「―――ふぅー……」
息を吐きながら控室のベンチに座り込む。やって来たプリンにモンスターボールを治療の為に渡し、そして右腕を突き出す。サザラを出したときにダメージを受けた右腕、その治療にラッキーとジョーイが即座に入る。そうやって治療をして貰いながら、視線は控室に設置してあるスクリーンへと向けられている。スクリーンでは次の試合の準備、そして解説が行われている。次の対戦相手はこの勝負の勝者になるのだから、注目しない理由がない。右腕の痛みを頭の中から押し出しつつ、次の戦いへと視線を向ける。
スクリーンの中で映し出されているのは二人のトレーナーだ。次の対戦相手は”いかくパ”使いのヒョウドウと、”必中パ”使いのカグラだ。どちらも既にデータはある程度入手してある。ヒョウドウのいかくパは普通のいかくパではなく、場に出た時に攻撃と特殊、両方を同時に下げる上に、”交代してもしばらく継続する”という恐ろしい効果が存在する。単純に相手が交代し、サイクルを回せば回す程此方の火力がドンドン殺されて行く、という凄まじい状況になる相手なのだ。それに対するカグラの必中パは単純に、全ての攻撃が必中扱いのパーティーなのだ―――勿論、一撃必殺を含め。全てのポケモンに必殺技を積んでいる訳ではないが、それでも全攻撃が必中という恐怖は普通には味わえないものだ。
ただ、この勝負、
「十中八九勝ち抜くのはヒョウドウかな……」
必中パは高威力、低命中の技を多く起用しやすいため、いわゆる”ヤケモン”の理論を実践しやすいのだ。運命力ではなく、常時必中で補っているのだが。だけど基本的にメイン火力は高威力の技から来ているもので、これがサイクルを組まれてひたすら半永続デバフを喰らって火力を下げられると、一撃必殺以外に攻撃を通す手段がなくなってくる。だがそれだって連発出来る訳じゃない。速攻アタッカーで攻め込めれば潰せるし、みきりやまもるで受け流す事だって出来る。となるとやはり、相性的に勝ち進んでくるのはいかくパのヒョウドウの方だと思う。
「……となるとやっぱり戦術の軸となるのは月光だな……しろいきりを中心にデバフを無効化して戦術を回さないと勝てないな、こりゃ」
しろいきりで能力変化無効、或いはリセットして行かないと間違いなく詰む。相手は詰ませに行くタイプの戦術だ。こういう相手はハマれば強いが、外されると逆に潰されて行く、というタイプだ。となると徹底的に相手の思惑を外す様に動くのが一番に違いない。黒尾、ナイト、蛮、月光は間違いなく固定の面子として、残りの二枠をどうするかが問題だ。相手の登録パーティーは
ウィンディ、ギャラドス、ボーマンダ、ライボルト、クチート、ムクホーク、ケンタロス、そしてワルビアルだ。
この面子から考えて、タイプでメタを張る事は難しいと考える。だから純粋に相手の戦術を崩壊させる事を考える。この場合、クイーンを入れるべきなのだろうが、クイーンは目立ちすぎる上に、相手に対策を取られたくないポケモンの一つだ。なるべく、情報は秘匿しておきたい。何せ、第一試合では天賦殺しも色違い殺しも発揮できなかったのだ、クイーンの本領は完全に秘匿されていると考えても良い。だから―――クイーンは次の試合、出さない。
最後の二枠は災花、アッシュで確定しよう、と考える。
サザラは前の試合でたっぷりと働いた上に、大技を連続で繰り出した。きょっこうのつるぎはサザラ自身にも負担があるから、休ませるという意味でも、次の試合に出す事は出来ない。
「そうだな休ませる事も重要だな。サザラの動きを見てアッシュもいい感じに喝が入っただろうし、いかくパを相手するには強運が欲しいから災花は抜けない。それにこっちがハメられた場合の事を考えて、時間稼ぎと一撃必殺を行える災花がパーティーにいてくれると助かるしな。となるとやっぱり、メインを……起点を月光にして、しろいきりをつぎ足しながら天候サイクルを作るか……? いや、しろいきりはおそらく対策されている。その為のムクホークだろう、確実に霧払いを覚えているだろう。となったらあからさまに月光は出せないな……いや、一回見せる所からプレッシャーを与えて相手のサイクルに負担をかけよう。いかくパは交代戦術で運用するからステロやまきびしを撒くだけでも回転効率を落とせる―――」
「右腕の治療が終わりました。一時間もすれば治っているでしょうから、それまではなるべく使わないでくださいね。それでは次の試合、頑張ってください」
「ルゥゥゥァァァァッキィィィィィッヒィィィィ!」
ジョーイとどっかで見た事のあるラッキー達が控室から出て行く。ポケモンは治療中な為、今、手持ちにいるのは最初の試合で参加していなかった災花とアッシュだけだ。言う事は―――今は特にない。息を吐きながら、選手控室―――個室なのだが、そこに置いてある冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、左腕で握って、歯でキャップを外して飲む。体が水分を求めているらしく、浴びる様に飲むと、体に活力が満ちて行く気がする。ふぅ、と息を吐きながらっ空っぽになったペットボトルを近くのゴミ箱の中へと投げ捨て、冷蔵庫を閉めて、その上に置いてあるメニューを手に取る。
完全にポケモン協会負担で、食べ物をオーダーできるようになっている。次の試合までに体力を付けておきたいため、それを軽く確認し、部屋の壁に設置してある電話へと近づき、取り、首で押さえるようにしながら番号を入力し、左手で握り直す。
「あ、もしもし? 幸せ卵のスパゲティをお願い。んじゃ」
どの部屋からのオーダーなんてことは言わなくても解るだろう。そう考え、スクリーンへと視線を戻し、試合の続きを情報収集の意味を込めて見ようかと思ったが、控室の扉がこんこん、と叩かれる。
「あいてるぞー」
そう答えると、扉が開かれ、そして見知った顔が部屋に入ってくる。動きやすいカーゴパンツにミリタリーベスト姿の外国人、マチス少佐がヘイ、と片手を上げながら挨拶して来る。その姿に笑みを浮かべ、左手を上げてハイタッチを決める。
「少佐じゃねーか!」
「第一回戦見てたぜ! グッド・ファイトだったじゃねーか! ハハ、昔はボスの後ろに隠れてたガキが今じゃあカントーとジョウトの最強を決める舞台に立ってると聞くとどうしても違和感が湧くんだけどな、お前ももうボーイって訳じゃねぇって事か! ハッハッハッハ!」
「ウルセェよ馬鹿少佐! 少佐と会った時からもう既に7年経過してるんだよ! そりゃあ俺だって成長するに決まってんだろ! つか一切成長してないのは寧ろ少佐の方なんじゃねぇの? バトルの方はどうなんだよ最近!」
「humph、レッドボーイとグリーンボーイ程のスピリットを感じるトレーナーは確かにいねぇからちと張り合いがないのは確かだな。だけど俺だって別に腐ってる訳じゃねぇぜ? そうだ、お前、ポケモンマスターになったら俺と戦えよ。俺の本気のエレクトリックパワーでユーをショッキングさせてやるぜ?」
「ま、機会があったらな。ポケモンマスターになったら既に予約を入れてあるんだよ」
「オウ、それは惜しかったな」
笑いながらマチスと並んでベンチに座り、そして試合の光景を見る。一撃必殺が3回決まり、状況は2;3になっているが、一撃必殺を放ったキングラーは倒れてしまい、残されたポケモンはいかくによって攻撃力をほぼ0に落とされてしまった、無力化済みのポケモン達だった。そこで悔しそうな表情を浮かべながらも、カグラは降参を宣言した。もはや彼の手持ちには状況を打破する手段がなかったのだろう。悲しい事だが、良くある話だ。詰みを理解してしまった場合、余計な損害を出さずに降参するのも、またトレーナーとして必要とされる能力―――勇気の一つだ。
無駄に足掻いて傷つくのは誰だ?
勿論、ポケモンだ。
「オニキス、ユーの次の対戦相手が決まったようだな」
「あぁ、まぁ、見えていたけどな。回避パや超耐久パに対しては恐ろしく強い能力を発揮するだろうけど、いかくパとは相性が悪かったな。必中させてもダメージを出す事が出来ないんじゃ、どう足掻いても勝ち目はない。早めに降参したのは英断だったよ。ステロとまきびし撒いて吠えるやふきとばしから交代で固定ダメージを狙えるならまだ目があったけど―――」
「そうするには遅すぎた、って事か。ベリーサッドな話だな」
次の対戦相手はヒョウドウ―――半永続いかくパの使い手。クリアボディやしろいけむりを使えばある程度はメタれるかもしれないが、クリアボディを持っているポケモンを今は所有していない。となるとやはり、前回は一番最初に脱落させた月光を最後まで生かし、運用し続ける事が勝利への条件だ。あとは―――そう、”いかく”そのものが機能しない状況を作る事も重要だろう。良い相手だ。自分の戦術を試す事が出来る。
「こいつとは相性がいいからな、割とワクワクしてきたな」
「HA! ユーの目は血に飢えたビーストの様になっている……少しずつボスに似てきているぜ」
ボス―――そうだ、ボスだ。マチスの言葉で思い出した。そういえばマチスはボスをジョウトへと連れてくる、という仕事を果たしていたはずだ。そのせいでポケモンリーグへの参加権を求める勝負に参加できなかったとも愚痴っている。
「ボスはどうしたんだ?」
「来ているぜ、ここに。今はヤングボーイと会っている……筈だ。流石にアウトサイダーが口を挟む事でも、顔を割り込ませる事でもないから、おとなしくボスからのコールを待っているよ」
「……そっか、ボス、やっと逢えたんだ……」
このスタジアムか、或いはセキエイ高原のどこかでボスと、そして息子であるシルバーが漸く逢って、話す事が出来ている。それを思うと、ちょっとした嫉妬心と、そして寂しさ、嬉しさが胸に沸きあがる。ただそれを表に出す程子供ではない―――そう、子供ではもう、ないのだ。24と言えばこの世界の基準だと、立派な大人なのだ。もう、自分の両足で立って、歩く様な、そんな年齢なんだ。それに今の自分には他に頼れる仲間と、そしてポケモン達があるのだ。
まぁ、それに、今は他に考えるだけの余裕はない。
「―――勝利こそが何よりもの手向け」
「勝利を掴んで、証明しろ、って事さ」
ふむ、と息を吐く。次の戦いまでいい感じにリラックスできたかもしれない―――まだ四時間ほど時間の余裕はあるのだが。マチスに他のジムリーダーたちの様子でも聞こうかと思った時、控室の扉が開かれる。
「ルゥゥァァァッキへぇげほぉ、げほぉ……」
「むせてる……」
「オウ、クレイジー……」
ラッキーの運んできたスパゲティを受け取りつつ、ボスの様子や、戦術の話、どうやって戦うか、
それを自分よりも長く戦い続けてきたマチスの軍人的視点を織り交ぜながら、次の試合までの時間を潰して行く。
巻き舌ラッキーが笑いを露骨に狙っている気がする。
裏ではボスの親子イベントとか発生していますが、修羅道真っ最中の主人公には関係ありません(半ギレ
次回、vs半永続デバフ使い