目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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40番深海

 モビー・ディックの背中の上に乗って40番水道を突き進む。超巨大サイズのホエルオーであるモビー・ディックはもはや船という規模で動いており、野生のポケモンはその巨体に近づいてくる事はない。何せ、ホエルオーのモビー・ディックは”レベルリセットを行っていないポケモン”だからだ。常にレベル100で保っているモビー・ディックは、野生のポケモンからすれば恐怖の存在でしかない。衝突事故を起こすだけで瀕死に追い込むことができる、それだけの力と巨体をモビー・ディックは持っている。そんなモビー・ディックを40番水道で進ませつつ、その背の上から渦潮が侵入を拒む、複数の島を確認する。渦潮によって守られている島である故に”うずまき島”と呼ばれているその島は、一応飛行して入る事もできる。

 

 が、

 

 自分にこの島に入る意味はない。

 

 ルギアの居場所と言われているこの島はあくまでも”ぎんいろのはね”、つまりはルギアの羽を保有している場合にのみ、ルギアと逢う事の出来る約束された土地なのだ。そんなものを持っていない為、ルギアとは正規の方法で会う事は出来ない。その為、ルギア本来の住処を探索し、そして無理やり出現させないといけない。おそらくこれが、ルギアが今まで捕獲されて、発見されていない理由になる。ルギアの発見はホウエン地方のカイオーガ以上に難航するものがあるのだ。

 

 ―――ただ、自分だけは文献なんかを調べずとも、メタ的な視点からルギアの情報を得ている。

 

 そこにいるのか、どうやって出会えるのか、普段はどう眠っているのか、それを知っている。

 

 普通のよりも遥かに大きな体格を誇っているモビー・ディックであれば、うずしおなんかを使わずに、突破してうずまき島へと突入する事だって出来る。だがそんな事をしたって資格のない者にルギアは姿を現さない。だから強引に眠りから呼び覚まさせる。

 

「モビー―――ダイビング」

 

「―――!!」

 

 勢いよくモビー・ディックの声を響かせつつ、大量の酸素を取り込み、それを泡によって自分の周りへと包み込み、40番水道の中へと潜り込んで行く。自分も泡の中の酸素を消費しない様にあらかじめ用意していた小型酸素供給機をマスクの様に口元に装着し、何時も装着しているゴーグルを下ろす。ボールの中からメタちーを出現させ、肩に乗せたところでピカチュウの姿へと変身させ、そしてフラッシュを使わせる。

 

 超巨漢のホエルオーと共に、深海の底へと目指して潜って行く。その間にも指示を飛ばす。

 

「ドわすれ……ドわすれ……もういっちょ。覚悟を決めろ。根性を震え上がらせろ。その魂を燃焼させろ。俺も命を賭ける。俺に応えてくれモビー・ディック」

 

「―――!!」

 

 モビー・ディックから返答の咆哮が水中に響き、更に水底へと向かって突き進んで行く。明るかった海面の世界から、日の届かぬ海底の世界へと。更に、更に深く。未だ誰も、制覇した事のないジョウト地方の海の底へ。

 

 ―――海の神が住まう聖域へと。

 

「災花、月光―――」

 

「任せて」

 

「拙者らの出番で御座るな」

 

 メタちーが変身したピカチュウのフラッシュが存在しなければ、一切何も見えなくなる完全な暗闇の中で、災花と月光を出現させる。ポケモンバトルを余裕で繰り広げる事ができるモビー・ディックの背中の上で二人は背中合わせに目を閉じ、そして視界以外の全ての感覚器官を研ぎ澄ます。海の底の海流、それを自在に操る支配者の感触を捉える為に、目を閉じ、海底へと到着した状態で動く事もなく、センサーを全開に、伝説の感覚を捉えに行く。それを待っているしか自分には出来ない。

 

「ねーねー」

 

 そうやって待っている間、生まれる自分の足元の影からギラ子が頭だけを露出させて来る。

 

「本当にルギア捕まえるの?」

 

「おう」

 

「手伝わないよ?」

 

「期待していない」

 

「そっか。ま、死にそうになったら回収して私の世界で一生愛でてあげるから、そんな悲観する事もないよ」

 

「それで発破かけてるつもりかよお前……」

 

 笑い声を響かせながらギラ子が影の中へと戻って消える。手伝う気がないのは知っていた。元から頼るつもりもない。未来にあるホウエン地方の危機の様に、伝説が滅ぼす為に動くのであれば他の伝説の力も借りるが、純粋にトレーナーとして伝説に挑むのであれば、自分の持っている力の全てを発揮したい―――伝説なんてバグやチートの力を借りたくはないのだ。なにせ、自分は男の子だ。

 

「―――掴んだ、三時の方向」

 

「成程、不自然な海流があるで御座るな。察知されているから伺っている、という感じで御座ろうか」

 

「モビー、とおせんぼうだ。災花は戻れ。月光も戻れ」

 

「―――!!」

 

 モビーが吠える。振動が深海に響き、そして海底の流れが変わる。今迄存在しなかった海流が生み出され、此方へと飲み込む様なコースで来るのを知覚する。成程、海を超高速で移動するルギアの手段がこれか。そう思い、モビーが少しずつ後ろに流されつつ、徐々に、徐々に前方から海流に乗って飛ぶように泳ぐ姿が見えてくる。竜の様で魚の様な、しかし全身に羽を生やした鳥の様なポケモン、そのシルエットが深海の闇にとらわれる様に接近して来る。唯一、フラッシュの光を反射するその眼だけが光って見える。

 

「さあ、見つけたぜルギア。俺を始末しないと海底散歩は続けられないぜ―――?」

 

 モビー・ディックが存在している限りはとおせんぼうが発動しているからルギアは逃げられない―――という訳じゃない。伝説種が本気になれば、

 

 普通のポケモンの変化技などぶち破れる。

 

 でんじはも、きのこのほうしも、

 

 おにびも、

 

 くろいまなざしも、

 

 ほろびのうたも、

 

 かげふみも、

 

 ―――全部伝説には通じない。

 

 だからこそ伝説なのだ。普通に通じる筈の技が一切通じない。伝説を倒すには伝説を。そう言われるのはそういう理不尽な存在だからこそだ。状態変化も逃亡阻止も現実的ではない。じゃあなぜ、ルギアがこうやって迎撃に出てきているかというのは、

 

 舐められているからだ。

 

 逃げなくても潰せばよい。

 

 相手がそう思っているからに過ぎない。

 

 正面にルギアの姿が見える。その姿が一瞬で接近し、モビー・ディックと正面からぶつかり、大きく揺れる。予め用意していた回復の薬を即座に利用して、”一撃でレッドゾーンへと突入した”モビー・ディックの体力を完全回復させる。超耐久特化として育てている筈なのにこれか、と胸中で絶叫を上げつつも、熱が体の中を支配して行くのを感じる。あぁ、これだ、これがいいのだ。一歩間違えれば即死。目の前に絶望の塊が存在している。それに命を削られる様な思いで、蹂躙されそうなところで戦っている。

 

「―――準伝説である事の証明を見せろ唯一神―――」

 

 放つ、唯一神を。モビー・ディックの上ではなく、直接深海の中へと、モビー・ディックの正面に衝突する様に出現したルギアの姿に。水圧と海中、深海という環境は炎ポケモンである唯一神を一瞬で殺せるような破壊力を持っている。実際にこれがアッシュの様な普通のポケモンであれば瀕死を超えて即死していた。だが、唯一神はエンテイ―――即ち準伝説級。

 

 その存在に内包されているポテンシャルは部分的に伝説種に匹敵する。

 

 育成によってそれが引き出された唯一神は、深海でも数秒であれば問題なく戦えるぐらいの戦闘力を保有している様になった。故に、エンテイ特有の命の炎、それで唯一神、そして今、この瞬間に燃え上がっている自分の命を表現させ、極限までのアウェイな環境に反逆心を燃え上がらせながら最強の炎を持って深海に轟かせる。

 

「見よ、炎帝の誇りをォォォォ―――!!」

 

 Vジェネレートが暴走する。唯一神を中心に発生したそれは海水を蒸発させてルギアに深海という環境でありながら炎の最強奥義を叩き込むという偉業を達成する。おそらく、後にも先にも、歴史上で、深海で炎技を放つ事に成功した炎ポケモンなんて、この唯一神ぐらいになるだろう。そしてそんな奇跡を超えるありえない現象に、ルギアは強制的に動きを封じられる。否、理解を封じられる。目の前で発生した現象、その意味を理解できずに動きを停止させ、

 

「ダイビング、いっけぇぇぇぇ―――!!」

 

 ダイビングの”上昇”部分がルギアを襲う。掬い上げる様にルギアを突き上げたモビー・ディックはそのまま鼻先でルギアを突き上げた状態で一気に海面へと向かって急上昇を開始する。Vジェネレートで力尽きた唯一神を片手で回収して、その口の中にげんきのかたまりを放り込んでボールの中へと戻し、海面へと急上昇するその感覚に体が耐えきれず、内臓の痛みと肺が潰れそうな、そんな感覚を得る。が、笑みを浮かべて笑い声を零しながら、

 

 海の上へと到達し、空へとルギアの姿を撃ち上げる。

 

「かっはぁ―――」

 

 酸素マスクを捨てながら、ゴーグルをちょっと開け、流れた血涙を軽く振り払い、口から血を吐いて捨てる。深海から急上昇すると肉体にヤバイって話は聞いていたが、どうやら事実だったらしい、そんな事を笑いながら思い、撃ち上げたルギアの姿を眺めつつ、まだまだルギアが復帰するまでに三秒程、時間があるな、と理解する。そう思考した瞬間にはボールを四つ、取り出して放る。二つは空へと向けて、直接ルギアの傍へと、そして二体は直ぐ横の空へと。

 

 マチスから借りた超大爆発特化型マルマインを二体、ガブリアスとカイリューを一体ずつ出す。

 

「潰せぇ―――!!」

 

 咆哮する様に命令した瞬間、大爆発が二連鎖し、そして流星群が空から何度も降り注ぎながらルギアを強打する。爆破したマルマインを回収しながらルギアを見上げれば、ほとんどダメージを喰らった様子を見せずにガブリアスとカイリューを睨み、一瞬でガブリアスとカイリューが後ろへと吹き飛ばされた。遠くへと消える前に二体をボールの中へと戻し、見上げる。上空から見下ろす様に此方へと視線を向けるルギアには明確な敵意が存在している。ルギアが此方を敵として認識した証拠だ。

 

「もうとおせんぼうの必要もねぇな」

 

 ルギアに逃げるつもりはない。暴挙を働いた罪人を処刑する心持だからだ。それで良い。本気で来い。ボスにそう宣言した以上、本気の伝説を潰して屈服して捕まえないと意味がない。そう思い、ルギアへと睨み返した瞬間、

 

 暗雲が天を覆う。大粒の雨が降り注ぎながら暴風が発生する。ルギアの存在が台風を呼んだ。主の咆哮と敵意を察して海が荒れ始める。海上で竜巻が発生し、海水を引き揚げながら天を水で覆う。海水が降り注ぐという異常な天候が発生する。それは炎ポケモンを殺すだけではなく、塩水であるが故に草ポケモンをその場に存在しているだけで殺す、毒のある水でもあり、鋼タイプを腐食させる劇物でもある。

 

「海水性の雨乞いに追い風が2段階、そして接近すれば常時暴風のダメージ、って所か―――流石だな」

 

 それだけじゃなく、発生している竜巻に近づけば、それだけでも極限のダメージを喰らわされるだろう。全く持って凄まじい。これでエスパー・飛行タイプだというのだからタイプ詐欺も酷い所だ。なんで貴様には水タイプが存在してないんだ、と言いたくなってくる。

 

「行け。デンちゃん」

 

「おっす!!」

 

 モンスターボールからデンリュウの亜人種を出現させる。背筋をビシ、っと伸ばし敬礼を取った彼女は真っ直ぐ、上にいるルギアへと視線を向け、

 

「―――ホロンヴェール!」

 

「っしゃーっす!」

 

 ホロンの波動をルギアへと向けて放った。ホロン地方の特殊な地場、それがポケモンを普段とは違うタイプへと変換させる。それはポケモン毎によって固定されているものだが、パターンとしてはそのポケモンに適正するタイプが生まれてくると言われている。それを受けて、ルギアのタイプが変動する。耐性等関係なく発生する環境干渉である為、予め成功する事はギラ子で確認してある。

 

「あ、じゃあお疲れっした」

 

 無言でデンちゃんをボールの中へと戻し、そして別のボールを三つ出し、

 

 それぞれからポケモンを出す。

 

 一人目は金髪に黒いインナー、その上から胸以外を覆う金色のミニスカート型のドレス姿のポケモンだ。出現した彼女はモビー・ディックの背中の上で頭の両側に付いた赤いリボンを揺らしながら視線を上へと、ルギアへと向けると獰猛な笑みを零す。その瞳には抑えきれぬ凶悪性が秘められている。片手を振るい、原生種オノノクスが保有している赤い牙を模した両刃の赤と黒のハルバードを虚空から引き抜きつつ、くつくつと笑い声を零し始める。

 

「―――さて、久しぶりの娑婆の空気ですわね。復帰戦が伝説相手とはオニキス様も中々素敵なマッチングをしてくれますわね。えぇ、良いですわ。素敵ですわね、伝説。ギラティナのドカスはもはや殺せないですけど、野生の伝説であればブチ殺してしまっても事故で済みますからね。えぇ、その五体をバラバラに引き裂く作業は心が躍りますわね」

 

 二体目はギルガルドを握った姿の黒と青と紫の姿だ。金色のポケモンの姿を見て、溜息を吐きながらキングシールドを構える。

 

「だからアンタスタメン落ちするのよ。その性格、矯正しない限りは公式戦出れないわよ」

 

 そして最後に出現するのは緑色と赤いサングラスの姿。

 

「ふん、成程。ドラゴンか。貴様らは後にして先に大物を殺すか。ぁ、あ、ぁぁ……殺す。殺す! 殺して! また殺す! ドラゴンは殺すんだよ!! 殺してやる……欠片も残さず殺しつくしてやる……!」

 

 ルギア戦、最強の三体のエースが揃った。

 

「相手は常時マルチスケイル、二段階の追い風、雨乞い、そして暴風と竜巻を発生させている―――」

 

 天賦のサザンガルド、サザラ。

 

 最狂のオノノクス、クイーン。

 

 そして無慈悲の竜殺し、フライゴンさん。

 

 この三体が瀕死になり、蘇生不能になった瞬間、勝負は敗北になる。ボックスから持ち出してきた五十を超える育成済みのポケモン全てを利用し、このルギアを倒さなくてはいけない。

 

「―――行くぞ、伝説を落とすには良い日だ」

 

 三人の咆哮が響き、

 

 ルギアとの戦いが始まる。




 ルギアさん - 常時マルスケ(HP関係なく)
         常時あめふらし(海水)
         台風+竜巻発生
         常時2段階追い風
         常時ぼうふう発動中(接近で暴風ダメージ)
         ????? (未使用)
         ????? (未使用)

 果たしてオニキスくんに明日はあるのだろうか。

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