目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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虐殺デート

 サザンドラの背中の上からチョウジタウンを眺め、そして格闘家の姿を見つける。それを見たワタルがあぁ、と頷く。

 

「アレだな。はかいこうせん」

 

 見つけた人間に対して迷う事無くサザンドラのはかいこうせんを放ち、そしてふきとばし、壁に衝突させる。脈絡もない人間だが、その空手家風の男に”俺は”見覚えがある。ロケット団に所属していた男だ。それをワタルが知っているとは思えない。この男は直感で敵であるかどうかを見抜いたらしい。流石チャンピオン、といった所だろう。サザンドラの高度を落とし、陸地に着地しながら空手家に近づく。それに合わせて俺もサザンドラから降りて、携帯しているマグナムを取り出し、それを空手家に向ける。

 

「さあ」

 

「吐け」

 

「死にたくなかったら」

 

「さっさと吐いて死ね」

 

 マグナムとサザンドラを突きつけた空手家はさっさと情報を吐きだし、そのまま失神した。サザンドラに指示をすると、気絶した姿へと向かってバブルこうせんが放たれ、そしてその泡が空手家を包み、封印した。そうやって容疑者を一人捕まえたところで、ワタルは此方へと視線を向けてくる。

 

「他のポケモンは呼ばないのか?」

 

「デート中に他の女を呼ぶ方が無粋だよ。それより怒りの湖はいいのか?」

 

 楽しそうな笑みをワタルはそれを聞いて浮かべ、そして真面目な表情を浮かべる。

 

「そちらの赤いギャラドスに関しては将来有望そうな二人の少年に任せてある。私が手を下すまでもなく救い、導くだろう。故に我々の問題はチョウジ地下のロケット団アジトの存在だ。ここから発せられる怪電波がポケモンの生態を狂わせている。即刻破壊する為に出撃だ、オニキス!! ともに滅ぼして蹂躙しよう!!」

 

 真面目な表情は何時の間にかマジキチな表情になってた。やっぱ強い奴にロクな奴はいねーわ。

 

「俺、元R団所属なんですけど」

 

「今悪いことしてないからセーフ! 現行犯なら生身流星群だがな! サザンドラ! 3倍流星群!」

 

 ワタルがそう言いながら唐突にりゅうせいぐんを放ち、サザンドラの三つの頭が同時にりゅうせいぐんを祈り、3倍の流星群が空から降り注ぐ。空が赤く染まり、そして隕石が無数に降り注ぐその光景はまさに世紀末の名にふさわしい絶望的な絵図だった。まさにアルマゲドン。そんな事を考えている間に、前訪れたお土産屋、そこに3倍の量と規模の流星群がヒットし、この限界集落という場所の地図から完全に消え去った。流石チャンピオンは色んな意味でぶっ飛んでいるなぁ、と思いつつ、お土産屋跡地から出現してきた下っ端の存在を迷う事無く射殺する。法律サイドで暴力を振るえるなんて、

 

 なんて気持ちがいいんだ!

 

 お土産屋跡地へと向かうと、そこにはもはや人の気配も建物の姿もなく、地面に開いた大穴が、秘密基地への入り口を晒しているだけだった。頼む、と災花に頼むと、災花が横から姫抱きで持ち上げてくれ、そのまま秘密基地の中へと飛び込んで行く。着地しながら降ろして貰うと、ロケット団の超科学によって構成されている基地の姿が目の前に広がっている。まだ体が痛いから無理は出来ないな、と判断しつつ、降りてきたワタルがサザンドラを戻し、代わりに原生種のカイリューを出す。イブキのカイリューの様な大きさはなかったが―――蛮と同じ様な気配を感じる。ひたすら鍛えあげた肉体が成長で圧縮され、大きくならずに濃密な肉体を成長させた、小柄の阿修羅の気配が。

 

「中々良いポケモンをお育ての様で」

 

「ドラゴンポケモンである限りはこの世で最強のトレーナーであり、ブリーダーでもあると俺は自負している。故にこそ、貴様の育てた”竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”との勝負を渇望する。最強の竜に君臨する為に、竜を殺す事以外を全て捨て去ったドラゴンポケモン……イブキ戦は映像を見せて貰った。そこまで渇望できる君のフライゴンの存在に嫉妬さえした! 魂を悪魔に売り渡す様なその考え方、俺が育てるドラゴンにも欲しかったぁ! 譲ってぇ!」

 

「カイリューが困った表情してるぞおい」

 

「でも欲しいもん!」

 

「うるせぇ!」

 

 出てきた下っ端にマグナムをぶっ飛ばしつつ、災花に横で爪とぎと剣の舞の重複指示を与える。ワタルも直ぐ横でカイリューに竜の舞やバリアの指示を行っており、攻撃を開始する前に下準備に入っている。手には武器がないが、現状、俺一人で射撃しているだけで接近して来る下っ端団員はない。ポケモンを出すタイミングを相手が伺っているという事だろう。マグナムの中身が空っぽになったところで、

 

「タッグバトル?」

 

「タッグバトルだな!」

 

「野戦ルール」

 

「道具持ち物無制限」

 

「ダイレクトアタック―――」

 

「―――許可ぁ!」

 

「ポケモンバトルしようぜ!! 俺が殺して!! お前が死ぬのなぁ! 災花ァ!」

 

「蹂躙しろカイリュー! 証拠は殺していても十分取れる!」

 

 殺意の高いロケット団ボスの弟子と、そして現在のカントー・ジョウトポケモンリーグのチャンピオンによる殺意溢れるワンダフルなタッグが完成した。カイリューが壁になる様に動いた瞬間、下っ端たちがポケモンを出す為にボールを前に出す。それに合わせる様に夜を呼んだ災花がその闇にまぎれる様に先制を”予知”する事で奪い、素早く動き、その爪でボールの開閉ボタンを破壊する。場に出る事無く役割を果たせないボールを持って驚いた団員達は逃げ出そうとするが、災花の動きに合わせる様にはかいこうせんを吐きだし、

 

 また二人、肉片も残さずに消滅した。テロリスト以上にテロい襲撃者による地獄を始める。

 

 自己再生を行いながら歩くマルチスケイルカイリューを壁に、夜の闇が追従し、それに合わせて災花がふいうちとだましうち、つじぎりを食らわせて喋らせる事なくロケット団下っ端をドンドン床に沈めて行く。ポケモンリーグの正義の立場としてワタルは相手を許すつもりはないし、俺もロケット団の裏切者を許すつもりは欠片もない。

 

 悪党に法はない。

 

 それは守る法でもある。

 

 特にワタルの様にドラゴンポケモンを神聖とし、家族の様に扱う存在にとって、怒りの湖の件は決して許せる事ではないだろう。その全身から殺意のオーラが溢れ出ているのが解る。何を計画したのかは知らないが、この研究所にいる下っ端たちの運命は既に決まっていた。皆殺しだ。誰一人残さず、徹底的に殺し、そしてその後で完全に破壊する。もはやそれしか残されていないし、そうするつもりしかない。

 

 侵入者対策の警備ロボは全て災花がすれ違いざまに破壊し、トラップはカイリューがマルチスケイルと自己再生の鬼の耐久力で歩くだけで突破する。横道を見つけたらそれを破壊し、通れなくして、中央から真っ直ぐ深層へと進撃する様に向かう。最初は迎撃の為に積極的に出現していた下っ端たちも、直ぐにその姿を見せる事はなくなってきていた。歩いて来た道は災花とカイリューで生み出した血と炎で溢れており、それを背景にふん、とワタルは声を漏らす。

 

「所詮この程度か……仮面の男を期待したが、どうやらここにはいないらしいな。覇者の気配を感じない。ふむ、仕方がない。ここからなら基地内を全て破壊出来るな。流星群と破壊光線で全て始末するか」

 

「穴抜けの紐を用意して―――ん?」

 

 視線を前方へと向ければ、仮面を被った宿敵が―――仮面の男(マスク・オブ・アイス)が出現したのが見えた。奥から歩いてくるように見えるその姿には人の気配はない。故にまた、氷で生み出されたデコイであろうと判断し、ワタルが指示するまでもなく、カイリューが接近して踏み潰し、一撃で完全に粉砕する。

 

「手ごたえがない……囮か」

 

『正解だ』

 

 声に引かれるように視線を動かせば、壊れていないスピーカーから声が響いてくるのが解る。明らかに合成された電子音の為、即座に誰であるかを察する事が出来る。

 

「貴様が仮面の男か。会いたかったぞ! そして殺してやりたいなぁ!」

 

『これがポケモンリーグの頂点だと思うと頭が痛くなってくるな……まぁ、いい。話は簡単だ。ここから生かして返してやろう。その代わりにオニキス、貴様はルギアを置いて行く。そうすれば貴様らの命だけは助けてやろう』

 

 無言で中指を突き立てる。ワタルが笑顔で頷いている。なんかチャンピオンってもっとアレな感じかと思ったが、こういうチャンピオンだったら物凄く親しみ安くて、個人的に結構好感度が高いとも思わない。なんか、友達としては割と楽しくやっていけるタイプだこれ。何よりも、ゴンさんの理解者である事が一番大きい。

 

『そうか、残念だな……まぁ、殺して手に入れれば問題ないだろう。出られればいいな、その状態で』

 

 そう言ってスピーカーからの音が消える。直後、体に異変を感じる。足元へと視線を向ければ、足首から下が床とくっつくように凍り付いている。災花とカイリューは無事だが、このままでは穴抜けの紐を使っても、普通に逃れる事が出来ない。そしてそれを好機と、下っ端達が隠れている場所から出現しながらヘルガーやアーボック等のポケモン達を出現させる。

 

「ふむ、凍らされることに気付けなかったな。相手は相当なやり手の様だ」

 

「どうするワタルっち」

 

「どうするかオニキスっち」

 

 腕を組んで凍っている足を動かそうとするが、欠片も動かない。溶かす為にカイリューを動かせば集中攻撃を喰らうから出来ないだろう、カイリューがワイドガードで惹きつけているのだし。地味に面倒な状況だ。ポケモンをもう一体出せば問題ないのだろうが、ワタルがここでポケモンを追加しないのは純粋に”サイズ”の問題だろうと思う。まぁ、油断した此方が悪いのだが。どうしよっかなぁ、と思っていると、

 

「失礼するわね」

 

 そう言って災花が近づき、顔を寄せ、そして唇を合わせ、何かを吹きこんでくる。

 

「さっきから殺したポケモンと団員から奪った運気を体内に吹き込んだわ。元々の許容最大量がアレだからあんまり長く続かないけど、今の貴方はとても運の良い人よ」

 

 グッド、と返答しながら災花を片手で抱き、そしてワタルに片目を向ける。

 

「だってよワタルっち!」

 

「そうか! 良い事を聞いたな! 行け、ギャラドス! オノノクス! サザンドラ! カイリュー! ボーマンダ! フライゴン! 流星群と破壊光線を放てるだけ放てぇ! はぁ―――っはっはっはっはぁ―――!!」

 

 直ぐ横にいるワタルがありったけのドラゴンポケモンを放ち、この地下という空間を完全に粉砕、破壊、滅ぼしながら最悪の攻撃を連続で放たさせる。地表を貫通しながら発生する流星群と、そして地下を蹂躙する破壊光線の波動が全てを覆う。今は、補充した運気によって得た”主人公級”の運に祈り、目を閉じる。

 

 ―――デートの予定が一体なんでこんな事になっているのだろうか、白く染まって行く視界にそんな事を思いつつ―――。




 ワタルさん - 友達が少ないから一緒に出勤出来て実はテンション高い。

 災花ちゃん - 愛人でもいいから一緒にいられればそれで幸せ。

 仮面の男 - そろそろ本気で殺すかぁ、とか考えてる。

 お土産屋のばあちゃん - 実はロボ

 続く……!

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