加速した姿をフライゴンが殺意と怨念でとらえ、げきりんをカイリューに叩き込む。おそらくはマルチスケイルだったのか、それを仰け反る事無くカイリューが耐え、メガトンパンチを繰り出す。

 

 が、その拳の上にフライゴンが着地する。

 

「未熟―――あまりに未熟。貴様はドラゴンではない」

 

 両手の拳をスナップさせるように交差させながらカイリューの背後へと、超高速二連げきりんを放ち、カイリューを通路の上へと沈める。もはや倒れたドラゴンポケモン―――つまりは自分以下の雑魚に対しては一切視線を向ける事もなく、フライゴンが威圧感と殺意と狂気のオーラを纏った状態で横へと戻ってくる。カイリューをボールの中へと戻すジムトレーナーの横を抜け、更にジムの奥へと、もっともっと熱い場所へと向けて進んで行く。

 

 見る限り、最後のジムトレーナーが立ちはだかる。

 

「行け―――オノノクス! お前の特性であればあのフライゴンがどんな能力であろうと、確実に攻撃を与えられる!!」

 

 やはりフスベジムは優秀だと思う。オノノクスにガブリアスなんてジョウトでは見る事のない、手に入らないポケモンだ。なのにそれを保有し、フライゴンによって一撃で葬り去られないレベルにまで育ててある。だが悲しい事かな、フライゴン―――いや、フライゴンさんの対竜特化性能というのはもはやデータや数値と言う領域を超えている。悪魔に魂を売ったという言葉で表現すらしても良い。フライゴンさんの動きは、特性等の開発から来るものではない。

 

 常軌を逸脱したドラゴンへの殺意の衝動、その果てに習得してしまった謎の領域なのだ。

 

 故に、ドラゴンタイプであれば部分的に伝説にさえ匹敵する凶悪性を見せる。

 

 おそらく、ドラゴンタイプで相手をする場合、伝説のポケモン以外ではフライゴンさんを止める事は出来ない。俺はフライゴンさんを育成する時に、それを育てたに過ぎない、その結果、こういう性能の怪物が生み出されてしまった。ブリーダーと、ポケモンの素質が最高レベルで合致してしまった為に生み出された、最上級の怪物だと認識している。

 

 そう考えている内に、正面からオノノクスをげきりんのみで圧殺し、あっさりと床に沈めた。愚か者め、と一言吐いてからフライゴンさんが威圧感を増しながら横へ戻ってくる。ジムの一番奥に見えてくる水色のポニテールに水色のボディスーツ、そしてマント姿のジムリーダー、イブキ。

 

 近づくと、大きくマントを広げ、イブキが歓迎する。

 

「良くぞ来た、挑戦者よ! 私がフスベジム、ジムリーダーのイブキ! 神聖なるドラゴンポケモン使い! 貴様の様な亜人の姿をした軟弱なものではなく、本来の姿、原生種を使いこなすドラゴンタイプのエキスパート! ……とはいえ、道中の戦いは見せて貰った、決して侮れない相手として認識し―――正面から勝利させてもらおう!」

 

 イブキのその宣言に対して成程、と呟き、

 

「若様の前だ。自慢になる様な結果を出さなきゃいけないからな―――トキワの森のオニキス、正面から蹂躙させてもらう。フライゴンさん、自由に暴れろ」

 

 大きく後ろへと跳躍し、通路を下がると、イブキもまた跳躍し、別の通路の上へと着地する。フスベジムはこの通路全てがバトルフィールドとなっており、下の溶岩でさえ自由に潜っていいのだ―――ポケモンが耐えられるのであれば。勿論、フスベジムのポケモンは溶岩に耐えられるように訓練されている。ただ今回は関係のない話だろう。

 

 この戦いは最初から終わっている。

 

 フライゴンさんが存在する時点で勝負は終わっているのだ。

 

 断言する、フライゴンさんが、今まで育ててきたポケモンの中で最高で最悪の傑作であると。

 

 ポケモンバトルと言う概念に喧嘩を売っているのがこの、フライゴンさんだ。

 

 ―――イブキがボールを投げ、その中からキングドラが出現する。イブキが宣言した通りの原生種の姿、それはフライゴンさんを目撃するのと同時にドラゴン技をその口から吐きだして襲い掛かってくる。瞬時にそれを見切ったフライゴンさんが超加速しながらキングドラへと接近し、すれ違いざまにげきりんを叩き込む。吹き飛ばされたキングドラがすかさず体勢を整え直しながらカウンターをフライゴンさんへと向ける。これがジムトレーナーとジムリーダーの違いだ。ジムトレーナーであれば今の所、カウンターやリカバリーを取れずに、そのまま沈められていた。それをキングドラの矜持が許さない。

 

「滅ぼしてやる! 一匹残らず! この世から! ドラゴンをぉ!!」

 

 吠えながらキングドラのカウンターに対して、斜め下からげきりんを叩き込む事によって攻撃を逸らしつつ、接近したキングドラを頭で掴み、そして肉体的な制約として絶対に対処できない懐に入りこんだところでキングドラを壁に叩きつけ、

 

「お前はドラゴンじゃない!!」

 

「ドラ―――」

 

 キングドラが悲鳴を零す前に壁に叩きつける様にサンドバッグの如くげきりんを放ち、一方的にキングドラを屠った。そうやってまた一体、ドラゴンタイプのポケモンを屠り、ドラゴンと言う存在の否定に成功したフライゴンさんは疲れをふきとばし、そして殺意の再充填を完了させた。ドラゴン殺し職人であるフライゴンさんはドラゴンタイプが存在すればハッスルするが、ドラゴンを倒してもまたハッスルし始める意味不明な生物なのである。

 

「言うだけの事はある! だがそれもここまでだ! そのフライゴンは確実に潰させてもらおう! 行け、チルタリス!」

 

「チルルルぅ―――!」

 

 出現したチルタリスが高速で飛翔する。それを追いかける様にフライゴンさんが殲滅に向かう。それを見てイブキが笑みを浮かべる。

 

「そのチルタリスは変種でドラゴン、フェアリータイプとなっている! そのフライゴンのげきりんは―――」

 

 フェアリータイプのポケモンにはドラゴンタイプの攻撃は通じない。つまりドラゴンフェアリーのポケモンには弱点が一つ消失する。ドラゴン技であるげきりんはチルタリスには通らない、そういう話になる。だからイブキの自信は正しい。これが普通の対戦であれば、イブキは圧倒的なドラゴンキラーを保有していることになるのだから。ただ、やはり、フライゴンさんという特異変種を相手にするのは運が悪かった。

 

 チルタリスの動きに追いついたフライゴンさんの一撃がチルタリスを殴り飛ばした。

 

「な―――!?」

 

「愚か者め。ドラゴンはドラゴンだ」

 

 フェアリーだろうが鋼だろうが何だろうが、ドラゴンはドラゴンだ。それがフライゴンさんの意味不明な理論でありながら、的確にチルタリスを殴り飛ばしている。しかもげきりんのダメージはちゃんと発生しているようで、数秒後、完全に攻撃が通じる事はないと慢心していたチルタリスを問答無用に沈めていた。

 

 落ちたチルタリスの体の上に着地し、フライゴンさんが吠える。更に重圧な殺気をその身に纏い、次の獲物を寄越せとその気配の全てが物語っている。

 

「そ、そんな理不尽許せるか! ポケモンバトルを否定しているぞソイツは!」

 

「育てたら生み出しちゃったからしゃーないわァ!  生み出した手前見捨てる事も出来ないし! 保有している事への責任もあるんだよ! 目指せ涙目のワタル!」

 

「貴様ぁぁ―――!!」

 

「チャンピオン相手にメタらない理由はないよな―――蹂躙、圧殺、粉砕しろ!」

 

「滅ぼせボーマンダァァァ―――!!」

 

 ボーマンダがしんそくの状態で動きながらフライゴンを狙う。しかしまるで第三の目で追っているかのようにフライゴンがボーマンダの接近を察知し、接近される前にボーマンダに接近する。火炎放射を相殺し、直後に放たれるドラゴンテールを受け流しながら掴み、

 

 溶岩の中へとボーマンダを投げ捨て、その上からげきりんを放って爆裂させる。

 

「朽ちて後悔するが良い」

 

 華麗に着地したフライゴンさんが次の獲物を求めてボールへと殺気を叩きつける。それによって強制的に引きずり出される様にボールの中からガブリアスの姿がフィールドへと出現させられる。そしてガブリアスとフライゴンさんが戦闘に入る。

 

 フライゴンさんを積極的に使わないのには理由がある。

 

 それはこの存在がポケモンバトルと言う競技を完全に否定しているからだ。

 

「ポケモンを使った戦術、交代等の読み、育成する事で覚えさせる技、トレーナーの指示技術。それら全てをフライゴンさんの存在は完全に否定してドラゴンだけを屠っている。極論、フライゴンさんの様なタイプ特化滅殺型ポケモンを生み出せば、戦術もクソもなくポケモンバトルは圧勝できる。こいつが究極の全抜き型のスタイルで―――」

 

 そして、

 

「強さのみを求めた場合、行きつく光景だ。シルバー、見てるか? どうよ、楽しいか? 誇らしいか? この光景を見ていて思う事はあるか? ……割と暇だぜ、これ。攻撃しろって命令をだしゃあそれで終わりだからな」

 

 そしてガブリアスが沈む。イブキの舌打ちと共に色違いのクリムガンが出現し、ジムに龍の咆哮が響き渡る。倒された仲間の恨みを背負い、復讐心でクリムガンが超強化される。だがそれを気にする事なく、フライゴンさんは確実にクリムガンの攻撃を紙一重で回避しつつ、必殺のげきりんをその体へと叩き込み、ダメージを発生させる。そのまま他のドラゴンの様に、特に特筆すべき事態は発生するまでもなく、

 

 予想通り、あっけなくクリムガンまでもが沈む。

 

 これが暴力、

 

 これが蹂躙、

 

 これが圧倒的な力の差。

 

 説明するまでもなく、命令する必要もなく、ただ一方的に攻撃を与えて沈めるだけ。

 

 ―――こんなのは欠片も楽しくはない。

 

 勝ちは勝ちだ。それは確かだし、フライゴンさんを生み出してしまった元凶として、その命が尽きるまでずっと面倒を見る予定だ、というか覚悟は出来ている。だからこうやって試合に出しているが、フライゴンさんのポケモンとしての性能が強すぎる。

 

 おそらくはこの試合を理由に、ポケモン協会からフライゴンさんの公式試合使用禁止令が出るだろう。

 

 理由はシンプルに、ポケモンバトルが成立しないから。

 

「こう言っちゃあアレだけど、この試合が終わったらまた後日、改めて試合をしましょ。今度はフライゴンさん抜きで。そうすればお互いの実力を改めて把握し、認め合う事も出来るし。まぁ、今回は若様がいるから、勉強と、そして悪い例を教える為に蹂躙させてもらうけどな―――!」

 

「カイリュー! こいつを止めろォ―――!!」

 

 イブキのボールから放たれたカイリューは本来のカイリューの倍近い体躯を保有しており、そして溢れ出す竜のオーラがサザラと同系統の存在であると―――カイリューの天賦(6V)個体である事を証明していた。その降臨にフライゴンさんが大きく笑みを浮かべながら加速した。対応する様に瞬間的に背後へと回り込んだカイリューがはかいこうせんを吐きだす。残像を残す様に回避したフライゴンさんがカイリューの横へと出現するが、

 

 はかいこうせんが幾何学模様を描きながら折れ曲がり、フライゴンさんへと向かって曲がる。

 

 それを察知していたかのようにフライゴンさんは高速移動で回避し、カイリューに一撃を叩き込む。それを見ているカイリューがその巨体で逃げられない様に尻尾で薙ぎ払いつつ、りゅうせいぐんを発生、頭上から流星群を降り注がせる。はかいこうせんと流星群という凄まじい暴威の中、フライゴンさんが口を開く。

 

「―――愚か者めがァ! ドラゴンは皆殺しだぁ―――!」

 

 天から降り注ぐ流星群の上にフライゴンさんが乗った。

 

 それを足場に、そしてみがわりにはかいこうせんを回避し、そしてそのまま堕ちてくる流星群をげきりんで殴り飛ばし、逆にカイリューの巨体へと叩きつけ、怯んだ瞬間に接近し、尻尾を掴みその姿を壁に叩きつけてから投げとばし、追撃に高速接近してからカイリューに神速の四連げきりんを叩きつけ、

 

 その姿を溶岩の中へと叩き落とす。

 

 息を吐きながらジム内のドラゴンを殲滅させたフライゴンさんが息を吐く。

 

「―――ふぅー……我、ドラゴンを滅ぼす者なり―――」

 

 フスベジムをたった一人で蹂躙した猛者は通路の上へと着地し、溢れ出す殺意と共にその勝利を宣言した―――。

 

 

 

 

 ―――当たり前の話だが、敗北を認めないイブキはこの後りゅうのあなに引きこもったため、一騒動があったのは語るまでもない。




 フライゴンさん - 生み出されてしまった負の遺産。ドラゴンタイプ相手だと”ポケモンバトルが成立しない”という恐ろしい存在。数日後、ポケモン協会からめでたく出禁を喰らう。

 イブキ - ちょっと泣いた。

 これでバッジ全部だよ! ポケモンリーグ出場確定だね!(メソラシ

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