目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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散々な一日の終わらせ方

 爆発音と衝撃とそして瓦礫の落下が全て終わったところで、白く染まる世界が元に戻った。その中で痛む体に鞭を撃ちながら体を持ち上げ、そして視線を上へと向ける。そこからはチョウジタウンの青空が見える。深さ的には二十メートルぐらいあるのに、それを完全にぶち抜いてしまった。派手に暴れたなぁ、なんて事を考えながら横へ視線を向けると、カイリュー以外をボールの中へと戻したワタルが少しだけぼろぼろになりつつ、そこにはいた。そういえばポケモンリーグのチャンピオンになるのだから、かなり高い運命力を持っているんだった。ちょっと羨ましい。

 

 足を動かそうとするが、こんな状況でも足は凍ったままで動かない。カイリューが火炎放射で足の氷を丁寧に溶かし始める。徐々に感覚が戻ってくる足の事を気遣いつつも、視線をワタルの方へと向け、

 

「潰したのはいいけどこれ、どうするんだ」

 

「安心しろ、ここはチョウジジムの管轄だ。つまり責任問題はチョウジジムにある」

 

「控えめに言ってクソだなお前」

 

 ヤナギさんマジ泣きするぞ、とワタルに言っていると、足の解凍が完了する。守ってくれた災花、そして溶かしてくれたカイリューに感謝しつつ、軽く足を動かして感覚を確かめ、飛び跳ね、傷口が開きそうになったことに苦しみを覚えて軽く蹲る。そういえば怪我人だったよ。なんで忘れていたんだ。まぁ、大体テンションが悪い。体をなんとか持ち上げ、災花に肩を貸してもらう。そうやって立ち上がりながら、ポケギアに通信が入ってくる。ジ、ジ、ジ、とノイズ混じりのそれに耳を傾けると、

 

 数秒後、クリアな音声が響いてくる。

 

『―――ボス―――聞こえますかボス―――私達は―――待っています―――ボスが再び―――待っています―――ボス―――』

 

 ポケギアから聞こえてくる放送の内容と、そして聞いたことのある声にポケギアを即座に切って、そして両手で顔を覆う。その姿を見ていたワタルが笑いながら此方へと視線を向けてくる。

 

「はっはっはっは! 可愛らしい部下たちではないか! コガネラジオタワーが無血占拠されたらしいぞ! どうやら此方とは完全に関係がない上に、死傷者はないから多少恩情を与えてやらんでもないが―――その体だとこのままの行動が若干キツそうだな」

 

「悪いけど流石にリタイアだわ……これ以上はキツイ」

 

 息を吐きながら災花の肩を借り、瓦礫の上へと上がり、上へと運んでもらうためにカイリューに近づくと、少し、上の方が騒がしく見える。視線をそちらの方へと向けると、見た事のある赤髪の少年と、そして帽子を被った黒髪の少年が見える。片方はシルバーであるのが解るが、もう片方は初見の少年だ……ただ、見ただけで彼が何であるのかは理解した。主人公―――つまりはゴールド少年だ。ついに出会ってしまったかぁ、なんて軽い嫉妬を覚えつつも思い、軽く息を吐いてカイリューの足を掴み、上までワタルと共に運んでもらう。

 

 基地だった残骸から脱出し、縁に着地した所でシルバーが此方に気付き、あからさまにげぇ、と声を零す。それを気にする事なくワタルは二人の少年へと視線を向け、

 

「ふむ……どうやらギャラドスを捕まえたようだな。良くやった。此方で怪電波を潰すついでにロケット団を滅ぼしておいた……が、どうやら今度はコガネラジオタワーを占拠されてしまったようだ。此方はまた別の、”カントー”側の穏健派とも言える連中だ。今、ジョウトで暴れ回っている連中とは違い、バトルで勝てば敗北を認める善良な連中……か?」

 

 ワタルが此方へと片目を向け、それに頷いて応える。まぁ、ボスが長期に渡って情報を残さずに失踪するのが悪いとも言える。定期的に幹部に情報は流しても、末端には秘密にしているんだからそりゃあしょうがねぇよな。まあ、裏切者は絶対に粛清するのだが。とりあえず近くの建物の影に隠れているキョウの部下に軽く視線を送り、コガネへと先回りさせる。

 

「おう、任せろ変なマントの兄ちゃん! このゴールド様が見事に解決してやらぁ!」

 

「ふんっ……丁度戦う相手が欲しかったから俺も行くか」

 

 ゴールドは熱血系、そしてシルバーは若干ツンデレ系―――なのはいいが、あからさまに此方と、そして手に握っているマグナムへと視線をチラチラと向けている。おっといけね、子供には見せちゃいけないものだよな。そんな事を思っていると手からマグナムが滑り落ち、銃が暴発する。それに神速で反応した災花が暴発した瞬間に足を伸ばし、射出された弾丸を踏んで潰した。

 

「本格的に休みが必要な様ね。はい」

 

「ルギア戦からほぼ休まず働いているからなぁ……。あ、そうだ。シルバーくん、お守り代わりにこれをあげるよ」

 

「いらないです」

 

 拾い上げたマグナムをシルバーへと渡そうとするが、いらないと言われてしまった。悲しい話だ。ボスでさえ常にデリンジャーとか手榴弾を持ち歩いて破壊工作を行う準備を完了させているというのに、シルバーはそこらへんの危機意識が足りない。まぁ、それはしょうがない。とりあえず、シルバーとゴールド、後ドラキチチャンピオンワタルはコガネへと向かうらしい。ワタルとポケギアの番号を交換しつつ、

 

「ここからコガネに行くまでちょっと時間がかかるだろ。足は俺の方で用意するから使ってくれ―――おーい、唯一神―――!」

 

 大声で唯一神を呼ぶ。首を捻る三人の前で、何もせずそのまま数十秒待っていると、はるか遠くから高速で大跳躍を決めながら接近してくる姿が見える。十数キロ先にいた姿が一瞬で距離を詰めながら加速し、亜人の姿で近くまでやってくると、大地を抉るように横にスライドしながら着地し、目の前まで到着して来る。そのままやって来た唯一神の姿に対して片手を前に出し、

 

「お手」

 

「ふっ……」

 

 成功した。

 

 もう駄目だなこいつ。完全に調教され切った駄犬になってしまっている。悲しい話だが、おいしそうにポフィンを食べている姿には準伝説の威厳とかはもはや存在していないのだ。とりあえず到着した唯一神の頭を軽く撫でて原生種の姿に変化させると、

 

「こいつに乗ってけ。ジョウト地方を自由に走り回る力を持ったジョウト地方の伝説の三犬の一匹だ。ストーカーのいるスイクンは絶賛逃亡中、ライコウは空気になって存在自体が忘れられているから、忘れていいよ。とりあえず空を飛ぶよりも、ジョウト地方内であればこいつが最速で移動できる。俺はもうバッジ集め終わっているし、各地を移動して回る事ももうほとんどないから、使いたきゃあポケモンリーグ開催までは自由に使っていいぜ」

 

 ―――こいつ、どうせメシの時は勝手に帰ってくるだろうし。

 

 視線を唯一神へと向けると、サムズアップと笑顔が戻ってくる。まぁ、ジョウト地方を駆け巡るのに数秒しか必要としない忠犬だ、貸し出したらいい感じに恩を売れるだろう。それをどう思っているかはわからないが、さっさとゴールドは唯一神の背に乗ってしまい、

 

「おう、サンキューな兄さん! 俺はゴールドだ!」

 

「俺はオニキス。近いうちにポケモンリーグに出場予定だから、暇があったら応援に来てくれよ」

 

「へへ、応援席からシルバーと一緒に応援するぜ!」

 

「おい、待て貴様。なぜ俺が貴様と―――」

 

『唯一神号発射しまーす』

 

「おい、ちょっと待て貴様ぁ―――……」

 

 念話で出発を宣言した唯一神は口でシルバーを咥えると、そのまま足元から炎を発生させ、ブーストを発生させるように一瞬で加速力を得て、ジョウト地方を自由に駆け巡り始める。シルバーの悲鳴が聞こえてくるが、アイツ、大分ツンな部分というか、心に余裕のなかった部分が抜けてきている様に感じる。たぶん俺から離れた後はあのゴールドとか言う少年と一緒に行動していたのかもしれない。まぁ、良い変化なのだ。喜ぶべきだろう。

 

 そうやってワタルと一緒に唯一神に運ばれた二人を見送った辺りで、

 

「―――おや……これはどういう事なんでしょうか」

 

 聞いたことのある老人の声がした。そしてその瞬間、ワタルがカイリューの背中に乗って無言で飛び立った。

 

「ラジオが俺を呼んでいる!! 出撃だカイリュー!! はぁ―――っはっはっはぁ―――!!」

 

「ワタル貴様ぁ―――!!」

 

 迷う事無くチャンピオンが逃げた。この被害9割お前がやらかしたものなのに、こっちに押し付けるなよ。そう思いながらゆっくりと振り返れば、

 

 凄まじい怒気を背負ったヤナギ老人の姿がそこにはあった。あはは、と小さく笑いながら、

 

「帰っていいですか」

 

「あの世にですか」

 

 手厳しい老人だった。

 

 

 

 

 チョウジジムに半ば連行されるような形で連れていかれ、きっちりと事情聴取を行われる。チョウジジム備え付けの電話を通してアサギジムへと連絡を入れミカンを通して手持ちにワタルに拉致られてちょっと殲滅戦に参加していたと告げる。それで大体納得してくれる辺り、実に自分の手持ちは自分の手持ちらしいと思う。あとでサザラとかが空を飛んで、何人か補充や護衛の意味で運んでくるそうなので、漸く落ち着ける、という気持ちだった。医務室のベッドを借りられた事に感謝し、扉を抜けて去って行くヤナギの姿を見送る。

 

 仮面の男が来るにしたって、チョウジジムにいる間は安全だろう―――なにせジョウト地方最強のジムリーダーがヤナギなのだから。だからここにいる間は警戒をする必要がない、彼が長年連れ添ったポケモン達が一緒にいるのだから。だから息を吐き、背中をベッドに預け、横の椅子に座っている災花へと視線を向ける。

 

「ふぅ、とんだデートになったな」

 

「たまには刺激的なデートも悪くはないわ。まぁ、基本的に生活が刺激で満ちているから厭きる事もないし、日常の延長線上にも感じるものだから、そこまで気にする事でもないと思うけどね」

 

「まぁ、結構ロックな人生を送っている自覚はあるな」

 

 今までの経歴を振り返ると、伝説と戦ったり、捕まえたり、暗殺したり、バトルしたり、闇討ちしたり、筋トレしたり、道場破りしたり―――ほんとイベントで溢れている人生を送っていると思う。大体の理由は”ボスに助けられた”という所から始まっている気がする。

 

 とりあえず、ふぅ、と息を吐く。

 

「少し寝て体力でも回復させておくかな……コガネは任せるとして……これが終わったらルギアの調教を始めて、育成をしなきゃいけないし……それが終わったら仮面の男対策を詰めなきゃいけないし……それが終わったらポケモンリーグに出場して……四天王倒して……ワタルを倒したらシロガネ山に行って……」

 

「今ばかりは考えるのを止めて眠った方がいいわよ」

 

「それもそうだな……少し疲れたわ」

 

 そのまま眠ろうと目を瞑った瞬間、

 

 ―――僅かな冷気を感じる。背筋を悪寒が伝う。濃密な死の気配が第六感を呼び覚ます。即座にベッドから飛び降りようとして、既に足が凍り始めているのに気付き、災花を引き寄せ、盾にする。それを理解している災花が守ってくれる。

 

 次の瞬間、絶対零度が襲い掛かり、災花を氷結させる。砕かれる前に即座に災花をボールの中へと戻し、唯一神を呼ぶために口を開こうとし、

 

 医務室の扉が開く。

 

 その向こう側にいたのはヤナギと、デリバードの姿だった。

 

 ―――ヤナギの手には仮面の男の、その仮面が握られていた。

 

「―――デリバード、ふぶきだ」

 

「てめ―――」

 

 言った直後、

 

 部屋を吹き飛ばし、粉砕する氷雪が避けようのない体に叩き込まれた。




 こんな好機逃すわけないよなぁ! ってお話。

 どうなったかは次回

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