目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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伝説の行方

「月光! 災花! 黒尾! 蛮ちゃん! お前らは横槍が入らない様に動け! サザラ、クイーン、フライゴンさん! 地上にぶち上げたから漸くダメージが入る様になった! 無敵の海神様を潰すぞ!」

 

 ポケモン達の咆哮が響きながら走り出す姿がある。大粒の豪雨の中、夜がアサギシティを支配し始める。雨と夜が合わさった結果、完全な闇が世界と視界を覆う。ただし、それに適応するように訓練されているのが自分のポケモンである故に、それは通じない。右手を横へと突き出せば、素早く出現したムウマージが黒いマントを取り出し、それを被り、軽くだが自分も闇の中に紛れる様な格好をする。その中で右手を振り上げ、そしてポケモン達に命令を出す。それに即座に応えるクイーン、サザラ、フライゴンさんの三人。純粋な戦闘力で最強を誇る、普通のポケモンの中では最上級の実力を誇る三人が灯台から体を剥がしたルギアへと攻撃を叩き込む。

 

「おさきにどうぞ!」

 

 ナイトのおさきにどうぞが発動し、三人を闇の中で最速で行動させる為に最適解を導く。同時にルギアから発せられる伝説の波動がアサギシティに広がり、ありとあらゆる補助効果、そして優先効果を無効化する。それを発したルギアへと到達し、サザラの握ったギルガルドがルギアの顔面に叩きつけられ、その姿を吹き飛ばす。

 

「海から離れればそこまで恐ろしくはないわね!」

 

「それまでがギャンブルだけどなぁ!」

 

 事実、ルギアの戦闘力は著しく低下している。海上や海中であればどんなダメージを受けても即座に完全回復、攻撃無効化、常時カウンター、大津波で全てを滅ぼすぐらいの事はやってのける。だが陸上へ出ると海の力が使えない上に、アクアリングが本来程度の性能しか発揮しない。それにしたって規格外のルギアの体力からすれば凄まじい回復量なのだろう。が、この三人は伝説と準伝説を除けば、”最も能力の高いポケモン”になってくると自信を持っている。ポケモンを育成する事に特化した育成型トレーナー、その中でも頂点に立っている自信がある。それが最強を目指して育成したポケモン、

 

 弱い訳がない。

 

 故にルギアを殴り飛ばしながら、追撃が発生する。フライゴンさんとクイーンがアサギシティの建造物を足場に跳躍を繰り返し、高度の下がりそうなルギアを下からかち上げる様に攻撃を加え、落下を阻止し、そして竜のオーラを充填させたサザラが盾を上に投げとばし、両手で柄を掴み、後ろへと持って行くように構え、弾けるオーラを刃に纏わせ―――振るう。

 

「ぜんっりょくっだぁ―――!!」

 

 極光の斬撃が空を薙ぎながらルギアを盛大にふきとばし、アサギシティの端までその姿を吹き飛ばす。その姿に冷や汗をかきながら、ナイトの背に跨るように乗り、そして三人とルギアを追いかけるように跳躍させる。ルギアから放たれる伝説の波動が全ての補助技を掻き消している。となると通じるのは純粋にポケモンとしての能力と、トレーナーとしての指示の力。指示の一つ一つに魂を込めながらポケモンを導く。

 

「きょっこうのつるぎでも倒れないかぁー。そっかー。自信があったんだけどなぁー」

 

「ぼやく前に殺しなさい。ほら、ゴンさんを見なさいな」

 

「滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅―――」

 

 楽しそうに笑いながら戦闘を繰り広げる。まるで自分のテンションが三体に乗り移ったかのようだ。いいや、違う。彼女たちも楽しんでいるのだ。ルギアという究極の存在、普通のポケモンでは絶対に倒す事の出来ない頂点に、それに肉薄し始めている自分達が、そして競技という壁を超えて殺し合いを演じられる事の事実だ。闘争本能だ。そう、極限までの殺意という闘争本能を肯定し、それを運用する。殺意、殺気、それを否定しない。それを飲み込み、育て上げ、利用する。そうして本能と理性の二律背反を達成させる。

 

 ―――本能のままに理性で戦う彼女たちは誰よりも美しい。

 

「魂ぃぃぃをぉ―――!燃やせぇぇ―――!!」

 

 咆哮させるように声を響かせ、ボスが使用する指示能力を真似する―――それは魂を奮起させる事で、ポケモンの能力上昇効果、それを”全て最大の状態”へと引き上げる、ポケモンとトレーナーの絆による最強強化指示。三人の上昇効果を最大限まで引き上げ、そして三体同時に必殺の一撃をルギアへと叩き込む。

 

 漸く、目に見える形でルギアが大きく吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。アサギ港横の砂浜から少しずつ押し上げる様に、街道へと、ルギアを押し込もうとする。だがルギアもここで、

 

 ―――キレる。

 

 ルギアの咆哮が響きわたり、此方へと睨むようにエアロブラストを20連続で放ってくる。ナイトの背に乗ったまま、”とびはねる”を使い、超高速で跳躍と移動を行い、その速度に体内がシェイクされる感覚を得ながらもエアロブラストを回避し、指示を止めない。三人の攻撃が交差するようにルギアを切り裂き、その姿を追いつめて行くが―――まだルギアは痛むようなそぶりを見せず、攻撃を喰らう度に怒りと破壊力を加速させている。それどころか此方への攻撃を更に激化させ、三人からの攻撃を無視するようになっている。

 

 指揮官から殺すという選択肢を取っている。

 

「クソがぁ―――」

 

 アサギシティの外へと、被害は最小限で叩き出せたが、逆に今度は遮蔽物が少なくなり、こっちが狙われやすくなってくる。それでも―――絶対に三人を防御に回す様な事はしない。守りに入った瞬間、敗北する。それではアクアリングの回復力を上回れないから。だから覚醒指示で能力の上昇を維持しつつ、全力の攻撃を常に叩き込み続ける必要がある。

 

なうお(庇うぞ)

 

「すまん!」

 

 ナイトから飛び降りる様に離れながらナイトがエアロブラストの前に立ちふさがり、その隙にフーディンを出し、テレポートで素早く反対側へと回り込む。その先でエアロブラストに吹き飛ばされたナイトが空中で体勢を整え直し、耐え抜いたのが見える―――流石超受け特化のサポートだ。口の中に溢れてきた血液を吐き捨てながら、フーディンの手を掴み、ダウンバーストが体を飲み込む前に再びテレポートで街道まで移動する。その間にポケットからオボンのみを取り出し、それに齧りついて自分の回復を図るが―――現状焼け石に水だ。

 

 視線をルギアへと向ければ、相手も此方を見つけた。アサギシティから離れて街道へと出ると、空高く飛び上りながら竜巻を複数発生させ、それを繋げて台風の結界を生み出し、挟み込む様にそれを此方へと向けてくる。その向こう側でサザラたちの攻撃を飛翔しながら回避するルギアの動きを見て、此方をエアロブラストで狙っているのが見える。

 

 ―――テレポートで脱出した所を狙う形か―――。

 

「スイッチフーディン! カバルドン!」

 

「うーっす。いきまーす。ねむ」

 

 カバルドンが出現するのと同時に竜巻がマッドストーム化し、そして足元の地面が柔らかく、沈んで行く。カバルドンに背中から抱き着けば、即座にカバルドンが大地を砂に変えて潜り込み、深く隠れる。直後、大地を粉砕する様にエアロブラストが放たれる。爆音が響く。カバルドンの首に触れ、目をつむったまま触り方で移動の指示を出し、そして竜巻を大きく迂回する様に出現し、飛び出すのと同時にカバルドンを戻し、走って来たナイトの首に捕まり、浚われる様に引っ張られながらその背中に乗り移る。

 

「悪いな」

 

なうーお(気にするな)なおー(楽しいからな)……!」

 

 一体どこの誰に似たのか、どのポケモンも、伝説に挑むという行動に対して最大限闘志を燃やしている。それでもまだ力が足りないな。そう思い、アッシュの入っているボールに触れた瞬間、マッドストームの間を抜ける様にクリスタルのハガネールが出現し、ルギアには匹敵しないも、20m級のその巨体が大地からルギアへと衝突し、ルギアを空へと向かって叩きつける。

 

 それに誰よりも早く反応したのはフライゴンさんだった。残像を残す事無くルギアの顔面に到達すると拳を叩き込み、仰け反らせ、その背後に出現したクイーンがフライゴンの様に竜殺しのオーラを得物に乗せ、それを背中に突き刺す様に叩きつけ、

 

 その下、大地の上でキングシールドを放り投げながらギルガルドを両手で構え、

 

「―――きょっこうのつるぎィ―――!!」

 

 光を構成する七色、それらを表現する七つのタイプを乗せた複合属性の七剣閃が虚空を切り崩しながら叩きつけられる。伝説を殺す為に開発された奥義は未だに完成の領域には立たないが、それでも絶大な破壊力を持ってついにルギアの体力を削り始める。振り抜いたサザラが咆哮する。その誇りと魂が七色の軌跡を木魂させ、振り抜かれた七色が再び軌跡を描き、極光の軌跡を描いた。

 

「っしゃぁ!! 追撃しろ! 咆哮を響かせろ! 天を従えさせろ! 夜はお前の国だ!」

 

「ジバちゃんはワイドガード! クリスはファストガード! ルカはルギアの伝説の波動を相殺して!」

 

 聞いたことのある声と共に原生種のクリスタルのハガネール、原生種のジバコイル、そして亜人種の青い服装のルカリオが駆ける。それに合わせる様に龍の咆哮が轟き、その畏怖に従って夜の闇が天候を切り替える。大雨が消える事はないが、それでもマッドストームは消え、そして暗雲を切り裂く様に星々が輝く星天が広がる。

 

 ジムリーダー、ミカンがエアームドの背中の上に立っているのを確認し、叫ぶ。

 

「星天は星と光、炎を強化させる!」

 

「成程……メタメタ! コメットパンチ!!」

 

 それ以上の言葉は必要ない。発生する竜巻はワイドガードを発動させたジバコイルに吸引されて行く。本来無効化されるそれは、ルカリオが波動を相殺している為に成し遂げられる事だ。ミカンが更にメタグロスを繰り出し、強烈なコメットパンチがルギアを貫き、その背後の道路を粉砕しているのを確認しつつ、ナイトから飛び降りて、アッシュを出現させ、その足に捕まり、飛翔させる。ナイトには全力でおさきにどうぞを行わせ、攻撃優先度を此方へと引き上げさせつつ、アッシュで上空まで高速で上がる。

 

「ぐ……くっ―――」

 

 本当なら地上からボールを投げたい所だが、接近しないと暴風に阻まれて、ボールを届ける事ができない。故に勝負を終わらせるには接近するしかない。そう感じ、咆哮しながら指示を加速させる。竜巻がジバコイルに集中したとはいえ、ジバコイルが落ちるまでにかかるのは数秒しかない。耐久特化のジムリーダーの手持ちであっても数秒程度しか伝説の畏怖の前には通じない。

 

「くた―――」

 

「―――ばれ」

 

「滅ッ!!」

 

 げきりん、極光の剣、そして竜殺しが突き刺さる。ルギアの声から漏れ始める苦悶の声は漸く漏れだしたものであり、そしてルギアが弱り始めた証でもあった。近づけば近づく程発生する暴風に肌が切り刻まれて行くのを自覚しつつ、三人への指示を加速させ、

 

 ―――メタグロスのコメットパンチがルギアの首を殴りつけた瞬間を見切る。

 

「貫け、潰せ、蹂躙しろ、圧殺しろ、伝説を滅ぼせ。お前らはそう育てた。伝説を滅ぼす様にと」

 

 指示を下す。そう、お前ら三人なら出来る。そう育てた。そう信じている。その為の刃は渡した。だから実行しろと。

 

「ご褒美がなきゃやってられないわ」

 

「そうね、たっぷり労ってもらわなきゃ」

 

「ドラゴンとガブリアスさえ皆殺しにできるならどうでもいい」

 

 まず最初にげきりんがルギアの尻尾を貫き、貫通し、フライゴンさんが絶叫を上げながらそれを下へ引く。合わせる様にギルガルドとハルバードが両の翼を貫き、ルギアの飛行能力を奪う。それに呼応するようにルギアの咆哮が轟き、そして暴風が加速する。近づくのを拒絶する殺意の風の中、サザラが投げたキングシールドを掴み、それで暴風を無効化しつつ、

 

 ―――ルギアが完全に落ちる。

 

「人間舐めんな伝説」

 

 腰からマスターボールをスナップさせるように弾け上げ、ルギアの額に一撃拳で殴りを叩き込み、

 

 回転しながらマスターボールを蹴り、ルギアの額を蹴る様に叩き込む。

 

 赤い閃光にとらわれたマスターボールの中へと収納されたルギアを掴み、大地に堕ちそうな体をアッシュに回収され、空の上で宣言する。

 

「―――ルギア、ゲットだぜ」

 

 雨は終わった。道は破壊された。街は軽く壊れている。死んだポケモンもそれなりに存在する。

 

 だが、伝説を捕まえたこの達成感が今は全てだった。

 

 そう、選ばれたトレーナーじゃなくても、天運に愛されなかったトレーナーでも、物語の主役なんかじゃなくても、伝説は捕まえる事ができる。マスターボール以外のボールであればまだまだ弱らせる必要があっただろう。だが、持っていた。成功した。それが真実であり、全てだ。

 

 世界に片手で数える程しか存在しない、正真正銘、正面から戦い、勝利し、伝説を屈服させた。

 

「俺の勝ちだ」

 

 星空も夜も消え、天から降り注ぐ陽の光をマスターボールに当てながら、勝者の宣言を行った。




 ルカ - ルカリオ。波動を操る事ができるある意味伝説メタ。

 ジバちゃん - 耐久特化型の極地。公式戦での異名は”不沈”

 クリス - クリスタルのハガネール、モビー同様20m級

 メタメタ - コメットパンチのみを追求したミカンの破壊神。タイプ相性を破壊してダメージを通す怪物。

ルギア「マスボじゃなかったら勝ってたし。マスボとかノーカンだから」

 というわけでルギア戦終了、チョウジタウンにいるのに予めずっと自分で監視でもしてない限り間に合わないよ! そう都合よく横槍なんてないのよー。

 なお捕まえたからいう事を聞くかどうかはまた別の話。

Q.勝因は?
A.ルギアさんがアサギシティを滅ぼすのを戸惑うのをオニキス君が利用したから

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