目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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38番道路

「はーい、反省会を始めようと思いまーす」

 

 バトルが終了し、賞金をむしり取った所でテントの中、サザラと一対一で正面から座って向き合う。先程のバトル、反省点があるので、それを反省しようという話である。アサギシティでのミカン戦はほぼ理想的な形で進んだため反省会はなしだったが、今のバトルは反省点が多すぎる。それを調子に乗りやすいサザラの為にも、言わなくてはならない。

 

「とりあえずまず第一に調子に乗りすぎ」

 

「がびーん」

 

 一番最初に受けた言葉にショックの表情を浮かべたサザラの頭が大きく下がる。

 

「相手がオーバー50程度だって事で舐め過ぎ。どうせ自分よりも種族的に劣っているし、最終的にはパーティーとして勝利できるだろうから、ちょっくら手を抜いても良いとは思わなかったかな? んン? これで相手が姿をメタモンで偽装していて、こっそり手持ちに完成された個体を保有していたらどうするんだよ。ボスだったら容赦なく殺しに来るぞ!」

 

 まぁ、ボスだったらめんどくさい事せずに正面から蹂躙して来るだろうけど。ただこういう事を言って反省させておけば、次回までにはしっかり反省してくれている。とはいえ、調子に乗りやすい性格である事に間違いはない。それを度々戒めているのだが、しばらくあとで調子に乗るのだ、こいつは。その度にこうやって反省させている。

 

「いいか、サザラ。ボスの弟子として、悪への誇りと、そして強さに対する誇りを俺達は求められているんだ。お前が情けない姿を見せる度に俺に、そして期待してくれたボスに対して恥をかかせているんだ。いや……それとも俺の指示が悪いだけかもしれないな。サザラを上手く使いこなせてないだけか……」

 

 そう吐いた此方に対し、違う、とサザラが言う。

 

「そんな事ない! マスターだけだよ私を操れるのは! マスターのボスも、他のジムリーダーやチャンピオンにも無理、マスターだから私を使えているんだ! そんな事を言わないでくれよ! 私、次は本気で頑張るからさ!」

 

 そう言って抱き着いてくるサザラのすべすべ背中を撫でつつ、思う。

 

 こいつチョロイ。俺がトレーナーじゃなきゃ不安になるってレベルで。

 

なーう(チョロイ)……』

 

『まぁ、サザラの可愛い所でもあるけど、手放すのが不安よね』

 

ガウ(まぁ)ギャオガオ(トレーナーに)ガーオ(ぞっこんだし)ガオオ(心配はいらないんじゃね)

 

 ギルガルドを投げ捨てたサザラが後ろへと回り込んで、顎を頭の上に乗せる様な形で抱き着いてくる。怒られると直ぐにこうやって甘えてくるからどうしたものか。まぁ、サザラはサザラで間違いなくこのパーティーのエースなのだ、能力と戦術的には完成されている、後はその性格的な部分をどうにかして矯正したい所だ。ドラゴンタイプのポケモンは非常に我が強く、従えづらいという特徴を持っている。サザラはその例からは若干外れるが、格下相手には若干舐める様な態度を取るのは他のドラゴンポケモンとは変わらない。ここら辺、ドラゴンタイプのエキスパートのワタル辺りであれば矯正させる方法を知っているかもしれない。

 

 まぁ、命令を聞かないのよりはマシかもしれない。サザラもモノズから育てた子だ。おかげでこうやって良く懐いてくれている。この世界、なつき度の上限が存在しない為、おんがえしの威力がすさまじい事になる場合がある。まぁ、でもそれを狙っておんがえしを使わせようとすると拒否られたり、恥ずかしがって使わなかったりというケースがあるので、高威力のおんがえしも考え物である。

 

「次は6タテするから許して、ね?」

 

「6タテすりゃあいいってもんでもないんだけどな」

 

 単純に6タテするだけなら簡単な話だ。災花でつるぎのまい、高速移動を積んで、バトンタッチしてサザラへと渡せば一撃で相手を倒せるだけの破壊力は出せる。そうなれば6タテは簡単だ。だけどそうじゃない、簡単に勝てても意味がないのだ。ポケモンのレベルアップとは”経験”を通した強化なのだ。こればかりは圧倒的な力で相手を蹂躙しても得られるものではない。様々な事柄を経験する事で勘が、そして肉体が鍛えられてゆく。そうやって強くなって行くのだ。

 

 まぁ、格上や同格相手にはちゃんと戦うし、指示には従うし、此方のやろうとしている事は察して実行してくれる。それだけやってくれるのだからほとんど文句はないのだ。ただ、こう、もうちょい性格に関してはどうにかならないものだろうか。

 

なう(無理)なーうん(マスターは)なううー(愛で接する)なう(タイプだろ)? なうなう(愛をもって接せば)なうーう(返ってくるのは愛だろ)

 

 ナイトがボール内から放っている言葉がド正論なだけに何も言い返す事ができない。別段甘やかしている訳じゃないが、赤帽子を見ていればポケモンに対して親愛を持って接する事の意味は良く解っている筈だ、その重要性も。まぁ、赤帽子に関しては完全な原生種使いなのだが。というかおそらくは世界最強の原生種使い。まぁ、彼に関しては忘れておく。赤帽子の事ばかりを見ていて足元を掬われたくはない。とりあえずはサザラの反省会だ。

 

「反省会をしたいのだからいい加減離れろよ」

 

「えー。やだー」

 

 問答無用でモンスターボールの中へと戻す。ボールの中から抗議の声が聞こえてくるが、それをガン無視する。甘えりゃあなんでも許してもらえるって訳じゃないからな、って事を教えなくてはならない。まぁ、ボスに一回鼻っ柱を叩き折られているから、反抗期に入る事もないのが唯一の救いだ。ともあれ、サザラをボールに戻して、ボール同士での話し合いが始まったころに、テントが開き、黒尾と月光が戻ってくる。二人は満足そうな表情を浮かべている。

 

「美味しかった?」

 

「モーモーミルクを使ったケーキとかは絶品でした……あ、これお土産です。圧縮保存されているので今度皆で食べましょう」

 

「グルメ旅行は最高で御座るな」

 

 黒尾からもらった圧縮保存されているモーモーミルクとケーキを受け取り、それをショルダーバッグの中へとしまう。月光をボールの中へと戻す。慣れたもので、ジャケットとボールベルトを抜いて横へと置けばそれで大体どうするのかを黒尾は察してくれる。九本の尾を束ねたり並んだりして、それで自分を支えつつ、黒尾はスペースを作ってくれる。もふもふな尾に囲まれる様に沈み込む。ふぅ、と息を吐きながらその柔らかく、温かい黒尾のその尻尾に包まれていると、直ぐに眠気がやってくる。まだ時刻は九時過ぎ程度だが、明日は早くここを出てエンジュシティへと向かう予定だ。スクーターでまた乗りっぱなしの一日が始まる為、早めに眠っておきたい。

 

「お休み皆」

 

「お休みなさい、主」

 

『ちょっとー。そのポジションは私のものなんだけどー』

 

なう(ガキめ)

 

「主が寝るのに煩いですよ」

 

『……』

 

『……』

 

 パーティーの仲の良さを再確認し、聞こえない様に小さく笑いながら目を閉じて、睡魔に身を任せる。

 

 

 

 

「―――うっし、今日も快晴! 晴れてなかったらひでり使ってやるところだけどな!」

 

なうなうなーう(しょーもないな)

 

 早朝、目を覚ました所で罰ゲームとしてサザラにテントを片付けさせ、それが終わったらモーモーミルクでシリアルを朝食に食べる。そうやって軽く力をつけたところで、エンジュシティへと向かう準備を進める。本日はモーモー牧場から38番道路を進み、エンジュシティへと向かう予定になっている。ここからエンジュシティの間には暴走族の縄張りが存在するのが唯一の不安点になるが、勝負を挑まれた場合は蹂躙してやれば良い、それだけの話だ。チンケな悪に負ける様な訓練を自分は受けていないのだ。

 

 そんな訳で、スズの塔や焼けた塔には大いに興味がある為、本日は比較的速く、そして長く走っていられるブラッキーのナイトを出してある。ナイトに関しては黒尾に続いての古参となっている。元々イーブイだったのをカントーで手に入れたのが始まりだ―――タマムシマンションで。その時の話はともあれ、チョウジへの道のりはフェンスで区切られていたりで若干めんどくさい。ペースを落とせば無駄に時間がかかってしまう場合がある。その為、早朝から出る事にしているのだ。

 

「めーざーせーポケモンーマァースター」

 

「なーうーなうーなーうーなうー」

 

 モーモー牧場から出て、スクーターを走らせ、ラジオで音楽を流しながら軽く歌い、38番道路を進む。パーティーの中で一番速いのはゲッコウガの月光だが、持久力が高いのはナイトだ。その為、少しスクーターの速度を昨日より上げても大丈夫だ。38番道路は暴走族の出現でそこまで治安が良い訳ではない為、さっさと抜けるに限る。

 

「なってーやーるーぜートレーナーのほしー」

 

「なうなうなーうーなーうー」

 

「そして赤帽子はマジ殺す」

 

なうなーう(マジトーンはやめろ)

 

 ナイトとそうやって軽く交流しつつ、朝日を体に浴びながらスクーターを走らせる。アサギシティからモーモー牧場への道中、つまりは39番道路に関しては坂道だったため、移動が結構面倒だったところはある。だけど38番道路はそんな事はない。少々デコボコである事にさえ目を瞑れば、昨日よりは移動しやすい道である事が解る。それにナイトがいる間は野生のポケモンも近寄ってこない。そこだけは少々残念ではあるが、まぁ、ジムでその鬱憤は払わせてもらおう。

 

 ラジオから聞こえてくる曲をナイトと共に聞きながら、それを謳いながらスクーターを走らせる。

 

 と、ピピピ、とポケギアに電話がかかってくる。もしかしてボスからだろうか、ちょっとした期待を抱えながらポケギアに出ている名前を確認し、少しだけ落胆しながらポケギアの通話モードをオンにする。ついでにスクーターも止め、一旦電話の方に集中する事にする。

 

「はい、もしもし此方オニキスです」

 

『……ボスじゃないって少し落胆したでしょ』

 

 電話の向こう側であっても人の心を読む力は健在なのだろうか、なんて事を思いながら電話の向こう側の人物に否定する。

 

「いや、そんな事はないってば。ほら、俺ってコミュ能力高いし、ポケモンとは直ぐに仲良くなれるし。だからその程度の事で落胆する事はないってば。それより用事はなんだよ、ナツメ」

 

 カントー地方ヤマブキシティジムリーダー、ナツメ。それが電話の相手だ。なぜ彼女が自分の様な一介のトレーナーに電話なんて、と思うかもしれないが、ナツメとはとある人物を通して繋がりを持っている。その為、”繋ぎ役”としてナツメはちょくちょく此方に電話をかけてくる。何せ現状、ボスの居場所を知っているのは自分しか存在しないのだから。

 

 まぁ、ボスから黙ってろ、と言われているので絶対にバラすつもりはないのだが。

 

『そろそろジョウト地方に来たんじゃないか、という所で情報ね。一部の馬鹿連中がジョウトの方へと流れて何かを企てているつもりらしいわ。見かけたら遠慮をする必要はないから』

 

「あいあい、了解した」

 

『ところでボスは―――』

 

 話が続く前に電話を切る。誰が情報を売るかってんだ、と呟きながらポケギアから視線を外し、ナイトへと視線を向ける。ナイト的にはナツメの事はどうでも良いらしく、今の通話内容に全く興味を見せる様子はない。まぁ、ナイトは俺に付き合っているんであって、ナツメ等に関してはそこまで興味を持たないのだろう。それよりもジョウト地方で暴れているという話、

 

「そっか―――どっかの馬鹿がロケット団を動かしているのか」

 

 ボスの組織、ロケット団、それはポケモンを使った世界征服を目指した組織。たった一人のトレーナーによって僅か一年以内に壊滅してしまった組織。ボス―――サカキがトキワジムにて赤帽子に敗北を認めた時から凍結状態になっている。解散はしていない、活動停止で再び、ボスが力をつけ、あの最強のトレーナーに勝利する時まで、活動はやめたのだ。

 

 それが”敗者の矜持”というものである。

 

 誇りある悪として、得てしまった敗北は認めなくてはならない。

 

 だからロケット団は活動していない筈なのだが、そうか、もうそんな時期だっけ、と口の中で小さく呟きながら物語の流れを思い出す。まぁ、自分が直接手を出さなくても、チャンピオンへと至る少年少女がいずれ、ケリを付けてくれるだろう。だがそれとは別に、そのままにしておくのは癪に障る。ボスの一番弟子として、許せない話ではある。

 

「ま、どっかの幹部がボス不在の寂しさに泣いているだけだろうし、適当にボコって反省させるか」

 

 その為にもまずは秘伝技、”そらをとぶ”を解禁させなくてはならない。

 

 とりあえずはエンジュシティへと向かい、そこでジム戦を終わらせたらなるべく早くアサギシティへと戻り、そこからタンバシティでタンバジム、という流れをこなしたい。

 

 うっし、と気合を入れる。

 

「ペース上げていくぞナイト!」

 

なうぉ(マジかよ)……」

 

 スクーターの速度を上げて、全速力でエンジュシティへと向かう。

 

 ―――その道中で暴走族を撥ね飛ばしてしまったせいで到着が遅れてしまったのは完全な余談だ。




 ブラッキーのナイトくんとバンギラスの蛮ちゃんが喋っているガオガオとかなうなうは別言語です。ですがちゃんとした言語らしく、勉強すれば言葉が解るらしいのです。ポケモンとの意思疎通は基本らしく、ポケモンブリーダーは多くのポケモン言語を習得しているとか。

 等という無駄設定。サカキサマバンザイ。

 ポケスペだったりじゃなかったりHGSSだったりじゃなかったり。

 でも初めてクリスタルを遊んで、絵が動いたあの感動は忘れられません。

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